高卒採用の守るべきルールとは?注意点、求人を成功させるコツも解説
高校生の就職活動が2024年7月1日から解禁となりました。NHKによると、今年は高校生優位の売り手市場であることが報告されています。多くの企業が求人票を出し、求人倍率は全国平均で3.98倍と過去最高を記録したとのことです。
高卒採用の初任給を上げたこと、待遇改善をしたことなども同記事では記載されており、さまざまな手法を使って高卒人材を招き入れようと各社が必死になっているのが伺えます。
なぜこんなにも高卒採用が注目されているのでしょうか?今回は人手不足企業が増えるなかで高卒採用が注目される背景やメリットなど、採用担当が知っておきたい情報を解説します。ぜひ参考にしてください。
高卒採用はなぜ注目されているのか?
高卒採用は、年々増加の一途を辿っています。厚生労働省が令和5年度に発表した求人・求職状況の取りまとめによると、令和6年3月卒は令和5年3月卒に比べて求人数が10.7%も増えています。過去からの推移を見ても、平成25年以降はコロナ禍を除き求人倍率も求人数も増加傾向です。
▼高卒人材の求人・求職状況の推移
また、人手不足の業界が多いなか、高卒人材の取り込みはいずれの業界にもチャンスとなり得ます。株式会社ジンジブが高校生に希望進路として興味のある業界に関するアンケートをしたところ、製造・ものづくり業界に続いてサービス業に興味が集まっていました。
ほかにも上位には、建築や宿泊・飲食業界など、人手不足の傾向にある職種が並んでいます。中小企業や小規模事業主の人手不足にも、高卒人材が救世主となるかもしれません。
ここからは、各企業が高卒人材を注目する理由や魅力について詳しく説明します。
高卒人材は仕事に意欲的な傾向がある
高卒採用に人気が集まる理由について、関西テレビの取材では「高卒はハングリー精神がある」と分析しています。
最近では『令和の金の卵』といわれるが、真っ白で素直なところ、とてもハングリー精神のある子たちも多いので、そういった高校生を魅力に感じ始めている企業は多いのではないかと思う。
引用:FNNプライムオンライン
大学生よりもより先入観が少なく、企業や業界、仕事内容について真面目で真剣に取り組んでくれる学生が多くいます。育成のしやすさという点でも、素直さは大きなメリットといえるでしょう。
教育に長い期間をかけられる
大卒採用に比べるとかなり早く入社してもらえるため、20代までにリーダーとして育成することも難しくはありません。
大卒よりも4年早く実務経験を積める点は、20代になってからの大きなアドバンテージとなるでしょう。
また、専門性の高い仕事にも早めに取り組めるため、育成してからの活躍期間は長くなります。技術の習得を10代のうちに完了できれば、20代からは現場の中心人物として管理・育成もできるような人材へと成長するはずです。
採用コストを低く抑えられる
高卒採用は大卒採用に比べると、半分以下のコストで採用活動ができるのも大きな魅力です。高卒採用はハローワークを介して求人票を提示することが多いため、掲載コストは不要です。
さらに株式会社ジンジブの佐々木氏によると、採用支援サービスを利用した場合に大卒の採用単価が平均で80万円程度かかるのに対し、高卒採用では20~30万程度で抑えられるとのことです。
ほかにも、大学採用よりも初任給を比較的安く抑えられる点もトータルの費用で考えると理由のひとつといえるでしょう。
効率よく採用できる
低コストであることに加えて、効率の良さも注目される理由のひとつです。高卒採用の面接は1回が基本です。大卒採用のように、複数回+適性検査のような手間がかかりません。
また、この後説明するような一人一社制という併願ができないルールのために、内定辞退もあまりありません。内定後のフォローを求められるケースも少ないため、採用前から採用後まで、すべてにおいて効率が良くなります。
例えば5名を採用すると仮定した場合、ジンジブによると採用にかける時間を合計で497時間も短くできるとしています。
高卒採用の基本ルール
紹介したような魅力が多い高卒採用ですが、大卒採用などの一般的な採用に比べると独自のルールが多数定められています。ここからは、高卒採用ならではの特徴的なルールについて解説します。
1.一人一社制
高校生が応募できるのは、原則として一次募集の段階(例年7月~9月ごろ)で1社のみです。一人一社制では、学校側が生徒の推薦を行う代わりに、応募できる企業を1社に制限します。
応募する企業は、保護者や担任との面談も行ってから決定しています。一人一社制は、企業や職業理解がまだ難しい生徒に配慮しつつ、学校生活も損ねないように就職活動ができるように学校がサポートするための制度です。
定められたルールのもとで、企業が採用を決めると内定辞退は基本的にありません。ただし、一人一社制には学生の企業選択の自由を狭めるという意見もあり、賛否が分かれています。
検討会によって見直しが提言されているので、これからの動向を見守る必要があるでしょう。2024年現在のところ、10月以降は各都道府県別に定められたスケジュールに則り、一人二社制に切り替わるのが一般的です。
2.学校斡旋の原則(直接の交渉はNG)
高卒採用では学校斡旋が原則と決まっており、求人に関するやり取りを応募者と直接行うことは禁止されています。高卒採用をする際は、企業はハローワークに求人票を提出し、ハローワークから許可をもらい、学校に求人票の掲載依頼を行います。学校斡旋では、企業と学生の間には必ず学校が入ることが原則です。
近年では、高校を経由せずに企業から情報提供を受けて学生自身で就職活動をする「自己開拓」も増えています。自己開拓では、高校生自ら求人情報をハローワークや求人サイトで取得して比較検討をする就職活動が可能です。
1人1社制のルールに縛られず、複数社の応募もできます。とはいえ自己開拓も増えてはいるものの、学業との両立が難しいためにまだまだ少数派と言えます。
学校斡旋に則る場合、学生に対して直接的なアプローチはできない以上、企業がハローワークに提出する求人票の内容が採用活動の成否を大きく左右するといっても大げさではないでしょう。
3.求人票作成が必須
高卒採用を企業がはじめるには、ハローワークで求人票を提出しなければ基本的には進められません。また、これまでハローワークの利用がなかった場合、利用登録が最初に必要です。利用登録は、事業所を管轄しているハローワークで行います。
ハローワークの掲載経験がある企業も求人票は新たに作成する必要があります。求人票には高卒専用のものがあり、かなり細かく項目が設定されているからです。
サンプルのようなフォーマットが統一されているからこそ、中身で差別化を図らなければ応募者集めに苦戦するでしょう。会社の特長や仕事内容など、記載内容は具体的イメージが湧くように書くことが大切です。
4.三者協定に基づくスケジュール厳守
高卒採用に関するスケジュールは、行政(文部科学省と厚生労働省)、学校組織(全国高等学校長協会)、主要経済団体の3者による協定によって全国で統一されています。
ハローワークによる求人申し込み書の受付開始から定められているため、採用活動を他社よりも早めることはできません。
高卒採用のスケジュールに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。採用活動の準備から一連の流れを追っていますので、はじめての高卒採用の担当者の方やスケジュール面に不安がある方は併せてご覧ください。
2025年高卒採用のスケジュール
2024年8月時点で最新である2025年高卒採用のスケジュールは厚生労働省の発表ページによると、以下の通りです。
ハローワークによる求人申込書の受付開始(※) |
6月1日 |
企業による学校への求人申込及び学校訪問開始 |
7月1日 |
学校から企業への生徒の応募書類提出開始 |
9月5日 (沖縄県は8月30日) |
企業による選考開始及び採用内定開始 |
9月16日 |
ハローワークによる申し込みの受付開始や学校訪問開始のタイミングは、例年同じであることも多いです。受付開始については、2024年度も2023年と同様の日付となっています。
決定されているのはあくまで一次募集のスケジュールです。10月以降からはじまる二次募集については厳密な決まりはありません。
高卒採用を成功させるコツ
高卒採用には、魅力も多いですがさまざまな決まりごともあるうえにライバルも増えており、簡単に成功できるとはいえない状況です。
ここからは、成功させるために知っておくと役に立つコツを解説します。ぜひ参考にしてみてください。
学校関係者との関係性を作る
高卒採用において応募者と関わることはできませんが、学校関係者と関わることはできます。高校生が求職活動をする場合、求人票と就職サポートの担当職員が話す内容から企業の情報を得るケースがほとんどです。
ルールで紹介した一人一社制は、企業を比較する段階からはじまっています。リクルートワークス研究所が行ったアンケートによると、55.4%もの学生は1社の情報しか知らないままで就職活動を終了しています。
▼1社だけを調べ見て、1社だけを受けて、1社に内定した人の割合
結果からわかるように、多数の情報を比較せずに1社で決めている生徒は複数います。
就職相談の担当職員に自社の魅力や熱意をしっかりと伝えると、学生にも積極的に紹介してもらいやすくなり、1社に選ばれる可能性が高くなるかもしれません。だからこそ、紹介してもらえるチャンスを増やすには、学校関係者との関係構築が最も効果的といえるでしょう。
ターゲットとなる高校は絞り込む
関係性の構築ともつながる内容ですが、ターゲットとする高校はなるべく絞り込んで量より質を重視したほうが成功する確率は上がります。以下の条件に多くあてはまるような高校をターゲットとして選びましょう。
- 就職する学生数が10~20名程度は毎年いる
- 自社と近隣エリア、もしくは同一県である
- 専門職の場合は専門科がある学校である
- 自社で過去に採用している実績がある
採用したい人数にもよりますが、大体10校程度を目安にピックアップします。
国家資格が必須な専門系の仕事が高校の専門科で学べるケースもあります。例えば美容ならこちらのような美容高等課程のある学校などです。自社に適している人材を育てている学校がないかを、幅広い視野で探してみてください。
求人票は企業の魅力を具体的に入れる
企業が学生にアピールするには、求人票の充実は必須です。しかし学生のなかには、たくさんの求人票があるものの、内容がざっくり過ぎてイメージが湧かなかったという意見もあります。
学校にある求人リストから選びました。紙で辞書のようにありましたが、業務内容もざっくりとしか記載されていないですし、説明もないのでイメージは湧きませんでした。
とりあえず、休みと給与とネームバリューで選びました。
今思うと違和感しかないですね。(20代 富山県工業高校卒)
引用:一般社団法人UNIVA「当事者の声」
このような事態を招かないためには、求人票に学生が求めている情報を具体的に記載するとよいでしょう。株式会社ジンジブが学生を対象にした欲しい情報についてのアンケートによると「社風・職場の雰囲気」、「休日などの待遇」が上位に並んでいます。
また、リクルートワークス研究所のアンケートによると、高校卒業後の就職を選んだ理由で最も多いのは、「早期自立・成長のため」でした。
▼高校卒業後に就職を選んだ最も大きな理由
2つの情報から具体的に記載すると効果的とわかるのは、求人票のうち以下の記載欄です。
- 仕事の内容
- 労働条件のうち休日、福利厚生の部分
- 職業能力の開発及び向上に関する取組の実施状況
- 職場への定着の促進に関する取組の実施状況
記入するときは、高校生の目線に立って難しい言葉や用語はなるべく使わずにかみ砕いて記載することを心がけましょう。
学校訪問は3回、採用担当者と関係性を作る
求人票を充実させるだけでは、自社の魅力を十分に伝えることは難しいです。求人票には画像を掲載できないため、文章のみになってしまい他社との差別化は容易ではありません。
そのために重要となるのが、学校担当者が学生に伝えてくれる情報です。また、内定後も挨拶をすることで、来年度も勧めたい会社として認識してもらえるチャンスが広がります。
ですので、学校訪問は求人提出前、求人票の提出時、内定者推薦のお礼の挨拶の3回は行うとベストです。
訪問するのは経営者や役員クラスと学校出身者の2名が理想ですが、難しい場合は採用担当者と求人票で希望している職種の従業員を選びましょう。
最初の訪問時には、自社の魅力をプレゼンすることはもちろん大切ですが、高校の情報も聞いておくと自社にマッチした人材の採用につながりやすくなります。伝えること・聞くことは忘れないようにメモしてから訪問してください。
職場見学とインターンシップを活用する
学生が求めている情報で学校訪問や求人票だけでは伝えにくい項目が「社風・職場の雰囲気」や「人間関係」です。
この2つを伝えるには、職場見学やインターンシップを実施することが効果的です。
職場見学は応募受付を開始する前の夏休み期間、インターンシップはキャリア教育を目的として高校と協力して実施します。興味を持った学生へ個別での回答や、実際の仕事内容のより具体的な説明などができ、数少ない企業が学生と直接交流できる場でもあります。
高校と協力しなければできない特性から、高校との関係性づくりに役立つのも大きなメリットです。
採用後の離職を防ぐために環境を整える
高卒採用で注意しなければならないのが、入社後のミスマッチです。厚生労働省の行った調査によると、令和2年3月卒業者の3年以内の高卒離職率は37.0%の結果となりました。
早期離職の理由は、職場環境が整っていないことが原因かもしれません。リクルートワークス研究所が行った高卒就職者の最初の職場における教育機会があったかのアンケートでは、「機会がなかった」という回答が半数以上を占めていました。
高卒用の求人票にも記載部分があるほど、成長機会があるのかは重要な事項です。求人票の欄を書くことが難しかったり高校生目線で魅力的に思えないと感じたりした場合、自社の教育体制や評価制度の見直しも検討してみましょう。
高卒採用をするときの注意点
高卒採用には決まりごとが多いことは説明しましたが、ほかにも注意しなければならない点も多数あります。
ここからは、ルールに定められている禁止事項や法律の遵守など、知らないとトラブルの原因となる注意点を解説します。
禁止(申し合わせ)事項を確認する
高卒採用には、応募者の権利を守るために不利益にならないように配慮した採用活動が求められます。
このような原則に違反しないことを目的とし、いくつか企業側が禁止されている行為について、東京労働局の作成した「’25新卒者募集のために」を参考・抜粋しながら紹介します。
利益供与の禁止
利益供与とは、企業側が金品またはなにかしらの便宜を図るなど、何らかの形で利益を与えることです。
高卒採用において、新規学校卒業者やその保護者、またはその他の関係者に対して利益供与を行うことは禁じられています。利益供与の範囲は広く、金銭の支払いだけでなく、債務の免除や肩代わり、低額での資産売却なども含まれます。
自社商品の特別値下げや優遇販売もこれにあたるため、企業側は学校や学生との関わり方には気を付けましょう。
家庭訪問の禁止
求人者や委託を受けた人物が、候補者や応募者の家庭を訪問することは禁じられています。家庭訪問の禁止については、採用内定後も同様です。
職場見学での禁止事項
職場見学は高卒採用に有効な手段ですが、禁止事項も多いです。具体的には、以下の内容が禁止、もしくは守るべき事項として定められています。
- 実施時期は学業に影響の少ない時期にすること
- あくまで採用選考ではないと認識すること
- 職場見学の参加の有無によって合否を決定しないこと
- 応募書類をはじめ生徒に「職場見学のお願い・職場見学確認書」以外の提出を求めないこと
- 本人の状況の聴取など採用選考に直接つながる質問をしないこと
- 内定と受け取られるような話をしないこと
参考:「東京都高等学校就職問題検討会議」の申し合わせについて
特に4つ目の提出書類については、参加アンケートなども含まれます。大卒採用では当たり前にできることですが、実施しないように注意してください。
採用に関わる法律を遵守する
採用には、労働基準法をはじめとして多くの法律が定められています。採用活動をする企業は、これらの法律を遵守して採用活動をしなければなりません。
例えば、以下のような法律があります。
労働基準法 |
労働条件の書面交付や法定休日以上の過剰労働の禁止など、労働者の権利を守る最低労働基準が記載された罰則のある基本法 |
労働契約法 |
企業と労働者双方の立場を公平にするための原則を定めている民事的ルールを示した当事者間が合意することで成り立つ法律 |
職業安定法 |
公共職業安定所(ハローワーク)やその他の職業紹介事業者を規制する法律。求人票に明記する情報が定められている。 |
男女雇用機会均等法 |
性別による雇用差別をなくすための法律。採用や昇給、教育訓練などの機会を男女平等に与えることを定めている。 |
次世代育成支援対策推進法 |
少子化の進行に伴い、子育てや育成についての計画を作成し、労働局への提出を定めた法律。常時雇用が101人以上の事業主は義務付けられている(2023年4月~)※100人以下は努力義務 |
厳守することは基本ですが、法律は、時代に合わせた内容に日々改正されています。2024年4月にも労働条件明示のルール変更がされました。
「知らないうちに違反していた」という事態にならないように、法律の改正も注視しながら採用活動は行いましょう。
面接の判断基準が定められている
高卒採用の面接では、容姿や印象にとらわれず、客観的に適性・能力を判断することが重要です。本人の能力や適性と関係ない事項を採用の判断基準にしてはいけません。
基本的人権に配慮し、就職差別を起こさないために以下の質問は行ってはいけないとされています。
本人に責任のない事項
- 本籍・出生地に関すること
- 家族構成や続柄、健康状態や収入など
- 住宅状況
- 生活環境・家庭環境に関すること
本来自由であるべき事項
- 宗教や支持政党に関すること
- 人生観や生活信条
- 尊敬する人物
- 思想に関すること
- 労働組合や学生運動などの社会運動に関すること
- 購買新聞・雑誌や愛読書に関すること
家族のことや尊敬する人物など、緊張を緩和するためのアイスブレイクに使われやすい話題もあります。うっかりして話してしまわないように面接官は心得ましょう。
まとめ
高卒採用についてのポイントは、以下の通りです。
- 高卒採用が注目される要因は、応募者が素直なことや採用コストが低い点
- 高卒採用には一人一社制や学校斡旋などの守るべきルールがある
- 高卒採用を成功させるには学校関係者との関係構築と職場見学が重要
- 禁止事項や法律やルールがあり、年々更新されるのでこまめに確認すること
高卒採用は大卒採用よりも学生の選択肢が少なくなりがちなため、低コストや育成期間の長さなどの魅力も多いもののミスマッチも起こりやすい危険性があります。
ミスマッチや応募不足を起こさないためには、十分に準備して他社と差をつけるしかありません。うまく進めることができれば、リスク以上の価値も得られるはずです。この記事を参考にして、自社の高卒採用活動を成功へ導きましょう。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部