店舗経営には家賃や人件費など大きなものから、日々の消耗品などの小さい出費までさまざまな経費がかかります。利益を最大化するためには経費削減の意識が大切です。
売上は順調に上がっているのに利益が伸びない店舗は、経費がかかりすぎている可能性があります。
本記事では店舗経営にかかる経費の種類と、節約のための経費削減について解説します。
これから店舗開業を考えている方や、利益が伸びずに悩んでいる経営者の方はぜひ参考にしてください。
経費の概念
経費とは事業や不動産など、所得を得るために必要となる費用を指します。
また経費として認められるのはその年において、債務が確定した金額のみです。たとえば、12月に店舗の来年分の家賃を前払いしたとしても、その債務は来年分のため確定とはなりません。
逆に、翌年1月に支給の従業員へのボーナスを12月に決定し、金額も確定した場合は今年の経費として計上できます。
このように経費は実際にお金が動いたかではなく、その年に確定した費用であるかが重要です。なおプライベートにかかる費用は経費に認められません。
ただ、自宅の一部を事業に使用している場合や自動車などのように事業でもプライベートでも使用するものの場合は、家事按分といって使用する割合を計算し、一部を経費に計上することが可能です。
店舗経営の経費を見直す際のポイント
経費を見直す際のポイントは以下の2点です。
- 経費率の確認
- 経費節約の目的の明確化
事業にかかる経費は低いほど利益率が高くなるため、経費はできる限り抑えたいと考える方もいるかもしれません。
しかし経費は事業で売上を上げるための投資資金です。投資なく利益を得ることはできません。
経営している店舗の利益アップのために経費削減を検討している方は、まず「経費率」と「経費節約の目的」を確認しましょう。
経費率を確認する
まず経費削減の前に現在の経費率が同業の平均経費率と比べて、高いのか低いのかを確認しましょう。
一般的な経費率の計算式は、以下の2つが用いられています。
①売上高経費率 = 経費 ÷ 売上 × 100
②売上総利益高経費率 = 経費 ÷ 売上総利益 × 100
ここでは①の計算式で算出された日本政策金融公庫のデータから、店舗業の経費率を抜粋して紹介します。
▼業種別の経費率
業種 |
経費率 |
18.4% |
|
33.8% |
|
35.1% |
その他の業種の経費率を知りたい方は、日本政策金融公庫の下記資料(諸経費対売上高比率)をご覧ください。
経費節約の目的を明確にする
経費削減のための行動をとる際に忘れてはならないのが「経費節約の目的」です。
多くの経営者は経費を削減して利益をアップするのが目的です。
しかし「利益アップ」ではなく「経費削減」に目を向けてしまうと、経費削減した結果、利益ダウンにつながる恐れがあります。
収入ダウンにつながる経費削減は、正しい経費節約ではありません。見直してみて無駄な経費は使っていないようであれば、経費削減ではなく売上アップに思考を切り替えましょう。
店舗経営にかかる主な経費の種類と見直す際のポイント
経費節約を実行する際、どこから手をつけていいかわからない人のために、経費見直しのポイントを種類別に解説します。
なお、店舗経営にかかる経費は固定費と変動費に分かれます。
固定費
固定費は収入の額に関係なく、毎月決まって出ていく支出です。経費節約の際は毎月必ず出ていく固定費から見直しましょう。
なお人件費や水光熱費は、業種やスタッフの雇用体系によっては変動費要素が強い場合もあります。人件費や水光熱費の変動が大きい場合は変動に分類してください。
地代家賃
地代家賃とは事業を経営するにあたって必要となる、建物や部屋にかかる経費です。家賃や共益費、土地の賃借料のほか、社宅(※1)や駐車場も地代家賃に分類されます。
地代家賃は支出を占める割合が大きいため、可能であれば見直したい経費です。
とはいえ、店舗の移動は引っ越し費用も負担になるうえ、営業エリアが大きく変わると失客のリスクを伴う可能性もあります。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、現在利用しているサロン(美容室)の継続理由で2番目に多かったのが「自宅から近い」でした。
▼現在利用しているサロンの継続理由(美容室利用者/複数回答/n=5,297)
サロンの継続理由 |
割合 |
ネット予約できる |
34.0% |
自宅から近い |
32.5% |
料金がリーズナブル |
27.6% |
※ホットペッパービューティーアカデミー「美容センサス2023年上期〈美容室編〉」をもとに作表
なお同じ美容系でもエステやネイルでは同理由は10%台に留まっているため、どのような店舗を経営するのかでも立地と集客の相関関係は異なるといえるでしょう。
※1 企業が家賃を支払う場合
租税公課(固定資産税)
租税公課とは国や地方に納める税金と、公共団体などへ納める租税以外の課金を合わせた総称です。
租税公課のなかで必要経費として認められるのは、事業税や印紙代、固定資産税、自動車税など店舗運営で必要なものに限られます。
また「経費の概念」でも解説したように、租税公課においても経費として認められるのは事業で使用した分のみに限られます。
自宅と店舗が同じ場合や車を私用と事業で共有している場合は按分して、経費分を算出しなくてはなりません。
租税公課の節税例は、使用していない車の売却です。また節約ではないですが、自社ビルを所有している場合は、使用していないスペースや時間帯を貸し出すことで収入アップにつながります。
給料賃金
労働基準法第11条で「賃金とは、賃金、給与、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全て」と定められています。賞与や退職金、休業手当なども賃金に含まれます。
詳しくは後の項で解説しますが、給与賃金の経費削減において安易に人員削減や賞与削減を行うのはおすすめしません。
給与賃金の削減を検討する際は無駄な残業をしていないか、また作業の簡略化や無駄な業務を削減できないかをチェックしましょう。
なお、個人事業主は自分の給与は経費にできません。個人事業主が自分の給与を取るときは事業主貸の勘定科目で処理をしてください。
福利厚生費
福利厚生費は法律で義務付けられている「法定福利費」と、法律で義務付けられていない「法定外福利費」に分かれます。
厚生労働省の調査によると企業が1カ月従業員1人あたりに払った「法定福利費」は50,283円、「法定外福利費」は4,882円でした。法定福利費、法定外福利費ともに規模が小さい企業ほど少ない傾向で、30〜99人の小規模企業では法定福利費は45,693円、法定外福利費は4,414円と平均を下回っています。
なお厚生労働省の別の調査によると、法定外福利費は1996年をピークに減少傾向です。
▼法定外福利費の推移
内訳をみると家賃補助など住宅関連の法定外福利費は減少しつつも、医療や健康に関する法定外福利費はほぼ横這いです。(参照:資料内エクセルデータ)
従業員の健康は企業や店舗の経営に影響を及ぼす重要な要素のため、経費削減しない経営者が多いと考えられます。
また売上や利益アップに必要な研修費も削減せず、必要に応じて投資していくことをおすすめします。
独自性がかなり高い施術のため「オリーブスパ」では、経験者、未経験者に限らず2ヶ月半の研修期間を設けています。(中略)技術をただ指導していくだけでなく、アカデミー講師と私たち人事スタッフが連携して、スタッフ1人ひとりの表情の変化や動きまで見極め、きめ細やかなサポートをする体制を整えています。
引用:モアリジョブ|「オリーブスパ」 採用担当 菅原花梨さん
広告宣伝費
広告宣伝費とは企業の商品やサービスを、不特定多数の人に知ってもらうためにかかる費用をさします。主なものにチラシやオンライン広告、看板などがあります。
株式会社東京商工リサーチの調査によると、2023年の産業別宣伝費は以下の通りです。
画像出典:化粧品小売、職業紹介は売上高の約2割が宣伝費 「宣伝費」は回復基調へ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ
店舗を必要とする小売業やサービス業の売上宣伝費率は約1〜2%と、金融・保険業や情報通信業と比べると低めです。
店舗がある分、店舗自体が広告の役割も担っており、流動客への宣伝効果も見込めるためでしょう。
闇雲に広告を打つのではなく、自社の顧客を分析し、ターゲットを絞って最小限の広告費で最大限の効果を出すことが大切です。
広告には「ゆるダイエット」というわかりやすいコンセプトを掲げているので、その打ち出しがささり、広告の効果は十分に実感できています。「ゆるダイエット」を掲げることでコンセプトの差別化もはかれています。(中略)ほかにはGoogleマップで検索が上位にくるように対策をしたり、(中略)他社さんも集めたパーソナルジムの検索サイトを運営したりしていますので、そこからの集客も多くなっています。
引用:モアリジョブ|株式会社Lime 代表取締役 斉藤隼生さん
通信費
通信費は固定電話や携帯電話の基本料金や通話料、インターネット通信料、有線放送の費用などが該当します。
携帯電話やインターネット回線は価格競争が進み、通信速度が良いものでも安く提供されるようになりました。長年同じ契約先なら見直しを検討しましょう。
ただし中には屋内の通信に弱いキャリアや接続が不安定なものもあります。トラブルが起きたときのサポート体制や口コミなどを確認し、店舗運営に支障がないように努めましょう。
減価償却費
減価償却費とは減価償却資産の取得にかかった金額を、定められた耐用年数で割った費用です。
減価償却資産は建物や機械、器具、車両運搬具など時の経過とともにその価値が減っていく資産のことで、土地のように価値が減少しない資産は該当しません。
使用可能期間が1年未満のもの、もしくは取得価額が10万円未満のものは取得年の必要経費で計上するため、減価償却の対象外です。
▼減価償却資産の耐用年数(国税庁作成の表から一部抜粋)
構造・用途と細目 |
耐用年数 |
建物 |
飲食店/34年(※1)、店舗用/39年(※2) |
看板 |
3年 |
理容・美容機器 |
5年 |
設備 |
飲食店業用/8年、その他の生活関連サービス業用設備/6年 |
冷房用・暖房用機器 |
6年 |
※1 鉄骨鉄筋コンクリートで延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの
※2 鉄筋鉄骨コンクリート
使っていない機器や設備などは中古買取の業者に見積り依頼を出し、買取金額が減価償却資産の残金を上回るようなら処分しましょう。
水道光熱費
水光熱費は水道、ガス、電気にかかる費用で、季節によって変動しますが、固定費に該当します。
水光熱費が高くなりやすい飲食店や美容室などは節約を意識しましょう。飲食店では水量を抑える節水コマの取付や食洗器の導入がおすすめです。美容室では販売可能な節水シャワーヘッドを実際に使用することで、販売にもつなげられます。
古い機器は、電気代が高くなる原因になっている可能性が考えられます。電気代が高い店舗は新しいエアコンや冷蔵庫、美容機器への買い替えも検討しましょう。
電気やガスのまとめて契約割サービスを提供する業者もあるため、あわせて検討することをおすすめします。
保険料
店舗経営を行う場合、万が一に備えて適切な保険への加入が必須です。業務に関わる保険料は経費に計上できます。
店舗の保険には販売した商品で顧客が怪我をした場合の補償を行うPL保険、火災や自然災害、盗難による損害を補償する火災保険(※)など、保険にはさまざまな種類があります。
もし事件や事故が起きた場合、保険に加入していれば、自己資金で対応しきれない被害を保険料で賄うことができます。
しかし保険料は毎月もしくは毎年かかる経費です。起きた時のリスクと起こる頻度などを熟慮し、過剰に契約していないか、また補償範囲が重複していないかを確認しましょう。
※保険会社の商品により、補償範囲は異なる
変動費
変動費は売上や時期によって変動する経費です。採用費や修繕費のようにイレギュラーでかかる経費は計上しにくく、ある程度資金を留保しておく必要があります。
売上原価
売上原価は商品の仕入れや製造にかかった費用を指します。売り上げに対して計上するため、売れていない在庫品分は計上しません。
過剰な在庫は負債となるため、必要以上の仕入れや製造は控えるようにしましょう。
販売サイクルの高いものや仕入れに時間がかかるものはストックしておき、すぐに仕入れられるものは在庫を抱えすぎないことで経費削減につながります。
消耗品費
消耗品費とは文房具などの事務用品、ガソリンのような消耗するものを指します。
また使用期間が1年以下のものや取得価額が10万円未満の什器、備品も消耗品費に該当します。
消耗品はまとめて購入しても店舗の取り扱いサービスなどの変更により、不要になる場合もあります。売上原価と同様に過剰在庫や損失が生じないよう、必要分のみを購入しましょう。
なお、消耗品の過剰在庫は「貯蔵品」の勘定科目で棚卸計上し、確定申告が必要です。
採用費
採用費は店舗を開業したあとも従業員の退職や事業拡大などで、定期的に必要となる経費です。
株式会社マイナビの調査によると中途採用にかかる費用は年々増加しており、2024年には平均650万円を超えました。
画像出典:中途採用状況調査2025年版(2024年実績) | マイナビキャリアリサーチLab
採用費は店舗を経営していくうえで欠かせない費用で、闇雲に削減すると良い人材の採用機会の損失につながる恐れもあります。
採用状況や目的に合った採用手段を選ぶことで自社に合った人材の採用ができ、結果的に採用費の削減につながります。
費用を抑え成果を高める採用ノウハウについて、以下のホワイトペーパーで詳しく解説しています。(ダウンロード無料)
修繕費
修繕費とは店舗や設備、備品などの修理、修繕に使った費用を指します。
修繕として経費に計上できるのは購入した状態へ原状回復するための費用です。
改良して新たな価値を加えて資産価値を高めた場合は「資本的支出」となり、減価償却資産として減価償却しなくてはなりません。
店舗運営に必要な修繕は必要経費ですが、耐用年数を過ぎたものは修繕してもまたすぐに不具合を起こす可能性が高いです。
状況によっては修繕ではなく買い替えを検討するなど、無駄に修繕費を支払うことのないよう気を付けましょう。
旅費交通費
旅費交通費は従業員が出張や研修に参加するためにかかった、交通費や宿泊費の総称です。
電車やバス、タクシーなどの運賃やレンタカー代、コインパーキング代といった移動費のほか、出張中の諸雑費、転勤にともなう赴任手当、帰省旅費も旅費交通費に含まれます。
なお出張旅費の規定は企業ごとに定めることができるため、企業によって支給額が異なります。
財務省の調査によると、国内出張の宿泊費は4割以上の企業が「上限付き実費支給」で「実費支給」している企業は24.0%と4分の1以下でした。
交通費や宿泊費は物価高やインバウンドの影響により、年々高くなっています。オンライン会議や研修などを取り入れて、旅費交通費の経費削減に努めましょう。
雑費
雑費とはその他の項目に当てはまらない経費です。
一般的にはごみ処理費用やクレジットカードの年会費、少額の書籍代、オフィス機器などの一時的なレンタル費用を雑費として計上します。
ただ雑費の割合が多いと経費の内容を把握しづらく、税務署から怪しまれる可能性が高まります。銀行融資でも不利になる可能性があるため、雑費に振り分ける多い支出は別途項目を作成しましょう。
クレジットカードの年会費は支払手数料、書籍代は新聞図書費で計上可能です。
雑費が多い場合は無駄な支出が多い可能性もあるため、勘定科目の整理を兼ねた見直しをおすすめします。
店舗経営の経費を削減する具体策4つ
店舗経営の経費削減には、主に4つの点からアプローチするのがおすすめです。
- 大きな出費や固定費の見直し
- 店舗DXの推進
- 在庫管理の見直し
- 小さな出費への意識付け
また経費削減は経営者主体ではなく、店舗に立つ従業員ひとりひとりの意識改革も重要です。
削減できた経費分は給与に一部補填するなど、経費削減の恩恵を従業員が受けられるようにし、士気を高めていきましょう。
弊社は給与水準が高く、入社1年目から月30万円を叶えることができます。これを実現できているのは、エンジニアチームがシステムやオペレーションの効率化を図ったり、店舗の内装をパターン化したりすることで、人件費以外の経費をできる限り削減しているからです。
引用:モアリジョブ|株式会社CS オフィスマネージャー 逸見海斗さん
1.大きな出費や固定費の見直し
経費削減は支出額の大きい項目や、毎月もしくは毎年出続ける固定費から見直しましょう。
業種によって異なりますが、飲食店であれば水光熱費や売上原価、消耗品が出費の多くを占めています。美容業なら機器レンタル費、小売業は売上原価が主な出費でしょう。
また資金繰りが難しくなる前に見直したい大きな固定費が家賃です。引っ越しは大変ですが毎月の支払いを負担に感じているのであれば、早めの移転を検討しましょう。固定客が増える前に移転すれば失客も最小限に抑えられます。
大きな出費や毎月の固定費の支出見直しは利益アップにつながりやすいため、これから経費削減に取り組む人はまずチェックすることをおすすめします。
なお中小企業庁では、据え置きでの融資支援や専門家による改善計画の策定のためのサポートなど、さまざまな経営改善支援を行っています。一時的な資金繰りに悩んでいる経営者の方は一度相談してみましょう。
2.店舗DXの推進
店舗DXはデジタルを活用し、店舗のスマート化を目指す取り組みです。
大手のファーストフードチェーン店では注文から支払い、受け取りまでを完結できるアプリの導入、化粧品ブランドやアパレルブランドではAIによる肌診断やコーディネート診断を取り入れ、店舗DXを進めています。
セルフレジや予約システムの導入といったDXは人材不足にも一躍を担います。人でなくても可能な業務や行程はDX化し、接客や技術の提供など、顧客満足につながる部分に人材を充てましょう。
商品も店舗で在庫を抱えるのではなく、自社のECサイトを構築し、顧客が直接購入できるようにすれば、過剰在庫や損失の軽減につながります。
なお、店舗のDX化を進める中小企業や小規模事業者向けに「IT導入補助金制度」が用意されています。一定の条件をクリアすれば申請可能なので、DX導入を検討する際はチェックしてみましょう。
3.在庫管理の見直し
定期的に在庫を見直し、適正在庫になっているかを確認しましょう。
▼在庫確認のポイント
|
頻繁に発注している需要の高い商品はある程度ストックし、滞留しがちな商品は個数を減らす、もしくは受注発注で対応しましょう。また納品までに時間を要する商品もある程度ストックしておいても良いかもしれません。
発注する際には過去の販売データや季節要因から将来の需要を予測し、在庫量を調整していくことも大切です。
人気の高い商品や利益率の高い商品を中心にストックし、利益を上げつつも顧客のニーズに応えられるようにしましょう。
4.小さな出費への意識付け
店舗経営を継続するには小さな出費への意識付けも大切です。
人は金額が大きくなると、利益や損失に対する感覚が鈍くなる「感応度逓減性(かんのうどていげんせい)という心理が働きます。
店舗で扱う金額が大きい場合、普段の数百円の支出に対して鈍くなっている可能性があります。経営者だけでなくスタッフ全員が一丸となって、小さな無駄を省いていくことが大切です。
ただし、その際にはトップダウンで節約を促すのではなく、出費に対するスタッフの意識を変えていくようにしましょう。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、離職した人のうち約1割が上司との考えや意見の不一致を離職理由に上げています。
▼[初職]転職した理由(理美容資格保有者または過去、現在で各職業従事者かつ学校卒業後就業経験あり/複数回答/n=17,697)
転職理由 |
割合 |
給与に対して不満 |
21.2% |
結婚・妊娠・出産のため |
15.7% |
やりがいを感じられなくなったから |
13.4% |
別の場所でキャリアを積みたかったから |
13.4% |
※一部省略 |
|
上司と考え方や意見が合わなかったから |
10.8% |
※ホットペッパービューティーアカデミー「美容就業実態調査2024」の調査をもとに、上位項目と関連項目を抜粋して作表
節約の本質がわからないままトップダウンで経費削減を指示されると、不信感や不安につながります。また過剰な節約はスタッフのやりがいを削ぐ原因にもなりかねないため、あわせて注意が必要です。
利益アップには経費削減だけでなく、節税対策も有効
店舗の利益を上げるためには節約意識も大切ですが、払う税金を少なくして手元に資金を残す「節税」に意識を向けるのもおすすめです。
小規模事業者や個人事業主におすすめの節税対策は、以下の2つです。
- 小規模企業共済
- 経営セーフティ共済
どちらも掛金全額を課税対象所得から控除できるため、節税効果があります。掛金は増減可能なため、利益が多く出そうな年は掛金を増やし、余裕のない年は減らすなど、資金状況に応じて調整できます。
また低金利で借入もできる制度もあり、資金繰りに困ったときなどにも重宝します。それぞれの借り入れ条件の詳細は、下記サイトをご覧ください。
経営セーフティ共済とは | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
小規模企業共済とは | 共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
店舗経営で経費削減する際の注意点
店舗を存続するには無駄な経費を減らし、利益を出していくことが大切です。しかし間違ったやり方はかえって経営を悪化させる恐れがあります。
以下では、店舗経営で経費を削減する際、とくに注意すべき点を2つ解説します。これから経費削減に取り組む方や、経費削減に苦戦している方は参考にしてください。
スタッフのモチベーションダウンや顧客満足度の低下を避ける
経費を削減する際は、スタッフのモチベーションダウンや顧客満足度の低下につながる節約は避けましょう。
たとえばスタッフの動向を細かくチェックし、逐一指摘をしているとスタッフはやる気を失いかねません。店舗に立つスタッフは来店するお客様に心地よい時間を過ごしてもらい、良い商品を提供したいと考えているはずです。
またそのような節約ファーストの意識は、従業員満足度の低下、ひいては顧客満足度の低下につながります。
関東エリアを中心にヘアサロンを展開する企業「Oasis Garden」では、固定費である人件費をあえて上げることで業績アップ、多店舗展開に成功しています。
弊社の初任給は24万円と、一般企業と比較しても高水準の賃金設定です。(中略)この価格設定の理由として、サービスの品質向上にもつながるからというもあります。収入が多ければ、プライベートを充実させやすくなります。ワークライフバランスも保つことで仕事にメリハリがつき、結果的にサービスの質とお客様の満足度につながるんです。
引用:モアリジョブ|Oasis Garden 人事責任者 齋藤逸生さん
経費削減も大切ですが、あえて経費を使うことで結果的に店舗を繁栄させられる可能性もあります。削減だけでなく、正しく経費を使えているかをあわせてチェックしてみましょう。
人件費など売上につながる経費削減は慎重に行う
店舗経営において経費を見直す際にまず着手すべきは固定費ですが、人件費のように売上につながる経費の削減は慎重に行いましょう。
人件費の削減はスタッフのモチベーションダウンに留まりません。人材は資本であり、失った人員分の売上を失う可能性があります。
経済産業省がまとめた令和2年から令和4年の中小企業の「1企業当たりの従業員数」と「従業員1人当たりの付加価値額」の推移はおおむね比例しています。
▼中小企業1企業当たりの従業員数(産業大分類別/有効回答45,723社)
▼中小企業(法人企業)の従業者1人当たりの付加価値額(産業大分類別/有効回答45,723社)
人件費以外にも研修費や修繕費などのように、売上につながる経費は多くあります。
安易な経費削減は売上を失う恐れがあるため、熟慮したうえで経費削減を実行しましょう。
店舗に適した人材の確保は、経営成功と経費の有効活用につながる
人件費は売上につながる経費のため、削減は慎重になるべきですが、さらに重要なのは売上に貢献してくれる人材の採用です。
そのためには店舗に適した人材を採用することが大切です。
ー今年で入社2年目になるアシスタント、山名沙月さんの採用の決め手は何ですか?
とにかく笑顔が可愛かった! それから発言がポジティブで、考え方もしっかりしているので採用を決めました。
引用:モアリジョブ|BEAUTRIUM 南青山 店長 久住桃子さん
店舗によって求める人材は異なります。自社に合う人材を採用するためには、まず自社に必要な人材はどのような人材なのかを分析し、言語化する必要があります。
自社に適した人材採用に苦戦している採用担当の方は、採用ノウハウをまとめた下記のホワイトペーパーを参考にしてください。ダウンロード無料です。
まとめ
本記事を総括すると、次のとおりです。
- 経費とは事業や不動産など、所得を得るための必要な費用
- 経費を見直す際は経費削減の目的を明確にし、経費率を確認する
- 経費削減は大きな出費や固定費から行う
- DXを取り入れ、業務の効率化を目指す
- 経営の成功と経費の有効利用には、店舗に適した人材の確保が大切

- 執筆者情報
- 田中 久美(Tanaka Kumi)