労働環境の改善は、従業員のモチベーション向上や業績向上に直結する重要な取り組みです。
近年、働き方改革を推進する企業が増えており、株式会社hitocolorの調査では約6割の人が「勤務先が働き方改革を行っている」と回答しています。この結果からもわかるように、労働環境の整備は企業にとって欠かせない課題のひとつです。
本記事では、労働環境改善の基本ポイントや具体的な成功事例、助成金の活用法を解説します。働きやすい環境づくりを目指す経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
労働環境とは
労働環境とは、会社で働く労働者が置かれている環境全般を指します。
事業者は、労働者が快適だと感じる環境を整えるよう法律で義務付けられているため、その重要性を理解しなければなりません。ここでいう労働環境には、以下が含まれます。
- 労働条件
- 職場の物理的な環境
- 安全性
- 健康管理
労働環境を整えると、労働者のモチベーションや生産性が向上し、定着率が改善します。
職場環境との意味の違い
労働環境は「労働全般に関わる条件や状況」を指し、職場環境は「従業員が働く場所の具体的な物理的・社会的条件」を表す点で、両者には違いがあります。
両者の具体的な内容を把握すると、違いを理解しやすいでしょう。
労働環境 |
職場環境 |
|
|
ただし広義において、労働環境と職場環境は働きやすさに影響する要因として使われる言葉なので、同じように使われることもあります。
労働環境に関して定められた代表的な法律
労働環境を適切に整えるためには、関連する法律の理解が欠かせません。労働環境に関わる法律は、大きく分けて以下の5つがあります。
- 労働基準法:労働者を保護するために、労働時間や休憩、有給休暇などの最低基準を定めた法律
- 最低賃金法:労働者の生活を支えるために給与の最低額を規定している法律
- 労働安全衛生法:労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を形成するための法律
- 労働者災害補償保険法:業務上や通勤中の病気や怪我に対して必要な保険給付を行うための法律
- 労働契約法:労働者と使用者の間で結ばれる契約の基本的なルールを定め、両者の関係を良好に保つための法律
中でも特に重要なのが労働安全衛生法です。この法律は、労働者が安心して働ける環境を確保するために定められており、以下のような目的を掲げています。
この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
引用:電子政府の総合窓口(e-Gov)|労働安全衛生法第一条
さらに、第71条の2では、事業者が快適な職場環境を形成するために講ずべき具体的な措置が明記されています。
事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
引用:電子政府の総合窓口(e-Gov)|労働安全衛生法第七十一条の二
以上の法律をもとに労働環境の改善を図ると、従業員が安心して働けます。
日本が抱える労働環境に関する課題
労働環境に関する課題は、労働者の生活や健康に悪影響を与えるだけでなく、企業の生産性や経済全体にも悪影響をもたらす要因となるでしょう。以下に代表的な課題を挙げます。
- 長時間労働・時間外労働の常態化
- 労働内容に見合わない低賃金
- 職場における人間関係
- 働き方に関する多様性の欠如
- 労災および労働中に発生する事故
それぞれについて簡単に触れます。
長時間労働・時間外労働の常態化
厚生労働省の調査によると、過去から現在にかけて一般労働者の労働時間には大きな変化が見られず、長時間労働が依然として続いている状況です。
以下の厚生労働省の調査結果をまとめたグラフが示すように、労働時間の短縮は限定的であり、週49時間以上働いている人の割合は約21.3%(2016年時点)と報告されています。
これは5人に1人が1週間の法定労働時間を大きく超えていることを示しており、時間外労働が常態化しています。
また、人手不足も深刻な問題です。日本商工会議所が行った「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」では、人手不足だと回答した中小企業の割合が68.0%に上り、2015年以降の調査で過去最高となっています。
この結果から、業務量に対して労働者が不足している職場が多く、それが長時間労働や時間外労働の原因になっていることがわかります。
長時間労働は、従業員の心身に大きな負担をかけるだけではありません。職場の生産性や定着率を低下させ、人手不足のさらなる悪化を招くという悪循環を引き起こしています。
労働内容に見合わない低賃金
日本では、労働内容に見合わない低賃金が、労働者の生活や将来への不安を増大させる要因につながっています。
OECD経済協力開発機構の調査によると、主要国と比較して日本の名目賃金はここ30年間ほとんど上昇しておらず、他国との差が拡大しています。
美容師を対象にホットペッパービューティーアカデミーが実施した調査では、給与に不満を抱いて転職する人が27.8%に上ることが明らかになりました。この結果からも、美容業界でも低賃金問題が深刻化していることがわかります。
▼【美容師】初職を辞めた/転職した理由
職場における人間関係
職場での人間関係の課題は、労働環境を改善する上で見過ごせない要素です。
厚生労働省の調査によると、仕事や職場生活で強いストレスを感じると答えた人は82.2%に上り、その中で人間関係を原因とする割合が26.2%、つまり約4人に1人が人間関係の問題を抱えています。
さらに、株式会社ライボが実施した調査では、職場でハラスメントを経験したと答えた人の割合が65.8%と、2人に1人以上が何らかのハラスメントに直面していることが明らかになりました。
働き方に関する多様性の欠如
働き方に関する多様性の欠如は、日本の労働環境が抱える大きな課題のひとつです。育休の取得が難しい職場やワークライフバランスが整わない環境では、従業員の満足度や生産性が低下し、離職率が上昇する可能性が高まります。
たとえば、宮崎市役所が全職員を対象に実施したアンケートでは、約6割以上の職員が「働き方改革が進んでいると実感できない」と回答しました。この結果は、職場での柔軟性や多様な働き方の選択肢が十分に提供されていない現状を浮き彫りにしています。
さらに、同アンケートでは以下のような働き方改革に関する取組が挙げられました。
▼宮崎市役所で実施されていると思う働き方改革に関する取組
割合 |
|
時間外勤務の抑制のための取組 |
40.8% |
年次有給休暇等の取得促進 |
37.4% |
これらの施策は進められているものの、多様性を伴った働き方改革としては不十分である点が指摘されています。さらに、働き方改革を進めるために必要とされる具体的な取組として、以下の意見が多く挙がりました。
▼宮崎市役所において働き方改革を進めるために、特に実施すべきと思う取組
割合 |
|
デジタル技術の活用による業務の効率化 |
38.7% |
デジタル技術の活用以外の取組による業務の効率化 |
33.2% |
物理的な職場環境の改善 |
30.3% |
これらの結果を見ると、多様性の欠如は単に制度や施策の問題に留まらず、効率的な職場環境や柔軟性の不足、さらには技術導入の遅れが大きく影響していることが分かります。
課題を解決するには、働き方の選択肢を広げるだけでなく、従業員がより快適に働けるような環境の整備が欠かせません。包括的な取り組みによって、労働環境の改善を進めていく必要があります。
労災および労働中に発生する事故
労災や労働中の事故は、特に、建設業や林業といった職種でみられます。高所作業や重機の操作など、労働者が危険な環境で作業を余儀なくされるケースもあるようです。
厚生労働省が公表した「労働災害発生状況」によれば、2022年には「労働災害による休業4日以上の死傷者数」が13万2355人に上っています。
また以下に示すような労災に関係する環境要因にも注意が必要です。
- 気候的な条件: 高温多湿の環境での作業により、熱中症のリスクが高まる
- 物理的な条件:騒音が激しい工場内での長時間作業が、聴覚障害を引き起こす可能性がある
- 化学的な条件:有害な化学物質を取り扱う際に、適切な防護策がないと中毒や皮膚炎を発症する恐れがある
労働環境の悪化が会社に及ぼす影響
労働環境が悪化すると次の流れで、会社に及ぼす影響が深刻化します。
- 影響1.従業員の生産性低下
- 影響2.離職率の上昇
- 影響3.企業イメージの低下
- 影響4.人材確保の難化
- 影響5.会社の経営状態の悪化
各フェーズについて詳しく解説します。
影響1.従業員の生産性低下
生産性が低下する主な要因は以下の通りです。
- 長時間労働や休暇の減少
- 人間関係によるストレス
- 不当な評価など
特に長時間労働や休暇の減少、人間関係のストレスによるうつ病などの精神障害が深刻化しています。精神障害の従業員が増えると休職者も増加し、生産性の低下につながるため注意が必要です。
令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)をもとに、メンタルヘルス不調による休業者および退職者が多い業界を、割合の高いものから順にあげると次の通りです。
▼メンタルヘルス不調による連続1カ月以上の休業者または退職者がいた事業者の割合
業界 |
割合 |
情報通信業 |
32.4% |
学術研究、専門・技術サービス |
23.4% |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
23.3% |
金融業、保険業 |
22.3% |
教育、学習支援業 |
20.8% |
※令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)をもとに作表
以上の5つの業界を中心に、さまざまな業界でメンタルヘルス不調による労働生産性の低下を防ぐ取り組みが求められています。
影響2.離職率の上昇
労働環境の悪化は、従業員のモチベーションを低下させ、離職率の上昇を招きます。主な要因は次の通りです。
- 長時間労働や休日出勤の常態化
- 有給休暇の取得困難
- 人間関係の不和
- 評価制度の不明確さ など
さらに、企業のビジョンや価値観に共感できない場合も、従業員が離職を選ぶ一因となるでしょう。これらの課題に対して具体的な対策を講じないといけません。
実際に労働環境を改善し、離職率を抑えた成功事例もあります。
「働く環境の整備をして、離職率を下げたいという思いがあります。有給を取れるようにしたり、営業時間を11時から20時にして、講習会もなるべく営業時間内に行い労働時間が短くなることを目指しています。その甲斐あってか、このサロンは3年経った今もひとりの退職者も出していないんです」
引用:モアリジョブ|Lusso オーナー 小島亮さん
この事例からも分かるように、労働環境の整備は離職防止に直結します。企業経営を安定させるためには、自社の労働環境の見直しは欠かせません。
現在の状況に課題を感じている場合は、まずは具体的な改善策の導入を検討してみてはいかがでしょうか?
影響3.企業イメージの低下
労働環境の悪化は、離職率の上昇を招くだけでなく、離職者の口コミや経験談が広がり、企業の評判に悪影響を及ぼします。主な要因は以下の通りです。
- 長時間労働やハラスメントの放置
- 労働基準法違反が発覚する
- 社会的責任を果たしていないとの批判を受ける
これらの問題が露呈すると、取引先からの信頼を失い、取引縮小や打ち切りに発展する可能性があります。
東京商工リサーチのアンケート調査でも、取引先のコンプライアンス違反が判明した場合、32.4%の企業が取引停止や縮小を検討すると回答しており、労働環境の問題が企業経営に直結することが示されています。
このような背景から、労働環境を改善する取り組みは、求職者へのアピールだけでなく、取引先や顧客との信頼関係を維持するためにも必要不可欠です。
企業イメージの向上を図るためにも、労働環境の整備を優先課題とするべきでしょう。
影響4.人材確保の難化
労働環境の悪化は、企業の評判を損ね、人材確保を困難にします。離職率の上昇は、「働きにくい職場」という印象を広め、求職者から敬遠される結果になりかねません。
日本労働調査組合のアンケートによれば、過酷な労働環境である「ブラック企業」と認識されている職場に勤務する社員のうち、68.7%が離職を検討していると回答しています。
このデータは、労働環境が人材の定着や確保にどれほど影響を及ぼしているかイメージできるでしょう。
人手不足が続けば、従業員にかかる負担が増え、長時間労働や休暇取得の減少が避けられません。その影響で従業員のモチベーションが低下し、さらに労働環境が悪化する可能性があります。
また、柔軟な働き方を導入できる体制が整わないため、フレックスタイム制や在宅勤務の導入が遅れることも懸念されます。この状況が続けば、企業の魅力が失われ、競争力の低下にもつながるでしょう。
労働環境を改善し、従業員にとって魅力的な職場を整えられれば、優秀な人材を引き寄せ、企業の成長を支える基盤となります。
影響5.会社の経営状態の悪化
労働環境の悪化は、会社の経営状態に直結する重要な課題です。特に人材を十分に確保できない状況では、経営基盤が揺らぐ恐れがあります。
この課題は、多くの企業が直面している現実です。ロイターの調査では、3分の2の企業が人手不足による経営への影響が「深刻」「やや深刻」と答えています。
上記のデータが示すように、人手不足は企業の存続に関わる重大な課題です。
特に必要な人材が確保できない場合、労働環境がさらに悪化するリスクがあります。業務効率が低下すれば収益が減少し、コスト削減を余儀なくされる悪循環に陥る恐れがあるでしょう。
加えて、経営状態の悪化は、資金調達の難易度を高めるだけでなく、企業の信用力にも大きな影響を及ぼします。
このような状況が続けば、労働環境の悪化がさらに進み、結果として経営状態のさらなる悪化を引き起こしかねません。売上げの減少やコスト増加が財務に負担を与え、業績低迷へとつながることも考えられます。
最終的には、金融機関からの資金調達が難しくなる可能性も高まります。こうした事態を回避するには、労働環境の見直しが欠かせません。従業員が快適に働ける環境を整えられれば、人材の定着率向上が期待でき、経営の安定化が図れるでしょう。
労働環境を改善するポイント
次のポイントを意識すると労働環境を改善できます。
- 職場における労働衛生基準を見直す
- ワークライフバランスのとりやすい労働条件を制定する
- メンタルヘルスケアを重視する
- 労働者の安全・健康を確保する
それぞれについて解説します。
1.職場における労働衛生基準を見直す
厚生労働省が提示する基準を参考に、職場の労働衛生基準を見直しましょう。
- 照明:一般的な事務作業では300ルクス以上を推奨。適切な照度により、眼精疲労や不自然な姿勢による健康障害を防ぐ。
- トイレ:プライバシーが確保された設計を導入し、従業員が安心して使用できる環境を整備する。
- 休養設備:休養室や休憩スペースはプライバシーと安全を確保し、男女別で設置。随時利用できる環境が重要。
- 更衣室・シャワー設備:性別を問わず利用しやすい設計で、プライバシーを十分に考慮する。
- 温度管理:空調設備を18度〜28度に設定し、快適な作業環境を維持する。
- 空気環境:一酸化炭素は定電位電解法、二酸化炭素は非分散型赤外線吸収法(NDIR)で測定し、適切に管理する。
- 救急用具:労働災害に備え、専門家の意見を取り入れた上で、必要な応急用具を設置する。
これらを取り入れると、快適な労働環境が実現し、従業員の満足度や生産性の向上が期待できます。
2.ワークライフバランスのとりやすい労働条件を制定する
ワークライフバランスとは、仕事とプライベートを無理なく両立できるようにする取り組みを指し、これにより以下のような効果が期待できます。
- 労働者のモチベーション向上
- 企業全体の生産性向上
そのためには、労働基準法に基づく36協定の締結が重要です。この協定により、法定労働時間を超えた労働が可能になります。
しかし、同時に労働時間の上限を守る意識が必要です。具体的な基準は、次の内容となっています。
- 1日8時間・週40時間を原則
- 時間外労働は1カ月45時間、1年間360時間が限度
これを超える場合には、適正な割増賃金を支払わなければいけません。
さらに、従業員数が10人以上の事業所では、就業規則の届け出が法律で義務付けられています。厚生労働省が提供する「モデル就業規則」を参考に、トラブル防止や従業員の安心感を高めるための規則を作成するとよいでしょう。
また、中小企業や小規模事業者に向けた支援策も活用してみてください。たとえば、「働き方改革推進支援助成金」を利用すれば、次のような取り組みを効率的に進められます。
- ワークライフバランスの整備
- 職場環境の改善
こうした取り組みを通じて、労働者が快適に働ける職場づくりを目指しましょう。
3.メンタルヘルスケアを重視する
メンタルヘルスケアに力を入れると、労働者の働きやすさを向上させるだけでなく、企業全体の生産性や定着率の向上も期待できます。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、以下の4つのケアが推奨されています。
- セルフケア:労働者自身がストレスに気づき、自ら対処できる力を高める取り組み。事業者はこれを支援する役割を担う。
- ラインによるケア:管理監督者が部下の健康状態を把握し、適切な働き方や職場環境の改善に努める。
- 産業保健スタッフ等によるケア:産業医や人事担当者が専門的な知識を活用し、労働者の心身の健康を支える。
- 事業場外資源によるケア:公的機関や外部の専門家を活用し、必要なサポートや研修を行う。
メンタルヘルスケアの取り組みは、安全配慮義務の履行や心の健康不調の予防に留まらず、すべての労働者を対象に心の健康のレベルの引き上げを目指しています。このような取り組みは、安心して働ける職場環境の実現につながるでしょう。
4.労働者の安全・健康を確保する
労働者の安全・健康を確保するには、まずは労働安全衛生法を守りましょう。
同法によると、常時50人以上の労働者を雇用する事業場では、産業医の選任が義務付けられており、以下の職務を担います。
- 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関わること。
- 作業環境の維持管理に関すること。
- 作業の管理に関すること。
- 労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
引用:職場のあんぜんサイト|厚生労働省
また受動喫煙は、非喫煙者の健康に深刻な影響を及ぼします。
厚生労働省の報告によると、職場での受動喫煙が原因とされる年間死亡者数は約3600人にのぼると推定されている状況です。この問題は、職場環境の改善において見過ごせない重要な課題です。
そこで、以下のような取り組みを実践しましょう。
- 喫煙専用室の設置や標識の掲示
- 受動喫煙防止に関する教育や情報提供
- 衛生委員会での定期的な対策状況の確認
これらの対策を計画的に実施すれば、労働者の安全と健康を守り、安心して働ける環境が整えられるでしょう。労働環境改善の一環として、受動喫煙防止にも積極的な取り組みが求められます。
労働環境の改善事例・取り組み
以下では労働環境の改善事例・取り組みについて5つの事例を紹介するので、参考にしてください。
事例1:髪質改善サロンへ方向転換したVesper
美容室業界が抱える課題のひとつに、長時間労働やスキルアップの難しさが挙げられます。この問題を解消しようとしたのが、髪質改善サロン「Vesper」です。
以前は高いカット技術を売りにしていましたが、それが求人のハードルを上げ、応募数の減少を招いていました。
そこで、教育の負担を軽減するため、髪質改善サロンへの方向転換をしています。スタッフの体力的な負担を考慮し、ゆとりを持った営業スタイルを採用したのも、この決断の背景にあるといえるでしょう。
さらに、フレックス制の導入によって、美容師の実働時間を8時間に設定し、拘束時間や休日の選択肢を広げました。これにより、スタッフは働きやすさを実感しながらも、サロンの営業効率は維持されています。
もともと予約数を整理する狙いもあったので、ある程度の失客は計算内です。価格を上げて客数をわざと減らし、サロンワークが安定してきたところで、再度集客に力を入れようと考えていたんです。が、予想に反し、5月現在ですでに7月までの予約枠が7〜8割埋まってしまい…。人手が足りない状況はまだ改善できていないです(笑)。
引用:モアリジョブ|Vesperオーナー 齊藤良さん
経営方針の大胆な見直しで、労働環境の改善を図るアプローチには高い効果が期待されます。この新しい視点と確かな実行力によって、美容室経営に新たな価値が生まれ、さらなる可能性が開かれるでしょう。
事例2:6つの業種が集まった複合型ショップで労働環境の改善に挑むMINIMALMAAT
美容師の労働環境では、低賃金が大きな課題のひとつとされています。この問題に対し、MINIMALMAATは複合型ショップという新しい形態を採用しました。
ここでは、以下の6つの業種が連携する仕組みを通じて、労働環境の改善が目指されています。
- 美容室
- カフェ
- 雑貨、インテリアのセレクトショップ
- ドライフラワーのワークショップスタジオ
- 本の紹介サービス
- アート販売
美容師が低賃金に陥る背景には、技術売上への過度な依存があります。技術向上には練習時間が必要ですが、その間の収入は安定しにくいのが現状です。
また、手荒れや腰痛といった健康問題で業務を中断せざるを得ないケースも多く、離職の原因となっています。
MINIMALMAATでは、こうした課題に対応するため、美容業務以外の選択肢を提供しています。たとえば、手荒れが治るまでカフェスタッフとして働く、物販業務に携わるなど、多様な働き方を実現しました。
しかしこの形であれば、たとえば手荒れがおさまるまでカフェの店員をすることもできますし、お店で販売してるものの物販に携わることができて、売上もたてられるようになるわけです。アシスタントとして働いているスタッフというのはサービススキルがすごく高い子も多いので、手荒れひとつで美容室で働けないというのはすごくもったいないと思います。それを回避できるのです。
引用:モアリジョブ|MINIMALMAAT 美容師 丸山裕太さん
この経営モデルでは、技術力が不足していても物販スキルがあればスタイリストと同等の収入を得られる可能性があり、労働環境の改善が期待できます。MINIMALMAATの取り組みは、美容師のキャリアを広げる上で効果的な方法といえるでしょう。
事例3:全社員のオールラウンダー化によって働き方改革をした株式会社ときわ
株式会社ときわは、全社員が多様な業務に対応できる「オールラウンダー化」による働き方改革を実践している企業です。
この取り組みにより、社員同士が育休や繁忙期に柔軟にサポートし合える体制を構築しています。さらに、労働環境の改善に向けた柔軟な働き方を取り入れた点も特徴的です。
具体的な施策として、以下のような取り組みが進められています。
全社員が複数業務を行える「オールラウンダー」になることで、お互いをフォローし合える。また、どんなにキャリアを積んでいても、気が付くとそのスキルが古いものとなっていることもあるかもしれない。そうした考えが根付くことで、「異動をチャンスと捉える社員も多い」(髙畑社長)という。
引用:働き方改革特設サイト|株式会社ときわ 髙畑富士子 社長
これらの取り組みを通じて、株式会社ときわは社員の働きやすさを向上させると同時に、企業全体の生産性の向上にも成功しました。
社員一人ひとりが主体的に行動できる環境を整えた結果、モチベーションの維持が図られ、持続可能な経営の実現に結びついています。
事例4:IT化や他事業展開で離職理知が大幅に減少させたオリガミ・キャリアデザイン
美容師の離職率が高いという業界課題に対し、オリガミ・キャリアデザインはIT化や多様なキャリアパスを提供し、労働環境を改善しました。
美容業界では、結婚や出産を機に退職するケースが多く、慢性的な人手不足が続いています。また、復職者が少なく、キャリアパスの選択肢が限られている点も問題であったため、同社は以下の取り組みを行いました。
- スモールDXによる業務効率化:動画活用や鏡面のデジタル化で店販を強化。さらに、従業員にはPCやスマートウォッチを配布し、スプレッドシートによるデータ共有で業務効率化。
- 多様なキャリアパスの提供:ブライダルや動画制作など、さまざまな事業を展開し、従業員が自分に合った働き方を選べる環境を整備。
- ダイナミックプライシングの導入:平日や時間帯などに応じた価格設定を行い、市場ニーズに柔軟に対応し、集客をコントロール。
これらの取り組みにより、育児中のママ美容師が17時退社や土日祝の休みを取得しやすい環境が整い、産休・育休後の復帰もスムーズになりました。また、多様なキャリアパスの提供によって離職率の低下と採用応募数の増加も実現しています。
こうした魅力的な環境が口コミで広がり、採用の応募数も増加したという成果が出ています。副次的な効果としては、月のひとりあたりの売上が157万円と、一般的にいわれている美容室の生産性と比較すると、約3倍もの成果が生まれている点も興味深いです。
引用:株式会社リクルート|オリガミ・キャリアデザイン
オリガミ・キャリアデザインの取り組みは、IT化や業務効率化を通じて働きやすい環境を実現しつつ、給与ややりがいの向上にもつながっています。これらの施策は、美容師業界だけでなく、他業種にも応用できるポイントを多く含んでいるといえるでしょう。
事例5:スタッフ大量退職から雇用を安定させたコミュニティサロンと和
美容業界が抱える長時間労働や離職率の高さといった課題に対し、株式会社社会起業家パートナーズは「訪問美容と和」や「コミュニティサロンと和」を通じて、柔軟な働き方を実現しています。
美容師は結婚や子育て、介護などライフステージの変化を理由に退職するケースが多く、人手不足が慢性的に続いているのが現状です。この状況を改善するため、同社は以下の取り組みを実施しました。
- 19種類の多様な働き方の導入:土日勤務の有無や出勤日数、労働時間、給与体系をフローチャート化し、19種類の雇用形態から選べる仕組みを整備。長時間労働を防ぐ制度の導入:「ノー残業デー」や勤務終了後12時間のインターバルを確保する制度などを導入。
こうした取り組みの結果、社員は自身のライフステージに応じた柔軟な働き方を選べるようになり、離職率の低下とともに採用応募数が増加し、社員の負担が軽減されました。
その結果、初めは慣れない働き方に戸惑う社員も、その快適さを実感し、効率的に仕事を進められるようになったといいます。
働き方の一つとして訪問美容を検討したときに、「コミュニティサロンと和」の取り組みについて知って入社を決意。「働き始めたときは、『1時間もお昼休み取っていいの?』『終業後にお洗濯する人がいない?』と、とまどうことばかりだった」と笑う。もちろんそうした働き方は快適だし、そのほうが、結局効率的に仕事が進むことも理解できたという。
引用:厚生労働省|コミュニティサロンと和トップスタイリスト美容師志田夏子さん
コミュニティサロンと和の取り組みは、美容師が安心して長く働ける環境を提供しつつ、業務効率や満足度向上を実現した成功例です。このモデルは、美容業界にとどまらず他業種でも応用可能なアイデアといえるでしょう。
まとめ
労働環境を改善する際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 職場環境を整える:照明や空調、休憩設備などの改善で、従業員が快適に働ける環境を提供。
- ワークライフバランスを重視:フレックスタイム制や休暇制度の導入により、柔軟な働き方を実現。
- メンタルヘルスケアの充実:セルフケアや産業医のサポートで従業員の心の健康を守ること。
- 助成金の活用:「働き方改革推進支援助成金」などを利用することで、取り組みの負担を軽減しながら、効率的に改善を進められる。
労働環境の改善は、従業員の満足度向上と企業の競争力強化に直結する重要な取り組みです。助成金などを活用しながら、自社に適した施策を計画的に進めていきましょう。

- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部