厚生労働省は働き方改革を推進しており、法改正がすでに始まっています。
働き方改革では、多様な働き方を自分で決められる仕組みを目指しています。株式会社学情のアンケートによると、すでに働き方改革を全社的に取り組んでいる企業が64.3%もいました。
働き方改革を始めていない美容室は、早めに対応していきましょう。
働き方改革が進めば、美容師から魅力的な職場だと思われます。人手不足が解消され、業績の向上が期待できるでしょう。
しかし、実際に具体的な方法がわからないと、働き方改革を始める時に苦労します。
本記事では、働き方改革が求められる背景や意識するべきポイントについて詳しくまとめました。美容室の働き方改革を進める参考にしてください。
美容室にも働き方改革が求められる背景
中小企業庁が掲載している「年齢別人口統計の推移」からも、働き方改革が求められている背景が明らかです。それは少子高齢化に伴う生産年齢人口が減少しているからです。
美容室に限ると、一般社団法人日本美容サロン協議会が掲載している「公益財団法人 理容師美容師試験研修センターデータ」を見ればわかります。
美容師免許を取得する人数が減少し続けており、人手不足の深刻さが把握できるでしょう。
一般社団法人日本美容サロン協議会が掲載している「BEAUTY CAREER」のアンケートでは、美容師の離職理由第2位が「美容師以外の仕事がしたい」でした。
美容師の数が減少する中、人手不足は売上減少の一因となっています。
下記の記事では、具体的な美容師の人手不足の現状を紹介しています。
働き方改革は、美容師の人手不足を解消するための有効な対策です。美容師が働きやすい環境を整えて、安定した人員確保の準備を始めましょう。
ポイント1:働き方の種類を増やす
働き方改革では多様な働き方への対応が求められています。そこで、まずは働き方の種類を増やして従業員が自由に働ける環境を整えるとよいでしょう。
美容室における主な働き方として、主に次の3つが考えられます。
- 正社員
- パート
- フリーランス
それぞれについて解説します。
正社員
正社員になった美容師の大半は、オーナーから雇われて働きます。
雇われるメリットは、安定した収入とスキル取得です。初めて美容室に就職した場合、ほぼスキルがない状態です。スタイリストの下でアシスタントとして働き、スキルの向上を目指しながら指名客を増やすことが正社員には求められます。
ビューティーキャリアの調査によると、約60%のサロンでは約3年間アシスタント美容師として働き、スタイリストデビューする傾向があります。
しかし厚生労働省のデータでは、美容業を含む生活関連サービス業、娯楽業の3年目までの離職率が59%です。
年度 |
就職者数 |
3年目までの離職者数 |
|
---|---|---|---|
平成30年3月卒 |
14,516人 |
8,220人 |
57% |
平成31年3月卒 |
14,460人 |
8,300人 |
57% |
令和2年3月卒 |
13,909人 |
8,215人 |
59% |
スタイリストデビューをする前に離職する美容師が、約6割いてもおかしくありません。美容師の人手不足解消のためには、働き方改革が早急に必要です。
中には早くにスタイリストデビューし、オンラインサロンを使って多額の資金を獲得後に、独立した美容師もいます。
山野美容専門学校を卒業後、都内のサロンに就職し1年半でデビュー。2019年カラーの講師活動を開始し、1年半で100回以上の講習を展開。またInstagramで独自のカラー理論を発信し、美容師のフォロワー数が5万人を突破。2020年9月に自身のカラー理論のすべてをまとめたオンラインサロン「HAIR COLOR ACADEMY」をスタート。ヘアカラーに特化したオンラインサロンでは異例の、会員1,600名以上を誇る国内最大級のサロンへ成長し、今尚拡大中。2021年12月、原宿に「ROIS 表参道」渋谷に「Grows」をオープン。
正社員の働き方をするメリットは、素早くスキルを身につけられる点です。安定した収入も手に入るため、集中して技術力を向上させられます。
短時間正社員
ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、仕事とプライベートの両立が難しくて離職したと答えた人が23.1%、結婚や妊娠、出産を理由にやめた美容師も20.9%となっています。
美容職業を辞めた・離れた理由 |
割合(%) |
---|---|
サロンの雰囲気やテイストが合わなかったから |
26.1 |
給与に対して不満があったから |
24.5 |
勤務先のサロンでは仕事とプライベートの両立が難しいと感じたから |
23.1 |
仕事内容がハードだったから |
22.1 |
結婚・妊娠・出産のため |
20.9 |
美容師の離職原因にもなる拘束時間の長さを、短時間正社員を導入して解決しましょう。
短時間正社員は、所定労働時間が短い正規型の労働者を指します。時間当たりの賃金を、正社員と同等にしないといけません。
子育て後に復職した美容師に導入した美容室では、離職率が低下し、店舗数を増やしています。
週30時間の勤務でも正社員になれる、短時間正社員制度を導入しています。福利厚生がまだまだ整っていない会社が多いなか、短い勤務時間でも正社員になれるのはメリットがとても大きいのではないかと思いますね。子育て中の方などにとても好評です。
――実際これらのことを導入して、どのような効果がありましたか?
離職率が極端に低いです。試用期間にやめてしまう方は何人かいましたが、正式採用後に辞めたのはひとりだけ。最初はふたりからのスタートですが、今は44人のスタッフが働いてくれています。
実際に、別のホットペッパービューティーアカデミーのデータでも、女性美容師の復職したきっかけの理由の3位が「出産・育児・子育てが落ち着いた」となっています。
女性が多い美容室では子育て経験のある美容師は少なくないため、短時間正社員の活用で、人手不足を解消する良いきっかけとなるでしょう。
パート
パートタイム労働者は、正社員よりも労働時間が短い人を対象とした働き方です。
美容師の労働時間が短いと困るケースがあります。指名を頂いた顧客の施術中に勤務時間が来て、途中で退勤できない事例です。時間外労働が増加し、パートのメリットが損なわれます。
他の美容師に引き継ぎを行った場合、それが原因で人間関係が悪化するリスクもあります。
株式会社イーグラント・コーポレーションのデータによると、人間関係で離職したと答えた人が42.2%と最も多くいました。気軽に働けるパートの良さが損なわれる原因になります。
魅力的な労働環境を整えるためには、勤務時間の見直しと職場の雰囲気を悪化させない対策が必要です。働き方改革が浸透し、パートで働く美容師が働きやすい環境を提供できた事例があります。
例えば、時短勤務のスタッフがお客様のカットをしていて、カラーをすると退店の時間になってしまう…とします。そのときには他のスタッフが引き継いで、カラーを担当します。
「1人のお客様に1人のスタイリスト」ではなく、1人のお客様はスタッフみんなのお客様なんです。だから働き方が違ってもみんな平等ですし、協力し合えるんです。
「スタッフは平等」を理想とする美容室ならではの働き方改革です。パートで働く美容師が、勤務時間を自由に決められる労働環境を整えましょう。
フリーランス
厚生労働省の実際に働く人が多いと感じる就業形態に関してのデータによると、正社員として働く美容師が42.9%に対して、フリーランスや自営の美容師が53.1%と上回っています。(令和2024年8月時点でのデータ)
現在では、フリーランスを目標にする美容師は珍しくありません。
ただしフリーランスの働き方には、次の2種類がある点も注意してください。
- 業務委託契約
- 面貸し・シェアサロン
雇用された美容師と違い、複数の店舗で仕事ができ、努力次第で収入も高められます。
業務委託契約
ホットペッパービューティーアカデミーのデータを見ると、美容師の離職理由として最も多かった項目が給与の低さとなっています。
雇用された美容師の場合は兼業を認められず、簡単に給料を高められません。結婚を機会に転職を考える美容師も少なくないでしょう。
業務委託契約のフリーランス美容師は、直接オーナーと相談し、自由に報酬や働き方を決められます。複数の美容室と契約ができ、報酬も高められるでしょう。
仕事の相談がしやすくなり、ビジネスチャンスが広がった美容師もいます。
フリーランス一本だと、相談相手がいなかったのですが、業務委託提携をしてからはオーナーと相談できるようになりました。業務委託に踏み切ったことで、いろいろな人と関われる機会が増えたのが一番大きい収穫だと感じます。
あとは経済面にも嬉しいことが、業務委託を選択肢に入れてから、売上もアップしましたね。
業務委託なら店舗を構える必要もなく、身軽に独立ができます。給与の低さに悩む美容師の場合、業務委託契約のフリーランスとしての働き方を選ぶケースもあるでしょう。
働き方改革により、業務委託を希望する美容師が働きやすい環境を整えると、スタッフ不足の解消にもつながります。
面貸し・シェアサロン
面貸しやシェアサロンは、美容室の一画を借りて営業します。面貸しとシェアサロンにも働き方に違いがあるため、注意しましょう。
- 面貸し:美容室の空いている場所を貸し出すサービス。限られた場所しか施術ができない。
- シェアサロン:施術ができる範囲で美容室をレンタルするサービス。複数の美容師と共有できる。
業務委託契約に魅力を感じる美容師がいるかもしれませんが、面貸しやシェアサロンにもメリットはあります。他の美容師同士との交流が増え、お互いを高め合う環境が整っている点です。
『SALOWIN』が選ばれている理由は収入面よりも、人と環境です。もっとも支持を得ている要因は人で、『SALOWIN』で働いているフリーランス美容師の多くが現状にまったく満足していません。さらに上を目指していますから、日頃からお互いに技術を教え合う交流が生まれています。
美容師同士の交流が目的なら、面貸しやシェアサロンを活用してください。新しい方法で美容師を集めたい経営者も、面貸しやシェアサロンを試す価値はあります。
ポイント2:労働環境を整える
美容室での働き方改革を始めるなら、労働環境を整えましょう。
- 法律の遵守(法定の労働時間や休日・時間外労働協定)
- 仕事とプライベートを両立しやすい職場づくり
ただおしゃれな店舗を作るだけでは、美容師が安心して働ける環境とは言えません。上記の2つを意識して働きやすい美容室を作ってください。
法律の遵守
法律を遵守する際には、法律やルールに従った労働条件で従業員に働いてもらうことを意識しましょう。です。主に以下の2つが、労働環境を整えるポイントとなります。
- 法定の労働時間や休日
- 時間外労働協定
先述のホットペッパービューティーアカデミーの調査でも、仕事とプライベートの両立が難しいと感じて離職する美容師が23.1 %に上りました。
法令を遵守できれば、離職率を減少させて人手不足防止に役立つでしょう。以下を参考に法令遵守の意識をみてください。
法定の労働時間や休日
法定の労働時間とは、法律で定められた労働時間を指します。
雇用した美容師は1日に8時間、1週間に40時間より長く仕事をさせてはいけません。6時間以上の労働なら45分以上、8時間を超える労働は1時間以上の休憩が必要です。
具体的な法定の労働時間を知りたい場合は、中小企業基盤整備機構が示す具体的な労働時間を確認するとよいでしょう。
毎週1日か4週間で4日以上の休日を確保しないと、法令の遵守はできません。
商業施設にある美容室や慢性的な人手不足で悩んでいる美容室は、美容師の休日を確保しにくいため、より注意して法令順守の意識を持ってください。
時間外労働協定
時間外労働協定は、法定の労働時間よりも長く働く美容師に対して、残業を可能にする協定です。36協定ともいい、所轄の労働基準監督署長へ届出をしないといけません。
- 時間外労働に行う仕事の種類
- 1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限
- 休日労働の上限時間
上記は取り決めの内容の一部です。詳しくはこちらの厚生労働省のページを確認してください。
法律改正で時間外に上限が設けられた
2018年6月に労働基準法が改正され、時間外の上限が法律で定められました。月45時間、年360時間が上限となっており、36協定でこれ以上の時間外労働を許可しても認められません。
詳しくは、厚生労働省が働き方改革関連法を詳しく解説しているため、確認しておきましょう。
勉強会も時間外労働だと認識する
美容師業界では、営業終了後に勉強会や練習をするアシスタントが多くいました。
先述したホットペッパービューティーアカデミーの調査からわかるように、拘束時間の長さを理由に離職をする美容師は少なくありません。そこで勉強会を業務時間の一部とし、働き方改革を進める美容室は増えています。
業務時間も研修の一部と位置付けることで、アシスタントでもメリハリのついた働き方が可能となり、美容師の本来の醍醐味である技術やセンスの向上を追求できる環境を整えています。
拘束時間が短くなれば、仕事へのモチベーションを高められます。これからはメリハリのある働き方のためにも、勉強会の時間を労働時間内に設ける努力が大切です。
仕事とプライベートを両立しやすい職場づくり
先述したホットペッパービューティーアカデミーのアンケートでは、「仕事とプライベートの両立が難しいと感じたから」と答えた人が23.1%もいました。
それだけ、仕事とプライベートの両立を重視する美容師は少なくありません。多くの美容室では仕事とプライベートの両立を模索しています。
店の勉強会は週に一度、あとは自主練習というスタイルにしているので、自分の時間も調整してつくることができます。かといって、甘いだけの環境にはしたくないので、朝に練習する時間を設けているんです。
もちろん予約が入った順にはなるんですが、CHIEさんがいられる時間帯は、できるだけ僕のご予約は抑えめにしています。その分、CHIEさんが退勤する少し前、16時くらいからは、ご予約も30分間隔に戻して、本気のペースでやっています。
平日とたまに土日もなんですが、お昼にお弁当を頼んで、会社が半額負担しています。お休みの面ではもちろん有給を使ってもらっていいのですが、時間単位で使えるようにしていて、早く帰るときなどにも使えるようにしています」
上記の内容から労働時間や休日の確保、プライベートと仕事の両立には、美容師に合わせた働き方も重要になります。美容室のオーナーが主体となり、労働環境を整える仕組みを作っていきましょう。
ポイント3:福利厚生を整える
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、復職先サロンを決めた理由として「福利厚生の充実」を上げる美容師が21.1%でした。
復職先サロンを決めた理由 |
割合(%) |
---|---|
通勤がしやすい |
46.0 |
働く人の人柄が良い(自分に合っている) |
29.4 |
サロンの雰囲気やテイストが自分に合っている |
26.8 |
希望の日(土日など)の休みがとりやすい |
23.9 |
勤務時間が自分に合っている |
22.7 |
福利厚生が充実している |
21.1 |
5人に1人は復職先として福利厚生を重視していることがわかります。
福利厚生は、美容室で働く美容師とその家族に提供される、賃金と別の報酬を指します。具体的には以下の3つが主な福利厚生です。
- 社会保障の整備
- 休暇制度の導入
- その他の福利厚生の充実
福利厚生が充実した美容室は、美容師のモチベーションを高められるでしょう。
社会保険と労働保険の整備
福利厚生を整える時は、次の2つに加入してください。
- 社会保険
- 労働保険
この中でも、特に重要になるものは社会保険です。長く美容師を雇うなら積極的に加入しましょう。
健康保険と厚生年金保険については以下で詳しく紹介しますが、介護保険は難しい手続きは不要です。社会保険に加入すれば、加入者が40歳以上になるタイミングで自動的に徴収され、企業と従業員が折半して保険料を負担します。
社会保険
社会保険は3つの保険に分けられます。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
強制適用事業所となった場合、社会保険の加入が義務付けられています。条件としては、次の2つのパターンです。
- 被保険者が1人以上のすべての法人事務所
- 常時従業員を5人以上雇用している個人事務所
強制適用事業所の条件や、加入義務のある人の条件に関しては、地方厚生局のサイトで解説しています。
結婚や出産をきっかけに転職する美容師の中には、パートナーとの兼ね合いで、社会保険を完備した大手美容室に転職する美容師もいます。
妻は一般的なサラリーマンの家庭で育っているので、福利厚生がしっかりしている企業で働くことが当然の環境。その影響もあって、社会保険制度が完備している大手の美容室を選びました。
引用:モアリジョブ|ICH・GO東浦和店オーナー 青木貴紀さん
社会保険は、美容師を増やす上で大事な要素となります。美容師を離職させたくないなら、社会保険を完備して損はありません。
労働保険
労働保険は国が運営する保険制度です。パートやアルバイトであっても、1人でも労働者が在籍すれば加入義務が発生します。
労働者はハローワークに問い合わせると、労働保険加入の有無を確認可能です。労働保険未加入の美容室だと発覚した場合、精神的ショックで信頼を失い、離職にも繋がる可能性があります。
美容師をしています。有限会社登録の美容院で勤めているのですがオーナーが雇用保険に加入していませんでした。
10年勤めていたのに雇用保険に入っていなかったことに最近気付いてショックでした。
引用:Yahoo!知恵袋
労働保険には2種類あります。
- 雇用保険
- 労災保険
雇用保険は、主に失業した時に使う保険制度です。失業給付を受給できるため、生活費の心配をせずに再就職先を見つけられます。
労災保険は仕事が原因で、病気やけがをした場合に使える保険制度です。美容師なら、カット中にハサミで指を切った事実を証明できれば、受給できる可能性があります。
休暇制度の導入
心身ともに健康でなければ、効率よく仕事ができません。
特に美容師は、顧客と直接接触するため、衛生管理を徹底する必要があります。衛星管理は、病気や災害から消費者や労働者を守るための重要な措置です。
美容師が健康でなければ、疲労や休息不足で免疫力が低下し、感染症を拡散するリスクを高めてしまいます。このような状態が続くと、顧客は美容室に行くと感染症にかかりやすくなると考えてしまい、サービスへの信頼を失いかねません。
そのため美容室経営者は、労働者の健康を保つために休暇制度の導入を検討し、適切な休息を確保することが衛生管理にも繋がり、顧客との信頼関係を維持する鍵となります。
休暇制度は2種類に分けられます。
- 法定休暇
- 法定外休暇
上記2つの違いについて紹介しています。雇用した美容師と相性のいい休暇制度を見つけてください。
また休暇制度を導入する場合、休暇を取得しやすい雰囲気作りも同時に行いましょう。
法定休暇
法定休暇は法律で定められた休暇です。労働者から法定休暇の申し出があった場合、休暇を付与する義務があります。次の休暇が主なものとなります。
- 年次有給休暇
- 生理休暇
- 育児休業
- 介護休業
- 裁判員休暇
美容室経営で欠かせない法定休暇のひとつは、育児休業です。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、出産や育児のための制度を利用して出産後に元の職場に復職した人の割合が50.4%でした。
出産後の復職理由 |
割合(%) |
---|---|
出産・育児に関する制度を利用し、妊娠当時に就いていた店(会社)に復職した |
50.4 |
妊娠時に就いていた店(会社)は辞め、出産後は同じ職業で別の店(会社)に就職した |
21.4 |
妊娠時に就いていた店(会社)は辞め、出産後は別の職業の仕事に就いた |
9.5 |
妊娠時に就いていた店(会社)を一度辞め、また同じ店(会社)に復職した |
14.1 |
その他 |
4.6 |
以上から、育児休業があると出産したスタッフの離職を防止できることがわかります。
また育児休業制度は法的遵守のみならず、雇用した美容師の満足度も高められます。育児休暇は企業の成長を支える重要な役割を果たすため、必要不可欠な法定休暇だといえるでしょう。
ある美容室では、休暇取得の手軽さを出すためにわかりやすい名前に変更し、育休取得の気軽さを強調しています。
「パパ・ママ育休プラス」
パパ・ママともに育休をとる場合、原則として子どもが1才になる日の前日までの休業期間を1才2ヶ月まで延長できる制度(取得できる期間は1年間)
「パパ休暇」
ママの産後8週間以内に、パパが育休をとると、期間内にもう一度育休をとることができる制度
育児休業に加えて育児休暇も活用しています。育児休暇と育児休業には違いがあり、育児休暇は以下で紹介する法定外休暇のため、組み合わせて取得すると長期休暇も可能です。
年次有給休暇とも組み合わせて使えるため、出産時でも安心して休暇を取得できるでしょう。
法定外休暇
法定外休暇は会社独自の休暇で、上記で紹介した育児休暇も法定外休暇です。
法定休暇と違って任意のため、美容室の特色に合わせて休暇を作ると美容師へのアピールができます。例えば、キャリアサポートのために、海外遠征休暇を設けた美容室もあります。
AI TOKYOは、一人一人の「なりたい」「取り組みたい」を全力で応援しています。例えば、海外で活躍を目指すスタッフがいて長期休暇を許可したり、スタイリスト自身が考案したプロデュース商品への出資やサポートをしたり。
仕事とのメリハリがつき、モチベーションが高められます。年次有給休暇と同時に取得すれば安心して休暇が堪能でき、仕事中も美容師の力を思う存分発揮できるでしょう。
その他の福利厚生の充実
福利厚生を整えるなら、他社にはない独自の福利厚生サービスを導入しましょう。離職率が下げられる上に、それを目的とした入社希望者を増加させられます。
- オンラインピル処方
- 独立支援制度
美容室と関係のある珍しい福利厚生を導入した事例を2つ紹介します。
オンラインピル処方
オンラインピル処方とは、提携クリニックの無料診察でピルを処方できる法人向け福利厚生サービスです。
Nofate株式会社がサービスを提供しており、美容室を含む様々な美容系サロンを運営する株式会社GULGULが福利厚生として取り入れています。
生理痛やPMS(月経前症候群)の症状に効果的なため、女性美容師の多い美容室に重宝する福利厚生サービスといえるでしょう。
オンラインピル処方を導入した株式会社GULGULが調査したアンケート結果からも、「非常に良いと思う」や「よいと思う」と答えた人が多数となっており、好印象なサービスです。
厚生労働省の調査によると、生理で医療機関を受診した経験がないと答えた人が約50%以上となっています。
仮にPMS(月経前症候群)だった場合、「疲れやすい、気力がわかない」と答えた人が57.1%と、仕事にも影響が出てしまいます。
再診も無料でオンライン診察のため、受診経験がない人でも気軽に相談できる点が魅力的です。女性が多い美容室は、取り入れて損のない福利厚生サービスといえるでしょう。
独立支援制度
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、独立を考える美容師は、働き方改革が多様化している現在でも23.3%と高い数値となっています。
▼ 今後希望する就業形態
就業形態 |
割合(%) |
---|---|
オーナー以外の正社員 |
41.8 |
独立・オーナー |
23.3 |
パート・アルバイト |
17.9 |
契約社員・派遣社員 |
7.5 |
福利厚生として独立支援制度を導入すれば、モチベーションを高める美容師も少なくないでしょう。
そこで独自の独立支援精度を活用しているイーグラント・コーポレーションの事例を紹介します。独立支援制度とは、独立後に勤務している美容室内の店舗を選び、その店舗のオーナーになれる制度です。
運営委託方式のため、資金を出さずに初期投資で4,000万円規模になるおしゃれな店舗のオーナーになれます。毎月店舗使用料を支払わないといけませんが、売上が安定した店舗のオーナーとなれるため、リスクを最小限に抑えられます。
独立支援制度が福利厚生に含まれているとわかれば、独立を望む美容師の応募数の増加が期待できるでしょう。
ポイント4:働き方改革と並行して採用を進める
働き方改革だけに着手した場合、美容師の人手不足に対応できない可能性は高くなります。働きやすい環境を整えたとしても、独立やライフイベントによって退職する美容師には対応できないです。
株式会社学情のアンケートによると、働き方改革の波及効果として最も割合の高い項目が「入社後の離職率の低下」となっています。
働き方改革と同時に採用戦略にも力を入れてください。採用活動を並行して進めれば入社する美容師が増える一方で、離職する美容師数が抑えられるため、美容室の人手不足は解消されます。
働き方改革の成功事例
美容室での働き方改革について紹介しましたが、具体的な対策を把握できていない人はいないでしょうか?そこで美容室での3つの成功事例を紹介します。それを参考に自社の働き方改革を進めてください。
キャリアサポートへの取り組みで離職率が約9%になった事例
株式会社コルモイデアは、売上より美容室で働く美容師の働きやすさを重視した結果、離職率が9%と低くなりました。
一般的に美容室の離職率は40%ほどと言われておりますが弊社は約9%。しかも退職理由は家族の転勤などで、会社や働き方への不満といったネガティブなものは一切ありません。売上よりもスタッフの満足度を重視して働き続けることのできる環境づくりに力を入れた結果だと思います。
働き方改革の中でも福利厚生に注力しているところがポイントです。
- 産休や育休を取得した美容師は直近で7名いて、復職率が100%
- 外部の研修に参加すれば、経費として会社に請求できる
- 日曜日や祝日は美容室を休業にしている
閉店時間を18時に早め、美容師のプライベートを充実させる働き方を目指しています。営業時間外の研修や会議もありません。
毎年昇給する給与制度を導入し、産休や育休からの復帰後も基本給に上乗せされます。安定した収入が得られるため、子育て中の美容師にとって魅力的な美容室です。
柔軟な職場環境づくりで定着率が向上した事例
有限会社イーネでは、柔軟性のある働き方ができる美容室です。入社後の美容師の定着率が高く、安定した経営が実現できています。
一番大きな変化としては社員の定着率が向上した結果、指名客比率がアップし安定した経営を行うことができるようになりました。指名のお客さまが増加すれば広告費を削減できますよね。他には、求人広告も費用対が改善しました。広告費用が減った分、利益につながりますから、それらをスタッフに還元できています。
上記で紹介したビューティーキャリアの調査によると、多くの美容師が3年以内に離職している中で、豊富な働き方を提供し、ストレスの少ない職場環境を整えたことが、高い定着率を維持できた要因といえるでしょう。
- 完全フレックスタイム制を導入し、高いモチベーションのまま仕事に集中できる
- 雇用契約でも、希望に合わせて1人ひとりの働き方に合わせて調整可能
- 顧客との信頼関係を構築して、好きな日に休暇を取得できる
社会保険の完備、完全週休二日制、産休・育休後の復帰サポートなど、福利厚生が充実し、法定順守に配慮した職場環境を整えている美容室はそう多くありません。
産休育休からの復帰率が80%以上になった事例
株式会社ANLOOPは、産休育休からの復帰率が80%以上となった美容室です。
子育て中のスタッフが増えました。私が入社したばかりのころは子どもを持つスタッフがとても少なかったのですが、どんどん増えていき、店長などの管理職にも子育て中のママが抜擢されています。産休育休を取る人も増え、復帰率は80%以上、ここ数年は男性の育休も推奨しています。
独自の「働き方融通制度」の活用で子育て中の美容師が増加し、家庭を優先しやすい雰囲気ができたといいます。専門の相談窓口を設置し、相談後の翌日から希望の働き方ができる仕組みです。
- 急な休みも社内チャットで他店舗のヘルプで対応可能
- 雇用形態に関係なく、家庭環境の状況に合わせて勤務時間を自由に変更できる
- 店長職をやめても、降格をせずに自由な時期に役職を復帰できる仕組みもある
負い目を感じず、自由に相談できる仕組みや雰囲気作りができた点が、復帰率を高めるポイントです。美容師同士のコミュニケーションも増加し、美容室内のサービスの改善策や提案まで増えており、サービス向上が見込まれています。
まとめ
多くの業種で働き方改革が進む中、美容室も例外ではありません。幅広い働き方が可能な美容室は、美容師にとって魅力的です。
美容室の働き方改革を効果的に進めるポイントは、次のとおりです。
- 働き方の種類を増やし、仕事とプライベートの両立を図る
- 法令を遵守し、拘束時間を減らす
- 安心感を与えるために福利厚生を整える
- 働き方改革と人材採用を並行して行う
上記は大事なポイントですが、苦労する美容室経営者も少なくありません。
働き方改革と人材採用を並行して行うにしても、労力が分散して中途半端に終わるリスクも十分に考えられます。
働き方改革と人材採用を並行して進めるなら、まずは人事専門の人材を採用することを検討してみてください。経営と営業を兼務しているオーナーにとって、人事業務の負担を軽減し、効率的に改革を進めるためのひとつの方法です。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部