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コスト0円から始めるスタッフ育成|方法や手順、国の支援金活用法を紹介

コスト0円から始めるスタッフ育成|方法や手順、国の支援金活用法を紹介

「スタッフ育成が重要」だと思いながらも、日々の業務に追われて取り組めていない人も多いのではないでしょうか。スタッフの育成は、企業が継続的に成長する上で欠かせない要素の1つです。

そこで本記事では、コスト0円から始められるスタッフ育成の方法や手順、活用できる国の支援金などを紹介します。

ゼロからスタッフ育成に取り組み、企業や店舗の成長を図りたい方はぜひ参考にしてください。

人材(スタッフ)育成とは

人材育成とは、企業の成長や発展、経営目標の達成に貢献できる人材を計画的に育成することです。

企業によって必要な人材像は異なるため、自社の経営方針やビジョンに合わせた戦略的な育成が求められます。

人材育成を行うポイントは、次のとおりです。

  • 自社の経営目標と連動した育成計画を立てる
  • 従業員の現状のスキルや適性を正確に把握する
  • 育成側と育成される側の双方が目標を共有する

効果的な人材育成は、業績の向上だけでなく、従業員のモチベーション向上や離職率の低下にもつながります。

人材育成と人材開発の違い

人材育成と人材開発は混同されがちな概念ですが、その目的や特徴に違いがあります。

まず、人材育成は企業の経営目標と直接リンクし、自社の成長や目標達成を目的として行われます。会社主導で計画的に進める点が特徴で、企業にとって必要な人材を育てることに焦点が当てられます。

一方、人材開発は従業員が最初からもっている能力やスキルを向上させ、個人の成長を促進させるのが目的です。従業員が自ら目標を設定し、必要なスキルを習得するために自発的に学ぶ点が特徴です。

つまり、人材育成は企業目標を達成するための組織的な取り組みであるのに対し、人材開発は個人の成長に重点を置いた活動といえます。

人材育成と人材教育の違い

人材教育とは、特定のスキルや知識を習得させるための教育活動です。

人材育成と人材教育も混同されがちですが、範囲と目的に違いがあります。

たとえば、新入社員に対するビジネスマナー研修は「人材教育」ですが、社員の適性を見極めて適切な部署に配置し、将来のリーダーとして育てていく一連のプロセスは「人材育成」に当たります。

したがって、人材教育は人材育成の中の一要素であるといえるでしょう。

企業にとって人材教育が重要な理由

企業の成長と競争力維持には人材教育が不可欠であり、その理由は大きく分けて以下の2つです。

1つ目は、テクノロジーの進化による市場の均質化です。技術力や価格だけでの差別化が難しくなるなか、企業の競争力を左右する要素として「人材」が注目されています。

2つ目は、深刻化する人材不足です。独立行政法人 労働政策研究・研究機構「雇用人員判断D.I.」が公表したグラフをみると、全産業で人材不足の状態が続いています。なお「雇用人員判断D.I」とは、人手不足の過不足を指数化し、企業の業況感を数値化したものであり、0以下は人手が不足している状態です。

グラフによると、今後も人手不足に起因する人材獲得競争は激化すると予想され、既存の社員の能力向上と生産性を高める重要性が増すでしょう。

1.雇用人員判断D.I.の推移

特に、美容業界が含まれる「非製造業」の「対個人サービス」では、不足超過幅が大きくなっていると報告されています。

人材育成で得られるメリット

人材育成で得られるメリットは、次のとおりです。

  • 顧客満足度の向上
  • 生産性の向上
  • モチベーションの向上
  • リーダーの発掘
  • スタッフの自己実現

それぞれのメリットについて解説します。

顧客満足度の向上

人材育成は顧客満足度の向上に大きく貢献します。実際、中小企業庁の調査によると、人材育成を実施した企業の89.7%が「顧客満足度の向上に効果があった」と回答しています。

▼企業側が考える、人材育成・能力開発の効果

2.企業側が考える、人材育成・能力開発の効果

このような高い効果が得られる理由は、次のとおりです。

  • 専門知識や技術の向上により適切な顧客対応ができるから
  • 応対品質の向上により顧客との信頼関係構築が容易になるから

特に美容ヘルスケア業界のような「対人サービス業」では、従業員のスキルや応対品質が顧客満足度に直結するため、継続的な人材育成が極めて重要といえます。

生産性の向上

人材育成は、企業の生産性向上にも大きく寄与します。独立行政法人「労働政策研究・研究機構」の調査によると、78.1%の企業が能力開発は生産性の向上に寄与したと回答しています。

▼従業員の仕事上の能力の評価:非正社員

3.従業員の仕事上の能力の評価非正社員

人材育成によって生産性が向上する理由は、以下のとおりです。

  • 業務に必要な知識やスキルが向上し、同じ時間でより多くの成果を出せるようになる
  • ミスが減り業務効率が向上する
  • 新しい技術や手法の習得により業務プロセスの改善が進む

特に人材不足が深刻化している昨今、既存の人材の生産性を高めることは、企業の持続的成長に欠かせない要素です。

モチベーションの向上

適切な人材育成は、従業員のモチベーション向上にも大きく貢献します。中小企業庁の調査によると、人材育成を実施した企業の89.5%が「従業員のモチベーション向上に効果があった」と回答しています。

人材育成がモチベーション向上につながる理由は、次のとおりです。

  • 成長の実感が自己肯定感を高め、仕事への意欲が向上する
  • 企業が自分に投資してくれているという実感が、会社への貢献意欲を高める
  • キャリアアップの可能性が見えることで、長期的な目標をもって働ける

モチベーションの高い従業員は主体的に業務改善に取り組むようになるため、組織全体の活性化にもつながります。

リーダーの発掘

育成プログラムを通じて、リーダーシップの素質をもつ人材を見い出せれば、その人物を計画的に育成できます。

リーダーの発掘につながる育成プログラムの特徴は次のとおりです。

  • 通常業務では得られない経験や知識を提供して視野を広げる
  • プロジェクトリーダーなど小規模なリーダー経験の機会を提供して実践的に学ばせる
  • メンターによる指導で、経験豊富な上司からリーダーシップのノウハウを学ぶ

「ReCORE鍼灸接骨院」の院長、伴隆二さんは各スタッフと直接的に関わることで、リーダー候補になり得る人物を見出し、人材育成のメリットを実感しています。

 

たとえば今一緒に働いているスタッフは、最初はとても自己主張が強く、自分が一番になることを念頭に仕事をしているように見えたのですが、関わっていくうちに「後輩たちに対して何かを与えられるような存在になりたいと」言ってくれたんです。

実際、彼は休みの日に後輩のために技術テストのサポートをするなど、人のための行動をたくさんしてくれるようになりました。このような成長を目の当たりにすると、人材育成の意味を実感しますね。

引用:モアリジョブ|「ReCORE鍼灸接骨院」伴隆二さん

スタッフの自己実現

人材育成は、従業員の自己実現欲求を満たす手段でもあります。キャリア開発や能力向上の機会を得ることで、従業員は自身の可能性を最大限に発揮し、成長を実感できるためです。

自己実現につながる人材育成の特徴は次のとおりです。

  • 個人の強みや適性に合わせた育成計画
  • 自発的な学びを支援する制度(資格取得支援など)
  • 長期的なキャリアパスを見据えた段階的な育成計画

従業員の自己実現を支援することは、優秀な人材の定着率の向上にもつながり、採用コストの削減や組織知識の維持といった副次的なメリットももたらします。

人材育成の主な方法

人材育成の主な方法は次のとおりです。

  • OJT
  • 研修
  • SD(自己啓発)
  • メンター制度
  • ティーチング
  • コーチング
  • ジョブローテーション
  • MBO(目標管理制度)
  • eラーニング

それぞれの方法について解説します。

OJT

OJT(On the Job Training)は、実際の職場で日常業務を通じて行う人材育成方法です。先輩社員や上司がトレーナーとなり、業務の中で必要な知識やスキルを直接指導します。

OJTでは、職場での実務経験を通じて業務のスキルやノウハウを身につけられるため、特に接客や営業、美容院などの技術的な作業の習得に効果的です。

また、指導する側と指導される側が直接コミュニケーションを取りながら進められるため、個人の理解度に合わせた指導が可能です。それに伴い、教える側もさまざまな気づきを得られます。

実際、パーソル総合研究所の調査によると、「業務を客観的に見ることができた(47.6%)」「業務の改善ポイントに気が付いた(45.5%)」などの学びがあったと報告されています。

さらに下記事例のとおり、OJTを取り入れることで、研修期間の短縮やプライベートの充実化も図れるため、結果的に定着率も上がります。

大体、入社してから1ヶ月後くらいにはすべてのメニューでお客様に入れるようになるので、現場で活躍できるようになるまでの期間は、ほかのエステ会社と比べてもかなり短いのではないかと思います。

また業界のなかでも珍しいと思うのが、営業時間外の練習がなく、業務時間内で完結するため、プライベートも大切にできることです。

引用:モアリジョブ|「ニューアート・ヘルス&ビューティー」中村綺乃さん

ただし、指導する側の能力によっては育成の質にばらつきが出たり、指導者の業務負担が増加したりする課題もあります。

研修

研修は、職場を離れて特定のスキルや知識を集中的に学ぶ育成方法です。集合研修やオンライン研修など、さまざまな形態があります。

研修のメリットは、体系的な知識を効率よく習得できることです。また専門家から学べるため、個々が学ぶスキルにばらつきが生じにくく、標準化された内容を多くの社員に提供できる点もメリットです。研修制度がしっかりとしていれば、応募者も安心して選考へ進めるでしょう。

さらに、研修期間で上司とのコミュニケーションが増えれば定着率も高まります。

中途入社だったこともあって、少人数で研修を受けられていることが、とてもありがたいと感じました。人数が少ないので同期とも仲良くなれるし、先生が常についてくれてマンツーマンに近い形で教えてくれるので、技術の定着も早いと感じます。

また指導にあたってくれる先生も固定ではなくていろんな方が入ってくれるので、いろいろな先生と関わる機会も増えるんです。スタッフを仲間やチームの一員として大事にしている会社の姿勢を、研修を受けていても感じます。

引用:モアリジョブ|「株式会社ほねごり」柔道整復師 久住沙良さん

ただし、研修だけでは実務への応用力が身につきにくいため、OJTと組み合わせて実施するなどの対策が求められます。

SD(自己啓発)

SD(自己啓発)は、社員が自発的に知識やスキルの向上に取り組む育成方法です。書籍や外部セミナー、オンライン学習などを通じて、自ら学びます。

自己啓発の最大の特徴は、社員の主体性を引き出せることです。自らの課題やキャリアに必要なスキルを認識しながら積極的に学ぶ姿勢は、長期的な成長につながります。

特に技術革新が早く、常に新しい知識が求められる現代では、自己啓発の重要性が高まっているといえるでしょう。

ただし、社員によって自己啓発への意欲に差が生じるため、企業全体で知識やスキルの底上げが必要という課題もあります。

メンター制度

メンター制度は、経験豊富な先輩社員(メンター)が後輩社員をサポートする育成方法です。業務指導というよりも、精神的なサポートや長期的なキャリア形成の支援を目的としています。

メンター制度の特徴は、OJTよりも広い視点でのサポートが可能なことです。直属の上司ではない先輩社員がメンターになれば、気軽に相談できる環境が生まれ、職場の悩みや将来のキャリアについて率直な対話ができます。もちろん直属の上司がメンターを務め、スキル習得を促進するのにも効果的です。

また、メンター自身も指導経験を通じて成長できるメリットがあります。若手の視点に触れることで新たな気づきを得たり、自身のリーダーシップスキルを向上させたりする機会も得られるでしょう。

さらに、新入社員や若手社員の早期離職防止や定着率向上にも効果を発揮します。

弊社ではメンター制度を導入しています。定期的に面談を行い、キャリア形成や成長をサポートしています。あとは、塾や勉強会を不定期で開催しており、これまでには技術講習や経営にまつわる勉強会を実施しました。役員への昇格や独立などキャリアアップを目指す人にも柔軟に対応しています。

引用:モアリジョブ|「トシックスホールディングス」副社長 登坂さおりさん

ティーチング

ティーチングは、上司や先輩社員が部下や後輩に対して知識やスキルを直接教える指導方法です。特定の業務知識や技術を、効率的に伝達するのが目的です。

ティーチングの最大の特徴は、必要な知識やスキルを短期間で確実に習得できる点です。指導者がもつ知識やノウハウを直接伝えることで、学習者の理解度に合わせた指導が可能になります。

ただし、ティーチングだけに頼りすぎると、社員の主体性や問題解決能力の育成が疎かになる可能性があります。指導されることに慣れてしまうと、自ら考え行動する力が育ちにくくなるためです。そこである程度のスキルが身についた段階で、コーチングなど他の手法に移行することが望ましいでしょう。

コーチング

コーチングは、ティーチングのように指導者が一方的に教えるのではなく、対話を通じて相手の潜在能力を引き出し、自発的な行動をうながす育成方法です。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、90.3%の人が「コーチングが役に立った」と回答しています。

コーチングでは「傾聴」「承認」「質問」「提案」の4つの基本スキルを用いて進められます。

コーチングの特徴は、相手の自主性と主体性を重視する点です。指導者が答えを教えるのではなく、質問を投げかけることで相手に考えさせ、自ら解決策を見つけ出す力を育みます。この過程を通じて、問題解決能力やクリティカルシンキングが培われます。

ただし、コーチングは相手に一定のスキルや経験がないと効果を発揮しにくい面もあります。また、短期的な成果よりも中長期的な成長を重視するため、効果が出るまでに時間がかかります。

ジョブローテーション

ジョブローテーションは、社員を計画的に異なる部署や職種に配置転換し、さまざまな業務経験を積ませる育成方法です。株式会社Works Human Intelligenceの調査によると、76.9%の企業がジョブローテーションを実施しています。

この手法の大きな特徴は、多様な経験を通じて幅広い視野と知識を身につけられることです。異なる部署での経験は、企業全体の業務フローや各部門の役割を理解する機会となり、総合的な判断ができる人材の育成につながります。また、自分の適性や強みを再発見できる機会としても有効です。

実際、「MINIMAL MAAT」を運営する丸山裕太さんは、ジョブローテーションの導入により、人材育成だけでなく、現場の状況に応じた生産性の維持・向上につなげています。

またもっと突発的にジョブローテーションをすることによって、手があいているスタッフがいなくなり、お店全体の生産性を下げないという点も大きなメリットですね。たとえばスタイリストでもお客さまがいないときにはコーヒーを淹れたり、カフェのスタッフの手が空いているときは美容室の受付から、施術後のお客さまへワインの販売をするなど、お互いをフォローし合うことができます。

引用:モアリジョブ|「MINIMAL MAAT」丸山裕太さん

ただしジョブローテーションでは、頻繁な異動により、特定分野での専門性を高めることが難しくなる可能性があるため、企業の状況や個人のキャリアプランに応じて適切に実施する必要があります。

MBO(目標管理制度)

MBO(目標管理制度)は、社員が上司と相談しながら自ら目標を設定し、その達成度を評価する人材育成の手法です。具体的には、目標設定、実行、評価のサイクルを通じて成長をうながします。

MBOの特徴は、上からの一方的な評価ではなく、社員自身が目標設定に参加することで主体性を引き出せる点です。自ら設定した目標の達成に向けて取り組むことで、モチベーションの向上も期待できます。また、定期的な振り返りによって自己評価能力も養われます。

MBOを効果的に実施するには、個人の目標と組織の目標が連動していることが重要です。単なる個人の成長だけでなく、企業の経営目標達成にも貢献する目標設定が求められます。 

一方で目標設定が適切でなかったり、定期的なフォローアップがなされなかったりすると、効果が薄れてしまう点に注意が必要です。

eラーニング

eラーニングは、インターネットやデジタル技術を活用した学習手法です。オンラインで教材やコンテンツを配信し、パソコンやスマートフォンを通じて学習を進めます。

KIYOラーニング株式会社の調査によると、企業の72.0%が「リスニング・自己啓発に活用している」、またeランニングの活用している企業の84.0%が「目的を達成できている」と回答しており、その実用性が伺えます。

eラーニングの最大の特徴は、時間や場所に制約されず、自分のペースで学習できる点です。忙しい業務の合間に短時間で学習したり、遠隔地にいる社員も同じ内容を学んだりできます。

また、学習履歴や進捗が自動的に記録されるため、管理や評価が容易になるメリットもあります。基礎知識の習得や、反復学習が必要なスキルの定着にも適しているでしょう。

ただし、eラーニングだけでは実践力や応用力を身につけるのは難しいです。また、学習者の自主性に依存するため、モチベーション維持が課題となるケースもあります。

このことから、eラーニングの効果的な活用には、学習環境の整備や学習意欲を高める工夫などが重要です。

人材育成の手順

人材育成の手順は次のとおりです。

  1. 目的と目標の明確化
  2. 現状把握と計画立案
  3. モチベーション管理
  4. 最適な育成方法の選択
  5. リソースの獲得と制度整備
  6. 効果測定と改善

手順ごとに詳しく解説します。

1.目的と目標の明確化

単に教育やトレーニングを実施するだけでは効果が限定的になるため、企業の経営目標と連動した人材育成の目的を設定しましょう。

目的の例としては、「専門スキルの向上」「将来の幹部候補の育成」などがあげられます。この目的をもとに、具体的で測定可能な目標を設定します。目標は「客観的に判断できる指標であること」「企業の成果につながること」が重要です。

明確な目的と目標があれば、社員一人ひとりが自己啓発に取り組む動機付けとなり、組織全体での人材育成が効果的に進みます。

2.現状把握と計画立案

目的と目標が定まったら、次は現状の把握と育成計画の立案です。社員のスキルレベルを可視化し、目標とのギャップを分析しましょう。

スキルの可視化には、スキルマップの作成が効果的です。業務に必要なスキルを軸にした表を作成し、各社員のスキルレベルを数値化します。これにより、個々の強みや弱み、育成が必要な領域が把握可能です。

続いてこの現状分析をもとに、具体的な育成計画を立案します。計画には、習得すべきスキル、育成方法、達成期限を明記します。期限を設けることで、育成の進捗管理がしやすくなり、社員は自身の成長を具体的にイメージできます。

3.モチベーション管理

人材育成の成否は、社員のモチベーションに大きく左右されます。どんなに優れた育成計画でも、社員に成長意欲がなければ効果は期待できません。

また、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、育成で苦労したいこととして「新入社員のメンタルやモチベーションの管理」が最も多いです。このため、企業はモチベーションに対する理解を深め、適切な対策を実施する必要があります。

たとえば、モチベーションには「内的モチベーション」と「外的モチベーション」があります。内的モチベーションは自己成長や自己実現など個人の内面から生じるもので、外的モチベーションは給与アップや評価など外部からの刺激によるものです。

人材育成においては、両方のモチベーションに働きかける必要があります。特に内的モチベーションは持続性があり、自らコントロールしやすいため、日々の指導や面談を通じて社員の内面的な成長意欲を高めるのが効果的です。

4.最適な育成方法の選択

人材育成にはさまざまな手法がありますが、職位や目的に応じて最適な方法を選択する必要があります。

新入社員にはOJTやメンター制度が効果的である一方、中堅社員にはジョブローテーションやコーチングが適している場合があります。また、管理職には外部研修や人事評価研修など、マネジメントスキルを高める方法が向いています。

eラーニングは、時間や場所に縛られず学習できるため、全階層に有効な手法です。特に基礎知識の習得や、多忙な社員の自己啓発支援に適しています。

このように、育成方法の選択が適切でないと、時間やコストを無駄に消費するだけでなく、社員のモチベーション低下を招きます。各社員の状況や育成目標に応じて、最適な育成方法を選択しましょう。

5.リソースの獲得と制度整備

人材育成を安定して行うためには、必要なリソース(時間・予算・人員など)の確保と、育成に関する制度の整備が欠かせません。

忙しい店舗などでは目に見える範囲での業務が優先され、人材育成が後回しになりがちですが、人材育成は時間と手間をかけた分だけ結果が現れる長期的な投資です。そのため、計画的に時間や予算を確保し、継続的に取り組む姿勢が重要視されます。

制度面では、OJT制度、研修制度、ジョブローテーション制度などを整備することで、組織的かつ体系的な人材育成が可能です。

6.効果測定と改善

人材育成の最終ステップは、効果測定と改善です。設定した目標に対する達成度を定期的に評価し、育成計画の効果を検証します。

効果測定には、受講者アンケート、事後テスト・レポートなどの方法があります。次章で紹介するフレームワークを活用すると、より体系的な効果測定が可能です。

測定結果をもとに、育成内容や方法を継続的に改善すれば、人材育成の質と効率を高められます。PDCAサイクルを回し、常に育成計画をブラッシュアップしていきましょう。

人材育成に活用できるフレームワーク

人材育成に活用できるフレームワークは以下のとおりです。

  • ベーシック法
  • コルプの経験学習モデル
  • 7:2:1モデル(ロミンガーの法則)
  • ギャップ分析
  • カッツモデル

各フレームワークの活用方法を解説します。

ベーシック法

5.ベーシック法

ベーシック法は、人材育成において必須となる目標設定のためのフレームワークです。具体的な目標設定を4つのステップで行います。

  1. 目標項目の設定
    何を達成するのかを明確にする
  1. 達成基準の設定
    どこまで達成すれば目標達成とみなすかの基準を定める
  1. 期限の設定
    いつまでに達成するかを決める
  1. 達成計画の設定
    どのように目標を達成するかの計画を立てる

このフレームワークを使用することで、曖昧になりがちな育成目標を具体化し、進捗管理がしやすくなります。美容師の育成を例に見てみましょう。

1.目標項目の設定

カット技術の向上に焦点を当て、特にレイヤーカットの技術を磨く。

2.達成基準の設定

レイヤーカットの技術評価テストで90点以上を獲得する。または、サロン内の技術コンテストでトップ3に入る。

3.期限の設定

6カ月後までに達成する。

4.達成計画の設定

1~2カ月目:週に2回、勤務後に1時間の練習時間を設け、マネキンでレイヤーカットの基礎練習を行う


3~4カ月目:月に1回、経験豊富なスタイリストによる指導を受け、フィードバックをもとに技術を改善する


5カ月目:サロン内で他のスタッフにモデルになってもらい、実践的なレイヤーカット技術を磨く


6カ月目:顧客へのレイヤーカット施術を増やし、フィードバックを収集して最終調整を行う

前述した「効果測定と改善」も、本フレームワークを活用すれば効率的かつ体系的に効果測定ができます。

コルブの経験学習モデル

6.コルブの経験学習モデル

コルブの経験学習モデルは、人がどのように経験から学ぶかを表した循環型のフレームワークです。人材育成においては、効果的な学習を促進する役割があります。

このモデルは、以下の4つの段階で構成されています。

  • 具体的な経験
    実際に体験する
  • 内省的な観察
    経験を振り返り、観察する
  • 抽象的な概念化
    経験から得た知見を概念化する
  • 能動的な実験
    概念化したものを新たな状況で試す

このモデルの重要な点は、単なる経験に終始せず、そこから学びを抽出し、次の行動に生かすという流れを意識することです。

美容師を例に活用方法を確認しましょう。

具体的な経験

新しいヘアスタイルを提案したが、お客様の満足度が低く、後日スタイリングの相談を受けた。

内省的な観察

施術後に自己反省を行い、次の点に気づいた。

・お客様の髪質や生活スタイルを十分に考慮せず、扱いにくいスタイルを提案してしまった。

抽象的な概念化

反省から「お客様の髪質や生活スタイルに合ったスタイル提案をすること」「お客様のイメージを正確に把握すること」が重要であるという仮説を立てた。

能動的な実験

今後の施術では、カウンセリング時間を十分に確保し、お客様の髪質だけでなく、日常のスタイリング習慣や時間的制約も詳しく聞き取る。また、イメージ写真を複数用意してもらうか一緒に選び、具体的なイメージすり合わせを丁寧に行う。

7:2:1モデル(ロミンガーの法則)

7.721モデル(ロミンガーの法則)

7:2:1モデル(ロミンガーの法則)は、効果的な人材育成の割合を示したフレームワークです。アメリカの人事コンサルタント会社ロミンガー社がリーダーシップ開発に最も効果的な要素の割合を上図のとおりに示し、全世界で活用されるようになりました。

このモデルは、人材育成において実際の業務経験が最も重要であると示しています。座学だけでなく、実践的な経験を通じた学習が効果的だということです。たとえば、リーダーシップを育成する場合、研修だけでなく、実際にチームリーダーとしての経験を積ませることが重要です。

ギャップ分析

ギャップ分析

 

ギャップ分析は、「あるべき姿(目標)」と「現状」とのギャップを明らかにし、そのギャップを埋めるための方策を検討するフレームワークです。人材育成における基本的な考え方として広く活用されています。

  • 目標設定
    あるべき姿、目指すべき状態を明確にする
  • 現状分析
    現在の能力やスキルレベルを把握する
  • ギャップの特定
    目標と現状のギャップを明確にする
  • 対策立案
    ギャップを埋めるための具体的な施策を計画する

こちらも美容師の育成を例に見てみましょう。

目標設定

カラースペシャリストとして認定され、顧客満足度95%を達成すること

現状分析

基本技術は習得済みだが、複雑なカラーリング経験が少なく、満足度は85%

ギャップの特定

高度なカラーリング技術、色彩理論、薬剤知識の習得が必要

対策立案

・専門セミナー参加(3カ月内に2回)

・先輩美容師からの週1回の指導

・月1冊の専門書籍で知識強化

カッツモデル

9.カッツモデル

 

カッツモデルは、役職ごとに求められるスキルの割合を示したフレームワークです。このモデルでは、以下の3つのスキルと3つの階層(役職)の関係を示しています。

【3つのスキル】

  1. テクニカルスキル:業務を遂行するための専門的な知識や技術
  2. ヒューマンスキル:対人関係を円滑に進めるためのコミュニケーション能力
  3. コンセプチュアルスキル:組織全体を俯瞰し、問題を概念的に捉える能力

【3つの階層】

  1. トップマネジメント(経営層)
  2. ミドルマネジメント(中間管理職)
  3. ロワーマネジメント( 現場監督者)

このモデルによると、階層が上がるほどコンセプチュアルスキルの重要性が増し、テクニカルスキルの重要性は相対的に低下します。一方、ヒューマンスキルはどの階層でも一定の重要性をもっています。

人材育成においては、このモデルを活用することで、各階層に適したスキル開発の重点を明確にできます。たとえば美容院の場合、店長にはテクニカルスキルとヒューマンスキルを中心に育成し、マネージャーにはコンセプチュアルスキルを重点的に育成するといった具合です。

人材育成のポイント|階層別

ここでは、人材育成のポイントを階層別に解説します。

内定者

内定者の育成で最も重要なのは、社会人基礎力の養成と企業理解の促進です。学生から社会人への意識転換をうながすとともに、企業の理念や風土に対する理解を深めることが重要です。

具体的な育成方法としては、eラーニングやオンライン研修が効果的です。内定者は大学の卒業論文等の個人的なタスクもあり、研修にかける時間が限られていることが多いため、時間や場所を選ばず学習できるeラーニングが最適です。

株式会社ライトワークスの調査によると、内定者は内定後に「仕事をできるようになるか」という不安を感じているため、この不安を解消する内容にすることが大切です。

内定者向け研修をする際のポイントは、次のとおりです。

  • ビジネスマナーや社会人としての基礎知識の習得
  • 企業の理念・ビジョン・歴史などの理解促進
  • 業界や事業内容に関する基礎知識の提供
  • 入社への期待感や意欲の維持・向上
  • 内定者同士のコミュニケーション機会の提供

上記の施策により、入社前から企業との信頼関係を築けるため、定着率向上やモチベーション維持につながります。

新入社員

新入社員の育成では、社会人としての基礎スキルの定着と、業務に必要な専門知識・技術の習得が主な目標となります。この時期は学ぶべきことが多く、体系的な教育と実践の場の提供がバランスよく必要です。

新入社員の育成では、理論と実践を組み合わせたアプローチが効果的です。座学によるスキル習得と、OJTによる実践的な学びを並行して進めることで、学んだ知識の定着をうながします。

具体的な育成方法としては、以下があります。

  • 体系的な新入社員研修の実施(ビジネスマナー、ビジネス文書作成など)
  • 計画的なOJTプログラムの実施
  • メンター制度の導入(精神的サポートや相談役など)
  • eラーニングを活用した基礎スキルの習得支援

特に新入社員は覚えることが多く、不安を感じやすいため、メンター制度などを通じて精神面をサポートすることが欠かせません。直属の上司ではない第三者に相談できる環境があれば、心理的安全性が確保され、より積極的な学習意欲が引き出せるでしょう。

中堅社員

中堅社員は組織の中核を担う存在であり、業務の専門性を高めると同時に、チームを牽引する役割も求められます。よって、個人プレーヤーからチームプレーヤーへと視野を広げることが重要視されます。

中堅社員の育成に効果的な方法として、以下があげられます。

  • 高度な専門スキルを習得するための研修
  • プロジェクトリーダーとしての経験付与
  • 部下や後輩の指導スキル向上のための研修
  • ジョブローテーションによる視野拡大
  • 能動的な学習・自己啓発の促進

中堅社員の段階では、個々のキャリア志向や強みに合わせた育成が重要です。全員一律の研修ではなく、個人の目標やスキルギャップに応じた育成プランの提供が効果的です。

管理職

管理職の育成においては、個人の業務遂行能力からチームのパフォーマンスを高めるマネジメント能力へとポイントが移ります。具体的には、組織の方針を理解し、それを実現するための戦略的思考力や判断力が求められます。

管理職の育成ポイントは次のとおりです。

  • リーダーシップスキルの強化
  • 部下育成・チームマネジメント能力の向上
  • 戦略的思考力・意思決定能力の開発
  • コーチングスキルの習得
  • 経営視点・ビジネス感覚のブラッシュアップ

管理職の育成では、実務から一歩引いた視点での思考や判断力が求められるため、ケーススタディやディスカッションを通じた学習が効果的です。実際の経営課題を題材にしたワークショップなどを通じて、経営的視点を養うとよいでしょう。

ただし管理職は業務量も多く、まとまった時間を研修に充てることが難しい場合も多くあります。その場合、eラーニングや短時間の集中セッションなど、柔軟な形式での学習機会を提供しましょう。

人材育成に活用できる国の支援金

人材育成に活用できる国の支援金は次のとおりです。

  • 人材開発支援助成金
  • キャリアアップ助成金

それぞれの支援金について解説します。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、従業員の訓練実施において事業主が訓練経費を全て負担した場合に、その経費の一部を助成する制度です。2024年11月5日から訓練経費の負担の取扱いが明確化されたため注意する必要があります。

人材開発支援助成金には、下記7つのコースがあるため、自社に適したコースを選びましょう。

  • 人材育成支援コース
  • 教育訓練休暇等付与コース
  • 人への投資促進コース
  • 事業展開等リスキリング支援コース
  • 建設労働者認定訓練コース
  • 建設労働者技能実習コース
  • 障害者職業能力開発コース

たとえば、人材育成支援コースは企業内での人材育成を支援するために活用され、経費助成が45~75%、賃金助成が760~960円(一部訓練のみ)となっています。

また、教育訓練機関等から返金や実質的な負担軽減を受けた場合は、助成対象外となる点にも留意しておく必要があります。

詳しくは、厚生労働省の公式ページを参考にしてください。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に取り組む事業主に対して助成する制度です。

本助成金のコースは次のとおりです。

  • 正社員化支援
  • 賃金規定等改定コース
  • 賃金規定等共通化コース
  • 賞与・退職金制度導入コース
  • 短時間労働者労働時間延長コース

たとえば、正社員化コースは、有期雇用労働者等を正社員に転換、または直接雇用する際に一定の額を支給してもらえます。具体的な支給額の例は次のとおりです。

有期雇用→正規雇用:中小企業 57万円、大企業 42万7500円

無期雇用→正規雇用:中小企業 28万5000円、大企業 21万3750円

本助成金は、雇用保険適用事業所の事業主が対象であり、対象労働者は雇用保険被保険者である必要がある点に注意しましょう。

詳しくは、厚生労働省の公式ページを参考にしてください。

人材育成の好事例

ここでは、人材育成の好事例を紹介します。

具体的な育成方法や実施の際の注意点などを確認しましょう。

美容室Cocoon

10.「Cocoon」代表 VANさん

離職率が低く、スタッフの雰囲気がよい「Cocoon」。代表のVANさんが人材育成で注意しているのは次のとおりです。

僕がサロンを立ち上げたときから言っているのは、「相手の基準値を理解してから自分の行動を決めなさい」ということ。相手の物差しと自分の物差しにはズレがあるもの。そのズレを考えないと、自分の考えを押しつけるように受け取られます。これはお客さまに対しても、後輩を指導するときも同じです。相手の理解度や価値観を考えずに話をすると、「何で分からないんだ!」って自分の考えの押しつけになってしまう。誰しも自分の物差しは分かっていても、相手のことは分かりません。相手の物差しと自分の物差しのズレが分かれば、お互いの課題が見えてきますよね。

引用:モアリジョブ|「Cocoon」代表 VANさん

上記事例のとおり、立場によって物事を考える基準が異なります。そのため、人材育成においては「育成される人」の立場に立って施策を実施することが重要です。

東京ヴァンテアングループ

11.「東京ヴァンテアン」取締役社長 中林章さん

1982年創業の美容室グループを運営する「東京ヴァンテアン」で、取締役社長を務める中林章さんが人材育成で重要視している点は次のとおりです。

感情的に叱らないことを大切にしています。一方的な指摘は、叱る側のストレス発散でしかありません。なぜミスをしてしまったのか、スタッフが気づくことでようやく成長につながるので、理解してもらうことを目指して思いやりを持ちながら対応しています。

引用:モアリジョブ|「東京ヴァンテアン」取締役社長 中林章さん

具体的な施策について見てみましょう。

いくつかありますが、ひとつ挙げるなら技術スキルにまつわる講習会です。講習会は、毎月1回のTikTokライブを用いてのオンライン講習と、2ヶ月に1回程度に各店舗のスタッフが一堂に会して行う対面講習の2パターンがあります。

引用:モアリジョブ|「東京ヴァンテアン」取締役社長 中林章さん

若年層の利用者が多いプラットフォームを活用すれば、費用ゼロで研修ができるとのことで、人材育成においてもトレンド性が重要といえるでしょう。

まとめ

スタッフの育成は、企業の将来的な成長を促進するための重要な戦略です。日々の業務が優先されがちですが、本来はスタッフ育成も同時並行で進める必要があります。

スタッフ育成のポイントは次のとおりです。

  • スタッフ育成の目的を明確化する
  • スタッフのモチベーションを維持する
  • 目指すべき目標を数値化して日々改善する

企業の継続的な発展を見据え、戦略的なスタッフ育成を実施しましょう。

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Bizリジョブ編集部
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