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美容室経営者が知っておくべき社会保険の知識

美容室経営者が知っておくべき社会保険の知識

集英社オンラインによれば、多くの美容学校が就職を斡旋する際に、企業が社会保険に加入していることを重視しています。

「最近では多くの美容学校が、就職の条件として社会保険の加入を重視しています。以前は就職先の美容室でただ技術を学べればよかったのですが、現在は労働環境が安定しており、なおかつ教育制度のあるサロンを就職先として優先して選ぶ傾向があるようです」

引用:集英社オンライン| goo ニュース

現代の美容師は就職先を選ぶ際に、安定性を重視する傾向が強まっているとも考えられます。これらの傾向から、従来の待遇では優秀な人材を確保し続けるのが難しくなるでしょう。

そこで、人材不足をカバーするためには社会保険の完備が重要です。基本的な仕組みを把握し、デメリットをカバーできる仕組みを作って美容師の人材不足を乗り切りましょう。

社会保険とは

社会保険は、公的な保険制度のひとつです。美容室で美容師を雇用している場合、条件を満たしている時には加入義務が発生します。

美容室が関係する社会保険は次の5つです。

  • 厚生年金保険
  • 健康保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

特に厚生年金保険・健康保険・介護保険の3つを「(狭義の)社会保険」、雇用保険・労災保険の2つを「労働保険」と呼ぶケースもあります。

それぞれに目的や内容、事業主が支払う料金にも違いがあるため、詳しく見てみましょう。

厚生年金保険

厚生年金保険は、国民年金保険と同様に公的年金制度のひとつです。

厚生労働省の説明によると、保険料を納めた期間によって計算され、国民年金に上乗せされた状態で受給されます。

厚生年金保険のイメージ図

全ての20歳以上60歳未満の人に加入義務がある国民年金保険と違い、厚生年金保険対象者は一部です。

常時従業員を使用する会社勤務の70歳未満の会社員と公務員の2パターンです。個人事業主であるフリーランス美容師は、厚生年金保険に加入できません。

厚生年金保険を支払った対象者は、条件に該当した時に次の3つを受給できます。

  • 老齢年金
  • 障害年金
  • 遺族年金

老齢年金は原則65歳から、けがや病気が原因で障害が残った場合は障害年金が受け取れます。

厚生年金保険被保険者が亡くなった場合、遺族年金が受給可能です。日本年金機構によると、遺族年金を受給する遺族の優先順位は次のとおりです。

遺族年金を受給する遺族の優先順位

厚生年金保険は、予測できないリスクの備えに好都合な保険です。

健康保険

健康保険は公的医療保険制度です。

健康保険に加入していれば、けがや病気をした時に医療費の負担額が抑えられます。健康保険の中でも2種類あり、それぞれに計算方法の違いがある点は注意しましょう。

  • 国民健康保険:フリーランス美容師や個人サロンといった個人事業主
  • 狭義の意味での社会保険に含まれる健康保険:社会保険の適用事業所に雇用された会社員

国民健康保険は、被保険者の住む市区町村によって運用されており、住む場所で保険料にも違いがあります。以下に茨城県の公式サイトから、国民健康保険の仕組みをわかりやすく説明した模式図を掲載します。

国民健康保険の仕組み

国民健康保険は、原則として世帯にいる全被保険者の保険料を全て納めます。対して会社員が加入する健康保険は、加入者の負担額を抑えられます。

条件を満たした会社員は強制加入となりますが、給与からの天引きと事業主との折半になるため、会社員の立場からすると負担額が抑えられてお得に感じられるでしょう。

労働者にはメリットがありますが、事業者には医療費の負担が大きくなります。美容師を雇用しすぎると、経営の負担が増加する点は覚えておいてください。

介護保険

健康保険に加入している方が40歳になると、自動的に介護保険にも加入できます。

65歳以上の加入者が要介護認定を受けると、厚生労働省に記載があるように、様々な種類の介護サービスが利用可能となります。

介護保険サービスの体系

また40歳から64歳であっても、特定疾病で介護の必要性が認められれば、同様に介護サービスを受けられます。

特定疾病は、年齢を重ねて起こる心身の変化と関係があるとされる病気です。年齢による心身の変化が原因で、介護が必要になる可能性が高まるとされています。

詳しい条件は厚生労働省のサイトで確認してください。

雇用保険

雇用保険は雇用者の支援を目的にしています。大きく分けて2種類あり、美容師に直接関係のある支援は「失業等給付」です。宮城労働局に詳しい内容が記載されています。

雇用保険の概要を詳細に知りたい人は確認しておきましょう。

雇用保険の概要

失業等給付には4つの給付が用意されており、生活や雇用の安定、就職を推し進める制度となっています。

美容室の事業者は、1人でも労働者を雇用すれば雇用保険に加入しなければいけません。美容師が雇用保険の未加入に気付けば、信用をなくし、離職の原因となってしまうでしょう。

労災保険

厚生労働省で紹介されているように、労災保険は仕事での業務や通勤が原因で、けがや病気になった人へ給付を行う保険制度です。

労災保険の詳細

業務が原因だと認定されれば、労災保険から給付が受けられます。

雇用された美容師にとって、美容室で働く際の安心材料となり、保険料は全額事業主が負担するため、美容師に負担はかかりません。

労災保険には、様々な種類の給付が用意されています。

  • 療養補償給付
  • 障害補償給付
  • 休業補償給付
  • 葬祭料
  • 傷病補償年金
  • 介護補償給付
  • 遺族補償給付

いずれにしても美容室経営者は、労災保険を使わずに安全な職場環境を整えておく必要があります。万が一の備えとして労災保険を活用しましょう。

美容室が加入すべき社会保険について

個人事業主と法人化した美容室では、加入すべき社会保険の内容に違いがあります。

加入義務のある社会保険に未加入のまま美容室を経営すると、雇用した美容師の信頼を損ない、人手不足が深刻化する可能性があります。

加入条件の違いを把握し、経営の負担を最小限に抑えつつ、効率的に良い人材を確保しましょう。

個人事業主のオーナーがスタッフを雇う場合

労働者を雇う時は、社会保険の加入義務の違いに注意しましょう。

国土交通省で紹介されているように、従業員数が5人以上の場合、個人事業主であっても社会保険の加入義務が発生するからです。

また法人化した美容室の場合、1人でも労働者を雇用すれば社会保険に加入する必要があります。。

法人化した美容室の社会保険の加入義務について

厚生労働省のサイトに記載があるように、従業員数は厚生年金保険の被保険者数を指します。パートやアルバイトが多い美容室は、従業員数を把握する際に注意しましょう。

正社員1か月分の労働時間と労働日数が、4分の3以上のパートやアルバイトがいた場合、従業員数としてカウントされます。

従業員数のカウント方法

法律の改正により2024年10月から、加入要件を満たしたパートやアルバイトも含めて従業員数が51人以上になった場合は、厚生年金保険と健康保険への加入が義務付けられました。

社会保険の適用拡大イメージ

上記の条件に当てはまる美容室は、厚生年金保険と健康保険の2つに加えて、雇用保険や労災保険にも加入しなければいけません。

40歳以上となる労働者がいるのなら、介護保険の加入も必要です。

法人がスタッフを雇う場合

法人化した美容室は、1人でも常時従業員が在籍している場合、以下の4つの社会保険の加入義務が発生します。

  • 雇用保険
  • 労災保険
  • 厚生年金保険
  • 健康保険

常時労働者とは、臨時的でなく、1か月以上の雇用契約がある労働者を指します。毎月定期的に出勤し、一般的な勤務形態を持つ労働者はほとんどの場合、これに該当します。

また、雇用されている労働者だけでなく、常勤役員もこれらの保険に加入しなければいけません。

仮に誰も美容師を雇用せず、代表者1人だけが働く個人美容室であっても、法人化すれば4つの社会保険の加入が必要です。

たとえ代表者1人のみが働く個人美容室であっても、法人化すればこれらの社会保険の加入が必要になります。

さらに、加入者が40歳以上の場合は、介護保険にも加入しなければいけません。法人化すると費用負担が増えるため、慎重に検討しましょう。

美容室が社会保険を導入すると採用に有利になる

社会保険の加入は、美容室にとって採用が有利になります。採用が有利になる理由は以下の3つです。

  • 社会保険を重視する求職者が集まりやすくなる
  • 求人サイトの検索結果に表示されやすくなる
  • 採用活動で他社と差別化できる

人手不足の解消を考える美容室経営者は、以下の内容を参考に社会保険への加入を検討してみましょう。

社会保険を重視する求職者が集まりやすくなる

美容師が職場を決める際、厚生年金保険と健康保険の加入は重要な要素のひとつです。

イーグラント・コーポレーションのアンケートによると、500人中100人以上の美容師が、厚生年金保険や健康保険、介護保険などの社会保険を重視して美容室を選んでいます。

職場を決める際に重視している指標

社会保険を重視する求職者は安定した雇用を求めており、長期的に働く可能性が高いです。

健康保険料の支払いは事業者との折半で行われるため、美容師の負担が軽減されます。

また、長期的に加入し続けることで、厚生年金保険は国民年金に上乗せされ、老後資金の増加につながる点も魅力的です。

このように、長期的に働いてくれる美容師を獲得できる可能性が高まるため、自社に合った美容師を採用するために、社会保険の充実をアピールしてみましょう。

求人サイトの検索結果に表示されやすくなる

美容室の採用を有利する理由は、社会保険を導入後、求人サイトで検索結果として自社の求人情報が表示されやすくなるからです。

厚生労働省のデータでは、ハローワーク利用者の割合が34.3%と比較的多く、求人サイトや情報誌の利用者も39.4%と高い割合となっています。

求人方法・媒体

転職活動の方法の割合(単位:%)

求人サイト・求人情報専門誌・新聞・チラシ等

39.4

ハローワーク等の公的機関

34.3

縁故(知人、友人等)

26.8

ハローワークで求人を検索する際、社会保険の有無を条件に絞り込み検索ができます。

そのため、社会保険に加入している美容室は、未加入の美容室が非表示となることで、検索結果で目立ちやすくなり、採用が有利に働くでしょう。

ハローワークの検索画面

さらに、社会保険に加入済みの美容室はそれほど多くないため、目立つ場所に検索結果が表示されれば、採用の成功率が高まります。

採用活動で他社と差別化できる

社会保険に加入している美容室で働く美容師は、次のような多くのメリットを享受できます。

例えば、将来もらえる年金額が増える点です。厚生年金に加入していると、老後の年金受給額が国民年金のみの場合に比べて大幅に増加します。

これは、老後の生活における安心感を高める大きな要因です。さらに保険料を折半して支払うため、自己負担額を抑えられる点も魅力に感じる美容師も少なくないでしょう。

健康保険や厚生年金保険の保険料は事業者と折半されるため、自己負担額が軽減されます。これにより手取りが増え、生活に余裕が生まれ、仕事に対するモチベーションを維持できます。

社会保険に加入していることで、万が一の病気やけが、老後の不安に対する備えが強化され、長期的な雇用継続へのモチベーションが高まる点もポイントです。

このように、安定した美容室を探している美容師が多い中、業界的にも社会保険完備の美容室は、求職者にとって魅力的な選択肢となります。

(株)C&Pは、上場企業であるアルテサロンホールディングスのグループ会社ということもあり、コンプライアンスを徹底しています。社会保険や有給など、当たり前の待遇が当たり前に受けられるのは、この業界では珍しいのではないでしょうか。

引用:モアリジョブ|C&P営業部マネジャー横浜輝史さん

社会保険も完備です。有給休暇や、それとは別に男性の育児休暇も用意しています。スタッフの7割が男性で、実際に育休を利用しているスタッフも数人います。これらの待遇も、業界ではトップクラスだと自負しています

引用:モアリジョブ|ACROオーナー山下拓馬さん

社会保険に加入するだけで、美容室での採用は有利に働きます。差別化するためにも社会保険に加入しておきましょう。

美容室が社会保険を導入すると費用負担が生じる

美容室が社会保険を導入すると、費用負担が大きくなる点も見逃せません。多くの美容室が社会保険に未加入のままである理由は、主にこの費用負担のデメリットにあります。

経営者としては、社会保険の導入が人材不足の解消に繋がる第一歩であることを理解しつつも、そのコストがどの程度かかるのかを事前に把握しましょう。

以下に、社会保険に関する費用の詳細をまとめています。これから社会保険の導入を検討している美容室経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

加入前にしっかりと確認し、経営への影響を最小限に抑えつつ、良い人材を確保するための対策を講じましょう。

健康保険料と厚生年金保険料

全国健康保険協会の保険料額表を確認すると、保険料を計算できます。以下の表は、東京都の令和6年3月分からの保険料です。

 

保険料(単位:%)

折半時の保険料(単位:%)

健康保険料

9.98

4.99

厚生年金保険料

18.300

9.15

例えば、雇用した美容師の給料が200,000円だったとします。

健康保険料が19,960円で、厚生年金保険料は36,600円です。

社会保険の健康保険料は折半となるため、美容室が支払う健康保険料は9,980円、厚生年金保険が18,300円となり、1人の美容師を雇用して負担する総額は28,280円です。

社会保険料を計算する上で、次の2つに注意しましょう。

  • 健康保険料の変動
  • 日割り計算が不可能

社会保険料は、給与や手当といった報酬の合計で決められます。

固定給でない限り、保険料が変動する点を忘れてはいけません。また、内閣府のデータによると高齢化に伴い、健康保険料の負担が増加傾向にあるとされています。

医療・介護保険の給付負担の推移

しばらく少子高齢化社会が続くと予想されており、健康保険料の増加は避けられません。

少なくとも、健康保険料と厚生年金保険料を計算する前に、折半時の保険料の割合を確認しておいてください。

また、美容師の産休取得時にも注意が必要です。

健康保険料と厚生年金保険料の免除の手続きが必要ですが、美容室経営者が日本年金機構へ「産前産後休業取得者申出書」を申請しなければいけません。

被保険者だけでなく、美容室経営者も健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。負担額が抑えられるため、忘れずに手続きを済ませましょう。

申請方法は日本年金機構に記載があるため、詳細に知りたい時は参考にしましょう。

雇用保険料と労災保険料(労働保険料)

雇用保険料は、「賃金の総支給額×雇用保険料率」で計算されます。雇用保険料率は、厚生労働省のページから確認できるため、詳細を知りたい時は確認しましょう。

令和5年度の雇用保険料率

令和5年度時点では15.5/1,000となっており、事業主負担となる雇用保険料率は9.5/1,000です。

美容師の給与から雇用保険料を差し引く場合は、6/1,000の雇用保険料率を使用します。

労災保険料は、全額事業主負担となっているため注意してください。労災保険料の計算方法も同様に、「賃金の総支給額×労災保険料率」を使用して計算します。

労災保険料率は厚生労働省のページから確認しましょう。

労災保険料率

業種によって労災保険料率を振り分けています。労災保険率表を確認すると、美容室は「その他の各種事業」に分類され、労災保険料率は0.3%です。

労災保険率は0.3%、雇用保険率は0.9%のため、美容師の給与が200,000円だった場合、労災保険料が600円。雇用保険料が1,800円となります。

事業主が全て負担し、労働保険料の負担額は2,400円です。

 

まとめ

美容師不足で悩む美容室経営者は、採用のために給与だけに目を向けてはいけません。安定性を求める美容師のために、社会保険を充実させましょう。

特に以下のポイントを意識できると、美容師不足を解消しやすくなります。

  • 特に重要となる種類は「健康保険」と「厚生年金保険」の2種類
  • 「健康保険」と「厚生年金保険」の加入は、他の美容室との差別化で信頼性を獲得しやすくなり、採用に良い影響がある
  • ただしデメリットもあるため、不都合に感じる部分は確認しておく

経営的に余裕があるタイミングで、社会保険加入を検討すると大きな失敗を防ぎやすくなります。

採用に時間をかけられず、社会保険の詳細を知るために時間をかけられないオーナーは、社会労務士などの専門家に相談するとよいでしょう。美容師不足を解消しやすくなるため、多忙なオーナーこそ検討してみてください。

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Bizリジョブ編集部
Bizリジョブ編集部では、人材・採用、店舗運営、経営、美容・ヘルスケア業界などで経験があるメンバーで構成されています。 美容・ヘルスケア業界の経営者・オーナー様にとって、リジョブだからこそ集められる価値ある情報をわかりやすくお届けします。