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個人事業主が知っておくべき従業員の給与の決め方とは?給与設定や注意点、必要な手続きまでわかりやすく解説

個人事業主が知っておくべき従業員の給与の決め方とは?給与設定や注意点、必要な手続きまでわかりやすく解説

  1. 個人事業主にとって「給与の決め方」はなぜ重要か
  2. 個人事業主が従業員の給与を決める際の基本ステップ
    1. 1.業務内容と責任に応じた給与設定
    2. 2.地域・業界の給与相場を調べる
    3. 3.最低賃金の遵守(地域別・業種別)
    4. 4.残業代・手当などを考慮する
    5. 5.事業収益とのバランスを取る
    6. 6.社会保険・労働保険など給与以外のコストも加味
  3. 給与の仕組みと手取り額の考え方
    1. 給与の構成要素(総支給額の内訳)
    2. 控除項目と手取り額のシミュレーション
    3. 給与計算の実務とミスを防ぐ方法
  4. ケース別:給与設定の具体例と試算
    1. ケース① アルバイト(時給制)の給与設定
    2. ケース② 正社員(月給制)の給与設定
  5. 従業員給与に関する法律知識と注意点
    1. 労働基準法の「賃金支払いの5原則」
    2. 残業・休日出勤・深夜労働の割増賃金
    3. 最低賃金の定期的なチェック
    4. 年次有給休暇の発生と給与支払い義務
    5. 違法な給与控除(天引き)を防ぐ
  6. 初めて従業員を雇う際に必要な手続き一覧
    1. 1.労働条件通知書・雇用契約書の作成
    2. 2.法定帳簿の整備(四帳簿)
    3. 3.税務署・役所への届出
    4. 4.労働保険・社会保険の加入手続き
  7. 業種別の給与制度の考え方
    1. 美容業の場合(歩合制・固定給の併用)
    2. 飲食・小売業の場合(時給制メイン)
    3. 専門業務・事務職の場合(月給制+手当)

「事業拡大のために人を雇いたい。でも、従業員に支払う給与って、一体どうやって決めたらいいんだろう?」

個人事業主が事業を成長させていくと、従業員の雇用という壁に直面します。一人では手が回らない事態を避けつつ更なる事業成長を図るためには、より信頼できるパートナーを雇用したいものです。

この記事では個人事業主が従業員の給与を決める上での基本情報や、給与設定の仕組みを紹介します。初めて従業員を雇用する際に必要な一連の手続きまでを網羅的に解説するのでぜひご覧ください。

個人事業主にとって「給与の決め方」はなぜ重要か

個人事業主にとって、従業員の給与設定は極めて重要な経営判断の一つです。その重要性は、複数の側面から考えられます。

給与は従業員との信頼関係を築く基盤だから

労働に見合った適正な給与を支払えば、従業員に正当に評価されている安心感を与える。


給与が不適切だと、従業員の不満や不信感を生み、モチベーション低下や早期離職につながりかねない。

給与設定は法律に違反しない範囲で行う必要があるから

最低賃金の遵守や割増賃金の支払いなど、法律で定められたルールは守るべき。


ルール違反は罰則の対象となったり、事業主の信用を失ったりする原因になる。

適正な給与設定は、優秀な人材の採用と従業員の定着率に直結するから

相場からかけ離れた給与では、求人への応募が集まりにくい。


適切な給与水準には採用競争力を高め、優秀な人材を惹きつける力がある。

個人事業主が従業員の給与を決める際の基本ステップ

給与設定の重要性を理解した上で、実際にどう給与を決めていくのか、基本的なステップを確認しましょう。

1.業務内容と責任に応じた給与設定

給与設定の最初のステップは、業務内容とそれに伴う責任の明確化です。

  • どんなスキルや知識が求められるのか
  • 判断を伴う業務があるのか
  • 顧客対応の度合い

上記の情報を具体的に洗い出します。

例えば、美容室であればアシスタントとスタイリストでは、業務内容や責任の範囲が大きく異なります。業務内容と責任範囲を明確にしたら、その職務の給与水準の目安をあぶり出してください。

なお、専門性が高い職務や責任が重い職務ほど、給与水準は高くなります。

2.地域・業界の給与相場を調べる

次に、自社の給与水準が、地域や業界の相場に合うかを調べます。

相場からかけ離れた給与は、採用活動や従業員の定着に悪影響を及ぼしかねません。市場の実態を把握し、相場をチェックしましょう。給与相場を調べるには、求人サイトで同業他社の募集条件を参考にするのが一般的です。

なお、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査などの公的なデータを活用したりする方法もあります。厚生労働省のwebサイトでは、産業別、職種別、地域別など様々な切り口で賃金データが公開されているため有効活用してはいかがでしょうか。

また、業界別の給与水準を知りたい方は、こちらの資料を無料ダウンロードのうえご覧ください。

3.最低賃金の遵守(地域別・業種別)

給与設定において絶対に遵守せねばならないのが最低賃金です。下回る賃金しか支払わない場合は、労働基準法違反となります。

最低賃金には、都道府県ごとに定められている地域別最低賃金と、特定の産業に適用される特定最低賃金の2種類があります。どちらか高い方が適用されますが、最低賃金は毎年見直しが行われるのを忘れてはなりません。

常に最新の情報を把握しておくことが不可欠です。厚生労働省のwebサイトで、全国の最低賃金一覧を確認しておきましょう。

4.残業代・手当などを考慮する

基本給だけでなく、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金(残業代)や、様々な手当も給与全体の構成要素です。

法定労働時間を超える労働や深夜労働、法定休日における労働に対しては、法律で定められた割増率(25%以上〜)以上の賃金を支払う義務があります。割増賃金も考慮して、給与水準を検討しましょう。

通勤手当や役職手当、技能手当など、事業所独自の各種手当を設けるのも可能です。

5.事業収益とのバランスを取る

従業員に十分な給与を支払うのは重要です。ただし、事業の持続性を保つためには、給与と事業収益のバランスが取れている必要があります。

人件費は事業運営にかかる重要なコストです。過剰になると、事業継続が困難になるリスクがあります。一般的に、業種によって人件費の売上に対する比率の目安は売上高の30%です。自社の利益構造を考慮し、無理のない範囲での給与水準設定が求められます。

6.社会保険・労働保険など給与以外のコストも加味

従業員を雇用すると、給与として支払う賃金が発生するだけではありません。社会保険料や労働保険料のような事業主負担が発生します。

労災保険や雇用保険は従業員数に関わらず加入義務が発生します。社会保険は、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所では加入必須です。負担額は、従業員の給与額によって変動します。給与設定時には、法定福利費を含めた人件費総額を把握しましょう。

給与の仕組みと手取り額の考え方

従業員の給与は、決められた金額がそのまま手渡されるのではありません。総支給額から様々な項目が控除され、最終的な手取り額が決定します。

給与の構成要素(総支給額の内訳)

給与の総支給額は、主に基本給、手当、残業代、そして賞与で構成されます。それぞれの概要は以下の通りです。

基本給

給与の基本となる部分

手当

通勤手当や役職手当など会社が独自に定めるもの

残業代

法定の割増賃金

賞与

臨時に支払われる賃金

なお、給与の支払い形態には、月給制、時給制、日給制などがあります。月給制は収入が安定する一方で、金額変動が少なめです。時給制は労働時間に応じた計算が容易ですが、働かなかった場合の賃金減少が懸念されます。

控除項目と手取り額のシミュレーション

給与の総支給額から差し引かれる控除項目には、以下のようなものがあります。

  • 社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)
  • 労働保険料(雇用保険料)
  • 源泉所得税
  • 住民税

これらは法律や条例に基づいて給与から差し引かれ、国や自治体などに納付されます。これらの控除項目を総支給額から差し引いたものが、従業員に実際に支払われる手取り額です。

例えば、月給25万円で正社員を雇った場合、これらの控除によって手取り額は20万円を下回ります。さらに事業主には、給与とは別に社会保険料等の負担が発生するのも注意が必要です。

給与計算の実務とミスを防ぐ方法

毎月の給与計算は、正確な勤怠管理と計算ルールの整備が必要です。

  1. 従業員の労働時間、残業時間、休日出勤などを正確に記録する
  2. それに基​​づいて基本給、残業代、各種手当などを計算する
  3. そこから社会保険料や税金を控除して手取り額を算出する

給与計算は専門知識を要し、ミスはトラブルの原因となりかねません。ミスを防ぎ効率化するためには、給与計算ソフトの導入や、税理士などの専門家へ委託するのが有効です。

ケース別:給与設定の具体例と試算

給与の仕組みや計算方法を踏まえ、具体的なケースで給与設定と費用のイメージを試算してみましょう。

ケース① アルバイト(時給制)の給与設定

美容室で補助スタッフを時給制のアルバイトで雇用する場合を想定します。まず、地域の最低賃金と周辺の店舗の時給相場を確認しましょう。相場などを考慮して時給を1,200円に設定したとします。

1日5時間、週3日(月12日)勤務してもらうとすると、1ヶ月の総支給額は1,200円 × 5時間 × 12日 = 72,000円です。雇用保険料などが控除された金額が手取り額となり、事業主は給与に加えて雇用保険料の事業主負担分を負担します。

ケース② 正社員(月給制)の給与設定

次に、店長候補として正社員を月給制で雇用する場合を想定します。まず、業務内容と責任範囲を明確にすると、相場は月給25万円+手当です。

基本給25万円に役職手当2万円、通勤手当1万円を加算し、総支給額28万円としたとします。従業員の手取り額は社会保険料や税金が控除されるため、総支給額よりも少なくなるのが一般的です。

さらに、事業主には給与に加えて、従業員の給与額に応じた社会保険料等の事業主負担分(総支給額の約15%程度)が発生します。月々の人件費総額は、32万円程度といえるでしょう。

従業員給与に関する法律知識と注意点

従業員に給与を支払う上で、知っておくべき法的な注意点がいくつかあります。これらを知らないと、意図せず法律違反をしてしまう可能性があります。

労働基準法の「賃金支払いの5原則」

労働基準法では、賃金の支払いに関して、労働者を保護するために以下5つの原則を定めています。

  • 通貨払い(原則、日本円で支払う)
  • 全額払い(法令等で認められたもの以外は全額支払う)
  • 直接払い(労働者本人に直接支払う)
  • 毎月1回以上払い
  • 一定期日払い(支払日を定めて支払う)

銀行振込は労働者の同意があれば認められますが、遅配や現物支給は原則として法律違反となるため気をつけてください。

残業・休日出勤・深夜労働の割増賃金

  • 法定労働時間を超える労働
  • 法定休日における労働
  • 深夜(22時~翌5時)における労働

上記に対しては通常の賃金に法律で定められた1.25倍〜1.5倍の割増賃金を支払う義務があります。割増率は労働時間帯によって異なります。固定残業代制度を導入する場合も、固定分を超える残業に対しては別途割増賃金を支払わねばなりません。

最低賃金の定期的なチェック

最低賃金は毎年見直しが行われ、原則として10月1日から新しい金額が適用されます。

地域別最低賃金および該当する場合は特定最低賃金を、毎回最新の状態で確認しましょう。雇用している従業員の賃金が最低賃金を下回っていないか定期的にチェックしてください。

年次有給休暇の発生と給与支払い義務

従業員が雇用日から6ヶ月継続で勤務し、かつ全労働日の8割以上を出勤した場合には、法律で定められた日数の年次有給休暇を取得する権利が発生します。

有給休暇を取得した日には、原則として通常賃金を支払わねばなりません。なお、アルバイトやパートタイム労働者にも、有給休暇は勤務日数に応じて比例付与されます。

違法な給与控除(天引き)を防ぐ

給与から控除できるのは、法令で定められている税金や社会保険料、労使協定によって定められているものに限られます。

遅刻罰金や商品購入代金を、労使協定なしに一方的に給与から天引きしてはいけません。賃金全額払いの原則に反し違法となる可能性があります。労使協定なしの控除はトラブルの原因となるため注意が必要です。

初めて従業員を雇う際に必要な手続き一覧

給与の設定方法や法律的な注意点を確認した上で、実際に従業員を雇用するために必要な手続きを、以下で解説します。

1.労働条件通知書・雇用契約書の作成

賃金、労働時間、その他の労働条件を記載した書面(労働条件通知書)を、雇用時には交付せねばなりません。

書類発行時には労働条件を明確にして、後々のトラブルを防ぎましょう。労働条件通知書の書き方や記載すべき項目については、厚生労働省のwebサイトなどでテンプレートが公開されています。

労働条件について事業主と労働者双方が合意した証として、同時に雇用契約書も作成してください。

2.法定帳簿の整備(四帳簿)

従業員を雇用した場合、4種類の法定帳簿を作成しなければなりません。

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿
  • 年次有給休暇管理簿

原則として従業員の退職または死亡の日から5年間保存する義務があります。労働基準監督署の調査などで確認される、重要な書類です。

近年では帳簿を電子化したり、クラウドの勤怠管理システムや給与計算システムで管理したりするケースも増えています。

3.税務署・役所への届出

従業員に給与を支払う場合、税務署や市区町村役場への届出が必要です。

従業員に給与を支払う事務所を開設した場合、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を所轄の税務署に提出します。事業主は源泉徴収義務者となるため、従業員の給与から所得税を源泉徴収し納付しなければなりません。

従業員の住民税に関する手続きも、必要となります。届出は原則として事務所開設等の事実があった日から1ヶ月以内に行いましょう。

必要な書類のダウンロードは、国税庁や各自治体のwebサイトから可能です。

4.労働保険・社会保険の加入手続き

要件を満たす従業員を雇用した場合、労働保険および社会保険への加入手続きが必要です。原則として労働保険の適用事業所となるため、労災保険と雇用保険の加入手続きを行ってください。

社会保険については個人事業所の場合、常時5人以上の従業員を雇用していれば適用・加入事業所となります。該当する場合は、もれなく手続きを行いましょう。

業種別の給与制度の考え方

一般的な給与設定や手続きを踏まえた上で、ご自身の事業に合わせた給与制度をどのように考えるべきか、業種別の事例を見ていきましょう。

美容業の場合(歩合制・固定給の併用)

美容業では、スタイリストの売上や指名数に応じた「歩合制」がよく見られます。個人の成果を給与に反映させることで、モチベーションを高められる給与制度です。収入安定のため、固定給と組み合わせた「固定給+歩合制」を採用するケースもあります。

また、近年では業務委託やフレックス制を選択するサロンも増えました。出勤の自由度を高くして、給与形態の選択肢を広げるとスタッフの不満を少なくできます。

多くの美容師にとって拘束時間の長さがネックにもなっていたので、基本的には自由出勤という形をとっており、出勤日や休み、働く時間を自分で決められるようにしています。全スタッフにフレックス制を導入しており、総労働時間が決まっているだけで出勤時間は自分で決めることができます。

(中略)

元々は業務委託美容師のサロンとしてスタートしましたが、今は正社員の働き方も選べるようになりました。

引用: モアリジョブ|「anemone」松本平さん

その他にも、アシスタントとスタイリストの間で、技術レベルや責任に応じた給与差を設ける設計にするのもおすすめです。売上に応じたインセンティブ制度や、スキルアップに応じた昇給ルールなどを検討すれば差別化が図れます。

以下の会社では、アシスタントを社員、スタイリストを歩合制にしています。はじめから業務委託にしないことで社員の給与を確保しつつ、スキルアップに集中させられる良い事例です。

弊社は、アシスタントが社員で、スタイリストが業務委託という雇用形態になっています。はじめから歩合制ではないのでスキルアップに集中でき、集客が安定してきたころに業務委託になれるので安心してキャリアを積むことができるんです。

引用: モアリジョブ|「トシックスホールディングス」副社長 登坂さおりさん

飲食・小売業の場合(時給制メイン)

飲食・小売業では、営業時間や来店状況に合わせて人員を調整する必要があります。そのため、労働時間に応じ賃金を支払う「時給制」がメインとなることが多いです。

シフト制に合わせた給与設計を行い、例えば繁忙期には時給を高く設定する工夫も考えられます。人件費は、売上と連動して変動しやすいです。シフト管理と連携させた、柔軟なコスト管理が重要になります。

専門業務・事務職の場合(月給制+手当)

システムエンジニアのような専門職の場合は、月給制が一般的です。特定の専門的なスキルや知識、あるいは責任の重さに対する手当の支給もよく行われます。毎月同じ内容の労働を続ける、事務職も月給制が用いられる可能性が高いです。

個人の持つスキルや資格に応じた加算給や、定期的な評価に基づいた昇給ルールなどを設けましょう。従業員のモチベーションを維持し、定着率を高められます。

まとめ

給与の設計は、従業員と事業の両方を守るための最初の一歩であり、「最初が肝心」です。以下の内容を守り、適切に給与を設定しましょう。

  • 給与の適正な設定と管理は、事業を成功させるために不可欠
  • 相場・法律遵守・事業収益とのバランスという3つの視点から給与設定を検討する
  • 給与計算や各種手続きも正確に行う必要がある

特に初めて雇用する際は、手続きが煩雑に感じられるかもしれません。給与計算ソフトの活用や、税理士、社会保険労務士のような専門家への相談もぜひ検討してください。

この記事を参考に準備を進め、安心して従業員を雇用し事業を発展させてはいかがでしょうか。

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Bizリジョブ編集部
Bizリジョブ編集部では、人材・採用、店舗運営、経営、美容・ヘルスケア業界などで経験があるメンバーで構成されています。 美容・ヘルスケア業界の経営者・オーナー様にとって、リジョブだからこそ集められる価値ある情報をわかりやすくお届けします。