美容サロン経営者の皆様、採用と教育にこのようなお悩みはありませんか?
「せっかく採用しても、早期に離職してしまう」
「スタッフ育成に時間がかかり、即戦力化が進まない」
日々のサロンワークに加え、採用活動やスタッフ育成といった人材に関する課題にも頭を悩ませる方は多いです。採用と教育を別々の問題として捉え、それぞれに対策を講じようとするケースも少なくありません。
本記事では、美容サロンが直面しがちな「採用」と「教育」の課題に対し、それらをセットで捉え、効果的に連携させる戦略の重要性とその具体的な施策について、総括的に詳しく紹介します。
なぜ採用と教育はセットで考えるべきなのか
まずは美容業界がおかれている現状と、多くのサロンが直面する共通の課題について掘り下げます。その上で、採用と教育をつなげるメリットを通じて、なぜセットで考えるべきかを示します。
美容業界の現状と課題
日本の総人口は減少の一途をたどり、それに伴い生産年齢人口(15歳~64歳)も減少しています。これは、労働市場全体の規模そのものが縮小していることを意味し、業種を問わず人材確保の難易度を上げています。
美容業界もこの影響を避けられません。加えて、美容業界特有の要因が、人材不足の問題をさらに深刻化させています。
その要因として、まずは美容師の有効求人倍率の高さが挙げられます。
【ハローワーク求人統計データ 有効求人倍率(令和5年度)】
厚生労働省によると、美容師の有効求人倍率は、令和5年度平均で6.1倍に達しています。このデータは、美容師として働きたいと考える人よりも、美容師を必要としているサロンの数が圧倒的に多い現状をはっきりと示しています。
厚生労働省の理容師制度・美容師制度に関する参考資料集でも、美容師の数が増加傾向にあると確認できます。ただし、令和5年度の免許登録者数は142万884人ですが、そのうち仕事に従事している美容師の数は4割に満たない57万9768人のみです。
一方で、美容業界は他業種と比較して離職率が高いという課題も長年指摘されています。特に、美容学校を卒業してアシスタントとして入社したものの、スタイリストデビューに至る前に離職してしまうケースが少なくありません。
【新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率 ()内は前年差増減】
厚生労働省の調査によると、美容師を含む生活関連サービス業、娯楽業の新卒就職者の3年以内離職率は高卒で61.0%、大卒でも53.7%と高めです。厳しい労働条件(長時間労働、低い給与水準、手荒れなどの健康問題)や、将来への不安(キャリアパスの不明確さ、技術習得の壁)などが離職の要因として考えられます。
この状況下で多くの美容サロン経営者が直面するのが、採用と教育に関する経営判断の誤りです。採用活動にばかり注力し、入社後の教育体制やスタッフの定着について十分に計画しないまま採用してしまうケースは多く見られます。
教育体制が不十分であれば、新人はなかなか技術を習得できず、お客様を担当できるようになるまでに時間がかかり、本人のモチベーションも低下してしまいます。結果として、採用人材が定着せず、再び採用活動に多大なコストと労力をかける負のスパイラルに陥るのです。
人材不足を解消し、サロンを成長軌道に乗せるためには、採用と教育を別個の活動としてではなく、互いに関連し合い、影響を与え合う一体のプロセスとして捉え直さなければなりません。
採用と教育をつなげるメリット
採用と教育をつなげることで、サロンにさまざまなメリットが生まれます。たとえば採用を「入り口」とし、教育を「維持と成長の道筋」とするプロセスを組むことで、互いがスムーズにつながり連携します。その結果、サロンは質の高い人材を継続的に確保し、スタッフが生き生きと働き、共に成長できる環境を構築できるのです。
つまり、採用を「サロンの入り口」、教育を「サロン内で成長し続け、活躍するための道筋」と定義すれば両輪がスムーズかつ同じ方向に回り、好ましい結果が生まれやすくなります。
また、その他の大きなメリットとして、入社後のミスマッチを大幅に軽減できる点が挙げられます。採用活動の段階から以下を明確に伝えることで、求職者は入社後の自身の姿を具体的にイメージしやすくなるでしょう。
- サロンの理念やビジョン
- 働く環境
- 入社後の具体的な育成方針
- 将来のキャリアパス
求めているものと合っているかを応募や面接の段階でしっかりと判断できる機会を提供してください。サロン側は、入社後にスムーズに定着し、活躍してくれる可能性の高い人材を採用できるのはもちろん、求職者側は自身の期待や目標と合致する環境で働けるでしょう。
入社後のギャップが少なく成長を実感できれば、スタッフは長くサロンで働きたいと感じます。サロン側としても早期離職に伴う新規採用コストの発生を抑え、サロン内に技術やノウハウが蓄積され、組織全体の安定性が増すでしょう。
採用段階で、求める人物像や最低限必要なスキルが明確になっていると、入社後の育成計画も立てやすいです。早期に戦力となるスタッフが増えれば、既存スタッフの負担も軽減され、サロン全体の生産性が向上します。
人材採用と教育がサロンにもたらす効果
本章では、採用と教育への投資が、サロンの売上げ、人材定着、そしてブランドイメージにどのように貢献するのかを詳しく解説します。
売上向上・経営の安定につながる
「美容サロン」というビジネスの特性を考えてみましょう。他の多くの業種と比較しても、現場で働くスタッフ一人ひとりの技術力や接客力が、お客様の満足度やリピート率、ひいてはサロンの売上げに極めてダイレクトに結びつきやすい特徴があります。美容サービスがお客様の身体に直接触れる、非常にパーソナルなサービスだからこそです。
お客様は、以下の要素をトータルして、美容体験を評価するといわれています。
- 担当の美容師の技術力(カットの仕上がり、カラーの染まり具合、パーマのかかり具合など)
- カウンセリングの丁寧さ
- 施術中のコミュニケーション
- サロン全体の雰囲気
お客様が「またこの人に担当してもらいたい」「このサロンに来てよかった」と感じれば、リピート率が向上し、安定した売上基盤が構築されます。また、満足したお客様は友人や知人にサロンを紹介してくれる可能性が高く、口コミによる新規顧客の獲得にもつながるでしょう。
こうした好循環を生む考え方として、「サービスプロフィットチェーン」というモデルがあります。具体的には次のようなサイクルで構成されます。
- 顧客満足度が顧客に提供される「サービス価値」によって高められる
- 顧客ロイヤルティが顧客の「満足度」から生まれる
- 企業の「収益性」と「成長」が行われる
- さらに顧客の「ロイヤルティ」がもたらされる
これら一連の連鎖や流れを示すのが、サービスプロフィットチェーンのサイクルモデルです。そして、このサービス価値を高める源泉こそが、企業の「従業員」にあると考えます。このサイクルを意識して、顧客満足度を高めるのも忘れてはなりません。
顧客ロイヤルティが高い顧客はリピート率が高く、より多くのサービスを利用する傾向にあります。さらに新規顧客を紹介するため、結果として企業の収益性と成長が向上する」という連鎖的なメカニズムも得られるでしょう。
採用と教育への投資は単なるコストではありません。サロンの最も重要な経営資源である「人財」の価値を最大化し、サービス品質を高め、顧客基盤を強化し、結果として売上向上と経営の安定化に直結する、極めて戦略的な投資なのです。
人材の早期離職を防止できる
スタッフが早期に離職してしまうことは、サロンにとってさまざまな面で大きな損失となります。最も直接的なのは、新たな採用活動が必要になり、そこに多大なコストが発生するという点です。
新規採用にかかるコストは、目に見える費用だけではありません。以下のコストも並行してかかってきます。
- 求人媒体への掲載費用
- 人材紹介会社を利用する場合の手数料(年収の数30~40%が相場)
- 会社説明会や面接を実施するための会場費や担当者の人件費
- 応募書類の処理費用
サロンの理念や働き方にマッチする人材を迎え入れ、計画的で手厚い教育をしてキャリアパスを描けるように支援しましょう。スタッフの定着率を劇的に高めれば、無駄な新規採用にかかるコストを大幅に削減できます。
サロンのブランディングを強化できる
美容業界を志す人々は、自身のキャリアパスやスキルアップの機会や、定性的な要素も重視して職場を選びます。「このサロンで働きたい」と心から思えるような、魅力的な職場環境や文化を持つサロンをつくりましょう。
質の高い採用活動を通じて、サロンの持つ独自性や魅力を求職者に効果的に伝えることは、サロンの採用ブランディングを強化することにつながります。
- サロンの理念やこだわり
- お客様への想い
- スタッフ同士の温かい関係性
- 定期的な勉強会の様子
- 楽しそうな社内イベント
上記のような魅力を公式サイトやSNS、パンフレットなどで積極的に発信しましょう。求職者の心に響くブランドイメージを構築できます。
特に充実した教育体制によってスタッフが着実にスキルアップしている様子は、外部の求職者にとって非常に魅力的に映るためおすすめです。ブランドイメージが向上すれば、サロンが求める人材からの応募が集まりやすくなります。
採用編:優秀な人材を獲得するための5つの施策
ここでは、優秀な人材をサロンに迎え入れるための具体的な採用戦略について、5つの施策に分けて詳しく解説します。採用に関する具体的な方法論や実施のポイントを、ステップに分けて確認しましょう。
1.採用プロセスの最適化
優秀な人材を効率的かつ確実に獲得するには、場当たり的な対応ではなく、サロンの採用プロセス全体を戦略的に設計し、最適化することが重要です。各段階において、無駄がなくかつ求職者にとって分かりやすい、魅力的なフローを構築する必要があります。
まず、採用プロセスの起点となる求人票の作成は、その後の成否を左右する極めて重要なステップです。単に業務内容や条件を羅列するだけでなく、「誰に、どんな思いを持って、どんな働き方をしてほしいか」の明確化が求められます。
求める人物像 |
経験年数、得意な技術、人柄、サロンの理念への共感度など |
サロンの強みやこだわり |
企業理念、キャリアパス、施術の特徴など |
働くメリット |
スキルアップ機会、福利厚生、職場の雰囲気など |
具体的な行動や価値観を示すことで、サロンが求める人材からの応募が集まりやすくなります。サロンが避けたい人物像は、内部で共有しておきましょう。ミスマッチ防止につながります。
応募後の選考プロセスにおいては、スピード感と丁寧さの両立が鍵となります。優秀な人材ほど、複数のサロンから同時に選考を受けている可能性が高いためです。連絡が遅かったり、プロセスが不透明だったりすると、他社に人材が流れるリスクが高まります。
内定通知は迅速に行い、入社後の条件や働くイメージについて丁寧に説明しましょう。必要に応じて、求職者の疑問や不安を解消するための個別面談の機会なども設けてください。
面接においては、単にスキルや経験を聞くだけでは不十分です。サロンの理念や文化への適合性、働く上での価値観、将来のキャリアに対する考え方などを深く掘り下げる質問を準備しましょう。
2.サロンの魅力を発信するブランディング戦略
現代の採用活動において、サロンの「魅力」をいかに効果的に求職者に伝えるかは、採用成功を左右する重要な要素です。
求職者は、求人媒体の情報だけでなく、サロンのWebサイトやSNS、口コミサイトなどを積極的にチェックしています。職場の雰囲気やスタッフが働く様子など、サロンの本当の姿を知れるからです。よって、単に求人情報を出すだけでなく、能動的にサロンの魅力を発信する採用ブランディング戦略が不可欠となります。
採用ブランディングの核となるのは、サロンの「理念・ビジョン」「強み・こだわり」「スタッフの生の声」です。求職者の目に触れるさまざまなチャネルを通じて、これらの情報を発信しましょう。
Webサイトはサロンの顔として最も重要な情報発信拠点です。採用専用ページを設け、採用位に関する情報と以下の情報を詳しく掲載してください。
- サロンの理念
- 経営者の想い
- 働くスタッフの紹介(顔写真付き)
- 一日の仕事の流れ
- 年間イベント
- 福利厚生
採用ページに必要事項を並べるだけでは、魅力を伝えられません。スタッフインタビューやフォトギャラリーなどを充実させ、職場の雰囲気をリアルに伝えましょう。
特にSNS(Instagram, X, TikTokなど)は、若年層の求職者にとって最も身近な情報収集ツールです。写真や動画を活用し、サロンの活気や人間関係の良さ、技術へのこだわりなどを視覚的に伝えましょう。定期的に更新し、スタッフの個性が見えるような投稿を心がけることで、親近感を持ってもらいやすくなります。
採用ブランディングにおいて重要なのは、「見える化」によって求職者の不安を解消することです。美容業界は、長時間労働や厳しい上下関係といったイメージを持たれることも少なくありません。そういった不安を払拭するために、以下を具体的に示すのが有効です。
- 実際の労働時間
- 休憩時間
- 有給休暇の取得状況
- 練習時間に関するルール
- 福利厚生の詳細
また、先輩社員の一日のスケジュール例、入社後の研修プログラムの詳細、キャリアパスの具体例などを公開することで求職者の不安を和らげられます。
3.柔軟な雇用制度と待遇設計
美容業界では、個人のスキルや経験によって働き方の選択肢も広がっています。多様なニーズに応えるため、柔軟な雇用制度や魅力的な待遇設計を検討しましょう。
また、従来の正社員雇用に加え、多様な雇用形態を用意することも大切です。高い技術力や集客力を持つ美容師には、業務委託として自身の裁量で働くスタイルを提供するのもひとつの方法です。
さらに給与や賞与、各種手当といった待遇は、求職者がサロンを選ぶ上で重要な要素です。美容業界全体の給与水準や、同エリアの競合サロンの待遇などを把握した上で、可能な範囲で業界平均以上の条件提示を検討しましょう。
給与水準だけでなく、以下項目の充実も重要な差別化要因となります。
- 社会保険の完備
- 交通費支給
- 住宅手当
- 家族手当
- 歩合給・インセンティブ制度
- 夏季・冬季休暇
- 有給休暇の取得推奨
- 産前産後休暇
- 育児休業
単に高い給与を提示すればよいというわけではありません。給与体系の仕組みや福利厚生を明確にし、スタッフの頑張りをどう報酬に反映すればよいかを理解しましょう。
4.採用チャネルの多様化とSNS活用
たとえば美容専門学校との連携は、将来の美容師を育成する重要なチャネルです。
- 学校説明会への参加
- 学内合同企業説明会への出展
- サロン見学
- 職場体験(インターンシップ)の積極的な受け入れ
上記のような体験を通じて、学生にサロンの雰囲気や働き方、教育体制などを直接知ってもらう機会を設けるとよいでしょう。
卒業見込みの学生だけでなく、在校生向けのイベントを開催するなど、早期から学生との接点を持つことも有効です。学校の先生方と良好な関係を築き、サロンの情報を定期的に提供することも、学生へのアピールにつながります。
また、現在働いているスタッフからの紹介であるリファラル採用は、コストパフォーマンスの高い採用手法のひとつです。サロンの文化や働き方をよく理解しているスタッフからの紹介はミスマッチが起こりにくく、求人広告費がかからないため採用コストも削減できます。
インターネット上の求人媒体は依然として主要な採用チャネルです。しかし、ただ掲載するだけでなく、掲載内容を工夫したり、スカウト機能を活用したりするのが重要です。「複数媒体を試す」「業界に特化した媒体や特定の地域に強い媒体を選ぶ」など、サロンのターゲット人材に合わせて媒体を選択しましょう。
また、SNSの活用は、現代の採用活動において非常に有効です。サロンの公式アカウントだけでなく、スタッフ個人のアカウントを通じても、サロンの魅力や働くことの楽しさを発信してもらいましょう。
5.採用時のミスマッチを防ぐ工夫
採用段階でミスマッチを防ぐには、単にスキルや経験を見極める場ではなく、求職者とサロンがお互いの価値観や期待をすり合わせる機会と捉えるのが大切です。
面接においては、求職者の過去の経験やスキルだけでなく、サロンの価値観や文化との適合性を重視した質問を準備します。たとえば、「あなたが美容師として最も大切にしていることは何ですか?」といった質問で、以下のような情報を探れます。
- 求職者の仕事に対する考え方
- 求職者の人柄
- コミュニケーションのスタイル
- サロンの経営理念や行動指針に対する共感度
サロン側からも、以下のような情報をしっかり提供してください。
- 入社後の具体的な業務内容
- 1日のスケジュール
- チーム体制
- ノルマの有無
- キャリアアップの道筋
サロンの良い面だけでなく、課題や大変な面についても包み隠さず正直に伝えることが重要です。求職者は入社後のリアルなイメージを描くことができ、お互いの期待値のズレを最小限に抑えられます。
また、内定後のフォローアップもミスマッチ防止に効果的です。内定者向けの入社前オリエンテーションを実施し、改めてサロンの紹介や入社までの手続きについて説明する機会を設けましょう。短期間のインターンシップやトライアル勤務を受け入れることも有効です。サロン側も内定者の働く姿勢や他のスタッフとの相性などを確認できます。
教育編:スタッフを即戦力&長期戦力に育てる施策
採用したスタッフに対する計画的で効果的な教育戦略について、5つの施策に分けて詳しく解説します。
1.計画的な新人育成カリキュラムの構築
新しく入社したスタッフが一日も早くサロンの一員として自信を持って業務に取り組めるようになるには、明確で体系的な新人育成カリキュラムが必要です。
入社後の成長ステップを具体的に示したオンボーディング設計を行い、スムーズにサロンに馴染み、必要なスキルを習得できる環境を整えましょう。オンボーディングとは、新しい従業員が組織に慣れ、その役割を理解し、貢献できるようになるまでの一連のプロセスのことです。
オンボーディング設計においては、まず入社から一定期間(たとえば入社1カ月目、3カ月目、6カ月目)ごとに、新人が習得すべき技術や知識、できるようになるべき業務、そして達成すべき目標を具体的に設定します。
1カ月目のゴール例 |
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3カ月目のゴール例 |
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6カ月目のゴール例 |
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具体的な目標を設定することで、新人は自身の立ち位置を理解しやすく、次に何を学ぶべきかが明確になります。目標達成度を定期的に確認し、フィードバックを行うことで、本人のモチベーション維持にもつながります。
また、新人教育を特定の先輩スタッフや店長任せにするのではなく、サロン全体で新人を育てる体制が重要です。他のスタッフも新人の状況を把握し、困っていることがあればいつでもサポートできる雰囲気や仕組みをつくりましょう。
情報共有ツールを活用して、新人の進捗状況や課題をスタッフ間で共有したり、定期的に新人育成に関する会議を実施したりすることも有効です。全体で育てる意識を持つことで、新人は孤立せず、安心して質問したり挑戦したりできる環境で成長できます。
2.技術と接客を両立した実践的教育
美容師に求められるのは、施術に関する技術だけではありません。お客様に「また来たい」と思ってもらうためには、質の高い接客能力も同様に重要です。教育プログラムは、この技術教育と接客教育をバランスよく、かつ実践的な内容で構成する必要があります。
その上で、押さえておくべき教育内容は多岐にわたります。
施術の技術教育 |
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接客教育 |
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クレームへの対応 |
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そのほかの教育内容 |
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上記の教育内容を、実際の業務を通じて学ぶOJT、研修形式で学ぶOff-JT、自己学習などを組み合わせて実施しましょう。
サロン内での練習会や、経験豊富なスタッフによるデモンストレーション、そしてロールプレイングといった実践的な形式を取り入れてください。スタッフは学んだことをすぐに現場で活かせるようになります。
3.自発性とモチベーションを育てる文化
教育は、単にスキルや知識を一方的に教え込むだけでは、スタッフの真の成長にはつながりません。スタッフ一人ひとりが自発的な意欲や内発的動機づけを持ち続けられるような、心理的安全性の高い、前向きな組織文化を醸成するのが重要です。
自発性とモチベーションを育てるために有効な方法のひとつは、スタッフの小さな努力や成功を見逃さずに、積極的に認め、称賛することです。難しい技術を習得した、お客様からお褒めの言葉をいただいた、目標を達成した、といった成功体験を積み重ね、褒めてあげましょう。
それにより、スタッフの自信と「やればできる」という肯定的な自己イメージを育みます。朝礼での良い事例の共有、社内SNSでの成功事例の紹介、個別面談でのフィードバックなど、さまざまな機会を捉えてポジティブなメッセージを伝えてください。
また、スタッフ一人ひとりと定期的に個別面談を実施し、日々の業務の進捗確認、目標達成度の確認、そして悩みや課題の相談に乗る時間を持つのも大切です。面談では、良かった点を具体的に称賛し、改善が必要な点については、「なぜそのようにするべきなのか」「どうすれば改善できるのか」を具体的かつ建設的な言葉で伝えます。
一方的な評価ではなく、スタッフ本人の意見や考えも聞きながら、共に成長目標を設定する対話を行いましょう。スタッフは自身の立ち位置を理解し、次に取るべき行動を明確にできます。定期的なフィードバックと対話は、スタッフの成長を促すために必要です。
さらに、サロンの経営理念や目指す方向性、そして社会におけるサロンの存在意義をスタッフと共有し、仕事の意味付けを行うのも重要です。自身の仕事が単なる作業ではなく、誰かの役に立ち社会に貢献している実感を持てるスタッフは、高いモチベーションを維持して困難にも前向きに取り組めます。
4.継続的スキルアップ支援とキャリアパスの明示
美容業界は技術やトレンドの変化が早く、常に新しい情報を学び、スキルをアップデートしていく必要があります。継続的にスキルアップできる環境を提供することが、スタッフの長期的な成長と定着には不可欠です。
- サロン内での定期的な技術練習会や勉強会実施
- 外部の技術セミナーやトレンド講習への参加支援
- オンラインで学べる学習教材や動画コンテンツの導入
上記のようなスキルアップ支援を通じて、スタッフは自身の市場価値を高めることができ、お客様へ提供できるサービスの幅も広がります。
技術だけでなく、接客やカウンセリング、店販商品の知識も教育しましょう。マネジメントやマーケティング、SNS運用といった、美容師としてのキャリアを広げるためのスキルアップ支援を行うのも有効です。
またスタッフ一人ひとりに、キャリアパスを明示しましょう。アシスタントからスタイリスト、トップスタイリストといった技術的なキャリアだけが、美容師のキャリアパスではありません。店長やマネージャーといった経営・マネジメントの道、教育担当や商品開発、独立支援といった、多様なキャリアの選択肢を示します。
各ステップに進むために必要なスキルや経験、昇給・昇格のための具体的な基準は可視化してください。スタッフは自身の努力がどのように報われるのかを理解し、目標を持って働けます。
キャリアパスをスタッフと共有し、個別のキャリア相談に乗る機会も重要です。スタッフ一人ひとりの目標や希望を聞きながら、それに合った成長プランを共に考え、必要なサポートを提供しましょう。
5.教育環境の整備と労務配慮
スタッフ教育を効果的に行うためには、教育のための時間と場所、そして働くスタッフ全体の心身の健康に配慮した労務環境の整備が不可欠です。
営業後に長時間にわたって技術練習を行うのは、体力的な負担を大きくしプライベートな時間を削ります。心身の疲弊を招き、結果として早期離職の原因となるため、現代においてはこの働き方は持続可能ではありません。
下記のような方法で営業・就業時間内に教育を行うのが効果的です。スタッフは疲弊した状態ではなく時間も浪費しないため、集中してスキル習得に取り組めるでしょう。
- 予約状況に合わせて営業中に練習時間を設ける
- 営業開始時間を遅らせる日を設ける
- 定休日を活用する
また、教育を担う先輩スタッフや店長に対して、「教えるスキル」に関する研修を行うのも有効です。ティーチングやコーチング、効果的なフィードバックの方法などを習得させましょう。より効率的で質の高い教育が可能になり、新人の成長スピードを速められます。
また美容業界で働くスタッフの法令遵守と働きやすさの両立は、サロンの持続的な成長の土台となります。以下の環境整備は必ず行いましょう。
- 労働時間管理の徹底
- 残業代の適切な支払い
- 休憩時間の確保
- 有給休暇の取得推奨
- 社会保険への加入
- ハラスメント防止対策
労働基準法をはじめとする関連法令を遵守し、スタッフが安心して、心身ともに健康に働ける環境も整備してください。
採用と教育を連動させる方法
採用と教育という人材戦略の2つの柱をどう連携させていくべきか、具体的な方法論を紹介します。
採用時点から教育方針を見据える
採用と教育を連動させるための最初のステップは、採用活動を行う段階から、その人材をどのように育成していくか、という教育方針を意識することです。
具体的には、採用基準と育成方針を一致させることが重要です。たとえば、「入社時点で特定の技術スキルを持っていることを求めるのか、それとも入社後に基礎からしっかりと教える体制があるのか」によって、採用すべき人物像は変わります。
もし、未経験者でも丁寧に育成する方針であれば、採用基準はスキルよりも、素直さ、学ぶ意欲、サロンの雰囲気に馴染める人柄といった、「入社後に成長できるポテンシャル」を重視すべきでしょう。反対に、即戦力を求めているのであれば、具体的な技術スキルや経験を厳しく評価する必要があります。
採用面接においては、「採用時にどのようなスキルやマインドを持っていてほしいか」「入社後にサロンが責任を持って教えればよいことは何か」を明確に区別しましょう。具体的な説明は、求職者の入社後の不安を軽減し、自身の強みや課題を理解してもらう助けになります。
また、採用担当者と教育担当者が密に連携し、採用候補者について情報交換を行うのも有効です。面接で確認すべき育成に関する質問項目を事前に共有したり、合同で面接を実施したりすることで、採用と教育の視点から候補者を多角的に評価できます。
教育体制を採用広報に活用する
美容業界は「見て覚えろ」といった属人的な教育が行われてきた歴史もあり、体系的な教育体制が整っているサロンは、求職者から選ばれる大きな要因となります。
サロンで用意している具体的な育成制度の内容を、求人票や採用サイト、会社説明会などで積極的に発信しましょう。
- 「未経験からでも安心!〇カ月でスタイリストデビューを目指せる充実研修」
- 「最新技術が学べる定期講習」
- 「キャリアアップのための〇〇制度あり」
上記のような具体的な情報は、求職者にとって大きな安心材料となります。特に、アシスタントやジュニアスタイリストといった、これから技術を習得していく段階の求職者にとっては、このサロンならしっかりと成長できる期待感を抱かせられます。
カリキュラムの内容だけでなく、教育課程や教育制度を利用して成長したスタッフの成功事例などを盛り込むと、より具体的にイメージしてもらえます。スタッフのリアルな声を届けるのも有効です。
定着率が高まると採用力も強化される
採用と教育を連動させればスタッフの定着率が高まり、採用力そのものをさらに強化するといった好循環を生み出します。人が定着するサロンは、外部から見ても魅力的に映り、優秀な人材が集まりやすくなるためです。
まず、長くサロンで働いているスタッフが増えると、紹介応募が増える可能性が高まります。スタッフ自身が「ここで働けてよかった」「友人や知人にも紹介したい」と思えるサロン環境であれば、自然と良い人材が集まってくるものです。
スタッフからの紹介者は、サロンの雰囲気や働き方をある程度理解した上で応募してきます。そのためミスマッチが起こりにくく、入社後の定着率も高いです。採用コストを削減し、採用活動にかかる時間や労力も削減できます。
定着率が高まると、新規採用にかかるコストを削減することを意味します。削減できたコストは、以下のような福利厚生充実に回しましょう。
- スタッフの給与アップ
- 福利厚生の改善
- さらに手厚い教育プログラムの提供
- 働きやすい環境整備
その結果、スタッフの満足度はさらに向上し、それがさらなる定着につながるという好循環が生まれます。このサイクルが回り始めると、サロンは少ない労力で質の高い人材を確保できるようになり、採用活動の効率が飛躍的に向上します。
美容サロンの採用・教育事例3選
美容サロンが実施している、採用・教育をうまく組み合わせている事例をここでは3つ紹介します。
株式会社CS
株式会社CSは、従業員の離職率がわずか5%です。入社前からギャップを解消するために会社説明・サロン体験を実施し人材の厳選を行っています。さらに従業員ファーストを心がけ、休日の自由度を高く設定し徹底的にストレスをなくしているのも特徴です。
採用試験の一環として、会社説明とサロン体験を実施しています。サロンの雰囲気が合わないなど、入社後のギャップも離職の原因のひとつです。
弊社では、応募後にコンセプトや給与体系といった会社説明の場と、サロンワークを1日体験する場を設けています。求職者にリアルを知ってもらうことで、ギャップをなくすことを目指しているんです。
(中略)
代表的なものでいうと、自由度の高い休日設定制度があります。まず前提として、弊社はシフト制を採用しています。
有給を使って連休を取得できるほか、月2回、土日に半休を取得することもできるんです。ライブなどのイベントは土日開催のものが多いじゃないですか。趣味を満喫してプライベートを充実させられれば、仕事の質も向上すると信じて採用しています。
Carelly流山おおたかの森
Carelly流山おおたかの森では、スタッフがなりたい姿を叶えることを重視しています。勤務時間の組み立ても自由でアシスタントアカデミー制度も整備されているため、従業員の満足度を高めることに成功しています。
簡単に言ってしまうとスタッフそれぞれがやりたいこと、なりたい姿を叶えるということです。たとえば家庭の時間を優先したいママさん、兼業をしているスタッフ、美容師からのキャリアチェンジでアイリストやエステティシャンになるスタッフもいます。
(中略)
もうひとつ、「Grit」のキャリアアップの特徴的な点として、アシスタントのためのアカデミー制度が挙げられます。
この制度は営業時間中に自店舗や周囲の店舗でカットやカラーの技術取得ができる仕組みで、学習スピードによってアカデミーに通う期間を3ヶ月、5ヶ月、1年の3コースから選択することが可能です。
アシスタント業務も接客や美容師の仕事の流れを学べる貴重な機会ではあるので、土日は店舗でアシスタント業務を行い、平日はアカデミー制度で学ぶことができるんです。
Floren株式会社
Floren株式会社では、採用の種類を新卒・中途の2種類に設定しています。雇用した人材はアカデミーで再教育し、スタジオでの学習・練習とサロンでのアシスタント業務が両立可能です。結果、採用者のデビューの高速化と活躍までの期間短縮に成功しました。
「Floren」は元々、中途採用のみを行ってきたのですが、3、4年前からは新卒採用も始めました。アシスタントが通うアカデミーの制度も始まり、新卒採用ですと、だいたい1年ほどでデビューが可能になっています。
アカデミー制度の内容としては、週に2回スタジオを借りて練習や勉強に充てることができます。あとの3日間はサロンでアシスタント業務にあたり、週休2日というスケジュールになっています。通常ですとお休みの日を使って行われることが多い練習や勉強を、営業時間内に完結できるのが魅力です。
練習時間を効率的に確保できるだけでなく、入社1ヶ月目からモデルさんを呼ぶなど入客もとても早いので、スタイリストデビューをし、活躍できるようになるまでがとてもスムーズになっています。
まとめ
本記事では、美容サロン経営における最重要課題のひとつである人材について、「採用」と「教育」をセットで捉えることの重要性とその具体的な戦略について、多角的な視点から詳しく解説しました。
- 採用と教育はセットで考える必要がある
- 採用後の教育を徹底すれば売上向上・経営の安定につながる
- 人材の早期離職の防止にも効果的
- 「採用→教育→定着→紹介→採用」の循環を作ることが鍵
採用と教育は決して独立した活動ではなく、まさに「人材戦略の両輪」として、互いに密接に連携し、影響を与え合えばその効果を最大化できます。
採用で適切な人材を見極め、教育でそのポテンシャルを最大限に引き出してサロンの未来を明るいものにしましょう。

- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部