人手不足が進む昨今、育休や産休を取得できる職場環境を整えて離職率を抑えたい美容サロンは多いのではないでしょうか。また育休や産休を終えた美容師がスムーズに職場復帰を果たせる仕組み作りも、スタッフ定着のためには欠かせません。
美容室の労働環境改善に役立つ助成制度を活用して、産休や育休を取得する美容師にとって魅力ある職場を目指して人手不足対策を行いましょう。
本記事では、美容師が育休・産休から復帰できるサロンの作り方を詳しく解説します。育休取得から復帰した割合やサロンオーナーが利用できる助成金制度もあわせて解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
美容師に育休制度は必要?
育休・産休制度は、美容師にも必要です。そもそも産休・育休制度は、国が設けている制度であり、美容師も当然取得できます。
一昔前では、妊娠を機に仕事を辞める女性が多かったですが、現在では出産・育児を経て職場への復帰を希望する方も増えています。厚生労働省の調査によると、美容師の男女比は28.7:71.1と女性が約7割を占めているので、女性に向けた制度整備が重要です。
▼令和3年度の美容業の従業者数
男性 |
117,108人 |
---|---|
女性 |
290,508人 |
合計 |
408,707人 |
男性比率 |
28.7% |
女性比率 |
71.1% |
※「理容師制度及び美容師制度を巡る現状と動向について|厚生労働省」もとに作表
後ほど解説しますが、育休取得者の多くが女性です。そのため、女性が過半数を占める美容業では、育休・産休制度の需要が高いです。
なお、産休・育休は法律で定められた事業主の義務であり、サロン経営者は育休・産休制度を整備する必要があります。サロン経営者は、産休・育休を取得しやすい環境を整えるために、次の割合を確認しておきましょう。
- 育児休業者がいた事業所の割合
- 育児休業取得率の推移
- 育休明けの復帰率
育児休業者がいた事業所の割合
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査結果」によると、厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査結果」によると、在職中に出産した女性がいる事業所のうち、女性の育児休業取得者がいる事業所の割合は87.6%でした。2022年の86.7%に比べると、0.9%上昇しています。
また男性については、2023年に37.9%で2022年は24.2%でした。1年間で13.7%も上昇しており、育休を取得しやすい環境を整える企業の割合が多くなっています。
育児休業取得率の推移
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査結果」をもとに、育児休業の取得率を男女別に示すと次のとおりです。
▼育休取得率(男女別)
平成20年以降から育休取得率が横ばいの女性に対して、男性は平成29年以降に急激に延び、令和5年には30%に達しました。現在は女性の育休だけではなく、男性も育休を取得できるように職場環境を整えることが求められています。
この流れは今後、美容業界にも広がると考えられます。公的な制度や助成を活用しつつ、女性と男性がともに産休・育休を取得できるように努めることが大切です。
育休明けの復帰率
多くの事業所が育休・産休を設けていますが、休業後に復帰してもらえなければ、人材が定着しません。人材不足の課題を解決するため、育休明けの復帰率を向上させる必要があります。
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査結果」によると、令和5年の育休以降の復職率は男性97.3%、女性93.2%でした。つまり、ほとんどの育休取得者が休業明けに復帰しています。
このデータは全業種を対象としているため、美容師に限ると復帰率が異なる可能性があります。しかし、社会全体の傾向として、多くの労働者が子育てと仕事を両立できる環境にあるため、人材確保のためには子育てしやすい職場づくりが重要であることがわかります。
次の章で、美容師の育休取得・復帰者の割合を解説するので、サロン経営の参考としてチェックしておきましょう。
美容師が育休取得・復帰した割合
株式会社MAKE A CULTURが実施した「美容師×在宅ワーク」に関する調査をもとに、美容師の育休取得・復帰率を確認しておきましょう。なお、上記の調査対象は下記の通りです。
- 現役女性美容師
- 子どもがいる現役女性美容師
- 過去に美容師経験がある女性
上記の調査をもとに、次のポイントを解説するので、サロンの産休・育休制度を充実させる際の参考にしてください。
- 産休や育休を取得できた割合
- 育休明けの半年間で約半数が離職
- 美容師を辞めた理由
- 育休明けの美容師が感じる懸念点
スタッフの産休・育休取得を促し、休業明けに復帰したくなる職場づくりを行いましょう。
産休や育休を取得できた割合
株式会社MAKE A CULTURの調査によると、育休と産休の両方を取得できた女性美容師および美容師経験のある女性が半数以上に上りました。
しかし「どちらも取得できなかった」と回答している女性美容師が13.7%存在しており、産休だけ取得できた割合と合わせると、45.8%の方が育休を取得できていません。
すべての有期契約労働者の場合、女性の育休取得率は75.7%だったので、美容師は産休や育休が取得しにくい傾向にあります。
育休明けの1年半以内で約半数が離職
株式会社MAKE A CULTURの調査によると、育休を取得した女性美容師のうち、約半数が育休明けの1年半以内で離職しています。職場復帰してから離職するまでの期間ごとの割合は次の通りです。
▼職場復帰から美容師をやめるまでの期間
一方で育休明けに離職しない美容師の割合は、12.8%と低い値でした。子どもがいる女性美容師の多くが、職場復帰後は離職するようです。
美容師を辞めた理由
株式会社MAKE A CULTURの調査によると、美容師が離職する主な理由は次の通りです。
▼美容師をやめた理由
出産前後では、生活環境が大きく異なり、希望するワークスタイルも変わります。
育休明けから職場復帰しても、希望するワークスタイルで働けない場合は、離職してしまいます。
また、産休・育休期間中に顧客が離れてしまうと、思うとおりに稼げないため、転職や離職に踏み切られてしまうのです。美容師は子育てをしながら働くには、労働時間が長く体力を使う仕事なので、ワークライフバランスを充実させにくいです。
子どもがいない頃は、問題のなかった労働環境や拘束時間がネックとなり、美容師を辞めてしまいます。美容師の仕事と育児を両立させるには、サロン側が労働時間や働き方を改良し、ワークライフバランスを実現させる必要があります。
育休明けの美容師が感じる懸念点
産休や育休を取得したスタッフが、休業明けに辞めるとは限りません。中には美容師を続けたいと考えていても、仕事と育児の両立に不安を感じている方もいます。
株式会社MAKE A CULTURの調査によると、育休明けの美容師が感じる懸念点は、次の通りです。
▼美容師を続けるにあたっての懸念点
仕事と育児の両立に不安を感じていたり、体力や顧客を維持できるか心配だったりと、育休明けの懸念点は多種多様です。サロン経営者としては、スタッフが安心して働けるような労働環境と、育児と両立できる体制を整える必要があります。
育休・産休に入る美容師を雇用する理由
サロンによっては、採用して間もなく育休・産休に入る美容師を雇用するケースがあります。長年働いてから育休・産休に入るのではなく、すぐに休業する美容師を雇用しても、意味がないと考える方もいるのではないでしょうか。
育休・産休に入る美容師を雇用する理由は、次のとおりです。
- 深刻な採用難による人材不足を対処したい
- 新たな人材を採用するより既存のスタッフに長く働いてもらいたい
- 美容師のキャリアを積み上げられないのはもったいない
- 産休・育休中は企業負担がないため実施するべき
それぞれの理由を確認して、育休・産休を希望する美容師を雇う意義について考えましょう。
深刻な採用難による人材不足を対処したい
現在は少子高齢化に伴う労働人口減少が、各業界の課題です。深刻な採用難による人材不足に対処するには、すぐ育休・産休に入る美容師でも雇用する必要があります。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和6年8月分)」によると美容師が属する「生活衛生サービス」の新規求人倍率は6.91、有効求人倍率は3.24です。
有効求人倍率が3倍以上であるため、美容師1を3社以上で取り合う状況になっており、人材獲得競争が起きています。そのため、採用してからすぐに育休・産休に入る美容師でも、雇用したいサロンが多いのです。
現在の短期的な人材不足に対処するだけでなく、中長期的な視点で考えて、スキルをもった美容師を採用することが大切です。すぐに育休・産休に入る美容師でも、スキルやノウハウがあれば、新人スタッフの教育係として育休明けから活躍できます。
実際、新店舗の出店やエステ事業への展開を検討しているオーナー様から、次のような意見が出ました。
「短期的にはサロンのメリットはない。それでも産休・育休を魅力と感じる経験者を採用できれば、一緒に働くスタッフへの教育面でメリットがある」
引用:美容室のスタッフに「産休」「育休」を取得してもらうメリットとは?| ビュートピア(Beautopia)
また、美容師からしても育休・産休制度を充実させているサロンは、子育て中の人材が働きやすい風土が根付いています。そのため、求職者からすると競合よりも魅力的で、働きやすいサロンに見えます。
人材不足の課題に対処するため、次のポイントを確認しておきましょう。
- 人材不足・採用難に悩んだことがあるサロンの割合
- 実際に人材不足を対処した口コミ例
それぞれのポイントを確認して、育休・産休に入る美容師を雇用するべきか検討してください。
人材不足・採用難に悩んだことがあるサロンの割合
美容業界求人サイト「JOBOON」が実施した調査によると、人材不足・採用難に悩んだことがあるサロンの割合は、次のとおりです。
▼人材不足・採用活動に悩んだ経験の有無
なんと95%ものサロンが、過去に人材不足や採用活動で悩んだことがあります。
美容師は、一定のスキルがなければ務まらない専門職であり、長時間労働や土日祝でも働くサービス業の特性から、候補者が少ない傾向にあります。
また、上記の回答のうち「現在も悩んでいる」方が4割を占めるほど、美容業界における採用活動は難航しやすいです。
実際に人材不足を対処した口コミ例
美容業界求人サイト「JOBOON」が実施した調査では、先ほどの質問に対して「人材不足に悩んでいる」と回答した方向けに、「どのように人材不足を乗り切れたか」を調査しました。
「フルタイムにこだわらず、育児制度の導入による時短勤務など、ママさんが長く働けるよう整えました。」
「全体的な給与の引き上げと福利厚生の整備。社員の要望を拾えるよう、定期的にサロンに対してや働き方への不満調査をおこなう。」
「前の職場の同僚や後輩、専業主婦をしている友人など、人脈をたどって片っ端から声をかけました。最終的には運よく知り合いの美容師さんを紹介してもらい、事なきを得ました。」
引用:美容師採用が難しい!経営者20名に聞いた人材不足の実態と解決策を紹介|コラム|JOBOON
フルタイムで働ける美容師だけでなく、時短勤務ができる育児中の美容師を採用し、人材不足の課題に対処しています。他にも、育児制度の導入や賃金の引き上げ、福利厚生の充実化など、求職者が「ここで働きたい」と思う条件を揃えることが大切です。
新たな人材を採用するより既存のスタッフに長く働いてもらいたい
産休・育休に入る美容師を雇用する理由は、新たな人材を採用するより既存のスタッフに長く働いてもらいたいからです。新たな人材を採用すると、職場の雰囲気に慣れて、他の美容師と関係性を構築する時間がかかります。
対して、育休明けの美容師は、他のスタッフや顧客と関係を構築できているため、復帰後すぐ職場に馴染めるのです。美容院と同じく子育て中の女性が多いネイルサロンでも、スタッフに長く働いてもらうために、産後の女性が働きやすい環境を整えているケースがあります。
――結婚・出産後も働ける環境ですか?
はい、そういった環境は整っています。
現に今、産休を取っている人もいますよ。
休む以外にも、早番で出社して3時で退勤など、調整も可能です。
長く働いてもらいたいですからね。
既存のスタッフに長く働いてもらうと、特定のスタッフを指名していた顧客の離脱を防止できるメリットもあります。
美容師のキャリアを積み上げられないのはもったいない
美容師は、スキルを売る仕事なので、出産を機にキャリアを積み上げられないのはもったいないと感じる方も多いです。
大型サロン勤務を経て、2023年に美容サロン「ancrea Aoyama」をスタートさせた金子史さんは、美容師を長く続けていきたい女性に対して、次のようにアドバイスしています。
「女性は人生の転機がありすぎて、その時々でいろいろ考えながらも、働くことを諦めてしまう人が多いと思います。結婚、出産、家族との生活もどんどん変化していく。
仕事って、一度離れてしまうと働くことに対して消極的になってしまう。でも離れていたからといって怖いと思わなくていいし、せっかく身につけた技術なんだからまた生かしてほしいです! 年を重ねても、無理なく楽しく働ける環境を諦めなくていい時代になってきていると思います。」
引用:モアリジョブ|22年の勤務を経て独立! 大型店とフリーランスのいいとこ取りを実現する新店をオープン【ancrea Aoyama代表 金子 史さん】#2
産休・育休を取れずに美容師を諦める人が出るのは、美容業界にとってもデメリットです。
美容業界を発展させるためにも、美容師が出産を機にキャリアを捨てることなく、働ける体制を整える必要があります。
「美容室は産休・育休が取れない、という現状を変えていきたい」
「産休・育休を取れないと、美容師がキャリアを上手く積みあげられない」
「産休・育休を取れずに美容師を辞める人が出ることは、美容業界にとってもデメリットではないか」
引用:美容室のスタッフに「産休」「育休」を取得してもらうメリットとは? | ビュートピア(Beautopia)
産休・育休中は企業負担がないため実施するべき
産休・育休中に美容師へ支払われる費用は、企業ではなく健康保険組合が負担します。産休・育休は企業負担がないため、サロン側として推奨するべきです。
産休中は、従業員と雇用側双方が社会保険料の支払いを免除されます。育休中は健康保険から、産休手当が支給されるため、企業側が給与を支払う必要がありません。
企業側にとってデメリットがなく、従業員側は安心して子育てに専念できるため、双方にメリットがある制度です。そのため、美容業界の発展と美容師のキャリア形成を促進するためにも、サロン経営者は産休・育休を取得しやすい職場づくりを行いましょう。
美容師が産休・育休中に利用できる制度
美容師が産休・育休中に利用できる制度は、次のとおりです。
- 出産手当金
- 育児休業給付金
- 出産育児一時金
それぞれの制度の概要と、支給額の計算方法を解説するので、スタッフに説明できるよう内容を確認しておきましょう。
出産手当金
出産手当金は、産休中の従業員の生活を支えるために設けられています。そもそも産休とは、出産予定日の6週間前と出産翌日8週間の期間を休業する制度です。
下記の条件に当てはまる方であれば、出産手当金を申請できます。
- 健康保険の被保険者(整容国保以外)
- 健康保険に加入した状態で、1年以上継続して企業に勤務している
- 産休中に給料が支払われない
- すでに退職したが、健康保険の加入期間が連続して1年以上あり、退職日が出産手当金の支給期間内に入っている。また、退職日に出勤していない
なお、出産手当金の支給金額は、次のとおりです。
「支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額×30分の1×3分の2×支給日数」
参照元:出産手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
産休は、出産予定日から起算して6週間前を産前期間としますが、予定日より遅れて出産した場合でも、休業期間中は手当金が支給されます。
また、双子の場合は出産予定日の14週間前から産休が適用されます。
原則として、出産の翌日から8週間は就業できませんが、産後6週間を過ぎた後に医師が認めた場合のみ復帰することが可能です。
育児休業給付金
育児休業給付金は、育休期間中の生活を支えるための給付金制度です。子どもを出産するための産休が終わった後は、子どもを育てるための育休へと切り替わります。
育児休業給付金は、子どもが1歳になるまでの育休期間中、2カ月に1度のペースで給付金を支給します。厚生労働省の資料によると、育休を取得できる期間は子どもが1歳になる前日までです。
▼育児休業給付金の対象となる期間
3回に分けて取得した場合の3回目の休業は育児休業給付金の対象外なので注意しましょう。
▼育児休業給付金の対象外となる期間
保育園が見つからない場合は、子どもが2歳になるまで育休期間を延長することが可能です。なお、育児休業給付金は、次の条件を満たしている場合に支給されます。
- 企業に1年間継続して働いている
- 子どもの1歳の誕生日以降も継続して働くことが決まっている(2歳まで延長する場合は、子どもが2歳になる誕生日の前日まで雇用契約が継続している)
- 子どもが2歳になる前々日までに、労働契約の期間が満了しており、契約が更新されないことが明らかでない
育児休業給付金の受給期間を延長するための条件は、次のとおりです。
- 子どもが認可保育所などに入所できない場合
- 子どもを育てる予定だった人が、病気・ケガ・妊娠などの理由で、育児が困難になった場合
育児休業給付金の支給額は、育休前の6カ月間の平均賃金をもとに算出される「賃金日額」を使用して計算されます。育児休業給付金の計算式は、次のとおりです。
「休業開始時賃金日額支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)」
出産育児一時金
出産育児一時金とは、子どもを産んだ際に国から50万円が支給される制度です。もともとは42万円の支給でしたが、令和5年4月1日から支給額が50万円に増額されました。
出産日 |
令和5年4月1日以降 |
令和4年1月1日から令和5年3月31日 |
令和3年12月31日以前 |
---|---|---|---|
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合 |
50万円 |
42万円 |
42万円 |
産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合 |
48.8万円 |
40.8万円 |
40.4万円 |
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合 |
※子どもが生まれたとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会をもとに作表
なお、妊娠4カ月(85日)以上で出産をした場合、早産や死産・流産・人工妊娠中絶なども支給対象に含まれます。
美容サロンオーナーが利用できる育休・産休に関する両立支援等助成金
美容師が育休・産休を取得した場合、休業するスタッフではなく、サロンオーナーに支給される助成金制度があります。両立支援等助成金は、子育てや介護をしやすい職場環境を整え、仕事と育児・介護の両立を推奨している事業主に対して支給される助成金制度です。
両立支援等助成金は、労働者の雇用を安定させ、仕事と家庭環境の両立を支援する目的で設けられました。厚生労働省が公表した資料によると、産休・育休に関するコースは、次の6種類です。
▼産休・育休に関するコース(両立支援等助成金)
それぞれコースの概要を確認して、育休・産休を取得しやすい労働環境を整備しましょう。
出生時両立支援コース
出生時両立支援コースは、子育てパパ支援助成金とも呼ばれる男性労働者が育休を取得した際に、事業主へ支払われる支援制度です。中小企業のみを対象としており、次の要件を満たした場合に、支援金が支給されます。
種別 |
要件 |
---|---|
第1種(男性労働者の育児休業取得) |
育児・介護休業法に定める雇用環境整備の措置を複数実施している |
育児休業取得者の業務を代替する労働者の、業務見直しに係る規定等を策定し、規定に基づき業務体制の整備を実施している |
|
男性労働者が子どもの出生後8週間以内に開始する一定日数以上の育児休業を取得している |
|
第2種(男性の育児休業取得率の上昇等) |
第1種の助成金を受給している |
育児休業取得者の業務を代替する労働者の、業務見直しに係る規定等を策定し、規定に基づき業務体制の整備を実施している |
|
男性労働者が子どもの出生後8週間以内に開始する一定日数以上の育児休業を取得している |
|
第1種の申請をしてから3事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率(%)の数値が30ポイント以上上昇している。もしくは、第1種の申請年度に子が出生した男性労働者が5人未満かつ育児休業取得率が70%以上であり、その後3事業年度の中で2年連続70%以上となる |
|
第1種の申請対象労働者以外で、男性の育児休業取得者が2人以上生じている |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
上記の条件を満たした場合、種別に応じた次の金額が支給されます。
種別 |
支給額 |
---|---|
第1種 |
・1人目:20万円 ・2人目:10万円 ・3人目:10万円 |
第2種 |
・1事業年度以内に30ポイント以上上昇した場合:60万円 ・2事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上)場合:40万円 ・3事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上)場合:20万円 ※プラチナくるみん認定事業主は15万円加算 |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
育児休業等支援コース
育児休業等支援コースは、従業員が円滑に育休を取得し、職場復帰できる体制を整えた中小企業に、助成金を支援する制度です。育休復帰支援プランを作成し、育休取得後に職場復帰させた事業主に対して、次の金額が支給されます。
対象 |
要件 |
支給額 |
---|---|---|
育休取得時 |
育休の取得時に、職場復帰についてプランを作成し、支援を実施する方針を社内で周知している |
30万円 |
労働者と面談を実施し、本人の希望などを確認、結果を記録の上、プランを作成している |
||
育休前日までに、業務の引き継ぎを実施し、育休を取得する労働者が連続3カ月以上の育休を取得している |
||
職場復帰時 |
育児休業中に職務や業務の情報を記録し、資料を提案している |
30万円 |
育休終了前に上司や人事担当者が面談を実施している |
||
育休取得者を、原則として復帰させ、6カ月以上継続している |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
育休中等業務代替支援コース
育休中等業務代替支援コースは、育休や育児中の時短勤務に対応できるよう、周囲の労働者が業務を代替した場合に適用される制度です。
主に次の3種類に分かれ、それぞれ支給額が異なります。
種類 |
支給額 |
---|---|
手当支給等(育児休業) |
下記ABの合計額(最大125万円) A.業務体制整備経費:5万円 B.手当支給総額の4分の3 |
手当支給等 (短時間勤務) |
下記ABの合計額(最大110万円) A.業務体制整備経費:2万円 B.手当支給総額の4分の3 |
新規雇用(育児休業) |
代替期間に応じた額を支給 最短:7日以上14日未満の場合は9万円 最長:6か月以上の場合は67.5万円 |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
柔軟な働き方選択制度等支援コース
子育て期間中は、子どもが熱を出したり急な対応が必要になったりすることが多く、短時間勤務やテレワークの導入が求められます。
柔軟な働き方選択制度支援コースは、下記の制度を複数利用した従業員がいる場合、中小企業の事業主に助成金が支給される制度です。
制度 |
利用実績の基準 |
---|---|
フレックスタイム制度(時差出勤制度) |
合計20時間以上、制度を利用している |
テレワーク |
|
短時間勤務制度 |
|
保育サービスの手配・費用補助制度 |
労働者負担額の5割以上かつ3万円以上、または10万円以上の補助を受けている |
・子どもの養育に関わる休暇制度 ・法を上回る子どもの看護休暇制度 |
合計20時間以上、制度を利用している |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
上記の制度を2種類導入した場合は20万円、3つ以上の場合は25万円が事業主に支給されます。
不妊治療両立支援コース
不妊治療両立支援コースは、不妊治療と仕事の両立をサポートしている中小企業の事業主に対して、助成金が支払われる制度です。
産休や育休だけでなく、従業員の不妊治療をサポートする体制を整えれば、次の金額が支給されます。
要件 |
支給額 |
---|---|
A.労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日利用している |
30万円 |
B.上記を受給し、労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得している |
30万円 |
※「2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内|厚生労働省」をもとに作表
なお、本コースを利用するには不妊治療両立支援プランを策定する必要があり、不妊治療や仕事との両立を相談できる両立支援担当者を選任する必要があります。
美容師が育休明けに復帰しやすい職場づくりのコツ
美容師が育休明けに復帰しやすい職場づくりのコツは、次のとおりです。
- 収入の不安を減らす
- 多様な働き方を選択肢に入れる
- 託児スペースを設ける
- ライフワークバランスを重視する
- スタッフの声に耳を傾ける
美容師が育休や産休を気軽に取得できれば、定着率を向上させ、スタッフのキャリア形成を促進できます。美容業界を発展させ、サロンの人手不足を解消するためにも、産休・育休から復帰しやすい職場環境を整備しましょう。
収入の不安を減らす
美容師が育休明けに復帰しやすいよう、収入の不安を減らしましょう。
どれだけ好きな仕事でも、収入に不安がある場合は、出産を機に転職を希望する方が多いです。
現役のスタイリスト20名を対象にした調査では、「離職率の高いサロンの特徴」を尋ねたところ、次のような回答がありました。
「給料が安すぎる」
「安定した将来ビジョンが、イメージができない」
引用:スタッフがすぐ辞める美容室の特徴とは?定着率の良いサロン作りのコツも紹介|コラム|JOBOON
美容師の給与体制を見直したり、福利厚生を充実させたり、「このサロンで働き続けたい」と思わせることが大切です。「明確な昇給制度が定まっていない」「労働時間に給与が見合っていない」場合は、離職の原因となるため注意してください。
多様な働き方を選択肢に入れる
定着率を向上させるために、多様な働き方を選択肢に入れることが大切です。従来の美容師は、長時間労働と休日の少ない働き方で、家庭に費やせる時間が少ない傾向にありました。
近年は、フレックスタイム制度や時短勤務など多様な働き方が増えており、仕事と家庭を両立しやすい時代へと変化しました。美容師が育児をしながら働けるよう、多様な働き方を選択肢に入れて、労働条件を改善してください。
託児スペースを設ける
サロン内に託児スペースを設けると、産休・育休明けの離職を減らせます。職場に子どもを連れてきて問題のない職場は、パパやママにとってありがたいものです。
託児スペースを設ければ、保育園の送り迎えに間に合うよう、仕事を切り上げる必要はありません。サロン内に託児スペースを設けている職場は、子どもがいる美容師にとって魅力的であり、定着率と採用力を向上できます。
ライフワークバランスを重視する
仕事と生活のバランスが取れた状態だと、ストレスを解消し仕事に対するモチベーションを高めやすいです。美容師が育児明けに復帰しやすいよう、ライフワークバランスを重視しましょう。
気軽に有給を取得できる組織風土を構築して、子どもの誕生日や入園式など、ライフイベントに参加できるようにしましょう。また休日を増やしたり、長期休暇を設けたりと、美容師が仕事だけでなくプライベートを満喫できるよう拘束時間を短縮してください。
労働時間を改善し休日を増やすことで、ライフワークバランスを充実させられます。
スタッフの声に耳を傾ける
離職率を低下させるためには、スタッフの声に耳を傾けることが大切です。スタッフの意見を否定せずに受け止めることで、信頼関係を構築し定着率を向上させられます。
スタッフの声に耳を傾けず、否定ばかりしていると「オーナーは従業員の立場に寄り添ってくれない」存在として扱われます。結果、相談されることなく離職を切り出されてしまうので、離職率が増えてしまうのです。
普段からスタッフと良好な関係性を築き、本音で話し合える組織風土を構築すれば、愚痴や不安を聞き出せます。否定せずに話を受け止め、改善できる点は試みる柔軟な対応が必要です。
なお、現状の改善だけでなく、万が一離職を申し出たスタッフがいた場合も、批判やきつい言葉を使わず相手の意思を尊重することが大切です。「この美容室で働けてよかった」と思えるよう送り出し、いつでも戻ってきていい旨を伝えましょう。
まとめ
美容師は女性が多い職種ですが、育休や産休の取得率が他の業種と比べて低い傾向にあります。出産や育児を機に、美容師としてのキャリアを諦めさせないためにも、休業明けから復帰しやすい職場づくりが求められます。
美容師の産休・育休明けに復帰を促し、長期的に働いてもらうコツは、次のとおりです。
- 美容師が産休・育休で利用できる制度について、スタッフに共有する
- 収入の不安を減らし、多様な働き方を受け入れる
- スタッフの声に耳を傾け、定着率の向上に努める
育休明けからも長く働いてもらえるよう、定着率の高い職場づくりを行いましょう。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部