美容・ヘルスケア業界
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定着率を向上させるには?低い要因と高める施策を紹介

人材不足が深刻化している業界は多く、美容・ヘルスケア業界も例外ではありません。人材不足の解決策として離職率を減らし人材の定着率の向上が重要となります。ではどのようにして人材の定着率を向上すればいいのでしょうか?

本記事では日本全体の傾向を見ながら、定着率が低い要因と高める施策を解説します。

定着率とは

人材の定着率とは、「新入社員が一定期間内でどれくらいの割合で自社で働いているか」を示した数値です。社員の離職が少なければ、定着率が高くなります。

定着率が高い企業は、給与、福利厚生、ワークライフバランス、人間関係、キャリア開発などの要素が充実しています。一方で定着率が低い場合は、これらの要素に不満を持つ社員が多く離職につながる傾向が高くなります。ゆえに企業にとって定着率は、自社の待遇条件や職場環境を評価する指標として機能するのです。

また、定着率が外部にも公表されている場合は、採用に影響を及ぼす可能性があります。求職者は定着率が高い企業に応募する傾向が高く、低い企業は応募を見合わせる要因となるかもしれません。その結果、人材が集まらず業績悪化を招く恐れがあります。

定着率と離職率の違い

離職率は一定期間内で企業を退職した社員の割合を示します。定着率と離職率は相互関係にあり、、離職率が高ければ定着率が低くなります。

離職率が高いと組織の体制に何かしら問題があり、不安定な運営となるでしょう。企業を安定的に運営し続けるためには離職率を下げ、定着率を上げる必要があります。

定着率の計算方法

定着率は次の計算式で算出できます。

  • (一定期間後の在籍社員数÷一定期間開始時に入社した社員数)×100=定着率(%)

または

  • 100-離職率=定着率

例えば、4月に100人の新入社員が1年後に70人在籍していれば、定着率は70%となります。ただし、計算する期間対象内の途中で入社した社員は計算に含めないでください。もし定着率が低い場合は、対象期間内を見直すことで課題がみえてきます。

算出タイミング

一般的に定着率は年単位で計算し、厚生労働省などの国の公的なデータも年度区切りとなります。さらに定着率を分析する場合には、3年や5年単位でデータで計算されるケースもあります。

厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、美容師を含む「生活関連サービス業・娯楽業」の離職率は23.2%でした。美容業のように組織の入れ替えが激しい業界では1年よりも早い単位で算出する場合があります。自社の状況や目的に応じて対応しましょう。

引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

日本企業における定着率の傾向

ここでは厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」をもとに日本の企業の定着率の傾向を平均、就労形態別、産業別でみていきましょう。定着率は「100-離職率=定着率」で算出しております。

日本全体の平均

厚生労働省が実施した「令和4年 雇用動向調査結果の概要」によると、離職率は15%でした。新型コロナウィルス感染症などの社会情勢の影響は受けながらも、定着率は85%前後で推移しています。

▼入職率・離職率の推移

1_入職率・離職率の推移

引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

就労形態別

厚生労働省の調査では、就業形態別の定着率は一般労働者は90%前後、パートタイム労働者は70%代で推移しています。昨今は男女ともに入職率と離職率が上昇傾向です。

▼就業形態別入職率・離職率の推移

2_就業形態別入職率・離職率の推移

引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

厚生労働省がまとめたデータでは約7割の女性がパートタイム・有期雇用労働者です。選んだ理由としては「自分の都合の良い時間(日)に働きたいから」「勤務時間・日数が短いから」が上位に挙げられています。

産業別

業界により定着率は異なりますが、サービス業の定着率は低い傾向があります。美容やヘルスケアもサービス業に分類され、離職率は18.7%となり高い数値です。このことからも、定着率を高める重要性を理解できるでしょう。

サービス業の定着率が低い原因は長時間労働や低賃金、人間関係のストレスなどが挙げられます。定着率を上げるためには、企業全体で業務内容や職場環境の見直しが必要なケースもあります。

業種

離職率

宿泊業・飲食サービス業

26.8%

サービス業(他に分類されないもの)

19.4%

生活関連サービス業・娯楽業

18.7%

医療・福祉

15.2%

教育・学習支援

15.2%

▼産業別入職率・離職率

3_産業別入職率・離職率

引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

新卒者

厚生労働省が調べた「令和3年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況」では、就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%、新規大学卒就職者が34.9%となりました。どちらも前年度と比較して増加傾向です。

参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します」

定着率を高めるメリット

定着率を高めることで、さまざまなメリットを得られます。

  • 採用・教育のコスト削減
  • 社員の意欲向上
  • 生産性および業績の向上
  • 採用力の向上
  • サービス品質や顧客満足度の向上

このように定着率向上には業績向上だけでなく、社員のモチベーションアップや採用などさまざまなメリットがあります。その結果、優秀な人材の長期雇用につながり、事業成長につながります。

以下で、それぞれについて詳しく解説します。

採用・教育のコスト削減

定着率を向上できると、新入社員にかかる採用・教育コストを削減できます。

社員を雇用する機会も減り、労働環境の改善や研修に力を入れられます。特に技術職の場合、新入社員の教育は費用と時間がかかり、回収するまでに数年かかるでしょう。定着率が高ければ、他の社員の更なる教育に力を入れられます。

社員の意欲向上

定着率が高い企業は働きやすい環境が整っており、社員の意欲向上につながります。組織に対する不満が少なく、社員同士のコミュニケーションが円滑に進み職場の雰囲気が明るくなるでしょう。

また上司と部下と1on1ミーティングの実施はお互いの信頼関係が増し、安心して意見を言える職場作りにつながるでしょう。社員個人の目標を明確に決めるとモチベーションが上がり更なる成長が期待できます。その他に普段かかわりのない他部署の社員との交流を深めると新たな発見も生まれ意欲向上につながります。

生産性および業績の向上

人材不足は社員間の情報共有不足による連携ミスを引き起こし、サービス低下を招きます。また優秀な人材の離職は、業績にも大きな影響を及ぼすかもしれません。

定着率の向上は、社員の業務経験や技術の習熟度にも良い影響を与え、サービスの質や生産性も上がり業績の向上につながります。適切な人材配置をすると品質の高い安定したサービスの維持だけでなく、新規サービスの開発もできます。

採用力の向上

定着率の高い企業は社員の満足度も高い傾向にあり、求職者にとって魅力的な要素となります。社員の離職の流出を防ぐことで、自社が求める人材の獲得を有利に進められます。。その結果、自社の社風に合っている、求めるスキルを持っている人材を採用でき、ミスマッチが起こりにくくなれば、好循環を実現できるでしょう。

採用のマッチング率を向上を目指すなら業界に特化した求人サイトの検討もおすすめです。求職者の人数も多く、採用したい人材が見つかるかもしれません。

サービス品質や顧客満足度の向上

先述したように定着率を高めれば、コスト削減や生産性向上、社員の意欲向上などさまざまなメリットを得られます。これらは自社だけでなく、サービスを受ける側の顧客にも良い影響を与えます。

例えば美容室の場合、短期間で担当者が変わるより、長期間担当するほうが安心できます。また、社員同士がコミュニケーションや連携をスムーズに取れるようになり、高品質なサービスを安定的な提供ひいては顧客満足度の向上につながるでしょう。

定着率が低い要因

定着率が低ければ社員の負担増加と生産性、サービス品質の低下が起こる可能性が高まります。では定着率の低さは、どのような要因が考えられるのでしょうか?

給与面などに不満がある

「令和4年雇用動向調査結果の概況」で、前職を辞めた理由の「給料等、収入が少なかった」は男性7.6%、女性6.8%でした。

給与面は働くうえで大切なモチベーションです。同じ業務量、労働時間を他社と比較して給与が低ければ転職を考えるきっかけになります。

引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

人間関係が悪い

職場の人間関係は定着率に大きく影響されます。コミュニケーションが希薄で重苦しい雰囲気の職場では、必要な情報共有が十分に行われず働きにくさを感じてしまいます。

上司や部下、同僚との関係に問題があると人間関係が悪化し離職につながる可能性も高くなるでしょう。社員同士の問題にせず企業側も一緒に対応する必要があります。

最近ではパワハラやセクハラなどのハラスメントで離職するケースもあります。企業全体としてハラスメントを理解する機会も欠かせません。

やりがいを感じられない

仕事にやりがいを感じられないと成長意欲が失われ、モチベーションが低下し離職につながります。常に成長の実感を感じてもらえるようにチームや個人に合わせた目標設定はやりがいを実感できます。社員とコミュニケーションを取り、希望する業務や能力に合った割り振りを行いましょう。

ワークライフバランスが取れない

ワークタイムバランスとは「仕事と生活のバランスの調和」のことです。労働時間が多く休みが取れない職場では、心身の疾患だけでなく過労死のリスクも看過できません。

また育児や介護などフルタイムが難しいケースもあり、働き方の見直しが求められる職場もあります。そのため、多様な働き方を検討、導入して社員のニーズを満たす必要があるでしょう。

正しく評価されないと感じる

社員が「自分は正しく評価されていない」と感じることは、離職のきっかけになります。

なかには、仕事を通じてスキルやキャリアアップを目標としている社員もいます。正しい評価基準がなければ、成長を実感できず意欲低下につながる可能性があります。その結果、他社と比較してより良い条件の職場へと転職するかもしれません。

社員が自発的に業務に取り組めるように、評価基準や報酬を明確に提示しましょう。

定着率を上げるための施策例

社員の定着率を上げるためには採用や人材育成、職場環境などを分析してあらゆる場面で施策を検討する必要があります。ここでは定着率向上につながる6つの施策と他の企業の事例もあわせて紹介します。

採用のミスマッチをなくす

定着率を向上させるには自社で採用したい人材を明確にしましょう。自社の現状を把握し任せたい業務に必要なスキル、経験、知識などの条件を提示してください。社風と求職者のマッチングも重要で社員や職場環境に上手く馴染めないと、早期離職につながる可能性があります。

そのため、求職者に提示する採用条件に不備がないか定期的に見直しましょう。また、以下のように職場見学を実施するのも有効です。

サロン見学なので観察できた時間は短いですが、スタッフ同士がすごくコミュニケーションをとっていて、みんな楽しそうにサロンワークをしていたんです。私もこの中に混ざって仕事をしたいと思い、その場で担当スタッフに面接を受けたいと伝えてしまいました。

引用:モアリジョブ|SUN produced by LUCK津田沼 スタイリスト 小玉唯衣さん

評価制度をつくり、運用・見直しを行う

公平で透明性のある評価制度は、社員が意欲的に業務に取り組むうえで重要です。自社の目標や目的に沿うような評価基準を各社員に設けて「どのような評価基準で業務のどこを評価しているのか」が明確に分かるように提示しましょう。

また、定期的に上司や同僚と進捗などの面談を通して、目標達成に向けたフィードバックを行いましょう。必要があれば評価基準を満たす支援や教育が必要な場合もあります。

最後に個人売上の達成、再来率など数値を明確化して評価制度の効果を測定してください。評価制度も定期的な見直しが必要ですので、社員アンケートや結果も鑑みて制度の改善点を見つけましょう。

カリキュラムの進行具合による昇給制度があります。新人時代は美容師としての基礎を覚える時期ですが、覚えることが多く、体力的にも精神的にも辛いこともあると思います。達成感と成長を実感してもらうことで、少しでもモチベーションにつながればと考え採用しています。

引用:モアリジョブ|トシックスホールディングス 副社長 登坂さおりさん

柔軟な働き方の制度を作る

在宅勤務やフレックスタイム制度の導入など柔軟な働き方を導入する企業が増えています。人材不足を解消するため、時短勤務やパート勤務で育児や介護を行っている社員のワークタイムバランスに寄り添う働き方も見直されています。そういった人が働きやすい環境作りも重要です。

年齢を重ねても働きやすいように労働環境を整えています。結婚や出産などライフステージに合わせた働き方をできるよう、時短勤務などを用意しているんです。

引用:モアリジョブ|株式会社KAMILLE 代表 矢口俊貴さん

社内のコミュニケーションを円滑にする

コミュニケーションを円滑にすると職場環境の改善につながるだけでなく、生産性も上がります。より具体的には、社員同士の連携不足によるミスを防ぎ、業務をスムーズに進められるのです。

また、業務に関する新しいアイディアも出やすくなり、コミュニケーションが活発な明るい雰囲気の職場はお客様の支持も得やすいでしょう。

お客様を第一に考えているスタッフばかりなので、バックヤードでは常に、「お客様にはこのような伝え方をしたらどうか」、「こういうときはこうするといいかも」など、お互いに指摘したり、考えたりしながら技術や接客を磨いています。

引用:モアリジョブ|株式会社クレドインターナショナル 庵スパ東京ステーションホテル店長 出口寧々さん

給与・福利厚生を充実させる

福利厚生の充実は定着率向上には欠かせません。育児休暇や介護手当だけでなく、住宅手当などの諸手当の手厚さは離職率を下げやすくなります。

ただ一方で、福利厚生が活用されていない企業も存在します。その場合、利用方法や制度を整備する必要があります。

そのうえで福利厚生は社員のニーズを満たす内容でなければなりません。企業が独断で決めるよりも社員の意見を参考に見直すと、以後の改善も容易になるでしょう。

勤続功労制度を設けていまして、勤続3年で30万円、5年で50万円、10年で100万円とお祝い金をお渡ししています。また新卒採用の方への奨学金の返済支援制度がありまして、毎月大体3万円を上限に支給しており、さらに勤続10年になるとその時点での返済金の全額を会社が返済する仕組みになっています。

引用:モアリジョブ|株式会社オリーブスパ 採用担当 菅原花梨さん

キャリアサポートを充実させる

社員との定期的な面談を通して、キャリア目標や課題を把握して必要なキャリアプランを立てサポートを充実させましょう。一人ひとりの目標が明確になりモチベーションアップにつながります。もし多数の社員に必要なキャリアアップ支援があれば、企業で研修を提供すると全体のレベルアップになります。

弊社には立候補制のキャリアアップシステムや、世界中の全社員が技術力を競うコンテスト「SWGP」など、挑戦できる環境と機会が多く設けられています。「nobitel」に入社したからには、常に「今以上にお客様の未来を大きくする」という意識を持って、日々、挑戦と努力をしてもらいたいです。

引用:モアリジョブ|nobitelドクターストレッチ事業部 エリアマネージャー  金井俊記さん

まとめ

定着率向上はコスト削減や生産性の向上だけでなく社員のモチベーションを上げる大切な要素です。また社員満足度は、顧客満足度にも影響を与えます。

定着率向上には、次のポイントが重要です。

  • 正当な評価制度を作成
  • 働き方や福利厚生の見直し
  • キャリアサポート、コミュニケーションの充実

課題は企業により異なる場合も多く、まずは現状を把握し必要な対策を講じて、優秀な社員を育てつつ定着化を促しましょう。

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Bizリジョブ編集部
Bizリジョブ編集部では、人材・採用、店舗運営、経営、美容・ヘルスケア業界などで経験があるメンバーで構成されています。 美容・ヘルスケア業界の経営者・オーナー様にとって、リジョブだからこそ集められる価値ある情報をわかりやすくお届けします。