人件費は地代家賃と並ぶ、大きな経費のひとつです。間違った人件費の設定は経営を圧迫する要因となり兼ねないため、適切な人件費率を守る必要があります。
本記事では売上に対する人件費率の平均や、目標とすべき人件費率に近づけるための改善策を紹介します。
利益の最大化を図りたいと検討している経営者や、開業(起業)準備中の方はぜひ参考にしてください。
人件費に含まれる項目
人件費とは労働に対して支払われるものを指します。単純な毎月の給与以外に、賞与や福利厚生なども人件費に分類されます。
なお、給与や賞与といった人件費の多くは課税対象ですが、一定の条件を満たせば非課税となるものがあります。人件費に含まれる項目と合わせて解説します。
給与・各種手当
給与は主に所定内賃金と所定外賃金に分類され、通勤費などの各種手当も含まれます。所定内賃金とは所定外賃金に含まれない、毎月決まって支給する賃金です。
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所定内賃金 |
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所定外賃金 |
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住宅手当は福利厚生に分類される場合が多いですが、給与・各種手当に該当します。また社宅や寮を貸与する場合、非課税とするためには賃料相当額の50%以上を受け取らなければなりません。
賞与・一時金
賞与・一時金とは、毎月の給与以外で業績に応じて従業員へ支給するものを指します。祝い金や見舞金といった労働対価でないもの以外は、賞与・一時金として計上します。
なお、役員への賞与は含まれません。
役員報酬
役員報酬とは取締役や会計参与、監査役といった、会社の経営に従事する役員への給与や賞与を指します。
役員への報酬は会社法330条の委任関係に基づいて支払われるもので、雇用関係にある従業員への給与や賞与とは異なる扱いです。
福利厚生費
福利厚生費とは健康診断や社員旅行、優待制度など、全社員を対象とした給与以外にかかる費用を指します。
福利厚生費は以下の条件に当てはまる場合、給与として課税されません。
- 全社員へ公平に提供されるもの
- 福利厚生の目的として適切である
- 負担する費用が妥当である
- 現金や換金性が高くないもの
たとえば社員への値引き販売価格(社割販売)は通常販売価額の70%以上、社員旅行は4泊5日以内であることが条件として定められています。超えた場合は課税対象となるので、注意が必要です。
また福利厚生費のなかでも健康保険や厚生年金保険、雇用保険といった、導入が義務付けられている法定福利費は非課税です。
退職金
退職金とは退職した従業員に支払うものを指します。常勤役員から非常勤役員に、定年退職後に引き続き勤務する人などへの退職手当なども退職金に該当します。
厚生労働省の調査 によると、退職金制度を導入している企業は全体の74.9%です。
企業規模別では以下のとおりで、退職金制度の導入は規模の大きい企業ほど高い傾向になっています。
▼退職給付(一時金・年金)制度がある企業(企業規模別/令和5年)
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従業員数 |
割合 |
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1,000人以上 |
90.1% |
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300~999人 |
88.8% |
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100~299人 |
84.7% |
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30~99人 |
70.1% |
採用費や研修費
採用や研修にかかる費用も人件費に含まれます。
採用コストには、内部コストと外部コストの2種類があります。内部コストとは採用担当者の人件費や交通費、書類の送付や連絡にかかる通信費、外部コストとは求人広告会社や人材紹介会社への支払いや採用イベントへの参加費用などです。
なお、 株式会社マイナビの調査 によると、採用にかかる費用は採用人数の増加に伴い、上昇傾向です。
企業や店舗の売上を上げるために、人材は欠かせません。採用や研修にかかる費用は採用後にどれだけの売上アップが期待できるかを試算したうえ、慎重に決めましょう。
人件費の対象範囲とは?
雇用形態によっては、人件費の対象から外れる場合があります。人件費率の平均を知る前に人件費の対象範囲を理解しておきましょう。
正社員やアルバイト
正社員やアルバイトは会社と雇用関係にあるため、人件費の対象範囲です。パートも含まれます。
契約社員
契約社員は雇用契約に期限のある有期社員で、正社員と同じく契約は会社と直接結ばれています。そのため、契約社員も人件費の対象となります。
派遣社員
派遣社員は人件費の対象外です。派遣社員への給与は派遣元である派遣会社へ支払い、外注費や支払手数料、もしくは人材派遣料として処理します。
ただ常勤の契約社員に関しては人件費で計上し、管理する場合もあります。
役員
役員への報酬は経理上、人件費と分けて考えられます。法人税法上で厳しいルールが設けられており、会社の規模によっては株主総会で決定されることもあるためです。
ただし人件費率は、役員報酬も合算して算出されるのが一般的です。
人件費率の計算方法
人件費率の計算には、主に2つの方法があります。
①売上高人件費率
②売上総利益人件費率
簡単に人件費率を算出したい場合は、売上高人件費率での計算がおすすめです。単純に1カ月もしくは1年の売上をもとにした計算方法で、おおまかな人件費率を算出できます。
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①売上高人件費率の計算式 売上高人件費率(%)=人件費÷売上高×100 |
一方、売上総利益人件費率は算出には手間がかかりますが、正確な人件費率を出すのに向いています。売上から売上原価を引いた売上総利益をもとに算出します。
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②売上総利益人件費率の計算式 売上総利益人件費率(%)=人件費÷売上総利益(粗利益)×100 |
売上原価とは販売した商品やサービスの仕入れや製造でかかった費用で、以下の計算式で算出します。
(売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高ー期末商品棚卸高)
簡易な人件費率を出したい場合は「売上高人件費率」、より正確な人件費率を知りたい場合は「売上総利益人件費率」で計算しましょう。
人件費率は売上の何パーセントが正解?
中小企業実態調査によると、人件費率の平均は16.2%です。
ただし、適正な人件費率は業種によって異なります。健全な経営のためには、業種に応じた適正な人件費率を意識することが大切です。
業種別の平均人件費率
主な業種別の平均人件費率は、以下のとおりです。
▼平均人件費率(業種別/法人企業)
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業種 |
平均人件費率 |
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情報通信業 |
30.0% |
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宿泊・飲食サービス業 |
30.2% |
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製造業 |
19.2% |
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小売業 |
12.6% |
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生活関連サービス・娯楽業 |
14.9% |
※ 中小企業実態調査(令和6年確報) をもとに売上高人件費で算出(人件費は労務費を合算した人件費を使用)
オートメーション化やネット販売といったテクノロジーの活用ができる製造業や小売業は、比較的低い人件費率です。
生活関連サービス・娯楽業も低めですが、さらに細かい業種によって異なります。たとえば、映画館やジムなどは少ない人件費で運営可能な一方、美容室やエステサロンなどは人手依存度が高いため、上記の平均より高い人件費率になるでしょう。
人件費を削減する前に知っておくべきこと
企業が赤字改善や黒字経営の最大化を進めるにあたって、検討されるのが人件費の削減です。ただし誤った人件費削減は経営を傾ける要因となり兼ねません。人件費削減を進める際に知っておくべき、3つのポイントについて解説します。
安易な人件費削減は、売上の減少や従業員の離職につながる
人件費削減は売上の減少や、従業員の離職につながる恐れがある点を理解しておきましょう。
例えば、美容室やエステサロンといった人手依存度が高い業種の場合、人件費を削った分、顧客の受け入れができなくなり、本来得られるはずだった売上を得られなくなります。
また人件費削減によって残った従業員へ業務負担が集中することで、モチベーションが低下するなど、離職率が高まる恐れもあります。
経費削減のために人件費を見直すのは悪いことではありませんが、ほかに見直せる経費がないか検討してみてください。
人件費以外の経費をどれだけ削れるかです。一番大きいのは家賃。儲けを出すための家賃比率は売上の10%未満が鉄則と言われますが、Lond Bloomでは約2%に抑えられています。この浮いた8%に加えて僕の役員報酬を下げることで、かなりの額をスタッフに還元できています。
引用: モアリジョブ |株式会社One Bloom代表取締役社長 津賀雅也さん
人件費率と合わせて指標にするべき「労働分配率」
人件費削減がかえって会社や店舗の売上減少にならないために、人件費率とあわせて確認すべき指標が「労働分配率」です。
労働分配率とは企業が生み出した付加価値に対して、人件費が占める割合を指すものです。
▼労働分配率の平均(業種別/2023年第4期)
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業種 |
割合 |
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製造業 |
60.8% |
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情報通信業 |
57.3% |
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卸売業・小売業 |
66.4% |
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サービス業 |
70.1% |
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医療・福祉業 |
90.0% |
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全体 |
61.5% |
※ 厚生労働省 の産業別にみた労働分配率の推移をもとに作表
業種によって若干の違いはあるものの、医療・福祉業以外の業種はおおむね6〜7割の間で推移しています。
上記より高すぎると人件費がかかりすぎている可能性、低すぎると既存スタッフに負担がかかりすぎている可能性を示します。
労働分配率の計算方法は以下のとおりです。
| 労働分配率(%)=人件費 ÷ 付加価値 × 100 |
付加価値の算出には「控除法(中小企業庁方式)」と「加算法(日銀式)」の2つの方法があり、中小企業は控除法を、大企業は加算法が用いられる傾向です。
【控除法】
付加価値=売上高-外部購入価値(材料費、外注加工費など、他社に支払った費用全般)
【加算法】
付加価値=経常利益+人件費+金融費用(支払利息)+減価償却費+賃借料+租税公課
削減できない人件費がある
人件費のなかには、削減できないものがあります。
削減できない人件費とは、健康保険や厚生年金、雇用保険といった法定福利費です。法定福利費は、法律で定められている社会保障制度の費用(企業負担分)を指します。
企業が従業員を雇用するうえで加入と負担が法によって義務付けられており、従業員を雇用している以上、止めることはできません。
低すぎる人件費率は注意!人件費を削らないことで経営成功する事例も
企業や店舗経営において、不要な経費削減は大切です。ただし低すぎる人件費率など、人件費の削りすぎはおすすめしません。
企業が成長するのには4つの資産が必要といわれています。4つの資産とは「モノ・カネ・情報」そして「ヒト」です。特に「ヒト」がいなければ、その他3つの資産「モノ・カネ・情報」を活用できず、企業の成長も見込めません。
企業が成長するには人材が必要で、実際多くの企業や店舗が人件費を削らずに企業(店舗)の成長を実現しています。具体的には、首都圏を中心に美容室を展開する株式会社ECLARTや株式会社anemoneの事例が挙げられます。
―黒字化を達成できた理由は、マネジメント力にあると思います。意識していることは?
いくつかありますが、もっとも大切にしているのは「人のいいところに目を向ける」ことです。(中略)人は期待されなくなったら成長を止めてしまう。だから「もう少しで達成できるね」と言葉をかけ続け、本人が自分の力を信じられるように導いています。
引用: モアリジョブ |株式会社ECLART エリアマネージャー 黒田広徳さん
「anemone」にここまでスタッフが集まって、店舗展開できるようになった一番の理由も、メニューの単価を下げたことより、給料を上げたことが要因としては大きかったと僕は考えています。
引用: モアリジョブ |株式会社anemone 代表取締役社 長松本平さん
人件費率だけに意識を向けるのではなく、経営を成功させるために今いる人材を成長させる方法を検討してみましょう。
人件費率を改善する方法
人件費は闇雲に削減すべきではありませんが、やり方次第で業務量を減らし、所定外賃金などの適正化が可能です。
人件費率の改善におすすめの方法を3つ紹介します。
ITツール活用による業務の効率化
ITツール活用による業務の効率化は、業務量や無駄な残業時間の軽減だけでなく、既存人材での生産性向上にも有効です。
情報の管理や分析、販促などをオンライン化すれば、情報共有も簡単で場所を選ばず作業を進められます。
以下、IT初心者でも使いやすいツールです。
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ツール名 |
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タスクやプロジェクト管理、情報共有ができる。複数のユーザーが同時に同じページの編集も可能で業務の円滑化に有効。 |
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テキストやPDF、画像のデータを保存できる。マルチデバイスに対応しており、複数のユーザーで共有も可能。 |
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Googleアカウントがあれば無料で利用可能なオフィスツール。文書作成や表計算、資料作成、スケジュールの共有が可能。オンラインミーティング機能も。 |
ほかにもGoogleビジネスプロフィールやLINE公式アカウントなど、企業や店舗の販促に有効なツールもあります。
アウトソーシングや業務委託の利用
人件費率を改善するには、アウトソーシングや業務委託の利用もおすすめです。
閑散期や繁忙期がある業種の場合、業務委託の利用で人件費の過不足を調整できます。
また経理や清掃といった専門的な業務をアウトソーシングすれば、従業員はより自分の専門業務に集中でき、売上アップにつながります。
ITや美容業、コンサルティングなど、多岐にわたる職種で業務委託という働き方が浸透し、自ら業務委託雇用を望む人も少なくありません。
▼業種別 求人条件 検索ランキング
優秀な人材をスポット採用できれば、適正な人件費率で売上の最大化が望めるでしょう。
工数管理の実施
コスト管理や作業効率を高めるうえで大切なのが、工数管理です。
工数は3つの種類で管理され、以下のように用いられます。
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工数の種類 |
例 |
解説 |
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人月(にんげつ) |
3人月 |
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人日(にんにち) |
2人日 |
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人時間(にんじかん) |
10人時間 |
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工数とはある作業が完了するまでに必要な人数や時間を表すもので、作業を完了のために必要な人件費を細かく見積もることができます。
また作業完了後もどの工程に時間がかかるかなどフィードバックもしやすいため、作業効率の改善にも有効です。
工数の多い採用業務なども工数管理を正しくすれば、作業時間の短縮や効率化が期待できます。無料で使える工数管理ツールもあるので、ぜひ取り入れてみてください。
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人件費率が平均であっても売上や利益を上げられない人材ばかりでは、事業の存続に悪影響を及ぼしかねません。
採用する際は自社の業種に強い専門採用サイトを使い、優秀な人材を採用しましょう。
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まとめ
本記事を総括すると、次のとおりです。
- 人件費率の平均は10%台から30%台と業種によって異なる
- 安易な人件費削減や低すぎる人件費率は売上の損失につながる
- ITや業務委託を活用し、適正な人件費率を目指そう!
- 人件費率の適正化と同様、優秀な人材採用にも注力しよう!
人件費の適正化は、事業を存続するうえで欠かせません。しかし、安易な人件費削減や低すぎる人件費は従業員のモチベーションを下げる恐れがあり、危険です。
日頃の業務に無駄がないかチェックし、効率化できる工程は積極的に改善してください。あわせて、労働生産性の高い優秀な人材採用も進めていきましょう。
- 執筆者情報
- 田中 久美(Tanaka Kumi)