美容師の育成をおろそかにすると、美容師の技術力や接客力などが不足して、顧客満足度が低下する可能性があります。結果的に、美容室経営に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、美容室をリピートしない主な理由は次の通りでした。
「自分でイメージした通りの仕上がりにしてくれない」
「スタッフの技術力が低い」
「プロとしてスタッフのカウンセリングやアドバイスが不十分」
「スタッフの気遣いや対応が良くない」
以上は、スタッフの教育や育成に注力して技術力や接客力を高めると、解決できることです。顧客が他のサロンへ流れてしまわないように、スタッフ育成を充実させましょう。
この記事では、成功事例を交えながら、美容室の育成戦略について解説します。美容師の育成に役立つポイントを押さえ、顧客満足度とリピート率向上にお役立てください。
美容室経営で育成に注力するべき理由
美容室が育成に注力する理由として、業界が直面する2つの大きな課題が挙げられます。
- 美容師の人手不足だから
- トレンドの波で求められる技術が変わるから
これらの課題に対応するには、効果的な育成戦略の導入が不可欠です。業界のニーズに合わせた継続的な人材育成が、顧客満足度の向上と経営の安定に繋がります。
将来を見据え、早めに育成に力を入れましょう。
美容師不足によって起こる人手不足
厚生労働省のデータによると、令和6年3月の美容師の有効求人倍率は3倍以上(※1)に達しており、全国平均の1.28倍(※2)と比較しても美容業界の人手不足は深刻です。
有効求人倍率が「1倍」を超えると、求人数が求職者数より多い状態を意味し、有効求人倍率が高くなるに従い人手不足に近づきます。美容室が人手不足に陥らないようにするためにも、育成環境を整備することが不可欠と言えるでしょう。
経験の浅いアシスタント美容師やブランクのある美容師を採用し、入念な育成を施して、丁寧な育成を経て、1人で全施術を担当できるスタイリスト美容師に育成していくことが重要です。
美容師の育成がうまくいけば、業務効率化や売上アップが期待でき、経営が安定しやすくなります。
※1 参考元:「一般職業紹介状況(令和6年3月分及び令和5年度分) 」に記載の「生活衛生サービス職業従事者(美容師を含む)」のデータ
※2 参考元:一般職業紹介状況(令和6年3月分及び令和5年度分)について|厚生労働省
トレンドに対応するため
うまく美容師を育成して社会情勢やトレンドの変化に柔軟に対応できると、売上が下がるリスクを回避できます。
まずは業界のトレンドを把握するために、「美容センサス2024年上期<美容室編>|ホットペッパービューティーアカデミー」をチェックしてみましょう。そうすると、次のような傾向を掴めます。
- 男女ともにカットへの需要は安定
- 女性の縮毛矯正やストレートパーマへのニーズが増加傾向
- 女性のまつ毛パーマの利用率が増加傾向
- 男性のパーマ需要が拡大
男女ともにカットへの需要は安定
ホットペッパービューティーアカデミーのデータによると、女性のカット利用率は96.5%、男性の利用率は97.0%と、カットの需要は安定しており、カットが得意な美容師の育成が重要な戦略となるでしょう。
▼[美容室]各メニュー利用率(2024年上期)
メニュー |
女性 |
男性 |
---|---|---|
カット |
96.5% |
97.0% |
カラー |
51.2% |
19.6% |
パーマ |
8.5% |
15.3% |
縮毛矯正・ストレート |
16.7% |
8.8% |
女性の縮毛矯正やストレートパーマへのニーズが増加傾向
さらに、縮毛矯正やストレートパーマのニーズも増加傾向にあります。ホットペッパービューティーアカデミーのデータでは、2020年には14.0%だった利用率が、2024年には16.7%に上昇しています。
▼[美容室]各メニュー利用率(女性の縮毛矯正・ストレート)
年 |
利用率 |
---|---|
2020年 |
14.0% |
2021年 |
12.8% |
2022年 |
14.5% |
2023年 |
14.6% |
2024年 |
16.7% |
その背景にはmixiのアンケート調査に、「韓国系スタイルの流行により、全体にレイヤーが入ったストレートヘアがトレンド化している」という美容師の声がありました。
そのため、トレンド要素に含まれるストレートパーマの技術に長けた美容師の育成も、効果があるといえるでしょう。
女性のまつ毛パーマの利用率が増加傾向
また、同データからわかるように、まつ毛パーマの利用率も、2020年の3.1%から2024年には5.5%に伸びており、アイビューティーの需要も高まっています。
▼[美容室]各メニュー利用率(女性のまつ毛パーマ・カール)
年 |
利用率 |
---|---|
2020年 |
3.1% |
2021年 |
3.7% |
2022年 |
4.4% |
2023年 |
4.4% |
2024年 |
5.5% |
男性のパーマ需要が拡大
男性のパーマ需要も高まっており、2015年のホットペッパービューティーアカデミーのデータでは8.1%から、2024年には15.3%に増加しています。
美容師を育成してパーマの提案力を高められると、男性顧客の獲得にも繋がるでしょう。
カット以外の技術に長けた美容師を育成すると、トレンドの波に対応でき、経営が安定しやすくなります。
美容室で育成に力を入れるメリット
美容室で育成に力を入れると、次のメリットがあります。
- 売上の低下を予防できる
- ブランド力を高めて売上を高められる
- 離職率を下げられる
それぞれについて、データを交えて解説します。
売上アップ
美容師を育成して技術力を高められると、売上の低下を防げます。ファンくる(株式会社ROI)の調べによると、美容室をリピートする理由として「技術の良さ」を挙げた人が24%いました。
▼美容室にリピートしている1番の理由
理由 |
割合 |
---|---|
技術が良い |
24% |
料金が見合っている |
23% |
仕上がりが好み |
13% |
接客が良い |
11% |
新しく探すのが面倒 |
10% |
一方で、リピートしない理由に「仕上がりが好みではない」と答えた人が28%、「技術が悪い」と答えた人が27%もおり、美容師の技術力が顧客のリピートに大きな影響を与えています。
▼美容室にリピートしたくない1番の理由
理由 |
割合 |
---|---|
仕上がりが好みでない |
28% |
技術が悪い |
27% |
接客が悪い |
22% |
料金が見合っていない |
11% |
お店の雰囲気が悪い |
4% |
この結果からも、美容室の売上向上には美容師の育成が必要不可欠です。
質の高い育成プログラムを整え、顧客が求める髪型に仕上げられる技術力を持った美容師を増やしましょう。それが、リピート率を高め、売上を安定させることにつながります。
若手の早期戦力化
若手の早期戦力化のために育成に力を入れると、美容師不足の解消につながり、経営が安定しやすくなります。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターが実施したセミナー参加者を対象としたアンケート調査では、約8割の人が新人や若手社員の早期戦力化に課題を抱えています。
人手不足が深刻な美容業界でも同様に、若手の早期戦力化は重要な課題です。
特にスタイリスト美容師の育成には3年かかるといわれており、その期間を短縮できると、人手不足を効果的に解消できるでしょう。
実際に、半年ほどでスタイリストデビューができる育成システムを導入している美容室の事例もあります。
「terrace」はアカデミーを設けていて、平日はアカデミーで基礎技術の訓練、土日はサロンでアシスタントとして実務経験を積むという形で、約半年でスタイリストデビューできるんです。
このように、若手美容師を効率的に育成できると、人手不足感のある美容室の経営安定化につながるでしょう。
離職率の抑制
美容師の育成は、離職率の抑制にもつながります。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、「働くにあたって重要なこと」という問いに対し、「スキルアップができること(技術の上達が見込めること)」と答えた美容師は24.9%にのぼります。
美容師の4人に1人がスキルアップに大きな関心を寄せているため、育成環境が整っていないと離職されるリスクが高まるでしょう。
さらにホットペッパービューティーアカデミーが行った別の調査では、「自身の技術が上達したと感じたときにやりがいを感じる」と答えた美容師の割合は39.6%で、技術力の向上がモチベーションに直結していることが示されています。
▼美容師としてやりがいを感じる瞬間
瞬間 |
割合 |
---|---|
お客様に感謝されたとき |
83.5% |
お客様が指名してくれたとき |
53.2% |
難しい施術が上手くできたとき |
49.3% |
お客様がきれいになったとき |
48.1% |
自身の技術が上達したと感じられたとき |
39.6% |
一方で、美容師をやめたきっかけとして「仕事に対するモチベーションが下がった」と答えた人の割合は46.8%でした。
▼美容師を辞めたきっかけ
きっかけ |
割合 |
---|---|
美容師の仕事に対するモチベーションが下がった |
46.8% |
身体を壊した/手荒れ・腰痛など、健康面で何かトラブルが起こった |
30.4% |
精神的な不調が出た |
29.0% |
結婚した |
26.7% |
妊娠・出産した |
23.6% |
つまり、技術力の向上ができないことで、やりがいを感じられずにモチベーションが低下すると、美容師が離職するリスクが高まります。美容師にとってスキル向上は重要なポイントであり、離職率を抑制するには育成環境の構築が欠かせません。
アシスタント美容師の育成の流れ
アシスタント美容師を育成するためには、以下の流れを意識して教育環境を整えましょう。
- スタイリストデビューの合格ラインを決める
- カリキュラムを作って細かく目標設定をしてもらう
- 定期的に個人ミーティングをして練習のモチベーションを維持する
- テストに合格したらスタイリストデビュー
アシスタント美容師の育成には、モチベーションを下げずにスタイリストデビューさせる環境づくりが重要です。そのためのカリキュラムや仕組みを作っておきましょう。
スタイリスト美容師になるための合格ラインを決める
スタイリスト美容師を育てるためには、まずスタイリストデビューの合格ラインを明確にしましょう。これは、アシスタント美容師が効率的に成長できる環境を整えるために必要です。
通常、アシスタント美容師がスタイリストになるまでの期間は、ビューティーキャリアの調査でも約3年というデータが出ています。
約3年という期間がかかるのは、多くの美容室が具体的なチェック項目を用意しており、全ての項目に合格できた美容師をスタイリストデビューさせているからです。
明確な目標があると、美容師自身も目指す方向を明確にでき、成長につながるでしょう。
美容室の中には、チェック項目で合格ラインを定めるルールではなく、成果を重視する「回数制」を取り入れている美容室もあります。
『smoos’北千住』では『回数制』という教育スタイルを取り入れました。設定した練習回数を満たしたらお客さまを担当できる指導方法で、多くのサロンが取り入れている『試験制』のスタイルよりも効率よく技術を身に付けることができます。
引用:モアリジョブ|smoos’北千住 ディレクター 工藤ユウキさん
さらに技術面だけでなく、接客マナーの習得も、この段階での重要なポイントのひとつです。接客マナーが不足しているケースも多いため、それを指導する教育プログラムも必要です。
カリキュラムを作って細かく目標設定をしてもらう
アシスタント美容師の育成には、細かくカリキュラムを組み、具体的な目標設定が欠かせません。「接客の基本」と「技術の基礎」を設定し、接客面では顧客対応の流れを自然に身につけられる内容を組み込みます。
例えば、以下の基本的な接客スキルを実践しながら学べる内容を用意しましょう。
- 挨拶やお出迎え・お見送りの方法
- ドリンクサービスの提供
- 電話での対応
- 来店時の案内方法 など
一方で、技術に関しても基礎力を固める内容が必要不可欠です。
効率よく成長するためには、スタイリスト美容師のサポートをしながら必要な技術を身につけられる体制を整えましょう。
また、カリキュラムには具体的な目標を設定し、「〇月〇日までにテストに合格」といった期限を設けてください。
スケジュール管理がしやすくなり、進捗の把握やフィードバックが容易になる点も大きなメリットです。こうした達成度の可視化によって、モチベーションの維持にも繋がり、スムーズに成長できる環境が整えられます。
また、カラー専門店のような業務内容を絞り込んだ美容室では、スタイリストデビューを早期化できたといった事例があります。
アシスタント美容師のモチベーションアップにも繋がるため、美容師育成のヒントとして参考にしてみましょう。
うちの採用は基本的に新卒のみです。他のサロンと違って学ぶ技術はカラーリングがメイン。そしてデビューまで1年間とスピーディです。よく言うと、芯があって武器を持ったサロンだと思っています。
引用:モアリジョブ|ALIVE 吉祥寺店 店長 白土諒さん
このように、美容室の特徴や成長のスピードに応じた教育システムを持つと、若手が効率よく技術を身につけやすくなります。
個人ミーティングを実施する
個人ミーティングを通じて悩みを把握し、それに応じてカリキュラムの内容を柔軟に変更すると、美容師の成長を支援できます。
カリキュラムに沿って練習を進めても人によって成長のスピードが異なるため、美容師によってはやる気を失い、最悪の場合は離職に繋がることもあります。
練習のモチベーションを保つためにも、定期的に個人ミーティングを行いましょう。
ミーティングでは、進捗状況に応じて目標を決め直すだけでなく、現状の課題を共有する時にも役立ちます。
スタイリスト美容師に対する育成の流れと注意点
スタイリスト美容師を育成する際の最優先事項は、美容師の成長を通じて店舗の売上を向上させることです。そのためには、具体的なカリキュラムを作成し、個々のスキルや目標に合わせたトレーニングを提供する必要があります。
売上をさらに伸ばすには、高い技術力と接客力を兼ね備えた「トップスタイリスト」を育成する必要があります。そのためには、トップスタイリストに必要なスキルを明確にし、それらを習得するための具体的なカリキュラムを作成・導入することが重要です。
顧客満足度を上げ売上を作れる人材になるカリキュラムを作る
顧客満足度を高められる人材は、売上の安定に欠かせない存在です。
スタイリスト美容師を育成する際には、カットの技術力と同時にヒューマンスキルの向上も求められます。
顧客満足度を向上すると、指名数が増え、それが売上の安定に直結します。技術力とヒューマンスキルの両方をバランスよく高められると、顧客のリピート率向上にも繋がるでしょう。
ここで示したヒューマンスキルとは、顧客との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力や接客力を指します。
またカウンセリング能力を高められると、顧客満足度が高まり、指名数増加に繋がるでしょう。顧客の理想の髪型を正確にイメージし、施術を行うためには、カウンセリングで顧客のニーズを引き出す力が不可欠です。
カウンセリングに関するカリキュラムも組み込み、施術の精度と顧客の信頼を高めましょう。
カリキュラムをカスタマイズする
アシスタント美容師がスタイリストデビューしても、それでキャリアが終わるわけではありません。スタイリスト美容師の次のキャリアを見据え、それに合わせたカリキュラムを作成しましょう。
スタイリストとしてデビューする時点で、次のステップを明確にしておくと、将来的なキャリアビジョンが描きやすくなり、モチベーションの維持にも繋がります。
例えば、以下のようなキャリアを想定しておき、カリキュラムをカスタマイズする際に役立ててみてください。
- トップスタイリスト:高度な技術を習得できるカリキュラムを作成する
- ディレクター:若手の育成や美容室の運営方針の決定にも携わるため、指導力やリーダーシップを磨くカリキュラムを組み込む
- 店長:経営に関するカリキュラムが必要
ただし、これらのキャリアは美容室の規模や状況によって異なります。例えば、美容師の人数が少ない場合、ディレクターの役割が不要なこともあります。
そのため、カリキュラムをカスタマイズする際には、美容室の状況や経営方針を踏まえ、どのような道筋を目指すかしっかりと決めておきましょう。
店長やディレクターの育成の流れと注意点
店長やディレクターの育成において重要なのは、以下の2つのポイントです。
- 売上などの数字を意識した経営力の育成
- マネジメント能力の育成
店舗運営における成功の鍵は、数字の把握と分析に基づく経営力です。
例えば、売上や利益の管理、戦略的なマーケティングの実行といった、経営的な視点が必要です。美容室運営で得られるデータを正確に理解し、適切な判断ができなければ、店舗の成長を支えることは難しいでしょう。
さらに、マネジメント能力の育成も重要です。若手美容師がスムーズにスタイリストデビューできるよう、成長を支えることで、店舗全体の売上アップにもつながります。
しかし、美容師業務と経営的視点の切り替えに難しさを感じるケースもあります。そのため、効率的に店長やディレクターに必要なスキルを身につけられるような職業能力評価基準を整備してみてください。具体例を紹介すると、次の通りです。
▼職業能力評価基準
レベル |
基準 |
---|---|
店長代行 |
店長を補佐しながら基本的な実務も経験。基礎的な知識で店舗運営を支える存在 |
初級店長 |
基本的な店舗運営を行いつつ、本部や先輩店長の指導を受けながら店舗運営を管理できる存在 |
中級店長 |
応用力を活かして店舗運営が可能。難しい店舗でも実績が出せる存在 |
上級店長 |
店舗運営に関しての指導者やリーダーシップをとれる。高度なマネジメントスキルも持っている存在 |
店長やディレクター以上の育成カリキュラムを作成する際は、以上のような評価基準を設定すると、効率的にマネジメント層を育てられるでしょう。
まとめ
美容師は立場によって育成方法に違いがあり、それぞれに合わせた育成戦略が必要です。
- 具体的なスケジュールを定めてスムーズに成長できる環境を整える
- 個別ミーティングによって、美容師それぞれに合わせたカリキュラムを定期的に作成する
- アシスタント美容師の成長を支えるには、店長やディレクターのリーダーシップも重要
美容室の売上を安定させ、従業員のやる気を維持するためにも美容師育成に注力してください。
美容師の技術向上だけでなく、店舗全体の経営力や人材マネジメント力の向上も、未来を見据えた美容室の成長戦略として必要です。
育成を通じて離職率の低下を目指し、持続的な成長を実現しましょう。育成体制に不安がある場合は、店長やマネージャー経験のある人材を採用するのも効果的です。
育成環境を整えやすくするためにも、ぜひお気軽にお問い合わせフォームからご相談ください。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部