美容室オーナーにとって、自店で働いてくれるスタッフの存在は大切なもの。所属している美容師が退職したいと言ってきたら、非常に困ることでしょう。
退職を希望する理由は、人によってさまざまです。意図しない理由で退職されることを防ぎ、よい職場として長く勤めてもらうためにも、オーナー側は美容師の退職の実態や、退職理由として語られる要素の現実について知っておきましょう。
本音を話さない美容師の退職の現状とは
美容師に限らずいえることですが、一般的に仕事を辞める人の多くが「退職理由として本音を言っていない」という現状があります。
エンジャパンの転職理由(退職理由)に関するアンケート調査 によると、2人に1人の転職者が、本当の転職退職理由を企業に伝えていないという結果が出ました。
転職退職理由の建前では「仕事の領域を広げたい」と言いつつ、本音は「報酬を上げたい」が最多。円満に退社したい・話しても理解してもらえないなどの理由から、本音を言いづらいようです。
この結果から、美容室のオーナーとしては、実際にスタッフが言っていることが全てだと信じないこと・本音を理解しないと退職は減らないことを頭に入れておかなければなりません。
本音を言わない退職理由1:給与
給与面に不満があって退職を希望する場合、
- 直接的すぎる
- 交渉しても無駄だと思っている
などの理由から、本音を言わない人が多いです。
また、給与の不満をいうと、
- 「そこに納得したうえで就職したのでは」と不審に思われる
- 将来的に賃上げの予定があることをにおわされて引き留められる
といった可能性もあり、理由として伝えにくいようです。
本音を言わない退職理由2:人間関係
人間関係が原因で退職したいと考える人も多くいます。しかし、相手が上司の場合は言いにくい面もあるでしょう。また、人間関係を指摘するのは気まずいなどの理由から、本音を言えずに建前として別の理由を挙げるようです。
本音を言わない退職理由3:会社の将来に不安を感じる
会社のビジョンや方向性、将来性に疑問や不安があるということも、40%弱の人が本音として感じているようです。
仕事に変化がなく単調であることや、会社の業績、オーナーが変わったことによるビジョンの変更などが不安点として考えられます。
また、給与や人間関係は退職者が言わなくてもある程度想像できるかもしれませんが、オーナー側が感じにくい・気づいていない部分で、会社と合わないと感じられている可能性もあります。
なぜなら、会社の制度やビジョンなどの理由は、オーナー自身は課題に気づかなかったり、課題があっても今後なんとかできるイメージがあったりするためです。しかし、現場のスタッフ側は、どうにもできない・耐えがたいなど、マイナスに感じているケースもあります。
美容師の退職理由データとランキング
ここからは、 ホットペッパービューティーアカデミーの【美容就業実態調査2023】チャート集 を元に、実際に美容師が退職する際の理由として多いもののランキングをご紹介します。あわせて各理由に対して、具体的にどういう気持ちや背景でそのような退職理由に至ったのかもみていきましょう。
1位 サロンの雰囲気やテイストが合わなかったから
美容師が退職する理由の1位が、サロンのイメージが自分に合っていなかったこと。26.1%もの人が理由として挙げています。入社前のイメージと、実際に働き始めてからのギャップを感じる人も多いようです。
なお、「働くにあたって最も重要なこと」の調査でも、サロンの雰囲気・テイストは13.3%と上位なので、美容師スタッフ側にとっては重要なポイントです。
2位 給与に対して不満があったから
美容師は、給与面での不満を抱えている人が多い傾向があります。現役美容師に対するリジョブの「 美容師 給与に関する調査レポート 」では、今の給料に対して「やや不満」「かなり不満」と答えている人はなんと62%。
特に9年以上の経歴を持つベテラン美容師は、理想の生活水準に満たない・責任に見合っていないなどの理由で不満を感じているようです。
3位 仕事とプライベートの両立が難しいと感じたから
労働条件はサロンによって異なりますが、仕事とプライベートを両立しづらいという理由も23.1%と3位に入っていました。
美容師は通常の勤務の後に居残りして練習する人が多いうえに、練習につき合って指導する人も必要なため、自分の時間を取ったりゆっくり休んだりすることが難しい場合もあるようです。
4位 仕事内容がハードだったから
仕事がハードという理由は、22.1%で4位でした。美容師の仕事は長時間立ちっぱなしになりやすく、お客様が多い日は休憩も満足に取れない場合もあり、肉体的なつらさを感じる人が多くいます。腱鞘炎や腰痛などに悩まされる人も多いようです。
5位 結婚妊娠出産のため
結婚や妊娠・出産を理由に辞めた人は20.9%。退職しないといけないわけではありませんし、相談してもらえれば働き方を調整することもできるでしょう。ただし、サロンや退職希望者本人の状況などによっては、仕事を続けるのが難しい場合もあります。
「オーナーが望んでいないスタッフの退職」を防ぐ方法
つづいて、望まない退職を予防するための方法として、引き留め(退職慰留)について解説します。ただし、引き留められる可能性もある(交渉の余地はある)とはいえ、決意が固まった後でひっくり返すのは難しいかもしれません。
また、前述した「退職希望者が本音を言わない理由」から、そこを崩さないと解決は困難といえるでしょう。可能な限り、入社時〜定着時に改善しておくことが大切です。
引き留めが成功するのは平均10人に1人程度
オーナーにとって、優秀で将来有望な人材を手放すのは非常に惜しいもの。しかし、仮に引き留めたとしても、うまくいくのは10人に1人ほどと決して多くはありません。
悩みを早急に解決する
人間関係の問題や働き方など、退職したい理由によっては、すぐに解決できることもあるかもしれません。早急に取り組みましょう。
また、給与が理由の場合、すぐに引き上げるのは難しくても、挑戦をさせて今後引き上がるイメージを持たせることはできる可能性があります。
退職希望者の同僚上司と協力する
同僚や上司に話を聞いてみるのも方策のひとつです。前向きに意見を聞き、改善の糸口を探りましょう。対処することによって引き留められる可能性も出てきます。
引き留めができなくても、会社改善に繋げる
本人とも慎重に話し合いをした結果、どうしても引き留められないこともあるでしょう。その際は、次に同じ理由で退職するスタッフが出てこないように、本人の本音やどうすれば改善できそうかという意見などを聞き、対策を考えることが大切です。
近年では、「エグジットインタビュー」や「エグジットサーベイ」と呼ばれる、退職者への面談やアンケートでの調査が行われるようになってきました。本心を引き出して自店の問題を洗い出し、改善を目指しましょう。
挨拶はすべき?退職が発生した時に美容室オーナーがすべきこと
つづいては、自店の美容師が辞めると決まった場合、オーナー側がするべきことについて解説します。
退職届書類
退職時に必要な書類や手続きには以下のようなものがあります。
- 退職届の受理
- 社会保険・雇用保険の脱退手続き
- 所得税・住民税の手続き
- 健康保険証や貸与していたものの回収
- 離職票などの必要書類を退職者に渡す
顧客の引継ぎ
退職するスタッフがそれまで担当していたお客様には、別のスタッフをつける必要があります。「担当者が辞めるなら別のサロンに行く」となってしまわないように、きちんと引継ぎを行うのはもちろんのこと、お客様の情報をしっかりカルテに残しておくことも大切です。
お客様へのご挨拶
退職者が担当していたお客様には、退職者自身がきちんとご挨拶を行いましょう。対面でご挨拶できるのがベストですが、難しい場合はDMやLINEなどで行う方法があります。
内容は、宛名(お客様のお名前)・これまでのご愛顧へのお礼・退職する旨・引き継ぎについて・サロン名と退職者名といった項目を入れ、退職が決まり次第早めに伝えることが大切です。
求人の開始
退職者が出ることで、サロンの席数や予約数に対してスタッフが足りなくなってしまった場合、すぐに求人をかけ、棄損が生まれないように即戦力を探すことも必要です。
まとめ
美容室のスタッフが退職を考える際には、表向きに語られないケースが多くオーナーが気づかない本音があり、それを引き出せれば引き留められる可能性もあります。また、本心に気づけない限り、今後も退職者を減らすことは難しいかもしれません。
退職理由の実態をもとに、できる限りの対処を行って退職を防ぐとともに、現在の雇用環境の見直しなどもぜひ検討してみてください。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部