従業員のスキルアップやキャリアアップを支援する人材育成は、企業の成長に不可欠です。しかし、人材育成には費用がかかるため、助成金を活用することで費用負担を軽減できます。
本記事では、人材育成に活用できる助成金について、概要や対象、手続きの流れなどをわかりやすく解説します。ぜひ参考にして、人材育成に助成金を活用してください。
人材育成とは従業員の能力開発を通じて、企業の成長を促進する取り組みです。具体的には、研修や教育、OJTなどを通じて、従業員の知識、スキル、能力を高めることを指します。
なお、美容業界の人材育成については、以下の記事で詳しく解説しています。
人材育成の定義は従業員の能力を開発し、組織の目標達成に貢献できる人材を育成することにあります。
そのうえで、人材育成を行う目的は以下の通りです。
人材育成は、企業と従業員の双方に以下のような多くのメリットをもたらします。
企業側のメリット |
従業員のメリット |
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計画的な人材育成は、企業のビジョンと目標に合致した人材の効率的な育成を可能にします。外部から必要なスキルを持つ人材を探し出す時間とコストを削減し、自社内で安定的に人材を確保しましょう。企業の業績向上を支える強固な人材基盤を構築し、効果的な成長を促進できます。
計画的な人材育成の最大の利点は、従業員一人ひとりの現状を正確に把握して個々のスキルや経験に応じた最適なサポートを提供できることです。従業員は自身の能力を最大限に伸ばし、企業への貢献度を高めることができるでしょう。
また、育成プロセスを組織内で共有すれば、育成担当者が変更になってもスムーズな引き継ぎが可能です。従業員の継続的なスキルアップ効果も得られます。
人材育成における助成金とは、企業が従業員の能力開発を支援するために、国や地方自治体が提供する経済的な支援制度です。助成金は以下のような人材育成にかかる費用の一部を補助してくれます。
以下では、主な助成金の一覧と活用メリットを紹介します。
人材育成に活用できる主な助成金は、以下の通りです。
助成金を活用することで、企業は人材育成にかかる費用負担を軽減可能です。また、従業員はスキルアップやキャリアアップの機会を得やすくなります。
原則として補助金は返済不要です。組織の改善や成長に必要な資金を、返済の負担を気にすることなく有効に活用できます。
人材の定着やスキルアップ、人材育成の効率化など、組織の取り組みには一定の費用が伴うものです。補助金や助成金はこれらの費用負担を軽減し、施策の実行を後押ししてくれるでしょう。
また、補助金の認定自体が企業価値の向上につながる可能性もあります。補助金の対象企業に選ばれるのは、政府などの公的機関から「社会的に価値の高い組織」として認められた証だからです。人材育成や労働環境の改善に積極的に取り組んでいる証明を得て、社会的な信用を高められます。
厚生労働省が提供する、労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的な職業能力開発を促進するための制度です。
事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練などを計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成します。
この助成金の主な目的は以下の通りです。
個々の労働者のスキルアップだけでなく、企業全体の成長や日本経済の発展への寄与を目的としています。
対象となる事業主は、雇用保険適用事業所の事業主です。受給要件は、コースごとに異なります。コースによっては、資本金の額や労働者数などの企業規模に関する要件が設けられる助成金です。
申請にあたっては、各事業所において「職業能力開発推進者」を選任し、「事業内職業能力開発計画」を作成しているかが基本要件となります。
助成金を受給するためには、以下の要件を満たさねばなりません。
訓練計画の作成・提出 |
対象となる訓練を実施する前に、所定の「訓練実施計画届」を作成し、管轄の労働局に提出する |
計画に沿った訓練の実施 |
提出した計画に基づいて、実際に職業訓練を実施する 訓練内容や時間数などは、各助成コースの要件を満たす必要がある |
経費の負担 |
訓練にかかる経費(受講料、教材費など)や、訓練期間中の労働者の賃金を事業主が負担する |
支給申請の実施 |
訓練終了後は定められた期間内に、必要書類を添えて管轄の労働局に支給申請を行う |
申請手続きや要件は変更される可能性があるため、常に最新の情報を厚生労働省のwebサイトや管轄の労働局で確認してください。
人材開発支援助成金には以下のコースがあります。
各コースの概要や手続きの流れを解説します。
人材育成支援コースは職務に関連した知識やスキルを習得するための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するコースです。
従業員の職業能力開発を促進し、企業の生産性向上を支援することを目的としています。具体的な訓練内容としては新入社員や中堅社員、管理職の研修、専門スキル研修(IT、語学、経理など)などが挙げられます。コースの利用条件は以下の通りです。
支給限度額 |
1人あたり20~50万円 |
賃金要件 |
訓練期間中の賃金を通常通り支払うこと |
支給対象事業者 |
雇用保険適用事業所の事業主 |
対象となる訓練 |
職務に関連した知識やスキルを習得するためのもの |
適用条件 |
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研修を通じて従業員は自身の職務に必要な知識やスキルを習得し、業務の効率化や質の向上に貢献することが期待されます。
手続きの流れは、訓練計画の作成・提出、訓練の実施、支給申請の3つのステップに分かれます。各ステップの詳細は以下の通りです。
訓練計画の作成・提出 |
訓練の目的や内容、期間・費用などを記載した訓練計画を作成して労働局に提出 |
訓練の実施 |
訓練計画に基づいて訓練を実施 |
支給申請 |
訓練修了後に支給申請書に必要な書類を添付して労働局に提出 |
教育訓練休暇等付与コースは、従業員が自発的に訓練を受けるための休暇制度を導入した場合に、訓練期間中の賃金の一部を助成するコースです。教育のための休暇訓練が数日間の場合、適用されます。
教育訓練は自発的に行う必要があり、会社から従業員へ命令することはできません。
従業員の主体的な能力開発を支援し、キャリアアップの促進を行うのを目的としています。従業員が自身のキャリアプランに合わせて自由に訓練を選択し、受講できるのが特徴です。
支給限度額 |
30万円(生産性要件を満たすなら+6万円) |
賃金要件 |
訓練期間中の賃金を通常通り支払うこと |
支給対象事業者 |
雇用保険適用事業所の事業主 |
対象となる訓練 |
従業員が自発的に受けるスキルアップのための訓練 |
適用条件 |
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なお、適用要件には企業全体で雇用する被保険者数が関与します。被保険者数が100人以上の場合は最低適用保険者数は5名、職人未満の場合は1名です。
休暇訓練は日単位での取得が対象で、月単位になる場合には、別の制度を活用する必要があります。30日~1年の教育訓練になる場合には、長期教育訓練休暇制度を活用してください。
長期教育訓練強化制度を取得すると、賃金助成や経費助成が受けられます。賃金助成は6,000~7,200円、経費助成は20~24万円です。
休暇制度の導入・計画の作成、訓練休暇の付与・訓練の実施、支給申請の3つのステップで手続きを実施します。
制度の導入・計画の作成 |
制度導入の初日から起算し1~6ヶ月前に訓練計画を作成 |
訓練休暇の付与・訓練の実施 |
従業員に訓練休暇を付与して実際に訓練を実施 |
支給申請 |
訓練修了後に支給申請書に必要な書類を添付して労働局に提出 |
もし計画内容に変更が生じる場合には、提出後所定の期限までに届出を出さなければなりません。計画を提出前に制度を導入すると、助成金対象外になるため気をつけましょう。
人への投資促進コースは、高度な専門知識やスキルを習得するための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するコースです。適用できる訓練の内容は以下5つに分類されます。
定額制訓練 |
さまざまな訓練の選択ができるサブスク型の研修を活用する場合 |
高度デジタル人材訓練 |
非常に高度なデジタル技術を駆使できる人材を育成する場合 |
情報技術分野認定実習併用職業訓練 |
IT分野に特化していない人材を戦力化する訓練を受けさせる場合 |
自発的職業能力開発訓練 |
自発的に従業員が職業訓練を受けたい場合 |
長期教育訓練休暇等制度 |
休暇制度や時短勤務を活用して訓練を受ける場合 |
対応可能な訓練の分野が幅広く、かつ最大で75%の経費助成を受けられるのが大きな特徴です。
企業のイノベーションを促進し、競争力を強化することを目的としています。コースの概要は以下の通りです。
支給限度額 |
1事業あたり2,500万円 |
賃金要件 |
訓練期間中の賃金を通常通り支払うこと |
支給対象事業者 |
雇用保険適用事業所の事業主 |
対象となる訓練 |
AI、IoT、ビッグデータなどの高度なデジタル技術に関するもの |
適用条件 |
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高度な専門知識やスキルを習得するための訓練が対象となり、一般的なスキルアップは対象にはなりません。
手続きの流れは、訓練計画の作成・提出、就業規則への制度適用、訓練の実施、支給申請の3つのステップに分かれます。
訓練計画の作成・提出 |
訓練の目的や内容、期間や費用などを記載した訓練計画を作成して労働局に提出 |
就業規則への制度適用 |
自発的な訓練の場合には計画提出前に、長期の訓練教育休暇制度の場合は、計画提出後に自社就業規定に制度を導入する |
訓練の実施 |
計画に基づき、訓練を実施 |
支給申請 |
訓練終了後、支給申請書に必要な書類を添付して労働局に提出 |
厳密な手続きの流れは、適用する訓練の内容によって変化します。詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧ください。
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立ち上げや事業転換に伴い、従業員に新たな知識やスキルを習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するコースです。
事業展開等リスキリング支援コースは企業の事業転換を支援し、新たな成長分野への進出を促進することを目的としています。募集要項は以下の通りです。
支給限度額 |
中小企業は30~50万円 それ以外は20~30万円 賃金の助成限度は1,200~1,600時間 年間限度額は1年度につき1億円 |
賃金要件 |
訓練期間中の賃金を通常通り支払うこと |
支給対象事業者 |
雇用保険適用事業所の事業主 |
対象となる訓練 |
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適用条件 |
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新規事業に必要な知識やスキル、または事業転換に必要な専門知識やスキルを取得するのに活用できる助成金です。eラーニングや通信制の訓練も対象ですが、時間外訓練や定額制サービスの利用は禁止するなどの制限があります。
手続きは訓練計画の作成・提出、訓練の実施、支給申請の3つのステップに分かれます。
訓練計画の作成・提出 |
訓練の目的、内容、期間、費用などを記載した訓練計画を作成し、労働局に提出 |
訓練の実施 |
訓練計画に基づき、訓練を実施 |
支給申請 |
訓練終了後、支給申請書に必要な書類を添付して労働局に提出 |
人材開発支援助成金は、以下のような人材育成の場面で活用できます。以下では、厚生労働省が公表している人材開発支援金の活用例を一部抜粋して紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
情報通信業A社(従業員20名)では、これまでは社員のスキル習得を個人の自己学習に委ねていましたが、企業の組織力強化のため、計画的に高度なデジタル分野の資格取得を目指す必要がありました。しかし、個人任せでは資格取得につながらないことが人材育成上の課題となっていました。
この課題を解決するため、「人材開発支援助成金(人への投資促進コース:高度デジタル人材訓練<OFF-JT>)」を活用して、外部教育訓練機関によるプロジェクトマネージャ試験対策講座(一人あたり受講料計28万円)を実施しています。
その結果、資格取得者は専門知識を習得し、プロジェクト管理が可能となり管理職へ昇格しました。高度資格者の存在は会社の強みとなり、対外的アピールポイントにもなっています。
情報通信業D社(従業員30名)では、IT分野の経験者採用が困難になったため未経験者採用を検討しましたが、一から教育する体制がなく未経験者を採用できないことが課題でした。
この課題解決のため、「人材開発支援助成金(人への投資促進コース:情報技術分野認定実習併用職業訓練)」を活用しています。IT分野未経験者の即戦力化を目指し、外部機関でのプログラミング講座と、実務を通じたOJTを組み合わせた訓練を実施しました。
訓練の結果、未経験者が基本的なプログラミング言語の習得や実務経験を経て一人前のSEへと育成することに成功しています。
自動車部品製造を手掛けるY社(従業員130名)では、これまで個々の従業員に合わせた訓練を都度実施していましたが、訓練を探す手間や複数契約による費用負担が大きく、訓練機会の減少と生産性低下につながっていました。そこで訓練費用を削減するため、サブスクリプション型の導入を検討します。
そのうえで「人材開発支援助成金(人への投資促進コース:定額制訓練)」を活用し、多様な訓練を定額で受講できる外部機関の「営業職研修受け放題講座」(年間42万円)を導入。新入社員から管理職まで幅広い層の営業力向上を目指したeラーニング訓練を実施しました。
訓練の効果として、一つの契約で幅広い層に訓練を提供できるため、個別訓練を探す手間や複数契約の費用が大幅に削減されています。結果的に企業全体の生産性向上につながった好事例です。
人材育成に活用できる助成金は、人材開発支援助成金以外にもあります。各地方自治体も、地域の中小企業などを対象に、様々な助成金を提供しています。
専修学校リカレント教育総合推進プロジェクトは、社会人の学び直しを支援する文部科学省の事業です。専修学校が社会人向けに提供するリカレント教育(学び直し)講座を支援しています。講座開発費や広報費、受講料の一部などが対象です。
専門職業人材の最新知識・技能アップデートプログラムの開発 |
分野横断連絡調整会議の実施 |
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件数と単価 |
16分野×2300万円 |
1箇所につき2800万円 |
事業の期間 |
令和5~7年度 |
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概要 |
専修学校と企業の連携で最新の知能や技能に関するプログラムを習得できる |
各取組の進捗管理・連絡調整、事業成果の取りまとめ 普及・定着方策の検討、および関連動向・最新知識の情報収集 プログラム開発受託団体への提案を実施 |
DXリスキリング助成金は、都内中小企業等のDX推進を支援する東京都の事業です。都内の中小企業がDX推進に必要とする、従業員のリスキリング(学び直し)を支援しています。
募集対象は中小企業であり、DXに関する研修費用や研修期間中の賃金の一部が対象です。支援の適用条件は以下の通りとなります。
資本金か出資金の総額 |
従業員数(常時) |
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小売や飲食 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売 |
1億円以下 |
100人以下 |
そのほか |
3億円以下 |
300人以下 |
東京都が設立した法人や、東京都政策連携団体・事業協力団体に該当する場合にはエントリーできません。税金の未納がある場合や、過去5年間で違反のある企業も対象外です。
対象の研修は教育機関が計画した公開のレディメイド研修、または集合研修となります。しかし、教育機関に委託し実施するオーダーメイド研修の場合は例外的に対象となります。
受講する際には、研修の単価を1人単位で決定せねばなりません。ほかにも研修に関する規定事項は多数あるため、詳細は公式サイトからチェックしてください。
なお、助成金額は対象経費の4分の3、1人当たりの上限は75,000円、企業の限度額は100万円です。
オンラインスキルアップ助成金は、都内中小企業等の従業員のオンラインスキルアップを支援する東京都の事業です。都内中小企業等が、従業員のオンラインスキルアップに必要な研修費用や、研修期間中の賃金の一部を助成しています。
申請できる企業は中小企業と小規模企業です。中小企業の適用条件はDXリスキリング助成金と同じですが、独自に設定された小規模企業の条件は以下の通りとなります。
従業員数 |
条件 |
対象訓練 |
対象経費 |
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小売・サービス・卸売 |
5人以下 |
※在宅の場合は場所を問わない |
従業員に対する訓練でeラーニングやオンライン会議システムを活用して行われるもの |
受講料や訓練のID登録料および管理料 |
そのほか |
20人以下 |
助成金の対象額は、企業の規模により異なります。小規模企業の場合は最大27万円、中小企業の場合は20万円です。しかし、中小企業の場合は非正規雇用者を受講者の2割以上にすると、限度額が27万円にアップします。
そのほかの申請情報は、毎年公開される公式サイトをご確認ください。