厚生労働省の令和4年度衛生行政報告例によると、美容所の数は前年度比5666施設増加(2.1%増)しています。
美容業界の競争が激しくなる中、美容所登録を早めに済ませ、スムーズに営業を開始することが成功への近道のひとつです。早期開業ができれば、地域の顧客を獲得しやすくなり、先行者利益を得られる可能性もあります。
しかし、美容所登録には厳格な基準があり、手続きを誤ると開業が遅れるだけでなく、罰則の対象にもなりかねません。
そこで本記事では、美容所登録の流れや審査基準、スムーズに手続きを進めるポイントを解説します。開業を考えている場合は、トラブルなく営業をスタートできるよう、ぜひ最後までチェックしてください。
美容所とは?
美容所は、美容の業を行うために設けられた施設のことです。パーマや化粧、結髪などの美容技術を通じて、容姿の美しさを目指す場所として使用します。具体的には、美容院や美容室、ヘアサロン、マツエクサロンと呼ばれる施設が挙げられます。
日本では美容師法に基づき、美容所の開設には保健所への「美容所登録」が必要です。さらに、美容椅子2台までは9.9㎡以上、1台増えるごとに3.3㎡以上の広さを確保しなければなりません。
これらに加えて、他にも複数の基準を満たさないと開業できないため、事前にしっかり確認しておきましょう。
美容所登録が必要なケース
繰り返しになりますが、美容室を開業する際には、美容所登録が必須です。
これは美容師法に基づき、衛生管理や設備基準を満たした施設であるかを確認するための手続きです。登録なしでは美容業を営めません。
美容師が独立を考えるタイミングはさまざまですが、主に以下の内容が挙げられます。
- 経験を積んで自信がついたとき
- ライフスタイルの変化により自由な働き方を求めるとき
- 開業資金が確保できたとき
- 自身の理念やコンセプトを活かして経営をしたいと考えたとき
こうした理由から、美容所登録は単なる義務ではなく、美容師として新たなキャリアを築くための第一歩となります。
独立を目指す美容師にとって、美容所登録は避けて通れない手続きです。スムーズに開業するには、事前に登録の要件や手続きを確認し、計画的に進めましょう。
美容所登録が不要なケース
美容所登録は、美容師法に定められた「美容を業とする」施設に義務付けられています。ただし、美容師免許が不要な施術のみを提供する場合は登録の必要がありません。
この法律で「美容」とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。
引用:電子政府の総合窓口(e-Gov)|美容師法(昭和三十二年法律第百六十三号)
この定義に当てはまらない施術、たとえばドライヘッドスパや光脱毛、エステなどは美容所登録が不要です。
一方で、レーザー脱毛やニードル脱毛のような施術は、医療行為と見なされ、別途許可が必要になるため注意しましょう。また、まつ毛エクステや顔剃りなど、美容師資格を要する施術を提供する場合は、保健所への届出が求められます。
営業形態によっては、美容所登録以外の許可が必要になるケースもあるため、事前に自治体の規定を確認し、適切な手続きを進めましょう。
美容所と理容所の違い
美容所と理容所は、それぞれ「美容師法」と「理容師法」によって定められた施設です。
美容所は、パーマや結髪、メイクなどを通じて容姿の美しさの追求を目的としています。それに対して理容所は、頭髪の刈込や顔そりなどを行い、容姿を整えることを目的としています。
美容所と理容所の大きな違いは「顔そり」の可否です。理容師は国家資格に基づき、カミソリを使用した顔そりができますが、美容師はこれを行えません。
そのため、顔そりを提供する場合は理容所の登録が必要です。一方、理容師がパーマやメイクを施術する場合は、美容所登録が求められます。
施術の範囲が異なるため、どちらの業態で開業するかは提供するサービス内容によって決まります。美容所と理容所の違いを理解し、事業の方向性に合った選択をしましょう。
マツエクやエステとヘアサロンの違い
美容所にはさまざまな種類があり、それぞれ提供するサービスが異なります。
- ヘアサロン:カット、カラー、パーマ、スタイリングなど髪に特化した施術を提供
- エステサロン:フェイシャル、ボディケア、ネイルなどの美容とリラクゼーションを目的とした施術を提供
- マツエクサロン:まつ毛エクステを専門に施術し、美しい目元を演出
美容所と一般的なサロンの違いは、法律で定められた登録が必要かどうかにあります。
- 美容所は法律で定められた施設で、美容所登録が必須
- ヘアサロンは美容師免許を持つ施術者が対応し、美容所登録が必要
- エステサロンやネイルサロンは美容師免許不要な施術が多く、美容所以外の形態で営業可能な場合もある
- マツエクサロンは美容師免許が必須で、美容所登録が必要
特ににマツエクサロンを開業する場合、技術の向上が非常に重要になります。
施術の技術差が顧客の満足度に直結し、リピート率にも影響を与えるため、定期的な研修やトレーニングが不可欠です。
また、美容所としての環境整備や衛生管理の徹底も求められます。美容所登録が必要な施術かどうかを確認し、適切な手続きを踏むことで、安心して営業を続けられるでしょう。
美容所登録のメリットとデメリット
美容所登録は法律上の義務であることを前提として、経営者側のメリット・デメリットについて解説します。
まず第一に、登録を行うことで、法律に則った正当な営業が可能となり、将来的なトラブルや罰則のリスクを回避できます。衛生管理や施設基準が公的に認められていれば、利用者からの信頼を得られます。
また補助金や助成金の申請においても、美容所登録が要件となる場合があります。行政支援を受けながら経営を安定させていくためにも、登録は欠かせないステップといえるでしょう。
このように、美容所登録は単なる手続きではなく、健全な経営と顧客満足度の向上を実現するための重要な基盤となるのです。
一方デメリットを挙げるとすれば、美容所登録には一定の費用負担や手間が必要です。登録には検査手数料がかかり、書類の準備や手続きに時間を要するため、余裕を持たせた開業スケジュールを整えておきましょう。
また、無登録のまま営業を行うと罰金や営業停止のリスクがあるため、確実に手続きを済ませてください。
美容所登録で求められる条件
美容所を開設するには、保健所への登録が必要であり、一定の条件を満たさなければなりません。その主な基準として、構造設備と衛生管理のルールが定められています。
美容所を開業する際は、事前に保健所の基準を確認し、必要な準備を進めておきましょう。適切な設備と管理体制を整えられれば、スムーズに営業を始められます。
具体的な条件については、以下で詳しく解説しているので参考にしてください。
必要な人員
美容所を開設するには、施術を行うスタッフが美容師免許を取得している必要があります。
無資格者の施術は法律で禁止されており、美容所登録をする際には、在籍する美容師の資格状況を確認しなければなりません。
また、美容所に常時2人以上の美容師が勤務する場合は、「管理美容師」の配置が義務付けられています。
管理美容師とは、衛生管理や店舗運営の指導の役割を担う美容師です。所定の講習を修了できれば資格を取得できます。
この要件を満たしていないと、美容所登録が認められないため、事前に確認しておきましょう。
登録の際は、以下の書類を保健所へ提出する必要があります。
- 美容師免許のコピー
- 管理美容師を配置する場合は、修了証のコピー
- 従業員名簿
美容所の運営には適切な人員配置が不可欠です。開業準備の段階で必要な要件を把握し、スムーズな登録手続きを進めましょう。
必要な広さ
美容所を開設するには、作業スペースの面積が13平方メートル以上確保されていないといけません。ただし、結髪や化粧のみを行う美容所はこの制限の対象外です。
開業予定の美容所がどのような施術を提供するのかによって、適用される基準が異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
また、美容所には施術スペースとは別に待合所の設置が義務付けられています。これにより、施術中のエリアと待機エリアを区別し、衛生管理や快適な環境の確保がスムーズになります。
待合所の広さに明確な基準はありませんが、来店客が過ごしやすいスペースを意識して設計してください。
広さの基準を満たしていない場合、美容所登録が認められない可能性があります。物件を契約する前に保健所へ事前相談し、基準を満たしているか確認しましょう。
必要な設備や材質
美容所では、衛生管理を徹底するための設備が必要です。清潔な環境を維持するため、以下の基準が定められています。
- 床や腰板は不浸透性の材料を使用し、清掃しやすくする
- 作業エリアと待合所を区分し、衛生的な環境を確保する
- 換気設備を設置し、空気の循環をよくする
消毒や衛生管理設備に関しては、以下の内容を参考に設備を整えてください。
- 流水装置付きの洗い場を設置し、施術器具の洗浄を徹底
- ふた付きの汚物箱・毛髪箱を備え、適切な廃棄物処理を行う
- 消毒済器具と未消毒器具を専用容器で分ける
作業環境の面では、施術スペースが100ルクス以上の照明で適切に照らされるようにし、視認性を確保することが求められます。
また、換気設備を設置して空気の循環を促し、快適な環境を維持しましょう。
応急処置や消毒設備の準備も義務付けられています。外傷に対応できるよう、救急箱(薬品・ガーゼなど)の常備は欠かせません。
さらに、血液が付着した器具を適切に消毒できるようにエタノール・塩素系薬剤・煮沸消毒器のいずれかを備える必要があります。
場合によっては、紫外線消毒器・蒸気消毒器・逆性石けんなどの追加設備も準備しておきましょう。
美容所登録に必要なもの
美容師登録の申請時には、施設の設備・美容師の資格・衛生管理の体制を証明する書類を提出する必要があります。一般的に、営業開始の10日前までに提出を求められるため、スケジュールに余裕をもって準備しましょう。
書類提出の流れは自治体ごとに異なるため、事前に保健所へ確認が必要です。
提出後は立入検査が行われ、基準を満たしていれば登録証の交付を受け、正式に営業を開始できます。
登録後も、消毒設備の維持や管理体制の確認が求められるため、定期的な点検を行い、適宜必要な手続きを進めましょう。
美容所開設届
美容所を営業するには、管轄の保健所へ「美容所開設届」を提出する必要があります。
これは営業許可を得るための必須手続きであり、税務署や都道府県税事務所への開業届とあわせて提出すれば、事業として正式に登録されます。
開設届の記載事項は以下のとおりです。
- 開設者情報(住所・氏名)
- 施設情報(名称・所在地)
- 営業の種別(美容所の種類)
- 管理美容師の有無(2名以上の美容師が勤務する場合は必須)
- 開設予定日
場合によっては、構造や設備の詳細を記載する必要があります。以下は、岡山市の美容所開設届の記入例です。
届出書の入手方法は、管轄の保健所のホームページなどからダウンロード可能です。提出期限は営業開始予定日の10日前までが一般的ですが、地域によって異なるため事前に確認しましょう。
また、日本の法律(所得税法299条)では、事業を始めたら開業届の提出が義務付けられています。提出しなくても罰則はありませんが、事業を継続するなら提出しておくべきです。
構造設備の構造や施設周辺の平面図
美容所を開設する際には、施設の構造や設備を示した平面図を管轄の保健所へ提出しなければいけません。
この平面図は、営業許可を得るために衛生基準を満たしているかを確認する重要な資料となります。
以下は、平面図に記載する主要項目の一例です。
- 建物の構造:木造、鉄筋コンクリート造 など
- 作業所の配置:施術スペースの明確な区分
- 待合所の設置:施術スペースと待合所を区分
- 換気設備:換気扇の設置、窓の配置 など
- 照明の明るさ:作業面100ルクス以上を確保
- 消毒設備:消毒済み器具・未消毒器具の保管場所の区分
- 使用器具の数量や保管場所
平面図は「構造設備等施設の概要書」に記載し、管轄の保健所へ提出しましょう。
以下の堺市の記入例のように、作業所や待合所の配置、換気設備や照明の明るさ、消毒設備の詳細などを明確に記載してください。
記入する際は、施設が基準を満たしていることを示す必要があります。
施設全体のレイアウトが適切か確認しながら作成し、不備がある場合は修正を求められるケースも少なくありません。正確な情報の記載が必要です。
従業員名簿
美容所を開設する際には、従業員名簿を作成し、管轄の保健所へ提出しなければいけません。
この名簿は、美容所で勤務する美容師の資格や職務内容を明確にし、適切な人員配置を証明するための重要な書類です。以下が、従業員名簿に記載すべき内容です。
- 従業員の氏名
- 美容師免許証の取得年月日および免許番号
- 管理美容師資格認定講習会の修了年月日および修了証番号(保有者のみ)
美容師免許は国家資格であり、美容室で施術を行うためには必要な資格です。免許がない者が美容師として施術を行うことは法律で禁止されています。
管理美容師が必要な美容所では、管理美容師資格を持つスタッフの常駐も証明しなければなりません。
また、従業員名簿は保健所の指示に従い、必要事項を正確に記載する必要があります。不備があると修正を求められるケースもあるため、事前に保健所へ確認し、正しい情報を記載した上で提出しましょう。
全員の美容師免許や管理美容師の修了証
美容所を開設する際には、従業員全員の美容師免許証の本証と、管理美容師資格を持つ場合は講習修了証の提出が必要です。
美容師免許は、美容業務を行うために必須の国家資格であり、免許を取得していなければ施術を行うことはできません。
具体的には、以下のような書類の提出を求められます。
- 美容師免許証(本証):従業員全員分を保健所へ提出
- 管理美容師資格修了証:該当する従業員がいる場合に提出
- 管理美容師の義務と資格要件
管理美容師は、美容所の衛生管理を担当する責任者として、従業員が2人以上いる美容所で配置が義務付けられています。従業員が1人のみの美容所では不要ですが、スタッフが増えた際には必須となります。
なお、管理美容師資格を取得するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 美容師免許を取得後、3年以上の実務経験が必要
- 指定の講習会を受講し、全科目を履修すること
美容師免許や管理美容師資格の確認は、美容所の適正な運営に欠かせません。開設時には、必ず全員分の必要書類を揃えて提出しましょう。
医師の診断書
美容所を開設する際、美容師が感染症にかかっていないことを証明するために、医師の診断書の提出が法律で義務付けられています。
届出書には、美容師につき、同項第六号に規定する疾病の有無に関する医師の診断書を添付しなければならない。
引用:厚生労働省|美容師法施行規則
美容師は顧客と直接接触するため、安全な施術環境を提供する目的で提出が求められます。以下が、診断書に記載される内容です。
- 結核性疾患の有無
- 伝染性皮膚疾患の有無
- その他、厚生労働省が指定する感染症の有無
診断書は、内科や皮膚科で発行可能です。指定の書式は特にないため、診断を受ける病院の書式で問題ありません。
発行費用は病院によって異なりますが、3000円~4000円が相場です。また、診断書の有効期限は発行から3カ月以内と定められているため、開業予定日を考慮して取得時期を調整しましょう。
期限が過ぎた場合は再発行が必要になるため、事前にスケジュールを確認しておいてください。
診断書が必要なケースとしては、以下が一般的です。
- 美容室を開業する場合(開業時に保健所へ提出)
- 美容師免許を申請する場合(「精神の機能の障害」に関する診断書が必要)
- 従業員を雇用する場合(新たなスタッフの健康状態を証明するために提出)
美容所の適正な運営には、スタッフの健康管理も重要です。開業前に忘れずに準備しましょう。
検査手数料
美容所を開業する際には、保健所へ開設届を提出する際に検査手数料を支払わなければいけません。
この手数料は、施設の衛生基準を確認するための立入検査費用にあたります。金額は自治体ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。
- 金額の目安:約2万円(管轄の保健所によって異なる)
- 支払い方法:基本的に現金払い(クレジットカード不可の自治体が多い)
- 支払うタイミング:開設届の提出時に納付
複数の店舗を開業する場合は、それぞれの店舗で手数料が発生するため、開業計画を立てる際に忘れずに予算に含めておきましょう。
消毒セット
美容所では、施術で使用する器具の消毒が義務付けられており、適切な消毒設備を設置しなければなりません。
消毒済みの器具と未消毒の器具を混在させないよう、収納場所を明確に分けることも求められます。また、感染症予防の観点から、器具だけでなくタオルやクロスなどの衛生管理も重要です。
以下は、消毒セットの基本となるアイテムです。
- エタノール(89%前後)
- 逆性石鹸(500ml)
- フタ付き汚物箱・毛髪箱
- 未消毒用タッパー(フタなし)
- 消毒済み用タッパー(フタ付き)
- 乾燥用タッパー(フタ付き)
- ホウロウ製またはステンレス製の消毒器(フタ付き)
- 消毒用ビン
- メスシリンダー(50ml・500ml)
- ピンセット
- 救急セット(バンドエイド・消毒薬・脱脂綿・包帯)
- マスク
- タオル
- カットクロス
消毒設備を設置する際は、消毒済みと未消毒の器具を分け、使用済み器具を一時保管するスペースの確保が必要です。消毒済みの器具はフタ付き容器に収納し、消毒液を適切に使用できる環境を整えましょう。
また、タオルやカットクロスなど、肌に触れるアイテムの衛生管理も欠かせません。施術ごとに器具を消毒し、感染リスクを最小限に抑える意識が必要です。
近年は消毒や換気の基準が厳しくなっているため、適切な消毒管理が求められます。
法人の場合は登記事項証明書
法人として美容所を開業する場合、法務局が発行する登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の提出が必要です。
この書類は法人の正式な事業情報を証明するためのもので、開業手続きだけでなく、税務署や金融機関での取引、助成金申請などにも活用されます。
登記事項証明書には、法人名や所在地、代表者の氏名、設立年月日、事業目的などの基本情報が記載されており、事業の正当性を示すために欠かせません。また、法人の信用を証明する役割も果たします。
提出する際は6カ月以内に発行されたものが必要なため、最新のものを用意しましょう。
取得方法は、管轄の法務局での申請が一般的です。以下のように、申請方法によって手数料が異なります。
- 窓口申請:600円
- オンライン申請:500円程度
スムーズに開業手続きを進めるためにも、必要書類を事前に確認し、余裕を持って準備しましょう。
美容所登録完了までの流れ
美容所を開業するには、いくつかの手続きを計画的に進める必要があります。事前に保健所へ相談し、必要書類や登録条件を確認しておくとスムーズです。
登録完了までの主な流れは、以下の通りです。
- 必要書類を準備し、保健所へ提出
- 保健所による立入検査
- 消防署による防火設備の検査
- すべての審査に合格後、保健所から確認書が交付
ただし、書類の不備や設備基準の未達成があると手続きが遅れるため、事前にしっかり確認しておきましょう。
保健所への事前相談
美容所を開設する際は、出店する地域を管轄する保健所に事前相談を行いましょう。
事前相談なしに工事を進めると、基準を満たしていない場合に修正工事が必要となり、余計なコストや時間のロスにつながります。そのため、内装工事を始める前に施設の図面を持参し、相談することが重要です。
以下は、事前相談の流れです。
- 管轄の保健所に連絡し、相談日程を決定
- 施設の図面を持参し、内装や設備の基準について確認
- 保健所の指導に基づき、設計や設備の配置を調整
また、相談時に以下のポイントを確認しておくと、開業手続きがスムーズに進みます。
- 作業室の面積と設置できるセット椅子の数
- 照明の明るさや換気設備の配置
- 消毒設備や洗い場の基準適合
- 施設の間取りが衛生管理基準を満たしているか
事前相談を行うことで、基準を満たした設備を整えやすくなり、後のトラブル防止にもつながります。
必要書類を用意して保健所へ提出
美容所を開設する際は、オープンの1週間〜10日前までに必要書類を準備し、管轄の保健所へ提出します。
この際、開設検査手数料(2万円前後)の支払いも必要になるため、事前に金額を確認し、準備しておきましょう。
また、書類提出時に立入検査(開設検査)の日程を決めることになるため、あらかじめ都合のよい日を確認しておくとスムーズです。必要書類の提出の流れとしては、以下のようになります。
- 美容所のオープン1週間~10日前までに提出:期限を過ぎると開業が遅れる可能性があるため、早めの準備が必要
- 提出先と必要書類の確認:美容所開設届、構造設備の概要書、従業員名簿、美容師免許証のコピーなど(詳細は各項目で説明)
- 開設検査手数料の支払い:現金払いが基本のため、余裕を持って準備する
- 立入検査の日程調整:書類提出時に保健所職員と検査日を決定
検査に合格しないと営業開始できないため、スケジュールに余裕を持って準備してください。また、提出期限を守ることで、開設手続きをスムーズに進められます。
立入検査の実施
美容所の開設届を提出した後、約1〜2週間以内に保健所の立入検査が行われるのが一般的です。
この検査では、保健所職員が直接店舗を訪問し、提出書類に基づいて施設の構造や設備が基準を満たしているかを確認します。
以下は、立入検査の流れです。
- 開設届提出後、検査の日程を調整
- 保健所職員が店舗を訪問し、施設の基準を確認
- 検査結果に問題がなければ、確認書が交付される
保健所の立入検査では、店舗の衛生管理と設備基準の適合性が審査されます。主な基準は以下の3点です。
- 消毒用の流し台と流水装置が適切に設置されているか
- 待合スペースと作業室が明確に区画されているか
- 作業室の面積に対して適切な作業椅子の台数が確保されているか
作業椅子には、セット椅子だけでなく、シャンプー椅子やコールド待ちのための椅子なども含まれるため、配置には十分な注意が必要です。
また、作業室の面積は有効面積(内寸)で計算され、美容に関係のない玄関やトイレなどのスペースは面積に含まれません。
立入検査をスムーズに進めるためには、事前に保健所へ相談し、必要な基準を確認しておきましょう。そして、施設の設備が基準を満たしているかチェックリストを活用しておくと安心です。
消防署の調査
美容所を開業する際は、消防署の調査が必要です。
美容室では可燃性の薬剤や電気機器を使用するため、火災リスクを軽減する目的で消防設備の設置や防火対策が義務付けられています。
そのため消防署の調査では、火災報知器や消火器の設置状況や動作確認を行い、避難経路が確保されているか、消防法の基準を満たしているかチェックされます。
審査対象が多岐にわたるため、事前準備が不可欠です。以下は、消防署の調査の流れです。
- 「消防用設備等(特殊消防用設備等)設置計画届出書」を提出
- 消防設備の設置工事を完了
- 「消防用設備等設置届出書」を提出し、消防検査の日程を調整
- 消防署の立ち入り検査を受ける
- 検査に合格すれば「確認済証」が交付される
消防検査は美容所の安全性を確保するために不可欠な手続きです。開業スケジュールに影響しないよう、必要な準備を早めに整え、スムーズに手続きを進められるよう対策を講じましょう。
確認書の受領
保健所の立入検査に合格すると、美容所が法令基準を満たしていることを証明する「確認書」が交付されます。
この確認書は、美容室として営業するために必要な書類です。店舗内への掲示が義務付けられています。
以下は、確認書の交付までの流れです。
- 現地検査の実施:保健所の立入検査を受ける
- 検査結果の確認:施設の構造設備が法令基準を満たしているか審査
- 確認書の交付:基準を満たしていれば、検査から2~3日後に交付
- 保健所の窓口で受領:事前に交付日時を確認し、窓口で受け取る
また、確認書は一度発行されると有効期限はありませんが、店舗の所在地や面積、設備、構造などに変更があった場合は再発行が必要です。
変更が生じた際は速やかに保健所へ届け出を行い、新しいものを取得しましょう。
営業開始
美容所登録の手続きが完了したら、いよいよサロンの営業開始です。しかし、開業はゴールではなく、経営を軌道に乗せるためのスタート地点となります。
成功事例を参考にしながら、経営の方向性を明確にし、集客やマーケティング戦略を考えておきましょう。
戦略を立てるのが苦手でも、難しく考える必要はありません。まずは施術のこだわりや使用する薬剤について、お客様に伝える習慣を身につけてみましょう。
「技術のこだわりを説明しています。たとえば、『今日はこの3種類の色を混ぜてカラーしていきますね』など、どのようなカラー剤を使っているのかを詳しくお伝えしています。詳細をお話しすることで、お客さまが『自分だけのカラーを作ってくれている』という特別感を味わうことができますからね。
引用:モアリジョブ|THE CENTRAL ゼネラルマネジャー 小嶋猛さん
経営の方向性を明確にし、マーケティング戦略をしっかり立てることで、サロンの運営も安定しやすくなります。
美容所登録の審査に落ちる理由と対策
美容所登録の審査に通らない主な理由として、構造設備や衛生管理が基準を満たしていないことが挙げられます。
また、保健所ごとに細かな基準が異なるため、事前の確認や打ち合わせが欠かせません。開業前に設計図を持参し、保健所への相談によってスムーズな審査通過につながるでしょう。
以下では、審査落ちを防ぐためのポイントを解説し、基準をクリアするための対策を紹介します。
美容所登録後に手続きが必要となるケース
美容所を開設した後も、施設の変更や運営体制の変化に応じて手続きが必要になる場合があります。以下は、手続きが必要になる事例の一部です。
- 店舗の増改築
- シャンプー台の増設
- 新しいスタッフの雇用
- 開設者の変更 など
これらの変更は、美容所の衛生管理や安全性の確保に影響を与えるため、適切な手続きを行い、保健所への申請が求められます。
変更内容によっては立入検査が必要になる点もあるため、事前に確認しておきましょう。
店舗の名称や面積などを変更した場合
美容所開業後も、以下のような事例と当てはまった場合、速やかに保健所へ変更届を提出する必要があります。
これらの変更があると、衛生管理や運営責任が変わるため、適切な手続きを行わなければなりません。
- 美容所の名称を変更した場合
- 新しい従業員を雇用、または既存の従業員を解雇した場合
- 店舗の床面積を大幅に変更した場合(開設時の1/2未満の変更)
- 法人の代表者が変更になった場合
- 婚姻などにより開設者の氏名が変わった場合
- 移動式美容所で、店舗部分を残して車両を更新した場合
変更の種類によっては、登記事項証明書や医師の診断書の提出が必要になる場合があります。特に、個人事業主から法人へ変更する際は、新規許可申請と廃止届の両方が求められます。
また、美容師名簿の登録事項に変更が生じた場合、30日以内に名簿の訂正を申請しなければいけません。
手続きの期限は、変更が発生してから10日以内とされているため、迅速な対応が必要です。
内容によっては立入検査が必要になるケースもあるため、事前に保健所へ相談しておくとスムーズに手続きが進められます。
従事者に変化が生じた場合
美容所では、従事者(美容師)の雇用や退職、氏名変更などが発生した際に、保健所へ変更届を提出する必要があります。
これらの手続きは、適切な人員管理と法令遵守のために義務付けられています。
- 新しい美容師を雇用した場合
- 従事者が退職した場合
- 美容所の名称を変更した場合
- 開設時の床面積を大幅に変更した場合(1/2未満の変更)
- 法人の代表者が変更になった場合
- 婚姻などによる開設者の氏名変更
- 移動式美容所で車両を更新した場合
美容師の氏名変更や本籍地の変更があった場合は、美容師名簿の登録情報を修正しましょう。
美容師法施行規則第3条では、登録事項に変更があった場合、30日以内に名簿の訂正を行うことが義務付けられています。ただし、免許証の氏名変更は必須ではなく、旧姓のままでも使用可能です。
変更が発生した際は、速やかに保健所へ変更届を提出しましょう。また、美容所の変更届とあわせて美容師名簿の修正も忘れずに行うのも重要です。
手続きの対象となる変更事項を事前に確認し、スムーズに対応できるよう準備してください。
開設者の地位を相続した場合
美容所の開設者が亡くなった場合や、相続・譲渡・合併などで開設者が変更される際は、「美容所開設者地位承継届」を管轄の保健所へ提出しなければいけません。
この手続きを行わずに営業を続けると、無許可営業とみなされ、美容師法に違反する可能性があるため注意が必要です。
承継手続きに必要な書類は、以下となります。
- 美容所開設者地位承継届(指定の様式)
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し(相続を証明するため)
- 相続人全員の同意書(相続人が複数いる場合)
開設者が変更された場合は、速やかに保健所へ届出を行いましょう。
相続人が複数いる場合は、全員の同意が必要となります。手続きを怠ると、無許可営業と判断され、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため、注意しましょう。
まとめ
美容所の開設には、保健所への登録や設備の基準を満たさないといけません。登録審査をスムーズに進めるためには、事前の準備や保健所との相談が必要です。
- 事前に保健所へ相談し、必要な手続きを確認
- 作業所面積や衛生設備など、基準を満たしているか確認
- 必要書類を準備し、開設届を提出
- 立入検査を受け、基準を満たしていることを証明
- 登録後も変更があれば速やかに届出を行う
開業後の運営も、美容所の適正な管理が求められます。基準を守り、安全で信頼される美容所運営を心がけましょう。

- 執筆者情報
- 関 慎一郎(Seki Shinichiro)