あん摩マッサージ指圧師の定着率が思うように上がらず、お悩みの経営者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、あん摩マッサージ指圧師の離職率や、離職率が高くなりやすいマッサージ院の特徴を紹介します。離職率を下げるポイントや採用時の注意点なども解説するので、ぜひ参考にしてください。
あん摩マッサージ指圧師の離職率
厚生労働省の調査によると、あん摩マッサージ指圧師が属する「医療,福祉」は、高校卒業者、大学卒業者ともに3年以内の離職率が上位5位内に入っています。
▼【令和6年】新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち離職率の高い上位5産業
しかし、「医療,福祉」には他の職種も含まれており、あん摩マッサージ指圧師のみの離職率でない点に注意が必要です。あくまでも目安程度に捉えておきましょう。
あん摩マッサージ指圧師の離職率が高い理由
あん摩マッサージ指圧師の離職率が高い理由は次の通りです。
- 体の負担が大きい
- 給料が全国平均を下回る
- 就職先が不安定
- 業務時間外の勉強が多い
- オーナーと合わない
- 人間関係のストレスが大きい
それぞれの理由について解説します。
体の負担が大きい
あん摩マッサージ指圧師は、無理な姿勢で施術をしたり、指に全身の体重をかけたりするため、身体的な負担が大きいです。腱鞘炎や腰痛などに悩まされる人も少なくありません。
また、長期的に体を酷使すると仕事を続けることが難しくなり、やむを得ず離職する人もいます。
給料が全国平均を下回る
厚生労働省が運営するjobtagによると、あん摩マッサージ指圧師の年収(はり師、きゅう師を含む)は459.3万円です。ハローワーク求人統計データによると、月額は26.3万円です。
一方、国税庁の調査によると、令和5年における全国の平均年収は460万円であるため、あん摩マッサージ指圧師の年収は平均に比べ低い値です。
就職先が不安定
あん摩マッサージ指圧師の就職先は、小規模な治療院や個人経営の施設が多く、雇用環境が不安定なケースがあります。
従業員が会社の将来性に不安を感じると、早期離職につながるケースが増えます。実際、エン・ジャパン株式会社がアンケートで「会社に言えなかった本当の退職理由」について尋ねたところ、23%の人が「会社の将来性に不安を感じた」と回答しています。
▼会社に伝えなかった本当の退職理由
業務時間外の学習が多い
業務時間外の学習が多いと、従業員がそれを負担に感じて、離職することが多くなります。
しかし実際は、雇用主が時間外の学習について費用を負担すれば、スタッフの離職につながらないケースが多いと考えられます。
産業能率大学総合研究所の調査によると、会社が費用を負担してくれるなら勉強したいと回答した新入社員が約71%にも上りました。
つまり、会社からのサポートなどをせずに業務時間外の学習を促すと、スタッフの不満やストレスが蓄積し、離職率の悪化につながりやすくなります。
オーナーと合わない
小規模事業者が目立つマッサージ業界では、オーナーが上司となり、部下のスタッフと関わる機会が多くなります。スタッフがオーナーと合わないと感じると、離職するケースも多くなるでしょう。
株式会社エミリスが行った調査によると、部下が上司と合わないと感じる瞬間は次の通りでした。
以上の結果によると、まずはオーナーが感情的にならずにスタッフの話を聞いてあげることが、離職防止につながると考えられます。
人間関係のストレスが大きい
人間関係によるストレスが原因で離職する人も多いです。
実際、厚生労働省の調査によると、男性は「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」「定年・契約期間の満了」といったやむを得ない理由を除くと、「職場の人間関係が好ましくなかった」が9.1%で最も高いです。
女性は最も多い「その他の個人的理由」に次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」が13.0%で2位です。
ただし、これらは主要産業全体の離職理由であるため、あん摩マッサージ指圧師に限定された話ではありません。
あん摩マッサージ指圧師の離職が経営に与える影響
離職率が上昇して人手不足になると、従業員一人ひとりの負担が増えて離職の連鎖につながります。また、あん摩マッサージ指圧師のような特殊スキルが必要な仕事の場合、教える人が不足して更なる悪循環を起こすリスクもあります。
会社で連鎖退職が起きつつあります。
去年の2月頃に1人辞めてからじわじわと社員、パート共に辞めていき新入社員、新しく雇ったパートも長続きせず消えていきます。
先月も十数年務めた社員が辞め、今月末でまた社員1人辞めます。来月末に辞めると話をしている社員もいます。
(中略)
新しい人を雇っても教える人員が足りず、残業も毎日あり、技術不足によるミスも増えています。
引用:Yahoo!知恵袋
また日本政策金融公庫の調査によると、人手不足の影響で約4割の企業が「売上機会が逸失した」と回答しています。売上機会の逸失は、経営に直接的な影響を与えるため、迅速な対策が求められます。対策方法については次の記事で詳しく解説しています。
離職率が高いマッサージ院の特徴
離職率が高いマッサージ院には次のような特徴があります。
- 労働環境が悪い
- 採用時の業務内容の説明が不明確
- キャリア開発の機会不足
それぞれの特徴について解説します。
労働環境が悪い
労働環境が悪いマッサージ院は、離職率が上がりやすくなります。実際、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、「労働環境・条件がよくない(労働時間、休日のとりやすさなど)」が25.0%と最も高い退職理由です。
上記のアンケートは、一般企業や公務員を対象とした調査であるため、あくまで参考程度に捉えてください。しかし、労働者にとって労働環境の重要性が高いのは明白です。
マッサージ業界の場合、いまだに師弟制度が残っているともいわれています。
この業界は未だに師弟制度が残っていたり、国民保険を自分でかけていたりと、福利厚生が整っていないところが多いので、その充実度は大きいのではないかと。また未経験の方に関しては、研修制度の充実を入社の理由に挙げてくれる方も多いです。
引用:モアリジョブ|「株式会社フレアス」 執行役員/直営統括部部長 兼 人材開発部部長 貝沼洋之さん
師弟制度を見直し職場環境や労働条件を整えると、離職率の抑止につながる可能性があります。
採用時の業務内容の説明が不明確
採用時に行う業務内容の説明が不十分な場合、入社後にミスマッチが発覚して離職につながりやすくなります。たとえば、入社後にスタッフが「思っていたような仕事と違う」と感じるのは、事前にしっかりとした情報共有ができていないためです。
内閣府の調査によると、初職の43.4%の人が離職理由として「仕事が自分に合わなかったため」と回答しています。また「自分の技能・能力が活かせなかったため(15.5%)」「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため(23.4%)」といった離職理由も、業務説明の不明確さが原因だと考えられます。
▼入社前の説明でミスマッチを防げた離職理由一覧
業務内容を伝える際は、メリットだけでなくデメリットも伝え、応募者に公平な判断をしてもらいましょう。また、選考の段階で行う職場見学などを通して、職場の雰囲気を伝えるのも大切です。
キャリア開発の機会不足
キャリア開発の機会が少ないと将来に不安を感じ、離職する人が増えやすくなります。そのため、従業員が将来に希望をもって働ける仕組みづくりが欠かせません。
たとえば、スキルや資格取得の支援はもちろん、新人を指導するためのマネジメントスキルや店舗運営などを学べる機会があれば、スタッフは安心して働けます。特に、あん摩マッサージ指圧師は独立を視野に入れている人も多いため、マネジメントスキルや店舗運営スキルを学べる環境は魅力に感じます。
スタッフにとって魅力的なスキルや知識を学べる場であれば、離職率は自然と下がるでしょう。
あん摩マッサージ指圧師の離職率を抑える方法
あん摩マッサージ指圧師の離職率の具体的な取り組み方法は次の通りです。
- 労働環境の整備
- 職場環境の改善
- キャリア開発の支援
- 個別面談の実施
さらに詳しく見ていきましょう。
労働環境の整備
労働環境の整備は離職率の抑制につながります。労働環境が整っていれば、従業員は長期にわたって働くイメージをもちやすくなるためです。
実際、あん摩マッサージ指圧師として働く神里子さんは、残業が少なく、決まった時間に帰れる株式会社フレアスを選んでいます。
魅力の1つとしては、働きやすさの部分です。残業が少なく、決まった時間に帰れるし、お休みもちゃんと確保されている点を魅力に感じました。そのときはまだ結婚も出産もしていなかったのですが、いずれそういうこともあるだろうと思っていたので、転職活動をする際にとくに意識して見ていたポイントでした。
引用:モアリジョブ|「株式会社フレアス」 直営教育支援部 技術支援課 係長/直営統括部部長 兼 人材開発部部長 神里子さん
上記事例からも分かる通り、特に女性は、結婚や出産を視野に入れて会社やマッサージ院を選ぶため、労働環境を重視する傾向にあります。女性を積極的に採用したいマッサージ院は、ぜひ参考にしてください。
職場環境の改善
職場環境の改善も重要です。日々を過ごす職場環境が改善されれば、スタッフのストレスを大幅に軽減でき、離職率の低下につながります。
具体的な方法は次の通りです。
改善策 |
具体的な方法 |
身体的負担の軽減 |
|
施術環境の整備 |
|
労働時間と休憩 |
|
コミュニケーション改善 |
|
キャリア開発の支援
キャリア開発を通してスタッフが市場価値を高めながら仕事ができれば、安心して会社に在籍できます。
具体的には、研修制度を充実させて、スタッフがスキルや知識を高められると、キャリアアップしやすくなり、離職率も低下するでしょう。
また研修は、未経験の人を実務レベルに押し上げられるような基礎的な内容がよいです。基本に忠実な研修内容であれば、経験者でも復習的に内容をおさえ、さらにスキルを高められます。
まずは基礎の知識と技術について学びました。そこに集まっていたのはみんなあん摩マッサージ指圧師・鍼灸師の国家資格取得者でしたし、私のように前職でも訪問鍼灸マッサージ業界の経験がある人もいましたが、復習的に内容をおさえ、さらにそれを深めていく形で研修は進められました。
引用:モアリジョブ|「株式会社フレアス」 直営教育支援部 技術支援課 係長/直営統括部部長 兼 人材開発部部長 神里子さん
個別面談の実施
個別面談を実施すると、オーナーとスタッフがコミュニケーションをとる時間が増え、双方の信頼関係が強まります。スタッフも不満を溜め込みにくくなるため、離職率も下がるでしょう。
また個別面談を定期的に開く際は、スタッフの負担にならないように勤務時間内に実施しましょう。
あん摩マッサージ指圧師を採用する際にできる離職率抑制への取り組み
あん摩マッサージ指圧師を採用する際にできる「離職率抑制への取り組み」は次の通りです。
- 採用ターゲットの明確化
- 母集団の確保
- インターンの実施
- 書面と対面の両方で業務内容を確認
以下にて詳しく見ていきましょう。
採用ターゲットの明確化
採用ターゲットを明確化するとミスマッチを防げるため、離職率が下がります。採用ターゲットは可能な限り具体的かつ詳細に設定しておくとよいです。これはペルソナとも呼ばれ、ターゲットを明確にする際に用いられます。
▼採用ターゲット(ペルソナ)の例
名前と年齢 |
鈴木健一(32歳) |
基本情報 |
|
価値観・目標 |
|
課題・不安 |
|
求めている環境 |
|
上記のようなペルソナを参考にすれば、採用戦略もより明確になるでしょう。ただし、ペルソナ作成の際は、自社が優位になるような内容にしてはいけません。SNSなどでリサーチし、客観的な情報に基づいて作成しましょう。
また、ペルソナを作成する際は、現場スタッフの意見を取り入れるとよいです。現場の意見を反映すれば、自社のマッサージ院の風土にあった人材を採用しやすくなります。
母集団の確保
母集団(採用活動で集まる就職・転職希望者の総数)を確保すれば、豊富な人材の中から採用できます。
マッサージ院が母集団を確保する際のポイントは次の通りです。
- 研修会や勉強会を実施して求人情報に載せる
- 多角的に求人チャネルを活用する
- 専門学校と連携する
効率的かつ迅速に母集団を形成したい場合には、多角的な求人チャネルの活用が重要です。
たとえば、業界に特化した求人サイトで多くの求人にリーチして認知度を高めます。そのうえでSNSや自社の採用サイトに誘導すれば、認知度を高めつつ応募者を増やせます。
インターンの実施
あん摩マッサージ指圧師の離職を防ぐためには、採用前のインターンシップが効果的です。パーソル総合研究所の調査によると、インターンシップ参加者の3年以内離職率は16.5%であり、非参加者の34.1%と比較して約半分に抑えられています。
上記の調査は、あん摩マッサージ指圧師に限定した調査ではありませんが、マッサージ院においても同様の効果を見込めます。
たとえば、実際の施術環境や業務内容を事前に体験すれば、入社後のギャップを軽減できます。実際、同調査では「職場の人間関係」による離職がインターンシップ不参加者よりも、参加者のほうが低い傾向にあると示されています。
またインターンシップを実施すれば、参加者は現場のあん摩マッサージ指圧師との交流を通じて、スタッフに対するリスペクトや新たな人脈を得られます。実際、同調査では「社員が優秀だと感じた」「現場社員との継続的な人脈が築けた」など、ポジティブな影響を受けています。
したがって、インターンシップの実施は、あん摩マッサージ指圧師の職場定着を図るうえで非常に有効な施策といえます。
書面と対面の両方で業務内容を確認
求人情報には、業務内容を具体的かつ明確に記載しましょう。株式会社学情の調査によると、既卒者の66.7%が求人情報を見る際に「職種・仕事内容」を重視していると回答しています。
あん摩マッサージ指圧師の仕事はテキストで伝わりづらい情報であるため、対面で業務内容を伝えるとよりよいです。同調査では「応募する企業の雰囲気を知るために活用したいもの」として動画(47.6%)が挙がっているため、業務中の映像をサイト上に掲載するのもおすすめです。
まとめ
雇用しているあん摩マッサージ指圧師の離職率を下げれば、経営の安定化につながります。そのため、離職率が向上しないよう、ポイントを理解してしっかりと採用を進めることが大切です。
採用する際のポイントは次の通りです。
- 採用ターゲットを明確にする
- 採用チャネルを活用して母集団の確保する
- インターンの実施する
- 書面と対面の両方で業務内容を確認する
採用ターゲットを明確にし、自社に合った人材を採用しましょう。

- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部