店舗の売上分析は、店舗経営の現状を把握し、売上アップや経営改善に向けた洞察を得るために欠かせないプロセスです。ただ一方で、「売上分析をしたいが、具体的な手法が分からない」「適切に売上分析を行えるか不安」といった方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、店舗の売上分析について、基本情報、具体的な手法、分析を行う上での注意点、好事例を紹介します。
店舗の売上分析とは
店舗売上の分析とは、店舗の売上に関するデータを収集・分析し、売上アップや経営改善に向けた洞察を得るためのプロセスです。
例えば、「いつの時間帯に売上が高いか」「どの製品・サービス・メニューが人気なのか」「顧客の来店頻度やリピート率はどうか」など詳細な情報を把握できます。
こうして得られた情報により、効果的なプロモーション戦略やサービス改善、価格設定、スタッフ配置など、店舗運営の面での意思決定が可能となります。結果として、売上アップや経営の効率化を期待でき、市場での競争力強化にもつながるでしょう。
店舗の売上分析に用いる具体的な手法
店舗の売上分析に用いられる具体的な手法を、分析対象別に紹介します。
売上の全体構造やトレンドを把握するための分析
店舗の売上を最大化するためには、単に日々の売上を見るだけでは不十分です。ここでは、売上の全体構造やトレンドを理解するための主要な分析手法を4つ紹介します。
なお時間帯別や週間別、月別などの時系列に沿った売上分析を実施する場合は、表計算ソフトでグラフ化して視認性を高めるのも有効です。Excelでグラフ化したデータを具体例として紹介するので、参考にしてください。
売上構造分析
売上構造分析とは、売上を構成する要素を細分化し、各要素がどの程度売上に影響を及ぼしているかを把握するための分析手法です。
売上は、下記3つの要素で構成されます。
- 客数:一定期間内に来店した顧客の総数
- 客単価:顧客1人当たりの平均支出額
- 来店回数:同じ顧客が来店した回数
式で表すと以下の通りです。
売上=客数×客単価×来店回数
例えば売上が増加している場合には、それが「新規顧客の増加によるものなのか」「客単価が上昇したのか」「リピーターが増えたのか」などの要因を特定でき、店舗運営においてどの部分が上手く機能しているかが見えてきます。反対に、売上が落ちている場合にも、どの要素が問題なのかを特定可能です。
この分析手法により、施策を検討して打ち出すための基盤ができ、新規獲得施策やリピート率向上策など、具体的な改善策の実施へとつながります。
時間帯別分析
時間帯別分析とは、1日のなかで売上がどの時間帯に集中しているかを把握するための手法です。店舗の営業時間内で、売上のピークタイムと閑散時間を把握することで、効率的な人員配置やサービス提供が可能となります。
▼時間帯別の集計イメージ
時間帯 |
10時 |
11時 |
12時 |
13時 |
14時 |
15時 |
16時 |
17時 |
18時 |
19時 |
20時 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
売上金額 |
2.5万円 |
4万円 |
6万円 |
5万円 |
3.5万円 |
4万円 |
3万円 |
7.5万円 |
12.5万円 |
15万円 |
9万円 |
客数 |
5人 |
8人 |
12人 |
10人 |
7人 |
8人 |
6人 |
15人 |
25人 |
30人 |
18人 |
例えば美容室の場合、平日なら午前中よりも夕方以降に来店が集中する場合が多く、特に仕事や学校の後にあたる17時以降から営業終了間際に集中しがちです。
こうした分析結果を元に、スタッフのシフトを最適化すれば、無駄な人件費を削減しつつ、忙しい時間帯に余裕をもって対応可能な体制を構築できるでしょう。また、閑散の時間帯が分かれば、時間帯割引のような閑散時間を補うプロモーション施策を検討できます。
曜日別分析
曜日別分析とは、曜日ごとの売上を計測し、変動や傾向を把握するための手法です。一般的に、週末に多くの顧客が来店し、平日は少ないパターンが多くの業種でみられます。
▼曜日別の集計イメージ
曜日 |
月曜日 |
火曜日 |
水曜日 |
木曜日 |
金曜日 |
土曜日 |
日曜日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
売上金額 |
12.5万円 |
15万円 |
20万円 |
25万円 |
40万円 |
60万円 |
30万円 |
客数 |
25人 |
30人 |
40人 |
50人 |
80人 |
120人 |
60人 |
例えば、金曜日や土曜日には売上が高まる一方で、月曜日や火曜日は来店客数が少なくなりがちです。こうしたデータの活用によって、売上が多い曜日には高価格帯のサービスを推奨したり、反対に売上が低い曜日には底上げに向けた特別なキャンペーンを実施したりといった施策を検討できます。
また、曜日別の来店傾向を把握することで、閑散傾向にある曜日の人員配置を減らし、一方で売上や来客数が多い曜日に多くのスタッフを配置してサービスを向上できます。これにより、顧客満足度アップを図れるでしょう。
月別分析
月別分析とは、各月ごとの売上を記録し、年間を通じて売上の季節変動やトレンドを把握するための手法です。
▼月別の集計イメージ
月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
売上金額 |
70万円 |
75万円 |
120万円 |
68万円 |
72万円 |
85万円 |
95万円 |
100万円 |
72万円 |
85万円 |
90万円 |
140万円 |
客数 |
140人 |
150人 |
240人 |
136人 |
144人 |
170人 |
190人 |
200人 |
144人 |
170人 |
180人 |
280人 |
特に美容業界では、特定の時期に売上が集中しがちなため、月別分析が重要です。例えば、12月の年末シーズンや3月の卒業式シーズンなどは、特別なイベントに向けて来店客数が増加する傾向にあります。一方で、1月や4月などピーク時期後は、売上が低下しやすい時期です。
こうした繫閑の周期性を把握すれば、繁忙期に向けた準備やプロモーション強化、閑散期の売上を補う特別施策の検討などが可能となります。
また、月別分析によって年間の売上計画を立てやすくなります。過去データをもとに、どの月にどの程度の売上が見込まれるかを予測し、それに応じて資金繰りや広告戦略を最適化できるのです。長期的な視点で売上のトレンドを把握できれば、安定的な店舗経営の基盤づくりにつながるでしょう。
顧客に関する売上分析
売上を決定づけるのは「顧客」に他なりません。ここでは、顧客の志向や動向をより深く理解するための分析手法を3つ紹介します。
リピート率分析
リピート率分析とは、既存顧客がどれだけの頻度で再来店しているかを把握するための手法です。店舗にとって再来店の促進は新規獲得と比べてコスト効率が高く、利益向上に貢献しやすいため有効な手法といえます。
具体的な計算式は、下記の通りです。
リピート率=一定期間のリピート客数÷累計新規顧客数×100
リピート率が高い店舗は、サービスの質や顧客体験が優れている傾向があり、安定した売上が見込めます。反対にリピート率が低い場合は、サービス改善やアフターフォロー強化、再来店を促す割引クーポンやポイント制度などの施策を検討する必要があります。
定期的なリピート率のチェックをすることで、顧客ロイヤルティやリピーターの獲得につながり、長期的な売上増加を期待できるでしょう。
デシル分析|顧客層10グループごとの特徴・傾向を分析
デシル分析は、顧客を売上に基づいて10グループに分け、各グループの特徴や行動パターンを分析する手法です。分析結果をもとに、特定のグループに対する施策を検討します。
例えば、上位10%のグループを常連顧客として、彼らがどのようなサービスを好み、どれくらいの頻度で来店しているかを把握します。
これにより、上位顧客に向けた特別なサービスやプロモーションを提供すれば、より多くの売上を引き出せる可能性が高まります。対して、下位グループの顧客については、来店頻度アップに向けたターゲティング施策を検討します。
下記は、デシル分析の実施イメージです。
▼デシル分析の実施イメージ(某美容室の場合)
グループ |
売上構成比 |
累積構成比 |
客単価 |
来店サイクル |
---|---|---|---|---|
1(上位10%) |
30% |
30% |
12,480円 |
31日 |
2 |
20% |
50% |
9,980円 |
49日 |
3 |
15% |
65% |
8,500円 |
60日 |
4 |
10% |
75% |
7,200円 |
75日 |
5 |
8% |
83% |
6,000円 |
90日 |
6 |
6% |
89% |
5,000円 |
105日 |
7 |
4% |
93% |
4,200円 |
120日 |
8 |
3% |
96% |
3,500円 |
150日 |
9 |
2% |
98% |
3,000円 |
180日 |
10 |
2% |
100% |
2,500円 |
350日 |
分析結果を踏まえて、以下のように各グループに適した施策を検討します。
例:上位グループ向け顧客維持・強化策
- VIP会員制度の導入
- 優先予約システムの提供
- 新メニューの先行体験機会の提供
例:下位グループ向け活性化策
- 休眠客への再来店促進キャンペーン
- 低価格メニューの開発と提案
例:グループ別マーケティング戦略
- 上位グループ:高級感のあるDMや担当者からの個別メールによる情報提供
- 中位グループ:SNSを活用した情報発信と口コミ促進
- 下位グループ:LINEやSMSを使った気軽な情報提供と来店促進
以上のように、デシル分析は自店舗における顧客層の多様性を把握し、どのグループにどういった施策を実施すべきかを検討する際に有効なツールです。
RFM分析|顧客を3指標で分類して施策のヒントを取得
RFM分析は、顧客の購買行動を「最新購買日」「購買頻度」「購買金額」の3指標で分析する手法です。RFM分析により「優良顧客の維持」や「潜在的な顧客離れ」を防ぐための戦略立案が可能です。
- Recency (最新購買日): 最後に購入してからの経過期間
- Frequency(購買頻度):一定期間内の購入回数
- Monetary (購買金額) :一定期間内の購入総額
下記は、RFM分析の実施イメージです。R・F・Mの3指標は1〜5点の「5段階評価」に置き換えて集計・分析しやすくします。
▼RFM分析の実施イメージ(某美容室の場合)
グループ評価 |
R:最新購買日 |
F:購買頻度 |
M:購買金額 |
特徴 |
---|---|---|---|---|
VIP |
5 |
5 |
5 |
直近かつ頻繁に来店・高額利用 |
ロイヤル |
4~5 |
4~5 |
3~4 |
定期来店・一定額利用 |
安定 |
3~4 |
3~4 |
2~3 |
安定的に来店 |
離反リスク |
2~3 |
2~3 |
1~2 |
来店頻度低下 |
休眠 |
1 |
1~2 |
1 |
長期間来店なし |
分析結果を踏まえて、以下のようにグループごとに適した施策を検討します。ここでは、「VIP」グループと「離反リスク」グループを取り上げます。
例:「VIP」グループ(R:5、F:5、M:5)への対応
- 利用履歴に基づいた特別サービスの提供
- 新メニューの先行体験機会の提供
- 専属スタイリストの割り当て
例:「離反リスク」グループ(R:2~3、F:2~3、 M:1~2)の再活性化
- 前回担当者によるリマインダーメールの送信
- 休眠顧客への割引クーポンの提供
このようにRFM分析による結果をもとに、顧客のライフサイクルに合わせた適切なマーケティング施策を打ち出し、売上の安定化や向上を図りましょう。
製品・サービスに関する分析
店舗の売上を分析する上で、提供する製品やサービスのパフォーマンス把握は欠かせません。ここでは、2つの分析手法を紹介します。
メニュー別売上分析
メニュー別売上分析とは、店舗で提供するメニューごとの売上を、顧客数と客単価の2要素で算出して分析する手法です。
具体的な計算式は、下記の通りです。
メニュー別売上 = メニュー別客数 × メニュー別客単価
どのメニューが多くの顧客を集めているのか、またはどのメニューがあまり人気がないのかなどを把握します。この分析により、店舗の売上構造や各メニューのパフォーマンスを詳細に理解でき、売上アップに向けた戦略を立てやすくなります。
例えば、利用客数が多い人気メニューにオプションを追加して、客単価をより高めたメニューを作るといった戦略をとれます。
具体例として美容室の場合、カラーリングが特に人気の季節には、ケアカラーやヘッドスパ、特別なトリートメントなどをオプションとして追加した限定メニューを用意して、売上の向上を図れます。
また、反対に利用客数が伸び悩んでいる不人気メニューについては、価格を下げたり、人気メニューと組み合わせたりして、利用客を増やす施策を画策します。仕入れコストが発生するような不人気メニューの場合には、メニュー自体の廃止も選択肢に入るでしょう。
メニュー別売上分析を定期的に行えば、どのメニューが強化対象か、もしくは改善対象かなどを検討・判断でき、店舗の売上拡大を図れます。
ABC分析|製品・サービスを3グループに分けて比較
ABC分析とは、累積構成比に応じメニューをランクA・B・Cの3グループに分け、それぞれの貢献度・重要度を把握する分析手法です。計算の手順を示すと次のとおりです。
- 各メニューを売上順に並べる
- 各メニューの売上金額を全体の売上で割って百分率にし、それぞれの売上構成比を計算する(売上構成比=各メニューの売上÷全体の売上)
- 売上が多いメニューから順番に売上構成比を累計する
- 累計構成比をもとにメニューをA、B、Cの3つにグループ分けする
A、B、Cの分別基準の具体例を紹介すると、次のとおりです。
▼グループ分別の具体例
グループ |
サービスの内容 |
累計構成比の基準 |
---|---|---|
Aグループ |
売上全体の大部分を占める最も重要なサービス群 |
累計60%以下 |
Bグループ |
中程度の売上を生むサービス群 |
累計90%以下 |
Cグループ |
売上に占める割合が少なく貢献度が低いサービス群 |
累計100%以下(AグループとBグループ以外) |
以上のグループ分けをもとに、美容室のサービスメニューをABC分析したイメージを示すと、次のとおりです。
▼ABC分析の実施イメージ(美容室の場合)
メニュー |
売上構成比 |
累計構成比 |
ランク(グループ) |
---|---|---|---|
カット |
35% |
35% |
A |
カラー |
25% |
60% |
A |
パーマ |
15% |
75% |
B |
トリートメント |
10% |
85% |
B |
ヘッドスパ |
8% |
93% |
C |
ヘアセット |
5% |
98% |
C |
その他 |
2% |
100% |
C |
この分析結果を基に、例えば以下のような施策を検討します。
例:Aランクメニュー(カット、カラー)の強化
- 技術向上のための研修を重点的に実施
- 新しい技法や商品の導入を積極的に検討
- 広告やSNSでのプロモーションに注力
例:Bランクメニュー(パーマ、トリートメント)の成長促進
- クロスセルの推進(例:カットやカラーと同時予約で割引)
- 顧客への積極的な提案や体験キャンペーンの実施
例:Cランクメニュー(ヘッドスパ、ヘアセット、その他)の見直し
- 需要が低い理由の分析(価格、技術、ニーズなど)
- 改善の余地がある場合は対策を講じる
- 改善が難しい場合はメニューの縮小や廃止を検討
上記に挙げた施策以外にも、効率的な資材管理のためにAとBランクメニューに使用する商品の在庫を優先的に確保し、Cランクメニューの商品は必要最小限に抑えるなどの施策を検討可能です。
ABC分析を定期的に実施すれば、予算や人員などのリソースを効率的に配分でき、売上最大化に有効な施策を打ち出しやすくなるでしょう。
店舗やスタッフのパフォーマンスに関する分析
店舗やスタッフのパフォーマンスを詳細に分析することは、ビジネスの成長に欠かせません。ここでは、店舗別とスタッフ別に焦点を当てた分析手法を2つ紹介します。
店舗別分析
店舗別分析とは、複数店舗を展開している事業において、各店舗の売上や経営パフォーマンスを比較し、それぞれの強みや弱点を把握するための分析手法です。この分析により、地域性や立地、スタッフの配置、サービス内容の違いが売上にどのように影響しているかを把握できます。
例えば、ある店舗では特定のサービスが人気で高い売上を達成している一方で、別の店舗では異なるメニューが売上の中心になっているかもしれません。また、地域の人口や競合他社の存在が店舗ごとの売上に影響するケースも考えられます。
▼店舗ごとの比較項目例
- 売上
- 客数
- 客単価
- リピート率
- メニュー別売上
▼要因となる項目例
- 市場性に影響を与える要素(人口・年齢層・家族構成など)
- 競合店の有無
- スタッフの過不足
こうしたデータを基に、売上が低い店舗に対しては原因究明と改善を進めつつ、売上を伸ばしている店舗の成功要因を他店舗に適用できないかを検討します。
スタッフ別分析
スタッフ別分析とは、各スタッフの業績やパフォーマンスを評価し、売上への貢献度を把握するための手法です。スタッフのスキルや接客態度は、顧客満足度やリピート率に影響を与えるため、売上に直結します。
この分析により、どのスタッフが売上を伸ばしているのか、改善が必要なスタッフが誰であるのかを明らかにできます。
▼スタッフごとの評価項目例
- 総売上
- メニュー別売上
- 担当した顧客数
- リピート率
- 顧客からのフィードバック(アンケートなど)
分析結果を踏まえて、パフォーマンスの高いスタッフにインセンティブを与えてモチベーションアップを図ったり、必要に応じてスキルアップ研修や接客トレーニングを実施したりといった対策を施します。
ただし、スタッフ別分析は個人同士を比べるため、分析結果の扱い方やフィードバック方法には留意し、少なくともモチベーション低下を引き起こさないようにしなければなりません。
人件費率分析
人件費率分析とは、店舗運営における人件費が売上に対してどの程度の割合を占めるかを把握するための手法です。店舗の経営効率やコスト管理の健全性を評価する際に役立ちます。
具体的な計算式は、下記の通りです。
人件費率=人件費÷売上×100
業界や店舗の業態により適切な人件費率は異なりますが、下記を目安として紹介します。
▼業界別の人件費率(中小企業実態基本調査を基に作成※)
業界名 |
人件費率 |
---|---|
生活関連サービス業(理容・美容含む) |
15.8% |
宿泊業・飲食サービス業 |
31.7% |
小売業 |
12.9% |
卸売業 |
6.4% |
製造業 |
19.4% |
情報通信業 |
30.6% |
建設業 |
16.7% |
運輸業・郵便業 |
30.0% |
※中小企業実態基本調査(厚生労働省:令和5年版)の調査データ「3.売上高及び営業費用 ‐(2)産業中分類別表‐1)法人企業」を基に算出しました。
人件費率が高すぎると、利益が減少し、経営を圧迫する要因となります。反対に低すぎる場合は、スタッフ不足によるサービス低下や労働環境の悪化が懸念され、売上にマイナスの影響を与えかねません。
例えば、人件費率が平均よりも高くなっている場合は、スタッフのシフトや業務効率を見直す必要があります。一方、売上は安定しているが人件費率が平均よりも低い場合には、スタッフ教育の充実化や、採用による人員増加により人件費を増やすと、さらなる売上アップが期待できます。
店舗の売上分析を行う上での注意点
売上分析は、店舗の経営改善や成長に欠かせないプロセスですが、注意を払うべきポイントをおさえてこそ、効果的な活用が可能です。以下では、売上分析を成功させるための具体的な注意点を紹介します。
適切な期間で分析を行う
売上分析を行う際には、適切な期間を設定しなければなりません。分析期間が短過ぎると一時的な変動に惑わされやすく、反対に長過ぎればトレンドや市場変化を見逃す可能性があります。
例えば、季節要因の影響を分析する場合は、月次や四半期(3か月ごと)ごとの分析が効果的です。
一方で、突発的なキャンペーンやイベントの効果を測定する際には、週次や日次での分析が有効です。適切な期間設定により、トレンドを正確に把握しやすくなり、意思決定の精度が高まるでしょう。
データを正確に収集する
正確なデータ収集は売上分析の基本です。不確かなデータや欠損したデータが分析結果に混ざると、誤った結論に基づいた施策が実行され、店舗経営に悪影響を与えます。
例えば、売上データなどを手入力で登録する場合は、入力方法やデータのチェック体制を整え、正確性の担保が欠かせません。こうした手間を軽減したい場合には、POSシステムや会計ソフトの導入により、自動的に正確なデータを収集する仕組みの構築が有効です。
数字の裏にある要因を考察する
売上分析においては、数字の裏に隠された要因を考察・特定できるかが重要です。売上が増減した要因を、「価格が変わったから」「プロモーションを行ったから」といった直接要因だけで片付けず、先述した売上分析手法を用いながら背景にある要因を洗い出す必要があります。
例えば、特定の商品の売上が伸びた場合、その要因が「価格が安くなったから」だけでなく、「スタッフの接客が影響した」や「季節性が影響した」といった外的要因も考慮すると、より深い洞察や次の展開へのヒントを得られます。
分析結果をもとに行動する
売上分析の結果は、あくまでも実際の行動につなげるためのデータと洞察です。分析に注力するあまり、様々な分析結果を出すばかりになってしまい、具体の施策や行動にまで落とし込まれていないケースもあります。
分析は、得られた結果をもとに具体的な改善策や戦略を立て、実行に移してこそ意味があります。いわゆる「手段の目的化」が生じないように注意しましょう。
分析は定期的に行う
売上分析は一度行えば終わりではなく、定期的な実施が求められます。市場や顧客のニーズ、競合の動向は常に変化しているため、売上データも継続的に追跡し、最新の情報を基にした戦略を立てる必要があるのです。
例えば先に紹介したように、月次や四半期ごとの定期的な売上分析により、季節ごとのトレンドや顧客の変化を把握し、タイムリーな対応が可能となります。分析を定期的かつ継続的に行えば、長期的な売上の安定化につながります。
人的要素の影響力を理解する
売上分析では、人的要素に注意を払う必要があります。特に人手不足は、店舗の売上や利益に直接的な影響を与える大きな要因です。
四日市商工会議所の産業活性化委員会が565社を対象に実施した雇用問題(人手不足)に関するアンケート調査報告書では、以下の調査結果が公開されています。
▼自社における人手不足が現在の経営に与えている影響(複数回答)
とりわけ「新規受注の見送り、事業拡大、新規事業進出の困難」「ミス・遅延、品質低下、クレームの増加など」「事業所閉鎖、営業時間短縮、提供商品・サービスの削減など」は、売上に深刻な影響を与えかねません。
こうしたリスクを回避もしくは解消するためには、やはり「新たな人員の採用」は重要な課題といえます。
なお、「人員減少と比例して売上が低下した企業」に採用強化が求められるのはもちろん、「人員は減少したが、売上を維持・向上できている企業」にも採用強化は有効です。
なぜなら、人員減でも売上を維持できているのは「業務効率化」「生産性向上」を実現できているからこそであり、人員を増やせば更なる売上アップを見込めるためです。
以下のPDF資料では、「売上を最大化させるための採用」というテーマで、求人掲載の検討に有効な事例やデータを紹介しています。ぜひこちらから無料ダウンロードの上、ご活用ください。
質的要素の分析にも注力する
売上分析では、売上金額や客数といった量的なデータに注目しがちですが、質的要素の分析も欠かせません。質的要素とは、顧客からのフィードバックなど数値では表せない要素であり、例えば下記のようなものが挙げられます。
▼売上分析に有効な質的要素
- 顧客へのヒアリング
- お客様アンケート
- 口コミサイトの評価コメント
- 競合他店のリサーチ(メニュー構成やサービス内容の変化など)
- スタッフへのヒアリング(現場目線での課題把握)
こうした質的要素の分析によって、数値的な売上分析の裏付けが取れたり、新たな売上分析を行うための「仮説」を得られたりします。また、単に売上を追うだけでは得られない顧客の心理的要因やサービス改善のヒントを得られます。
質的要素の分析は、単なる売上増加だけでなく、顧客満足度の向上や長期的な成長戦略において重要な役割を果たします。量的データと質的データを組み合わせて分析すれば、より深い洞察が得られ、店舗経営の成功につながるでしょう。
質的要素の分析が店舗の売上アップにつながった好事例
質的要素の分析が店舗の売上アップにつながった好事例を3つ紹介します。
日常で受けたサービスを分析して顧客目線を理解
美容室「Repro(リプロ)」の代表である古澤さんは、当初はカット技術向上に注力していましたが、あるきっかけを機にユーザー目線での接客を強く意識するようになります。
最初は僕も技術があれば売上が伸びるだろうと思い、ただひたすらに技術を磨きましたが、実際はイマイチだったんです。そんな時に運悪く骨折し入院したのですが、丁寧に温かく対応してくださる看護師さんに感銘を受けて、技術だけでなく接客も大切なのだと思考が変わりましたね。
そして古澤さんは、次のような分析を始めます。
日常生活の中でどんなお店に行く時も、どんなサービスを受ける時も、良かった部分、悪かった部分をメモに書き出すようにしていましたね。こういう接客を受けたから自分はこういう気持ちになった、というようにお客さん目線でサービスと気持ちを関連付けて分析していました。
こうした徹底したユーザー目線での分析が接客に活かされ、店舗の売上を伸ばす重要な要素となったのです。
他店のリサーチを欠かさずニッチ戦略に成功
美容室「YOLO」の代表である池元さんは、他店のリサーチで得た情報を分析し、メニュー選定に役立て、ニッチ戦略を成功させます。
元々、7年前に独立したときから縮毛矯正を前面に押し出していました。当時からニッチ戦略を取っており、このエリアではほかに導入しているサロンがない、少しマイナーな薬剤を使っていたのですが、薬剤に関するリサーチは常に行っていたんですね。
さらに、縮毛矯正のなかでも髪質にあわせて細かなブレンドを行う「オイルストレート」への特化とインスタ発信により、集客数アップにつながりました。
今のマーケティングのトレンドはどの業界でも、何かひとつに特化させることです。僕の場合はほかの薬剤の取り扱いをやめて、オイルストレートに振り切ってしまうことにしました。
オイルストレートというニッチなサービスに特化することで、同エリアだけでなく東京や関東全域からお客様が訪れるようになり、集客サイトを使用しなくてもインスタグラムでの集客が可能になりました。結果として広告費を削減しながらも、集客数を増加させることに成功しました。
ペルソナの分析・設定で美容師のポジショニングを確立
美容室「NORA HAIR SALON」のトップスタイリストである石山さんは、スタイリストデビュー時に、具体的なターゲット顧客層である「ペルソナ」を分析・設定しました。
NORAでは、デビューするちょっと前にみんなペルソナ設定をします。そのとき、どんなペルソナにしようかとても悩んだのですが、私には兄が2人いるので、割と男性の方がコミュニケーションを取りやすかったこと、メンズカットが好きだったこともあってメンズカットに特化することにしました。
石山さんはメンズカットに加えて「韓国ヘア」に特化することを検討しましたが、他スタイリストとペルソナが重複するため、悩むことに。そこで代表の広江さんからのアドバイスが、方向性を固めるきっかけとなりました。
ゼロイチではなく、既にあるイチを自分で広げていく手もある。サロンのなかで唯一無二の存在になりたい気持ちはありましたが、それは数字をあげてから取り組んでも遅くない。まずは韓国ヘアで自分のお客さまの土台を作ろうと思いました。
この結果、リピート客が増加し、売上200万円を達成。ペルソナ分析を通じて、自身のポジショニングを明確にし、効率的なマーケティング施策を実施することが売上アップに繋がりました。
まとめ
店舗の売上分析は、経営状況を客観的に把握し、売上アップや改善を図るためには不可欠です。そこで本記事では、分析のタイプごとに以下の手法を紹介しました。
分析のタイプ | 分析手法 |
---|---|
売上の全体構造やトレンドを把握するための分析 | 売上構造分析 |
顧客に関する売上分析 | リピート率分析 |
製品・サービスに関する分析 | メニュー別売上分析 |
店舗やスタッフのパフォーマンスに関する分析 | 店舗別分析 |
また、店舗の売上分析を行う上での注意点は以下の通りです。
- 分析は適切な期間で定期的に行い、実際の行動にまで反映する
- 正確なデータを収集・集計した上で、数値結果の裏にある要因を考察する
- 人的要素および質的要素の影響力を注視する
店舗の売上分析は、経営の健全性を保ち、安定的に成長するための基盤です。各分析手法を用いて得られた洞察を基に有効な施策を実行し、売上や顧客満足度の向上を目指しましょう。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部