整体院の開業を考えているものの、どのような手順で準備を進めていけばよいのかわからない人もいるのではないでしょうか。整体院の開業形態は複数存在しており、自身の状況に適した開業形態を選択することが大切です。
開業形態を決めたうえで、正しい手順を踏んで準備をすれば成功する可能性を高められます。本記事では、整体院の開業形態や開業する流れとともに、成功するためのポイントや整体院開業に活用できる補助金について解説します。
整体院の開業形態
整体とは、手技を用いて体のバランスを整える施術のことです。整体院では、整体のほか、カイロプラクティックやリフレクソロジーといった、さまざまな手技療法が提供されることもあります。
整体院として開業する際の営業形態には、主に以下の5つのパターンが存在します。
- 自宅
- 貸店舗
- 賃貸マンションの一室
- レンタルサロン
- 出張
ここでは、それぞれの開業形態について、解説します。
自宅
整体院として開業する形態には、自宅の一部を改装して施術スペースを設ける方法が挙げられます。内装に過度な費用をかけなければ、比較的少ない初期投資で開業できます。貸店舗や賃貸マンションの一室を借りる場合と比較しても、月々の家賃負担を抑えられる点がメリットです。
ただし、住居地域では大きな看板を設置できなかったり、そもそも広告物の掲示が難しかったりする場合があります。立地条件が良くない場合や、効果的な宣伝ができない場合には、集客に苦労するかもしれません。
自宅で開業する際には、近隣住民と良好な関係を築き、認知度を上げることを意識した活動が大切です。エステサロン「facial & body care salon lampo」の横澤さんは、独立する1年前から集客に向けて活動したようです。
独立前の1年をかけて、とにかく人に知ってもらうことにしました。私は愛知県岡崎市の自宅で開業したのですが、岡崎市のかなり端の方で、山と畑で囲まれているような町でしたので、放っておいてもお客さまが来てくれることはないと思ったんです。
引用:モアリジョブ|facial & body care salon lampo セラピスト 横澤美穂さん
貸店舗
貸店舗での開業は、事業用の物件として貸し出されている不動産を借りて開業する方法です。店舗用の物件は、比較的多くの人が行き交う場所に立地されているケースが多く、偶然通りかかった人が来店する可能性や、店舗の存在が自然と認識されやすいといった集客面での効果が期待できます。
マンションの一室や自宅サロンと比較しても、店舗の入り口や内部の様子が外から確認しやすいため、顧客が安心して入りやすいことも集客に有利に働くでしょう。株式会社トラスト・ファイブの調査によると、初めてリラクゼーションサロンを利用する顧客は、店舗の入口がわかりづらさが理由で入店をためらうケースが多いことが明らかになりました。
その一方で、貸店舗はテナントを借りるための費用が高額になる傾向があり、開業時にはまとまった資金が必要です。内装が何もない状態のスケルトン物件の場合、内装工事や設備の導入も必要になるため、初期費用はさらに高くなる可能性があります。
賃貸マンションの一室
賃貸マンションの一室を、施術スペースとして開業する方法もあります。貸店舗を借りる場合と比較すると、家賃が比較的低いため、開業時の初期費用を抑えられます。また、プライベートな空間を重視する利用者のニーズにも応えやすい形態です。
しかし、自宅での開業と同様に大きな看板の設置は難しい場合が多いため、駅や利用者が多い施設の近くといった集客しやすい立地を選ぶことに加えて、ウェブサイトやチラシ配布など、集客のための工夫が求められます。
「整体院 和-KAZU」の迫田さんは、元々自宅での施術をしていたものの、プライバシーを守りたいというニーズを感じ、賃貸マンションの一室での形態に移行しています。
とくに、時間で動いている働く世代の方、1万円出してでも改善したい方、プライバシーを守りたい方が多くいました。「こういうところを探していたんだよね」という方が、すごく多かったですね。自宅で施術を行っていた時に感じたニーズから、現在の形態で開業しましたが、結果的によかったです。
引用:モアリジョブ|整体院 和-KAZU- 院長 迫田和也さん
レンタルサロン
レンタルサロンでの開業は、必要なときだけ施術スペースを借りる開業方法です。通常の賃貸物件のように、毎月の固定費が発生しません。施術に必要なベッドやタオルなどの備品が用意されている場合が多いため、自分で備品を揃える手間が省けます。
働く場所が固定されないため、特定の地域に限らず広範囲から顧客を獲得できる可能性がありますが、場所で覚えてもらえないため、集客方法には工夫が必要です。まずはレンタルサロンからスタートし、ある程度の固定客がついた段階で貸店舗や賃貸マンションの一室を借り、固定された店舗を持つというステップを踏むこともひとつの方法です。
個室サロン「アロマギフト」の市井さんは、集客の苦労を予測し、レンタルサロンで開業したのちに店舗での開業に移行しています。
最初はお客さんが全然来ませんでした。だから、はじめは店を借りず、レンタルサロンだったんです。ネットやSNSなどでたどり着いたお客さんを相手に勉強代をいただくような感じで、施術していましたね。そこから徐々にお客さんが増えてきて、ようやく2013年に店舗を構えられました。
引用:モアリジョブ|アロマギフト 代表 市井真太郎さん
出張
顧客の自宅や指定された場所に出張し、そこで施術をする方法もあります。施術者が移動する手段さえあれば開業できるため、物件費用や内装工事費はかかりません。店舗を構える場合のように高額な費用が発生しないため、施術料金を比較的安価に設定できる点も魅力です。
施術費用を安価にすれば顧客からの予約が入りやすくなるため、結果として施術の経験の機会を増やし、スキルアップにもつながる可能性があります。
出張マッサージ「椎名屋」の椎名さんは、資金のかからない開業方法を探していたところ、出張での開業形態があることを知り、開業に踏み切ったそうです。
会社員として働いていた頃から長年、人と接する職業で自立してみたいと夢見てましたので、整体師になったら自分で開業しようと思っていました。
ですが、開業するには資金が必要。当時すでに私には家族がおり、家も持っていたので開業するなんて現実的ではありませんでした。
そこで先生に相談したところ、「出張」形態の働き方があると教えてもらったんです。
引用:モアリジョブ|椎名屋 整体師 椎名宣行さん
整体院を開業する流れ
整体院を開業する際は、以下の準備を段階的に進めていく必要があります。
- 開業形態を決める
- 事業計画を立てる
- 開業資金を調達する
- 物件を見つける
- 店舗を準備する
- 開業届を提出する
- 宣伝する
- スタッフを採用する
ここでは、整体院を開業するまでの一般的な手順を解説します。
1.開業形態を決める
初めに、前の章で紹介した5つの開業形態の中から、自身の状況に適した開業形態を選択します。
- 自宅
- 貸店舗
- 賃貸マンションの一室
- レンタルサロン
- 出張
自身の整体院を「どのように運営していきたいのか」「どのような働き方や生活を望んでいるのか」を具体的に整理すると、適した開業形態が見えてきます。例えば、自身の生活リズムに合わせて柔軟に働きたい場合には、自宅やマンションの一室を利用してひとりで開業する方法が考えられます。
一方で、より多くの売上を目指したい場合は、多くの顧客に対応できる貸店舗やアクセスの良いマンションの一室を借りて開業するほうがよいでしょう。出張整体やレンタルサロンから始めて徐々に固定客を増やし、その後に自身の店舗を構えるという方法もあります。
2.事業計画を立てる
開業形態を決めたら、具体的な事業計画を策定します。整体院を開業したい動機を深く掘り下げ、コンセプトや主なターゲット層を明確にしましょう。コンセプトやターゲット層を決めたら、それを基に運営方法や経営戦略、収支計画を検討し、事業計画に落とし込みます。
事業計画書は、これから始める事業をどのように進め、どのようにして収益を上げていくのかを具体的にまとめたものです。開業に必要な資金の調達方法や返済方法などの資金繰りの計画も、考えておく必要があります。
新たに事業を始める場合、経営の実績がまだないため、金融機関からの信用がありません。そのため、事業計画書を丁寧に作成し、事業が成功する見込みがあることを示す必要があります。フリーランスサロン「KOKUA」の梅澤さんは銀行からの指摘を受け、何度も事業計画書を書き直し、融資を得ました。
こっちで開業するとなると当然地方銀行でお金を借りなければいけませんが、僕はずっと東京で活動していたので、こっちでの実績はゼロ。集客をはじめ、全てのことがゼロスタートなわけなので、「お店を出します」と言ったところで銀行の信用を得ることは難しくて…。「根拠あるの?」と結構突っ込まれました(笑)。結局、事業計画の練り直し、練り直しで、予定より2ヶ月遅れでのオープンになりました。
引用:モアリジョブ|フリーランスサロン「KOKUA」代表 梅澤勇人さん
事業計画書に書くべき内容は以下のとおりです。
- 事業を始める動機
- 経営者の略歴(経験やスキルなど)
- 具体的なサービス内容
- 従業員数(予定を含む)
- 現在の借り入れ状況
- 開業に必要な資金額とその調達方法
- 事業の将来的な見通し(目標とする売上高や予想される経費など)
商工会や商工会議所に相談して事業計画書を作成するのもひとつの方法です。日本政策金融公庫では、次の書式が見本として紹介されています。
書式についても、以下のサイトからダウンロードできます。
3.開業資金を調達する
開業形態や自己資金にもよるものの、開業には少なからず費用が必要です。日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費の平均値は1,027万円、中央値は550万円でした。
開業費用の分布は500万~1,000万円未満の割合が最も多く、日本政策金融公庫が公開している「2021年度新規開業実態調査」によると、開業資金の調達先として「金融機関等からの借入」の平均額が803万円でした。
運転資金の目安としては、月間の売上目標額の3か月分から6か月分程度を準備しておくとよいでしょう。開業してから数か月は、集客が安定せず赤字経営になる可能性も考慮し、家賃や人件費などの固定費の支払いが滞ることのないよう、余裕を持った資金計画を立てることが大切です。
自己資金だけでは開業費用が不足する場合は、外部から資金を調達する方法を検討します。主な調達方法は以下のとおりです。
- 親族や知人からの借入
- 民間金融機関や日本政策金融公庫、地方自治体からの融資
- クラウドファンディングによる資金集め
- 国や地方自治体が提供している助成金や補助金の活用
内装が何もないスケルトン物件の場合、工事費用が高額になる傾向があります。そのため、前のテナントの内装や設備を利用できる居抜き物件を選んだり、中古やリースの設備や機材を利用したりして、初期費用を抑える工夫をしましょう。
4.物件を見つける
自宅以外で開業する場合は、店舗となる物件を選定します。賃貸物件を探す際のポイントは、以下のとおりです。
- ターゲット層が集まりやすい立地か
- ランニングコストを抑えられるか
都市部であれば駅からのアクセスが良い場所、郊外であれば利用者が車で来店しやすいよう、ある程度の広さがある駐車場を備えた場所を選ぶとよいでしょう。
また、開業を予定しているエリアに整骨院や他の整体院、鍼灸院など、競合となる店舗がどのくらい存在しているのかを事前に調査し、他院との差別化を図れるのかを検討することも重要です。
実際に開業予定のテナントの前を通る人々の年齢層や性別といった属性や、時間帯ごとの人通りなども確認しておきましょう。最寄りの駅やバス停からの導線を、利用者の視点に立って確認する必要があります。
物件を決めたら賃貸借契約を締結します。物件契約にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 敷金・礼金・保証金
- 仲介手数料
- 保険料
- 前払いで支払う分の家賃
契約時には登記簿謄本(法人の場合)や印鑑証明書、代表者の連帯保証などが必要です。必要書類は事前に確認しておきましょう。
店舗を準備する
賃貸借契約を締結したら、店舗の内装工事や外装工事を進めます。利用者がリラックスして施術を受けられるような、快適な空間づくりを意識しましょう。ターゲット層に合わせて店舗のレイアウトを考えると、集客力向上や顧客満足度向上につながります。
例えば、ターゲットごとのニーズの具体例として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 女性:化粧直しができるパウダースペースや大きめの鏡を設置する
- 子育て世代:小さなお子様連れでも安心なキッズスペースを設ける
- 学生:待合室にマンガや雑誌を置く
整体院の運営に必要な主な備品には、以下のものが挙げられます。
- 施術用ベッド
- 利用者情報の管理や受付のためのデスクや椅子
- パソコンおよび関連機器
- エアコンやストーブなどの空調設備
- プライバシー保護や空間を仕切るためのカーテンやパーテーション
- タオルやシーツ、施術着 など
タオルやテーピング、包帯などの消耗品は、ECサイトを利用すると手軽に購入できます。まとめ買いを活用すれば、比較的安価に入手できます。「トワテック」「アトラスストア」「からだはうす」などの、整体院向けの備品を扱う複数のECサイトを比較検討するとよいでしょう。
5.開業届を提出する
整体院を開業するにあたっては、特別な資格や免許は必要ありません。管轄の税務署に開業届を提出すれば開業できます。個人事業主として美容室を開業する場合は、開業届と併せて税務署へ「青色申告承認申請書」も提出しましょう。条件を満たせば、年間の所得金額から一定額(最高で65万円)を控除できるため、節税効果が期待できます。
開業届を税務署に提出する際に必要な主なものは、以下のとおりです。
- 開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書。原則として開業日から1か月以内に提出)
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
- マイナンバーがわかるもの(マイナンバーカード、個人番号通知書のコピー、個人番号が記載された住民票の写しなど)
- 所得税の青色申告承認申請書(青色申告を希望する場合のみ。原則として開業日から2か月以内に提出)
6.宣伝する
開業後、スムーズに集客につなげるためには、開業前から宣伝活動を始めることが大切です。特に整体院の施術は、公的医療保険が適用されない自費診療となるため、一部保険適用の場合がある整骨院と比較すると、客単価が高くなる傾向があります。
客単価が上がれば、集客難易度も上がるため、マーケティングを意識した集客戦略を練る必要があります。主な宣伝方法として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 自店のホームページやブログを立ち上げ、情報発信する
- Googleビジネスプロフィールに登録する
- インターネット広告(リスティング広告やディスプレイ広告など)に出稿する
- SNSを活用して情報発信する
モアリジョブが行ったアンケート調査によると、美容室ではホームページの作成やSNSの活用といった、オンラインでの集客活動に力を入れている店舗が比較的多いという結果がでています。整体院においても、オンラインでの情報発信は有効な手段のひとつといえるでしょう。
▼現在、集客のために導入している方法はありますか?(複数回答)
パーソナルトレーニングジム「メルメイク」は、開店前の4か月間を宣伝に充て、集客につなげています。
動き出したのは2018年の12月頭くらいからです。4月のオープンまでの期間は、ほとんどインターネットでのマーケティングや広告ページの準備に使いました。
独立してすぐに営業する方もいらっしゃいますが、やはり広報面の準備をしっかり固めてからスタートする必要はあると思います。集客ができなければ、何もできませんから。
しかし、ただ広告に力を入れるといっても、広告費ばかり嵩んで集客につながらなければ意味がありません。広告を適当にすると、広告費の無駄打ちになってしまいます。
引用:モアリジョブ|メルメイク代表 栗坂泰輝さん
鍼灸師で治療家向けの経営や集客、イベントのサポートなどを中心に活動している鈴木さんは、ターゲット層に刺さるチラシを作成し、集客につなげています。
ターゲットをしぼったチラシを打ったことが大きかったと思っています。ターゲットを決めるにあたっては、出店するエリアの近くを実際に歩いてみてどんな人たちが多いかを目で確かめました。出店エリアは東京の郊外で、公園も多く、妊婦さん、小さな子連れのママさんを多く見かけたんです。そこで「産後ケア」を打ち出したチラシをまいたところ、ママ層にリーチすることができ、集客につながりました。
引用:モアリジョブ|鍼灸師 鈴木むつよさん
ターゲットによって効果的な宣伝方法は異なります。コンセプトを踏まえたうえで、ターゲットに刺さる集客方法を選択するとよいでしょう。
7.スタッフを採用する
開業後に店舗の売上を伸ばしていきたいと考えている場合、スタッフの採用も視野に入れましょう。複数名のスタッフがいる体制を整えることで、繁忙期での予約の取りこぼしを防ぎやすくなります。宣伝活動をはじめとした施術以外の業務に取り組む時間的な余裕も生まれます。
スタッフを採用する際は、開業したマッサージ店のコンセプトや雰囲気に合った人材を選ぶことが大切です。自店の社風や求めるスキルと合わない人材を採用した場合、早期離職につながり、再度採用活動を行うためのコストが発生します。
経験者を採用する場合には、マッサージ店で提供する施術メニューに対応できるスキルを保有しているかどうかも確認する必要があります。店舗の運営状況や予算に合わせて、雇用形態を検討することも大切です。
採用コストを抑える工夫も必要です。人材紹介サービスや総合型の求人サイトを利用する方法は、採用単価が高くなる傾向があります。自社の採用ページを充実させたり、SNSを活用して情報発信をしたりすれば、採用ブランディングにつながるため、長期的にみればコストを抑えた採用につながります。
「新橋整体院グッドラック」の篠原さんは、猫背矯正を広めるという目標達成に向け、施術者から経営に回ってスタッフの採用に動き始めました。
経営に回って、猫背矯正を広めていきたいと思っています。まずは、スタッフを雇うことからですね。それから、手技の指導に移っていく。今すぐには実行できないですが、徐々に動き出そうと考えているところです。
引用:モアリジョブ|新橋整体院グッドラック 経営者 篠原靖治さん
自社で能力を発揮し、活躍できる人材を採用するためには、事前準備が重要です。リジョブでは、これから独立・開業をして将来的にスタッフの採用を検討している方に向けたノウハウを提供しています。手順を詳しく知りたい場合は、無料でダウンロードできる下記の資料をご覧ください。
整体院の開業を成功させるポイント
帝国データバンクの調査によると、整体院を含む整骨院・療術・マッサージ業者の倒産は増加傾向にあります。
厳しい業界で成功するためには、コミュニケーション力や業務スキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。また、チーム構築や競合との差別化、価格設定なども押さえておきたいポイントです。ここでは、整体院の開業を成功させるポイントについて解説します。
コミュニケーション力を磨く
利用者との良好なコミュニケーションは、整体院の成功に不可欠です。整体院では、施術前に利用者の状態や悩み、要望などを詳しく伺う問診の時間を設けます。その際、利用者と円滑にコミュニケーションが取れなければ、悩みや体の状態を正確に引き出せません。
施術に関する会話だけでなく、何気ない雑談や打ち解けた会話が自然にできるようになれば、利用者との信頼関係も深まり、口コミや紹介による新規顧客の獲得も期待できます。
「洲本接骨院」の西さんも、利用者とのコミュニケーションを重要視しています。
問診だけじゃなく、コミュニケーションが取れないと、周りの人に紹介もしてもらえないですよね。今でこそYouTubeやSNSでたくさんの人に知ってもらえますが、そもそも接骨院はローカルビジネスなので、口コミや紹介が集客の肝になります。
どんな仕事でもコミュニケーションは大切ですが、ヘルスケアのお仕事では特に大切になると思います。これからこの業界を目指す人は、誰とでもいろんな会話ができるようにしておくことをオススメします!
引用:モアリジョブ|「洲本接骨院」院長 西正博
施術スキルを高める
集客がうまくいったとしても、提供する施術サービスのスキルが低ければ、利用者は満足せず、リピーターにはなってもらえません。スキル不足に関する良くない評判が口コミで広がってしまうと、その後の集客はさらに困難になる可能性があります。
整体院を長く続けていくためには、常に新しい知識や技術を学び続け、自身の施術スキルを高めていくことが大切です。
「颯整体院」の石田さんは、開業当初の集客低迷を技術不足と分析し、現在でも技術セミナーで学び続けています。
開業当初は、やはり技術力が未熟なために十分な施術ができていなかったのでしょうか。思うように集客が見込めず、少々悩みましたね。
技術面も集客面も急激に上達、改善するような秘策はないと思っています。しかも、運悪くコロナ禍が重なってきたこともあったので、耐えてこれまでやってきたことを継続してきました。
チラシでの集客を続けつつ、技術面も地道にコツコツ勉強して自分に足りないところを補うように心がけていました。そのときの志を忘れないよう、今でも月一回は全国各地で行われている技術セミナーで学び続けています。
引用:モアリジョブ|颯整体院 院長 石田一平さん
「TSL とがし整体Labo」の富樫さんは、技術にこだわり続け、口コミからの集客につなげています。
施術でお客様のニーズをきちんと満たすことができれば、こちらからお願いしなくても自然と口コミを書いて下さったり、SNSなどで発信して下さるんだと分かりました。
そこで、着実に技術を磨いてきた僕のこれまでの行動は間違ってなかったんだと大きな自信につながりましたね。それにお客様が感じたことをありのままに書いて下さった口コミは、他院と比べてとても具体的に書かれているため、新たなお客様の来店にもつながりやすく日々ありがたみを感じています。
引用:モアリジョブ|TSL とがし整体Labo 富樫こうちさん
マーケティングを学ぶ
新規集客とリピーター獲得のためには、マーケティングの知識が欠かせません。特に整体院の施術は、公的医療保険が適用されない自費診療となるため、整骨院と比較すると集客の難易度が上がります。開業後、すぐに集客につなげるためにも、開業前からマーケティングについて学んでおくことが大切です。
「お灸堂」の鋤柄さんは、マーケティングの勉強により、お灸の専門院としての差別化に取り組み、集客につなげています。
理由はいくつかあるのですが、一番大きいのはそのポジションが空いているかどうかでした。出張での経営がうまくいかない間、時間だけはたくさんあったので、本はたくさん読んで、マーケティングについても学びました。そこで学んだのがポジショニングについてです。
京都には有名な鍼灸師の先生も大勢いらっしゃいますし、若手の私は差別化しないと経営を立ちいかせるのは困難だと思って、ポジションがあいていたお灸の専門院にすることにしました。メニューを増やすと複雑化するし、そもそもできないことも多いので、お灸のみにしぼったんです。その後はSNSなども活用しながら徐々に集客できるようになっていったんです。
引用:モアリジョブ|お灸堂 院長 鋤柄誉啓 さん
マーケティング活動に取り組む際には、柔道整復師法や景品表示法、医師法・医療法といった関連する法律を遵守した広告表現を心がける必要がある点も、押さえておきましょう。
チームを作る
将来的に売上を伸ばしていきたいのであれば、スタッフを採用し、チームで運営していくことも必要です。売上が拡大するにつれて、施術以外にもやるべき業務が増え、ひとりでは手が回らなくなるケースは珍しくありません。
そのような場合には、スタッフに施術を任せて自身はマーケティング活動に専念したり、ブログやSNSの運用経験があるスタッフを雇用して情報発信業務を任せたりするなど、役割分担が必要です。
ヘッドスパプロデューサーの辻さんは、日本で一番のヘッドスパ専門店を作ること目標に掲げたものの、働き方を変えなければならない事情があり、チームとしてのビジネスモデル構築に取り組みました。
僕は開業してから、日本で一番のヘッドスパ専門店を作ることを、大々的に目標にしていました。しかし2015年に生まれた長女が、100万人に1人の難病だったんです。24時間看護が必ず必要になるし、おそらく短命になることが多いと言われました。起業してから順調だった中で、初めて問題に直面したんです。
その時期はもうフルパワーで仕事をしまくって、お見舞いに行ける時間を作る状態。これは在宅を中心に働き方を変えなければいけないと思いました。数年かけて取り組もうと思っていたサロンケアの書籍化、サロンプロダクトの大量生産と通信販売、そして僕が考えた技術を同じ志を持つ人たちに伝え、僕の代わりにやってもらうというビジネスモデルを早急に進めることにしたんです。
引用:モアリジョブ|ヘッドスパプロデューサー 辻敦哉さん
競合と差別化する
集客の難易度が高い整体院では、競合となる他の整体院との差別化を意識することが重要です。競合にはない独自の施術サービスや強みを打ち出せれば、利用者に選ばれる理由となり、差別化につながります。
差別化するためには、開業を予定している地域にある競合が、どのような施術メニューを提供しているのかを調べてみるとよいでしょう。整体院だけでなく、接骨院やマッサージ業者のメニューも調査対象です。
業界では当たり前とされていることや、既存の施術方法にあえて異なる視点を取り入れ、新しいアプローチで施術メニューを考案することも、有効な差別化戦略になります。
「きむらカイロプラクティック」の木村さんは、通っていた学校の矯正方法に疑問を感じ、自分が納得できる矯正方法を見つけ出し、差別化に成功しています。
私が通っていた学校がバキバキと鳴らす矯正方法を教えている学校でした。当時、そのバキバキさせる矯正方法にとても疑問を感じて、「バキバキしない方法はないのか?」と自分が納得できる矯正方法を考えるようになったことがきっかけです。
まずは、歪みの定義から考え始めました。というのも、カイロプラクティックの歪みの定義は抽象的で具体的なものではありません。その土台である定義が具体的でないと、それ以外の検査方法や触診法・矯正方法全てが曖昧になってしまいます。それを受けて、歪みの定義を確立しようと手がけ始めたのがALCK法の原点となりましたね。
引用:モアリジョブ|きむらカイロプラクティック 院長 木村康彦さん
複数の技法を組み合わせて、新しい施術メニューを作るのもひとつです。出張マッサージ「椎名屋」の椎名さんは、自身のスキルであるアロマと整体を組み合わせ、独自の施術サービスを提供しています。
すでに自分の手技を持っているアロマセラピストや整体師がベースです。たくさんいるアロマセラピストや整体師の中で何かに特化し、差別化できることを目指しています。
今後、他のセラピストより特化して生き残るためには「ただ気持ち良かった」「癒された」だけでは正直難しく、「癒し」の先を獲得することが必要です。そのためにプラスで身につけるといい手技を配信しています。
単純にアロマと整体を組み合わせた手技で、整体の関節を動かすダイナミックな手技を加えながらアロマトリートメントを行います。
アロマトリートメントだけでは改善されない肩こりの症状も、整体の手技を加えることで緩和されるのでお客様の満足度も高いんですよ。
引用:モアリジョブ|椎名屋 整体師 椎名宣行さん
理想の価格と最低限維持すべき価格を決める
施術料金を決める際に重要なのは、料金を安く設定し過ぎないことです。料金を安く設定した場合、一時的に集客しやすくなるものの、「忙しいのに儲からない」という状況に陥ってしまうケースが珍しくありません。
まずは、目指したい理想の目標売上と、経営を維持するために最低限確保しなければならない売上額を具体的に決めます。そこから、1日に対応可能な施術人数を考慮して逆算し、理想とする価格と、最低限維持すべき価格を割り出します。
算出した価格帯を基に、地域の競合店の料金設定なども参考にしつつ、最低限維持すべき価格を下回らない範囲で、提供する施術サービスの価格を決定しましょう。
J-Net21の調査によると、整骨院の1回あたりの利用金額は「1,000円~3,000円未満」が31%と最も多く、次いで「500円~1,000円未満(24%)」「3,000円~5,000円未満(20%)」でした。
店舗経営を維持するために必要な売上とニーズとのバランスを考慮しながら施術の価格を設定すれば、経営的に無理なく顧客満足度を高めることにつながります。例えば、1回の施術時間を15分・30分・60分のように複数設定し、それぞれの時間に合わせて料金単価を設定すれば、売上を確保しつつ利用者からの多様なニーズにも応えられます。
運用コストを把握しておく
整体院を運営するには、必要となるコストにどのような項目があるのかを把握しておくことが大切です。整体院を開業する場合に必要なコストの項目は以下のとおりです。
- 固定費:売上の増減にかかわらず、毎月発生する費用(家賃・人件費・通信費・広告費・水道光熱費など)
- 変動費:売上の増減に伴って変動する経費(材料費・消耗品・雑貨・清掃用品・修繕費用・交通費など)
健全な経営を続けるためには、これらの経費の種類や、それぞれの費用が全体の支出に占める割合などを把握し、管理することが重要です。
キャッシュレス決済を導入する
近年では、クレジットカードや電子マネー、QRコード(バーコード)決済といったキャッシュレス決済が社会に広く浸透しており、支払い方法としてキャッシュレス決済に対応している店舗を選ぶ利用者が増えています。
日常的に現金を持ち歩かない人も増えており、キャッシュレス決済に対応していないというだけで、利用されないケースも珍しくありません。顧客満足度の向上や、会計業務の効率化のためにも、ターゲット層のニーズに合わせて、キャッシュレス決済システムの導入を検討しましょう。
整体院開業に活用できる補助金
整体院を開業する際には、国や地方自治体が設けている補助金制度を活用できる場合があります。これらの制度を活用すれば、開業時の資金負担の軽減が可能です。ここでは、整体院の開業時に活用を検討できる主な補助金について解説します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販路開拓や業務効率化への取り組みに対して、その経費の一部を補助する制度です。対象となるのは、常時雇用している従業員の数が20人以下である事業者です。ただし、商業・サービス業のうち宿泊業と娯楽業を除いた業種では、従業員数が5人以下の事業者が対象となります。
この補助金を利用するためには、地域の商工会議所や商工会から支援を受け、申請手続きを進める必要があります。整体院の開業時にこの補助金を活用する場合は、創業支援に特化した「創業枠」に申し込むとよいでしょう。
条件を満たせば、インボイス発行事業者としての特例と合わせて、最大で250万円までの補助を受けられる可能性があります。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、新しいサービスの開発や試作品の製作、生産プロセス改善に向けた設備投資などに対して、その費用の一部を補助する制度です。すでに創業している中小企業または個人事業主として開業している事業者が対象です。
過去には、整体院や整骨院がエコー測定器を導入した際に、この補助金が活用された事例があります。従来の整体院ではあまりみられないような、新しいサービスや独自の仕組みを導入していくことが、補助対象となる条件です。
例えば、新しいサービスを提供するために必要な専用の機器やシステムを導入する際の投資などが該当します。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者などが、生産性向上を目的としてITツールを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。整体院の開業時であれば、IT導入補助金の申請要件を満たせるため、申請できます。
対象となるのは、業種ごとに定められている資本金や従業員数の上限が、国が定める基準以下である法人または個人事業者です。IT導入補助金を申請するためには、国から認定されたIT導入支援事業者と連携して手続きを進める必要があります。
▼IT導入補助金に申請する事業者と支援事業者の関係
なおIT導入補助金を活用するためには、IT導入支援事業者により当該のITツールが、あらかじめ補助金対象として登録されている必要があります。
整体院の運営に関連するITツールとしては、以下のものが挙げられます。
- 電子カルテシステム
- オンライン予約システム
- キャッシュレス決済サービス
- モバイルオーダーシステム(健康グッズなどの販売をする場合)
- ECサイト構築システム(健康グッズなどの販売をする場合)
- 勤怠管理システム
- 会計システム など
これらのITツールの導入により、業務の効率化や顧客満足度の向上を図る際の費用負担を軽減できます。
まとめ
整体院の主な営業形態には自宅や貸店舗、賃貸マンションの一室、レンタルサロン、出張サービスが挙げられます。整体院を開業する際は、自分の状況に適した開業形態を選択し、以下の手順で段階的に準備を進めていく必要があります。
- 開業形態を決める
- 事業計画を立てる
- 開業資金を調達する
- 物件を見つける
- 店舗を準備する
- 開業届を提出する
- 宣伝する
- スタッフを採用する
整体院を含む整骨院・療術・マッサージ業者の倒産は増加傾向にあり、特に自費診療となる整体院の施術は、整骨院と比べると集客難易度も上がります。整体院で成功するためには、コミュニケーション力や業務スキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。
また、チーム構築や競合との差別化、価格設定、コスト管理なども押さえておきたいポイントです。本記事を参考に開業形態や事業内容を決め、開業に向けて動きましょう。

- 執筆者情報
- 田仲ダイ(Tanaka Dai)