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あなたの美容室は大丈夫? 潰れる【前兆】を見極め、今日から始める経営改善策

あなたの美容室は大丈夫? 潰れる【前兆】を見極め、今日から始める経営改善策

「このままの経営を続けて、来月、そして来年も経営を続けられるだろうか」といった不安を抱える美容室の経営者・オーナーは決して少なくありません。

株式会社CHIMJUNが行った調査によると、美容室経営者が最も課題を感じている項目は、「集客数」で全体の61.4%でした。実に、経営者の5人に3人が、今あなたと同じ悩みを抱えています。

そして、本当に恐ろしいのは、経営者が共通して抱えるこの「集客」への悩みが、「あなたの美容室が傾き始めている前兆」に他ならない点です。

「まだ大丈夫」と思っているうちに、「気づけば手遅れになっていた」というケースになりかねません。

今回は、その危険なサインを見逃さないためのセルフチェックから、経営危機を乗り越えるための改善策まで、あなたのサロンを「潰さない」ための知識を徹底的に解説します。

美容室の倒産・閉店は過去最多の時代に

美容業界は今、大きな転換期を迎えています。これは業界全体が不振だという単純な話ではありません。増益を確保する一部の美容室と、赤字経営に苦しむ美容室との「二極化」が急速に進んでいるからです。

手遅れになる前に、あなたの美容室の経営状態を客観的に見つめ直し、経営が悪化する危険な「前兆」を早期に察知しましょう。

倒産件数は過去最多へ! 3年連続で増加する厳しい現実

「自分の店だけは大丈夫」と思っていても、美容業界全体は今、非常に厳しい現実に直面しています。

帝国データバンクの調査によると、2025年1月〜8月に発生した美容室経営業者の倒産は157件に達しました。これは、過去最多であった前年の同じ時期の139件をすでに上回っています。

1_自分の美容室が潰れるかもしれないと思ってもらうために使った、帝国データバンクの美容室の倒産件数をまとめた調査

美容室の倒産件数は3年連続で増加しており、このまま推移すれば、通年でも2年連続で過去最多件数を更新する可能性が高くなっています。

このデータが示すのは、「美容室の倒産・閉店は、もはや他人事ではない」という厳しい現実です。このような時代だからこそ、経営が傾く前の小さなサインを見逃さないことが重要といえます。

約3割が赤字経営! 勝ち組と二極化するサロン経営の実態

上記で倒産件数が増加している事実をお伝えしましたが、これは業界全体が一律に不振に陥っているという単純な話ではありません。

先ほどの帝国データバンクの2024年度に関する業績調査によれば、美容室の経営は「二極化」が急速に進んでいることが示されています。

2_より美容室が潰れるリスクを知ってもらうために使った、帝国データバンクの赤字と黒字の二極化が激しくなっている事実がわかる調査

具体的には、口コミやSNSでの集客を成功させ、コロナ禍からの回復の波に乗って「増益」を確保している事業者がいる一方で、約3割の事業者が赤字経営に陥っていることです。

さらに、利益が減少した「減益」の事業者は3年連続で増加しており、利益確保に苦戦する美容室が増えている実態が浮き彫りになりました。

あなたは今、「増益」を確保する美容室と、「赤字・減益」に苦しむ美容室のどちら側にいるでしょうか? まずは、ご自身の経営状況を客観的に見つめ直しましょう。それが、これから取るべき対策を考える第一歩となります。

コスト増と価格転嫁の難しさが経営を圧迫

なぜ、このように利益確保に苦しむ美容室が増えているのでしょうか? その根本的な原因として、多くの経営者が日々直面している「コストの上昇」と「価格転嫁の難しさ」があげられます。

以下のように、美容室の運営に必要なコストは上昇傾向です。

  • スタッフの給与水準の引き上げ
  • 美容資材の仕入れ価格の高騰
  • 集客に欠かせない広告費の増加 など

しかしながら、これらのコスト上昇分をそのままサービス料金に上乗せすることは容易ではないでしょう。

「もし値上げをしたら、長年通ってくださっているお客様が離れてしまうのではないか」という不安から、価格を据え置いたまま、サロン側が利益を削って耐えているケースは珍しくありません。

先に示した帝国データバンクの調査でも、体力のある大手チェーン店でさえ減益となっているケースが報告されており、この問題の根深さを示しています。

売上げは変わらないように見えても、気づかぬうちに利益だけが圧迫されていく流れこそが、経営が静かに傾いていく典型的なパターンです。だからこそ、手遅れになる前に経営が悪化する危険なサインを発見しましょう。

あなたの不安の正体は? 美容室が潰れる前兆セルフチェック

経営者が感じている、「なんとなく、サロンの雰囲気が以前より悪い」といった「漠然とした不安」の正体は、もしかすると経営が静かに傾き始めていることを示す、危険な「前兆」である可能性があります。

手遅れになる前に、その不安の正体を客観的に突き止めましょう。

以下では、あなたのサロンの経営状況を診断するために、「お金」「お客様」「スタッフ」という3つの最も重要なカテゴリーに分けて危険な前兆を明らかにしていきます。

ご自身の美容室の状況と照らし合わせながら、確認してみてください。

お金に関する前兆

経営者が抱える漠然とした不安の中で、最も深刻なもののひとつが「お金」に関する不安ではないでしょうか? 「今月も売上げは悪くなかったはずなのに、なぜか手元に現金が残らない」と感じ始めたら、注意が必要です。

その漠然とした不安は、以下のように経営悪化の前兆として現れています。

  • 資金繰りの悪化(家賃や材料費、スタッフ給与などの支払いが遅れがちになる)
  • 経費率の上昇(売上げは変わらないのに、材料費や広告費の割合だけが増えている)
  • 運転資金のための借入(サロンを回すための短期的な借入が増えている)

これらの前兆の背景には、上記で触れた「コスト増」の問題があります。材料費や光熱費が上がっているにもかかわらず、多くの経営者が「値上げをしたら、お客様が離れてしまうのではないか」という不安から、価格転嫁に踏み切れずにいるからです。

しかし、ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、直近半年で利用した美容室が「値上げをした(今後予定している美容室を含む)」と回答したお客様は38.0%にのぼります。

▼あなたが直近半年以内に利用したヘアサロンで料金の値上げ/価格改定はありましたか?

3_コスト増で料金の値上げの参考になる、ホットペッパービューティーアカデミーの料金の値上げを顧客に対して聞いたアンケート調査

このデータが示すように、コスト増に合わせて価格を改定するのは、多くの美容室が実践している通常の経営判断です。

一方で「値上げはない」としている割合は37.0%です。このことは、客離れを防ぐために自店の利益だけを削って価格を据え置いた結果、経営が厳しくなっている美容室の存在を示唆できます。

資金繰りが悪化している状況こそが、経営が静かに傾き始めている、非常に危険な「前兆」といえます。

お客様に関する前兆

サロン経営の不安は、「お金」だけでなく「お客様」に関しても現れます。「最近、新規のお客様が減ってきた気がする」といった集客に関する不安は、経営状況を測る重要な指標です。

その漠然とした不安が、以下のような具体的な前兆として現れていないかチェックしてみてください。

  • 失客率の上昇(2回目、3回目の来店につながらないお客様が増えている)
  • 予約の空き時間の増加(以前は埋まっていたはずの時間帯が、空いたままになっている)
  • 予約サイトなどの口コミ評価の低下(星の平均点が下がっている、またはネガティブなコメントが目につく)

特に怖いのが、オーナーが気づかないうちに客離れが進行しているケースです。失客の理由がわかれば対策も立てられますが、多くの場合、お客様は不満を口に出さずに静かに去っていきます。

なお、ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、お客様の実に半数以上(52.9%)が「美容室で会話をしたくない」と回答しています。

4_失客した理由が判断しにくいという理由をわかりやすくするために使った、ホットペッパービューティーアカデミーのお客様の会話に関してのアンケート調査

このデータでは、お客様の約半数がサロン内での積極的な会話を望まないことを示すと同時に、店舗側はお客様が何に満足し、何に不満を持っているのか、その本音を把握しにくいことも示唆しています。

お客様が何を考えているかわからないまま、水面下で静かに客離れが進行しているサイレント失客こそが、気づいた時には手遅れになりかねない、非常に危険な前兆です。

スタッフに関する前兆

経営者の不安は、「お金」や「お客様」だけでなく、美容室の経営の土台となり得る「スタッフ・組織」にも現れます。「最近、スタッフ同士の会話が減り、店の雰囲気が重い気がする」といった不安は、見過ごせない重要なサインです。

その漠然とした不安が、以下のような具体的な前兆として現れていないか確認してみてください。

  • 期待して採用した若手スタッフが、1年以内に辞めてしまうことが続いている
  • スタッフの遅刻や欠勤が増えたり、備品の管理や清掃が雑になったりしている
  • 求人を出しても、以前と比べて応募が来なくなった
  • 「給与が低い、休みが少ない」といったスタッフからの不満が、直接的・間接的に耳に入るようになった

スタッフの定着は、美容室経営において非常に難しく、かつ重要な課題です。ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、新卒美容師の約4割(36.7%)が、3年未満で最初の職場を辞めているというデータもあります。

5_スタッフが離職する前兆があるかどうか判断するために使ったホットペッパービューティーアカデミーの新卒で離職する人の割合をまとめた調査

このような人材確保が難しい状況の中で、今いるスタッフのモチベーションが低下し、店の雰囲気が悪化している状況は、非常に危険です。

それは、サービス品質の低下による客離れや、さらなるスタッフの離職という負のスパイラルを引き起こす、経営悪化の明確な前兆といえます。美容師の離職に関する詳しい原因や対策については、以下の記事でも解説しているので参考にしてみてください。

美容室が潰れるのが怖いあなたが今日から始めるべき応急処置

上記で紹介したセルフチェックで、ご自身の美容室が抱える課題や、漠然とした不安の正体が少しずつ見えてきたかもしれません。

不安が明確になると、すぐにでも大きな改善策に手を打ちたくなりますが、焦りは禁物です。まずは美容室の現状を正確に把握し、さらなる悪化を防ぐための応急処置から冷静に始めましょう。

以下では、経営者として今日からすぐに着手できる、3つの具体的な応急処置を解説します。これらは、今すぐ問題を解決するものではありませんが、次の正しい一手を打つための「現状把握」と「信頼関係の再構築」につながる第一歩です。

お金の流れを「見える化」して現状を把握する

経営に関する不安の多くは、「現状が正確に把握できていない」という漠然とした恐怖から生まれます。パニックに陥る前に、まずは自店の財務状況を冷静に見つめ直しましょう。

難しい会計知識は一旦脇におき、まずは直近3カ月分の通帳、クレジットカードの明細、売上げの記録を用意してください。

「お金の流れを再確認する」といっても、どこから手をつければいいかわからない方もいるのではないでしょうか? そこで、確認すべき最低限のポイントを以下にまとめました。

  • 毎月の収支は黒字か、赤字か? :直近3カ月の「売上げ」と「経費」を書き出して、収支を明確にする
  • どの経費が売上げを圧迫しているか? :支出を「家賃・材料費・広告費・人件費・その他」に分類して、どの項目の割合が大きいか確認する
  • 売上げ減少の原因は「客数」か「客単価」か? :売上げを「客数 × 客単価」に分解し、どちらが減少傾向にあるのか把握する
  • 手元の運転資金であと何カ月耐えられるか? :簡単な資金繰り表を作成し、仮に売上げがゼロでも、家賃などの固定費をあと何カ月支払えるか予測する

このステップの目的は、今すぐ問題を解決することではありません。「あと〇カ月で資金が尽きる」といった具体的な「数字」を客観的に認識することです。現状の正確な把握こそが、次の正しい一手を打つためのスタートラインとなります。

通い続けてくれる常連客の声にこそ耳を傾ける

売上げが減少している時、経営者は「なぜ、あのお客様は来なくなってしまったのか」と、離れたお客様の原因ばかりを考えてしまいがちです。

しかし、危機の際の応急処置として耳を傾けるべきポイントは、「今も変わらず通い続けてくださる常連客」の声です。施術中や会計の際、信頼関係のあるお客様に、勇気を出して以下のように尋ねてみてください。

「いつも本当にありがとうございます。よろしければ、〇〇様が当店を選び続けてくださる1番の理由を教えていただけませんか? 」

お客様の率直な答えの中には、オーナー自身が気づいていない「自店が絶対に失ってはいけない本当の強み」や、逆に「自分では気づいていない改善点」のヒントが隠されているはずです。

実際に、お客様の要望を丁寧にヒアリングする仕組みを構築し、高いリピート率を実現している美容室もあります。

『f’bloom Prellia』ではカウンセリングシートの項目を増やし、どのスタッフが対応してもお客さまの好みから要望までを共有できるようにしているんです。施術に入る前に、必ずカウンセリングシートをチェックした上で、改めてお客さまと一緒に一項目ずつ確認し希望のデザインを決めていきます。その際の姿勢や言葉遣いについてはスタッフ間で練習を行い、日頃からよりよい接客を目指して努力を重ねていますね。その成果もあり、サロンのリピート率は92%を超えています。

引用:モアリジョブ|f’bloom Prellia 代表 石井華子さん

経営に不安を感じている時だからこそ、常連客の声は、失いかけた自信を取り戻させてくれるでしょう。それと同時に、サロンが守るべき本当の価値と、改善すべき課題を再確認させてくれる、最も重要な道しるべとなるはずです。

現場の要であるスタッフとマンツーマンで面談する

経営者が抱える不安や焦りは、言葉にしなくても必ず現場で働くスタッフに伝わります。サロン全体の雰囲気が悪化し、それがお客様に伝わって客離れを招くだけでなく、スタッフの離職につながる前に、スタッフと対話をしましょう。

その際に、全体ミーティングで一方的に話すのではなく、一人ひとりと向き合えるマンツーマンでの面談の時間を設けてください。

そして、「最近、何か困っていることはない? 」あるいは「もっとこうしたらお客様に喜んでもらえる、というアイデアはある? 」といった形で、オーナーが真摯に意見を求める姿勢を見せることが重要です。

実際に、株式会社リーディングマークが人事担当者に対して行ったアンケート調査でも、「実施している若手社員の離職対策の中で、最も効果を感じたもの」として、36.8%が「定期的なマンツーマンでの面談の実施」をあげており、これは他のどの施策よりも高い数値でした。

6_スタッフとの面談で参考になる株式会社リーディングマークが人事担当者に対して行ったアンケート調査

この面談の目的は、オーナーが独りよがりな経営に陥るのを防ぎ、現場目線のリアルな課題を把握することにあります。

スタッフの口から、オーナーには見えていなかった「お客様からの小さな不満」や「業務上の非効率な点」といった、具体的な改善のヒントが得られるはずです。

何よりも、オーナーがスタッフの声に耳を傾けるという行動そのものが信頼関係を再構築し、チームが一丸となって経営危機を乗り越える第一歩となります。

美容室が潰れる根本的な原因

上記では、不安を感じた時にすぐ着手できる応急処置について解説しました。しかし、それらはあくまで表面化した症状への対処に過ぎません。

なぜ資金繰りが悪化し、お客様が離れ、スタッフの雰囲気が悪くなってしまったのかという「根本的な原因」を突き止めましょう。それを改善できなければ、本当の解決にはなりません。

以下では、経営が傾く背景にある、4つの本質的な原因を深掘りします。ご自身の美容室が、これらの原因に当てはまっていないか確認してみましょう。

どんぶり勘定による資金計画の甘さ

美容室が潰れる直接的な原因でよくあるのが、家賃や給与の支払いができなくなる資金ショートです。

しかし、その根本的な原因を辿ると、日々の売上げや経費を正確に把握しない「どんぶり勘定」という、経営者自身の意識の問題に行き着くケースは珍しくありません。

たとえば、毎月の正確な収支を把握していないと、気づかぬうちに材料費や光熱費が少しずつ上昇し、利益が圧迫されていることを見逃してしまいます。

その結果、売上げは立っているはずなのに、なぜか手元の現金が減っていったという経験をしたオーナーも少なくないでしょう。そして、いざ支払いというタイミングで資金が足りなくなる「黒字倒産」のリスクや、慢性的な「運転資金の枯渇」に陥ってしまいます。

美容師としての優れた技術を持つことと、美容室のお金を管理する経営スキルはまったく別物だと思ってください。この経営者としてのお金の管理、すなわち計数管理能力の不足こそが、経営を傾かせる根本的な原因のひとつです。

顧客ニーズの変化についていけない

お客様の好みや髪の悩みは、SNSでのトレンドの拡散や、新しい薬剤・技術の登場によって常に変化しており、「昔は人気だったメニュー」だけを提供し続けていると、知らず知らずのうちに、それが原因でお客様の足が遠のく原因となってしまいます。

タカラベルモント株式会社が運営するメディア「TB-PLUS」が行った調査は、現在の顧客ニーズの変化を明確に示しています。

▼2024年最も力を入れていたメニュー

7_顧客のニーズに応えるために、美容室が注力したメニューがわかるタカラベルモント株式会社が運営するメディア「TB-PLUS」が行った調査

以下は、2024年に多くの美容室が最も注力したメニュートップ3です。

  • 白髪ぼかしやハイライトなどのヘアカラー
  • ヘッドスパ・育毛関連
  • 酸性ストレートなどのストレートパーマ

この結果からいえるのは、お客様が「白髪を活かしたデザイン」や「エイジングケア」、「髪へのダメージレス」といった、より高度で専門的な価値を求めているという点です。 成功している美容室では、こうした新しいニーズに応えるためにメニューを更新しています。

あなたの美容室のメニューは、何年も変わらないままになっていないでしょうか?

顧客ニーズの変化に対応しない「現状維持」の姿勢は、「ヘッドスパによる客単価アップ」や「高付加価値カラーによる新規顧客獲得」といった、多くの収益機会を逃すことに直結します。

お客様の求めるものと、美容室が提供できるものとの間にズレが生じないようにしましょう。それが、経営を傾かせる静かで大きな原因となってしまいます。

人材の採用・育成の失敗

「スタッフがすぐに辞めてしまう」といった問題は、単なる一時的な人手不足として片付けられるものではありません。これらは、美容室の経営基盤を根本から蝕む、非常に重大な課題です。

人材の採用や育成がうまくいかないと、以下のような「負のスパイラル」に陥る危険性があります。

  1. 優秀な人材が定着しない
  2. 残ったスタッフの業務負担が増加し、疲弊していく
  3. 美容室のサービス品質が低下する
  4. 顧客満足度の低下し、客離れが増加する
  5. 売上げが減少する
  6. スタッフの給与や休日など、労働環境を改善するための原資が確保できなくなる
  7. 美容室の魅力がさらに低下する
  8. ますます人材が集まらず、既存スタッフの離職も増える

このように、人材への投資を怠り、採用や教育を場当たり的に行ってしまうことが、美容室の活気と売上げの両方を徐々に奪い、気づいた時には閉店へと向かわせる深刻な原因となってしまいます。

【結論】オーナー自身の経営知識の不足

ここまで、「お金」「お客様」「人材」に関する経営悪化の根本原因を見てきました。

これらは一見すると別々の問題に見えるかもしれません。しかし、これらを突き詰めていくと、オーナー自身の「経営知識の不足」という課題にいき着きます。

優れた美容師であることと、優れた経営者であることは同義ではありません。美容室を安定して運営していくためには、美容技術とは別に、経営者として最低限学ぶべき3つのスキルが不可欠です。

  • 計数管理能力:「どんぶり勘定」を脱し、売上げや経費といった経営状況を数字で正確に把握・分析する力
  • マーケティング知識:自店の強みを理解し、顧客ニーズの変化を捉え、効果的な集客を計画・実行する力
  • マネジメント能力:スタッフを採用・育成し、チームとして機能させ、働きやすい環境を構築する力

「自分は職人だから、経営はよくわからない」と、これらの経営知識の習得を後回しにしてしまうと、気づかぬうちに自らの美容室を危険に晒している、最も根本的な原因となってしまいます。

店舗運営に必要なこれらの基本知識については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。

経営危機からV字回復を遂げた美容室での成功事例

ここまで、経営が傾いてしまう根本的な原因について解説しました。あなたの美容室にも当てはまる点があり、不安を感じている方もいるのではないでしょうか? しかし、経営危機は、必ずしも閉店を意味するものではありません。

重要なのは、その原因に正しく対処し、行動を起こすことです。

下記では、実際に厳しい状況からV字回復を遂げた美容室の具体的な成功事例を、それぞれ戦略に分類して紹介します。「自分の店でも、まだやれることがある」と感じられるような、具体的な改善のヒントを詳しく見ていきましょう。

「誰に、何を届けるか」コンセプトを再定義する

経営が傾き始める原因のひとつに、「サロンのコンセプトが曖昧になっている」、あるいは「顧客のニーズとズレている」という問題が潜んでいるケースがあります。

そこで、経営危機からV字回復を遂げる第一歩のためにも、美容室の「存在意義」、すなわち「誰に、何を届けたいのか」の再定義から始めてください。

以下のサロンオーナーも、創業当初は「自由に働いてもらおう」という方針が、かえってスタッフ間の価値観の違いを生み、組織課題に直面した経験があると言います。その失敗から、スタッフ全員で共有できる明確な理念の重要性に気づきました。

『小さいお子さまのいる女性に貢献する』『自分のペースで働ける』という根本理念はありつつも、何かネガティブなことが起きて余裕がなくなると、自分のことしか考えられなくなってしまいます。けれど、会社としては『まずスタッフの働きやすさ』を考えています。けれど、誰でもひとりでは何もできません。『みんなで協力して初めてみんなの夢に近づける』ことを意識してもらいたいと思いました。

引用:ホットペッパービューティーアカデミー|LUACE 川口 オーナー 鈴木僚さん

このように、美容室が困難な状況にある時こそ、「どのようなお客様に、どのような独自の価値を提供したいのか」という原点に立ち返り、その理念をスタッフ全員で共有しましょう。それが組織に結束力を生み、再生へと向かう力になります。

価格競争から脱却し、働きがいのバランスを見直す

美容室のコンセプトが明確になったら、次は、それが持続可能な利益を生み出すための構造を見直すステップです。経営が苦しいと、安易な値下げによる集客に走りたくなりますが、それはさらなる利益の圧迫を招くことになります。

V字回復を遂げた美容室の中には、価格競争とは逆のアプローチ、すなわち「スタッフの待遇改善」への投資によって、経営を立て直した事例も少なくありません。 以下のサロンオーナーは、スタッフを最優先に考えることの重要性を次のように語っています。

現場のスタッフを最優先に考えることです。スタッフの障壁となっているようなことに向き合って解決すること。その部分がおざなりになってしまって、会社としての利益だけに走ってしまうと、おかしくなるのではないかと思いますね。

「anemone」にここまでスタッフが集まって、店舗展開できるようになった一番の理由も、メニューの単価を下げたことより、給料を上げたことが要因としては大きかったと僕は考えています。

引用:モアリジョブ|株式会社anemone 代表取締役社長 松本平さん

このように、目先の利益ではなく、まずスタッフの働きがいを高めることが、結果として人材の定着と美容室の成長に繋がります。

また、価格設定は必ずしも地域の相場に縛られる必要はありません。大切なのは、3つの要素のバランスをコントロールすることだと、以下のサロンオーナーはおっしゃっています。

Ashantiを経営していた際はしっかりマーケティングしたうえで、各エリアの価格帯に合ったブランドを展開していましたが、あまりそこに縛られなくてもいいかなと思っています。例えば渋谷でも、カット&カラーで3000円の店もあれば、20000円の店もある。集客と雇用のバランスをコントロールすればいいんです。

大切なのは、1店舗1店舗の収益性を増していくこと、美容師さんの働きがいという意味での満足度を高めていくこと、お客様のニーズを満たすものを提供すること。

引用:モアリジョブ|HuBeauuu 代表取締役 北村嘉崇さん

安易な価格競争から脱却し、「美容室の収益性」「スタッフの働きがい」、そして「お客様のニーズ」の3つのバランスの見直しこそが、持続可能な経営構造への改革に繋がります。

採用と教育に再投資し、強い組織をつくる

経営危機からの脱却、そしてその先の持続的な成長を考える上で、最も重要な投資先は「人」です。採用と教育のあり方を根本から見直し、強い組織をつくることこそが、V字回復の最大の駆動力となります。

まずは「採用」から見直していきましょう。もちろん、単なる人手不足を解消するために採用するのではありません。上記で再定義した美容室のコンセプトや理念に、心から共感してくれる人材を選ぶという視点が不可欠です。

そして次に、採用した人材を「教育」し、長く働いてもらうための「環境」を整えてください。成功しているオーナーは、過去の失敗からその重要性を学んでいます。

「ニュートラル」をはじめたときも、僕ばかりに指名がきて他の子にはぜんぜん指名がこなかったんです。「自分だけが売り上げを獲得しているようじゃ店は成り立たない。そうだ! 自分の“影武者”を作ったら、売り上げをもっと上げられるんじゃないか」と思ったんです。当時、自分も現場に出ることはありましたが、雑誌の撮影など、できるだけ下の子たちに振っていました。

引用:モアリジョブ|Un ami オーナー 森内雅樹さん

また、以下のサロンオーナーは、自身の経験から、厳しすぎる上下関係がスタッフの委縮につながるという点を学び、離職を防ぐための環境づくりを重視しています。

「ついていけない」と言われてしまった自分の経験が、いまの考え方の基になっています。うちも上下関係はある程度ありますが、厳しすぎないというか。ある程度の緊張感は必要だけれど、あまりピリピリしていると委縮につながりますから。タテ社会すぎない、いい感じでフラットな組織づくりを目指しています。

引用:ホットペッパービューティーアカデミー|sand 代表取締役 島崎 譲さん

このように、理念に共感する人材を採用しつつ、オーナーが意識的にスタッフを育成し、尊重する環境を整えることの「人」への再投資こそが、経営危機を乗り越え、未来を創るための最も確実な戦略と言えます。

採用を成功させるための具体的なステップについては、以下の資料でも詳しく解説しているのでチェックしてみてください。

廃業だけが道じゃない! 経営が厳しいときの選択肢

上記で紹介したV字回復策を講じても、なお経営の好転が見込めない場合、オーナーは非常に厳しい決断を迫られます。しかし、「もう廃業しかない」と結論付けるのは早計です。

ここでは、廃業を回避する3つの現実的な選択肢を解説します。これらは、損失を最小限に抑え、オーナー自身と関係者の未来を守るための、前向きな「次のステップ」です。ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。

事業を縮小、または転換して再起を図る

あらゆる改善策を講じても経営が厳しい状況が続く場合、すぐに「廃業」を決断する必要はありません。その前に、まずは現在の事業の形を見直して、再起を図る道を探ってみましょう。

これは、「全てを捨てる」のではなく、「不採算部門を捨て、収益性の高い部分を伸ばす」という「スクラップアンドビルド」の考え方です。

たとえば、利益の出ていないサービスやメニューを勇気を持って廃止し、髪質改善やヘッドスパといった、より高付加価値なメニューに経営資源を集中させる方法があります。

また、「規模の縮小」も非常に有効な手段です。広い店舗から、より小さな物件に移転して家賃などの固定費を大幅に削減し、小規模サロンとして再出発するのもおすすめです。

実際に、多店舗展開による規模の拡大を目指していたものの、スタッフの退職が続いたことをキッカケに経営スタイルを転換し、成功したオーナーもいます。

人を育てることが僕には向いていないかも、と思ったことです。スタッフの退職が続き、人を育てる自信を失ってしまって。独立したからには、経営をスケールさせたいという気持ちがあって、成功の道は店舗展開にしかないと思っていたので、スタッフが辞めてしまったあともすぐには切り替えられませんでした。そんなときに1人サロン経営を成功させている方の書籍を読んで、挑戦してみようと思ったんです。

引用:モアリジョブ|AURUM 代表 金田昭徳さん

このように、必ずしも規模の拡大に固執する必要はありません。

経営状況やご自身の適性に合わせて、あえて「一人美容室」として再スタートするのも、経営を立て直すための現実的で前向きな選択肢です。

M&A(事業譲渡)で店と想いを第三者に引き継ぐ

ご自身での経営継続がこれ以上難しいと判断した場合でも、すぐに「廃業」を選ぶ必要はありません。大切に育ててきた美容室を「終わらせる」のではなく、「M&A(事業譲渡)」によって、第三者に引き継いでもらうという選択肢も忘れないでください。

この方法によって、関係者それぞれにとってメリットが生まれる可能性があります。

オーナーは廃業コストをかけずに事業を売却して資金を回収できるため、スタッフは新しいオーナーのもとで雇用が維持できます。その結果、お客様も愛着のある美容室に通い続けられるはずです。

中には「事業譲渡=経営に失敗した」というネガティブなイメージを心配される方もいらっしゃるでしょう。しかし、そのイメージは美容業界でも変わりつつあります。

実際にM&Aを積極的に活用する企業の経営者は、M&Aが持つ本来の価値について次のように語っています。

美容業界においても過去には、経営不振の会社を大手グループが譲受したケースや、関西でもM&A後に結果が伴わず、従業員が半減した美容室があったのも事実なので、「譲渡する=会社がダメになった」というイメージを持たれていたことは確かです。そういうネガティブなイメージからか、今でも「MASHUがM&Aをしたということは、今の美容業界は大変なんだ」と捉えている人もいます。過去からのネガティブな先入観を払しょくして「M&Aは素晴らしい手段になるんだ」と認識してもらえるよう、私たちも成功事例を作って、良いイメージを構築していく一助とならなければいけないと痛切に感じているところです。

引用:fundbook|株式会社MASHU会長 兼 BIQREAホールディングス株式会社顧問 増成 進さん

このように、M&Aはもはや単なる後ろ向きな処理ではなく、店とスタッフの未来を守るための、前向きで戦略的な経営判断として認識され始めています。

特に、店舗の設備や内装をそのままの形で売却する「居抜き譲渡」は、魅力的な手法のひとつです。買い手にとっても初期投資を抑えられるという大きなメリットがあるため、比較的スムーズに話が進みやすい手法として知られています。

専門家の力を借りて事業再生を目指す

自力での再建や事業譲渡(M&A)も難しい、あるいは多額の負債を抱えてしまっているなど、より深刻な状況に陥った場合の選択肢として「事業再生」があります。

この段階では、金融機関との交渉や法的な手続きが伴うため、経営者一人で判断するのは非常に困難です。税理士や中小企業診断士、弁護士といった、事業再生の経験が豊富な専門家へ速やかに相談し、その力を借りましょう。

専門家と連携して行う主な再生手法には、以下のようなものがあります。

  • 再生計画の策定:金融機関と交渉し、借入金の返済猶予などを得るために、専門家の助言のもと、現実的で説得力のある再建計画を作成する
  • 補助金の活用:事業承継や事業譲渡を円滑に進めるために、「事業承継・引継ぎ補助金」などを活用し、専門家への依頼費用や廃業にかかる費用を軽減する
  • 第二会社方式:専門家の指導のもと、サロンの事業のうち採算が取れている優良な部門だけを新しい会社に移し、負債のある旧会社は清算する

いずれの手法も、早期の専門家への相談によって選択肢が広がります。

まとめ

本記事では、美容室の倒産が過去最多となっている厳しい現実から、経営が傾き始める危険な「前兆」、その「根本原因」、そして具体的な「改善策」や「最終的な選択肢」までを解説してきました。

経営に不安を感じた時に、美容室を「潰さない」ために重要なポイントは、以下の4点に集約されます。

  • 漠然とした不安を「数字」で把握する:現状を客観的に把握し、問題の正体を突き止める
  • 経営者自身の「知識不足」と向き合う:技術力だけでなく、経営の知識不足が根本的な原因となっていないかを確認する
  • 具体的な「改善策」を実行する:コンセプトを見直し、価格や働きがいのバランスを再調整し、V字回復に向けた具体的な行動を起こす
  • 早期に「多様な選択肢」を検討する:手遅れになる前に、事業の縮小・転換やM&A(事業譲渡)、専門家への相談をする

美容室の経営を長く安定して続けるためにも、これらの危険な前兆をできるだけ早い段階で察知し、勇気を持って的確な対策を講じましょう。この記事が、あなたの美容室と向き合い、長くお客様に愛され続けるための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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執筆者情報
関 慎一郎(Seki Shinichiro)
美容師として8年間サロンワークを経験。その後、現場の声を活かしながら、Webマーケティングによる集客戦略の立案、補助金制度を活用した資金繰りの改善などに取り組み、創業40年以上の老舗美容室の経営に携わる。Bizリジョブ編集部では、現場と経営の両方を経験した視点から、美容サロンが抱える採用や集客などの課題解決に貢献できるよう、リアルで実践的な情報を発信。