人手不足で職場崩壊しそうな時はどうする?経営者や人事が実施すべき対策を解説
現在、ホワイトカラーよりも労働集約型のエッセンシャルワーカーを中心に人手不足が進んでいるといわれています。
ホワイトカラーの仕事は、生成AIなどに置き換えられ、これから景気がよくなったとしても減る可能性が高い。一方で人手不足が起きているのは、エッセンシャルワーカーのほうです。
引用:NHK
エッセンシャルワーカーが従事する仕事は自動化や機械化が難しく、人手がかかるため生産性が上がらないことが特徴です。賃金を上げづらいため、求人に応募が集まらず、人手不足になりやすいと考えられます。
また美容業界の場合、座席数やスタッフ数、得業時間で店舗売上の上限が決まります。いくら店舗が繁盛しても上限がある以上は、スタッフの賃金アップに限界があることが実情です。
客数も「席数」「スタッフ数」「営業時間」で上限が決まるんですよ。なので、自然とこの店舗での限界MAXの売上は**万円という感じで上限が決まってきます。
ということは、スタッフの給料を上げ続けても、売上は上限以上に増えないので、次第に人件費が経営を圧迫していきます。これを続ければ、最終的に赤字に転落してしまうってことです。
引用:note/シェアサロン SALOWIN 代表 阿部友哉さん
人材不足による職場崩壊を防ぐためには、安易に賃金アップができない事情を考慮した上で対策を講じることが大切です。
今回は、労働集約型の事業で人手不足による職場崩壊がおこる原因と対策について解説します。人手不足のしわ寄せによる職場崩壊に対して、政府の支援を活用して実行できる対処法がわかりますので、ぜひ参考にしてください。
人手不足の現状
ここでは日本における人手不足の現状を説明します。人手不足の企業の割合や傾向が強い業界について解説するので、参考にしてください。
人手不足の企業の割合
人手不足の企業の割合は、2009年以降上昇傾向です。2020年のコロナ禍は一旦落ち着いたものの、コロナ禍が収束に向かうに従い上昇傾向が続いています。
帝国データバンクの調査によると、2023年には正社員の人手不足に悩む企業の割合が51.4%に達し、日本企業の半数以上が人手不足に悩んでいることになります。
人手不足の傾向が強い業界
特に人手不足の傾向が強い業界は、建設業や運輸業、サービス業です。建設業や運輸業は、残業時間の規制による2024年問題が注目されています。2024年問題とは、2024年4月を境に年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する人手不足問題です。
時間外労働時間が制限されることで残業時間が減り、労働者の給料が減少するといわれています。給料が減少することで、労働集約型の建設業や運輸業を志望する人材が減り人手不足になる恐れがあるのです。
また1人の労働者の労働時間が減少することで、業務遂行に必要な労働力を確保できなくなることも不安視されています。
サービス業は劣悪な労働環境が原因で、人手不足の傾向が続いています。例えば、美容業においては業界全体の労働環境がブラックな印象を持たれていて、人材が集まらずに人手不足が常態化していることが課題です。
美容師業界で働いている知人に話を聞いて、非常にブラックだと感じたんですね。拘束時間が長いにもかかわらず、給料が安い。それでアシスタントからスタイリストになる前に辞めてしまう人も多い。
引用:日刊SPA!/美容室「mulum」/代表取締役 亀井彰氏
昔ながらの考えを持って美容室を経営するオーナーがいることも業界がもつブラックな職場環境のイメージを払しょくできない原因と考えられます。
昔は「美容師に有給はない」といわれていた。海野さん自身、「風邪で休んだら罰金1万円」なんて職場も経験したそうだ。今はだいぶホワイトになってきたとは感じるものの、昔ながらの考え方は根強く残っている。
引用:ITmediaビジネス
次の記事では、業界ごとの人手不足の要因や状況、対策について詳しく解説しています。
人手不足による職場崩壊の前兆と理由
人手不足で職場が崩壊する場合、まずは前兆として人手不足により従業員の負担が増えることが考えられます。
さらに過剰な負担に耐えられなくなった従業員が離職して、退職者数が増加。その結果、業務を遂行するために必要な従業員を確保できなくなり、職場が崩壊します。人手不足による職場崩壊の前兆と理由をみていきましょう。
従業員の負担が増える
人手不足は従業員の仕事量を増やす一番の要因です。株式会社ビズヒッツが500人に対して行った調査によると、仕事量が多い理由として、人手不足を挙げた人の数が最も多いことがわかりました。
以上の結果を見ると、人手不足が慢性化する職場の場合、仕事量が多いことで過度な業務負担に不満を抱える従業員が増えることが予想されます。業務に不満を抱えた従業員は、退職を考えるようになるため注意が必要です。
自分の担当の仕事が量が多すぎてキャパオーバーです。自分以外にその仕事をできる人もいなく、職場は少人数(慢性的な人手不足)でみんなも忙しくて頼めません。
休憩もろくに取れないし仕事を家に持ち帰ってやったりしてます。
(中略)
それなら辞めようかな…と思ってしまいました。私は弱くておかしいですか?好きな仕事なんですけど、こんな思いしてまで勤めないといけないのでしょうか…
引用:Yahoo!知恵袋
仕事を辞めたいと考えています。辞めたい理由としては仕事量が多いことや、給料がそれに見合っていないことなどです。人間関係にも少し悩んでいて、精神的に辛いこともあります。
引用:Yahoo!知恵袋
退職者数が増える
業務負担が増えると、残業時間が増えたり休日が減ったりして労働環境が悪化します。人手不足のしわ寄せは従業員に向かうため、退職を考える従業員がでてきます。
令和4年雇用動向調査結果の概況によると、前職を辞めた個人的理由として労働条件を挙げた人の割合が最も多いことがわかりました。
▼転職入職者が前職を辞めた理由別割合(個人的理由)
昨今は、短期間で複数の従業員が離職する「連鎖退職」が問題になっています。
ある1人の退職をきっかけに退職者が続出。最悪、組織の存続さえ危ぶまれる事態に―人手不足が社会問題化する今、このような「連鎖退職」がさまざまな会社から報告されている。
引用:連鎖退職/山本 寛
連鎖退職が起こるきっかけの1つとして、業務負担の増加による労働条件の悪化が挙げられます。そのため職場崩壊を防ぐためには、人手不足のしわ寄せが従業員の仕事量に影響を与えないようにすることが大切です。
次の記事では、連鎖退職や従業員が退職する原因を詳しく解説しているので、参考にしてください。
人手不足を放置し、職場崩壊した会社の末路
職場崩壊を起こした会社は経営不振に陥り、やがて倒産します。ここでは人手不足を放置して、職場崩壊を起こした会社の末路を紹介します。
経営不振に陥る
人手不足を放置すると、売上の減少やコストの増大で経営不振に陥る可能性があります。日本政策金融公庫の調査によると、人手不足の影響として「売上機会の逸失」を挙げる企業が約4割に上りました。次に、残業代や外注費などに費やすコストの増加を挙げる企業も一定数みられました。
売上機会の逸失に売上の減少や人件コストの増大は、経営に直接影響を与える要因です。経営を圧迫することにつながるため、早めの対策が求められます。
なかには、自身の負担を顧みずに、働いてくれることを従業員に期待した結果、離職が増えて経営不振を招いた整骨院の事例もあります。
実際開業してみると、はじめのスタートダッシュは結構よかったんです。でも3カ月でスタッフが全員辞めて、受けた融資も底をつきました。
――スタッフが辞めていったのは、なぜだったのでしょうか?
一番大きかったのは、価値観のギャップでしょうか。僕はどちらかというとベンチャー企業のようなイメージでいたんですが、宮前平で働きたいという人は、もっとゆっくり楽に働きたい人が多かった。だから「ついていけない」という結果になってしまったんだと思います。「これはまずい」と、そこから必死で頑張りましたね。
引用:モアリジョブ/株式会社ボディスプラウト 代表 小林篤史さん
企業が倒産する
売上の機会を失ったり、残業代や外注費がかさんだりして経営不振が続くと、やがて倒産します。帝国データバンクの調査によると、人手不足による倒産は近年増加傾向です。
▼人手不足倒産の年間推移
さらに同調査では、従業員数10人未満の企業が人手不足で倒産するケースが4分3以上を占めていることもわかりました。
従業員数が少ない会社は特に、人手不足倒産への警戒が必要です。
人手不足による職場崩壊を回避する方法
人手不足による職場崩壊を回避するために、まずは採用に力を入れて人材を補う必要があります。さまざまな人材の募集方法があるので、やり方を整理して自社に合った方法を選ぶとよいでしょう。
次の記事では、人材募集のやり方を18個紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
また人材不足によって従業員に業務負担が生じている可能性があります。賃金に見合わない業務負担が生じると、従業員の間で仕事への不満が生じて離職者が増える可能性があります。
離職者数が増加すると採用者数を増やしても、人手不足の根本解決は見込めません。そのため、業務の効率化と教育制度の整備、賃金の引き上げなどを検討して労働環境を見直すことも大切です。
しかし労働環境の見直しには、一定のコストがかかるためなかなか改善に取り組めないケースもあるようです。
そのような場合は、助成金の利用を検討してみましょう。人手不足の回避策について、活用可能な助成金とともに解説します。
業務を効率化する
ITを導入して自動化すると、業務を効率化でき従業員の負担を軽減できます。人手不足で低下した労働力を補う手段にもなるので、ITの導入による業務効率化を検討するとよいでしょう。
例えば、美容サロンや美容室、整骨院などの店舗ビジネスの場合、予約システムを導入すると電話対応の時間を減らせるため、少ない従業員数でも顧客対応に影響を与えずに済みます。
オープンしてから3ヶ間は2人で運営していていました。電話対応が厳しい時間帯が多くお客様にご迷惑をかける可能性もあったので、開業前に連絡先を知っているお客様にはQRコードをつけたDMを送信し、ホームページ画面から予約してもらうように促しました。
引用:reservia/美容サロン「coyoli(コヨリ)」 代表 佐々木 健一 様
また事務関連の業務をIT化して業務を効率化すると、従業員への負担の大幅な軽減が期待できます。
ポスレジを導入して売り上げを日次で把握。書類はドロップボックスで共有し、イントラネットを整備して情報網も一括管理。全店舗の予約状況はパソコンで把握できるようにしました。そして月次決算を正確に出すところまで精度を高め、パソコン1台あれば施術以外の仕事はすべてこなせる環境を整えたんです。
(中略)
バックヤードの仕事をデジタル化で圧縮すれば、仕事の質は落とさず、より効率のいいパフォーマンスが発揮できるとわかったんです。
引用:モアリジョブ/フットケアサロン「フットブルー」 オーナー 西谷裕子さん
業務効率化のためにITを導入する場合、IT導入補助金を活用できます。IT導入補助金の補助額は最大で450万円で、ITを導入するために必要な費用の1/2~4/5を補助してもらえます。
教育制度を整える
教育制度を整えて従業員のスキルアップを図ると、対応可能な業務範囲が拡大します。その結果、業務遂行に必要な人員を削れるため、人手不足による労働力の低下を下支えする効果が期待できます。
労働政策研究・研修機構の調査によると、実際に人手不足対策として教育に力を入れる企業の割合は28.1%でした。
一方で教育制度が充実していないと、事業がうまく進まないケースもあるため注意が必要です。
恵比寿店を出した時に2人目の出産と重なってしまったので、オープニングをスタッフに任せたのですが、見事にコケてしまいました。私が開店準備に必要な教育をしていなかったのが原因です。
引用:モアリジョブ/フットケアサロン「フットブルー」 オーナー 西谷裕子さん
また教育を充実させる過程で残業時間が増えてしまい、スタッフに負担をかけると離職を助長する可能性もあります。
離職率が高い点ですね。大型のチェーン店では、30人採用しても多くが途中で辞めてしまいます。一人前になれるのはだいたい5人ほど。原因は、サロンの教育法に問題があるんです。毎日深夜まで練習し、そのうえ休日は研修会があって休めない状況が続くので、耐えられず辞めてしまうんです。これでは貴重な美容師のなり手がどんどん減ってしまい、業界の発展はありません。
引用:モアリジョブ/東京美容生活衛生同業組合(BA東京) 理事長 金内光信さん
教育制度を整える際には、業務内での教育時間の設定や業務時間外に実施された教育に対する残業手当の支給も一緒に検討することが大切です。しかしすでに人手不足が深刻化している場合、教育のためにコストをかけられないケースも考えられます。
そのような場合は、人材開発支援助成金をうまく活用して、コスト負担を減らしながら教育制度を整備しましょう。人材開発支援助成金については、次の記事で詳しく解説します。
賃金の引き上げを検討する
賃金を引き上げると求人への応募者数を増やせるため、人手不足対策として高い効果が期待できます。帝国データバンクの調査によると、人手が不足していない要因として「賃金や賞与の引き上げ」を挙げた企業が半数以上に上りました。
以上の結果をみても、賃金の引き上げは人手不足を回避する手段として有効な手段の1つといえます。
賃金の引き上げを実施できるほどの経済的余裕がない場合は、業務改善助成金の活用を検討するとよいでしょう。この制度を活用すると、地域の最低賃金を満たしていない事業者が、最低賃金以上に自社の賃金を引き上げた場合に、その費用の一部を助成してもらえます。
引き上げ額ごとに助成の上限が決められていますので、詳細については厚生労働省の「業務改善助成金」特集ページをご覧ください。
まとめ
本記事を総括すると次のとおりです。
- 現在の日本は人手不足の企業が増加傾向で、職場崩壊して倒産に追い込まれるケースも増えている
- 人手不足を放置すると退職者数が増え、経営不振に陥り最終的に倒産するリスクがある
- すでに経営不振に陥り職場崩壊の危機にある場合は、助成金を活用して再起を図るのもひとつの手段
エッセンシャルワーカーが働く職場は、賃金アップを図りづらく求人に募集が集まりづらい傾向です。そのため人手不足による職場崩壊を起こしやすいと考えられます。
特に従業員数が10人に満たない職場の場合は、人手不足による倒産へと追い込まれやすいため注意が必要です。職場崩壊による倒産を回避するためにも、早めに人手不足の解消に取り組み、既存の従業員にかかる負担を軽減しましょう。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部