「うちのネイルサロン、本当に儲かってる?」そう自問する経営者の方は、ネイル市場が今、大きなチャンスに満ちていることを知っておきましょう。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によれば、市場規模が1390億円と拡大しており、まだ見ぬ「潜在顧客」は現在の利用者の5倍以上ともいわれています。
この大きな可能性にも関わらず、「なぜか利益が伸び悩む…」と感じるなら、その原因は「利益率」の管理にあるかもしれません。
本記事では、あなたのサロンを「儲かるサロン」へ導くための実践的な経営術を徹底解説しています。現状把握から始め、確かな一歩を踏み出しましょう。
ネイルサロン利益率の計算方法と目安
単に売上を追うだけでは、ネイルサロンの持続的な成長は望めません。その実現のためには、「どれだけ効率的に利益を生み出せているか」を示す「利益率」を正確に把握し、適切に管理する必要があります。
利益率とは、ご存知の通り、売上高に対する利益の割合を示す指標です。サロンの収益性を測るための基本的な尺度であり、基本的な計算式は「利益率(%)= 利益 ÷ 売上高 × 100」で表されます。この数値が高いほど、効率的に利益を上げられている健全な経営状態であるといえるでしょう。
以下では、まず経営者が押さえておくべき利益率の種類とその意味、それぞれの具体的な計算方法、そして多くの経営者が気になる業界の平均的な目安について、その考え方まで含めて詳しく解説していきます。
利益率の把握がネイルサロン経営で必要になる理由
ネイルサロンの経営を成功に導くためには、日々の売上だけでなく、「利益率」を正確に把握し、それを経営判断に活かしましょう。
では、なぜ利益率の把握がそれほど重要なのでしょうか?主な理由を解説します。
- 経営状態を正確に把握し、日々の改善点を見つけ出せるから:サロンの「健康診断」として機能。コスト構造を可視化し、改善の指針が得られる。
- 戦略的な価格設定や、将来の投資判断の確かな土台となるから:価値に見合う価格を決め、投資計画を立てる上での重要な基礎データとなる。
- 得た利益を再投資し、顧客満足と持続的成長の好循環を創れるから:技術・サービス向上への再投資で顧客満足度UP。リピートや口コミに繋がる。
利益率を把握・分析し、様々な判断に活用できれば、ネイルサロンの安定した経営と未来の成長を実現するためのきっかけとなるでしょう。
最も重要な「営業利益率」について解説
利益率には売上総利益率(粗利率)など5種類ありますが、ネイルサロンでの経営では「営業利益率」に特に注目しましょう。その理由は、以下の3点です。
- サロンの「本業の稼ぐ力」と「経営効率」を正確に測れるから:営業利益率が高いほど、サロン運営が効率的でコスト管理も適切といえる。
- 戦略的な「価格設定」と「コストコントロール」の基準になるから:適正な営業利益確保には、価格設定やコストの具体的目標が不可欠。
- 将来への「投資判断」と「持続的な成長」の源泉となるから;安定した営業利益が、新技術導入や人材育成、店舗改装といった未来への投資を可能とする。
これらの理由から、常に営業利益率を意識し、改善を継続的に意識できていれば、安定した経営と将来の発展に繋げられます。
利益率の具体的な計算方法
ネイルサロンの経営状態を正確に把握し改善するには、利益率の計算が不可欠です。ここでは特に重要な利益率の計算方法とその意味を解説します。
まず、サービスの基本的な儲けを示すのが売上総利益率(粗利率)です。
これは、以下のように計算されます。
「売上総利益率(%) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100」
この比率が低い場合、原価管理や価格設定に課題があるかもしれません。
次に、経営において最も注目すべきは、本業の「稼ぐ力」を正確に示す営業利益率です。以下のように求められ、この率の改善が経営時に欠かせないものとなります。
「営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100」
その他、営業外の損益も含めたサロン全体の経常的な利益状況を見る「経常利益率」や、税金なども差し引いた最終的な手残りを示す「当期純利益率」といった指標も参考になります。
以上の中でも、「売上総利益率」と「営業利益率」をしっかり計算し、その推移を把握しましょう。サロンの課題を発見し、具体的な経営改善を進める上での不可欠な第一歩です。
経営形態による違いも考慮した利益率の目安
ネイルサロンの利益率について画一的な「目安」を示すのは困難です。経営形態や規模で状況は大きく異なるため、業界のリアルな数値を参考にサロンの目標を考えてみてください。
日本政策金融公庫の2023年度調査では、美容業全体の平均営業利益率は-4.6%と厳しい状況でした。
しかし、「黒字かつ自己資本プラス企業」の平均は5.4%であり、健全経営のサロンは利益を確保しています。企業間の収益性には大きなばらつきがあるようです。
サロンの従業者規模別での調査では、特に1〜4人規模で平均-7.4%と苦戦しています。規模が大きくなっても平均マイナスですが赤字幅は縮小傾向です。
美容業の従業者規模別経営指標 |
売上高営業利益率 (%) |
---|---|
1~4人 |
-7.4 |
5~9人 |
-4.0 |
10~19人 |
-1.9 |
20~49人 |
-0.3 |
これらのデータに加え、経営形態も利益構造に影響します。自宅サロンは固定費を抑えやすく利益率を高めやすい一方、店舗型サロンは固定費負担が大きいものの、大きな売上と利益を目指せるでしょう。
結局、重要なのは「目安」の数値ではなく、自サロンの状況を分析し、独自の目標利益率を設定し、その達成へ向けての継続的な改善です。これが持続的な成長に繋がります。
ネイルサロンの利益率が低くなる要因分析で儲からない理由を把握
多くのネイルサロン経営者が抱えている「一生懸命やっているのに、なぜか利益が残らない…」といった切実な悩みの背景には、必ず何らかの要因が隠されているはずです。
以下では、ネイルサロンの利益率が低迷し、儲からない状況を生み出してしまう可能性のある様々な要因を、具体的な視点から徹底的に分析していきます。
実際の失敗事例も交えながら、それぞれの要因がどのように利益率に影響を与えるのかを具体的に見ていくことで、よりリアルな学びを得られるでしょう。
客単価が低い・上がらない
客単価が低くて上がらない場合、利益率を圧迫する大きな要因となってしまいます。
以下のネイルサロンでは、低価格競争も激しい中、客単価を上げる方法に関しての課題に戦略転換で応えました。
ネイルの主流がワンカラー化し、デザイン重視では単価が低下してしまう可能性があります。そこで、顧客の飽きや爪の健康も課題と感じ、「この先どうすべきか」を考えたといいます。
今から6年ほど前に、デザイン重視からケア重視に切り替えました。ちょうどその位の時期に、ネイルの主流がワンカラーになって、ネイルの単価が安くなったので、この先どうしていけばいいかを考えたんです。
引用:モアリジョブ|VINGT NAIL nail&eye beauty 代表 吉原雅美さん
そこでこのネイルサロンは、爪の健康という本質的なニーズに着目し、顧客が効果を実感しやすい「ケア重視」へ転換しました。丁寧なケアは顧客に大変喜ばれ、その反応はスタッフの意欲も高めたそうです。
結果、この戦略転換は顧客満足度を格段に向上させ、安心して長く通う顧客が増加しました。この「ケア」という新たな価値提供が、客単価の安定・向上、ひいてはリピート率と利益率の改善に大きく寄与できたといえるでしょう。
材料費率(原価)が高すぎる
ネイルサロンの利益を左右する「材料費率」が高いと、いくら売上を上げても儲けは出ません。なぜ高くなるのか、その主な要因を見ていきましょう。
まず考えられるのが、豊富な品揃えを目指すあまりの「在庫管理」の負担増と、それに伴う材料ロスです。
以下のネイリストも「パーツなどの在庫の管理も大変」と語るように、多くの材料は使用頻度の低いものの滞留や期限切れによる廃棄を生み、実質的な材料費率を押し上げます。
集客のためにはなんでもできたほうがいいと思う方もいるかもしれませんが、そうするとパーツなどの在庫の管理も大変。またつねに多くの技術を向上させなければなりません。それはとくに独立されている方にとって難しいことだと思うんです。
引用:モアリジョブ|ネイリスト shokoさん
次に、「仕入れコスト」への意識も重要です。同じ品質でも仕入れ先やロットで価格は変動するため、定期的な相見積もりや比較検討、価格交渉が材料費抑制には欠かせません。
安価な材料は品質リスクも考慮し、コストと品質のバランスを見極めましょう。
開業計画の甘さが招く「儲からない」ループ
独立開業時の計画の甘さは、後に利益を圧迫する大きな要因です。特に立地選定や経営知識の不足は、深刻な集客難や資金繰り悪化に直結しかねません。
以下のネイリストは、経営知識がないまま集客に不利な立地で開業し、苦労した経験を語っています。
腕一本でなんとかなるだろうと、経営の勉強などもほとんどしないまま独立しました。
しかもサロンを開いたのは、駅からかなり遠く、通勤のついでに立ち寄れるような場所でもありませんでした。自分が一目ぼれした物件ではあったので仕方ないのですが、集客に関してはかなり難しく…。当時はどんどん減っていく貯金額に、青ざめていましたね(笑)。
引用:モアリジョブ|ネイリスト 森谷哲朗さん
このように、「技術力への過信」や客観的調査なしの立地選定は、開業当初からの集客難を招きます。
売上が立たない中で固定費だけが発生し、資金繰りが悪化してしまうでしょう。これは根本的な「事業計画・立地選定の失敗」が「儲からない」構造を生む例です。
以下のスキルの習得は、利益を生むサロン経営の第一歩となります。
- 徹底した市場リサーチ
- 現実的な事業計画
- 経営の知識の基本的な習得
これらを準備できれば、「儲からない」ループを回避できるといっても過言ではありません。
戦略のない集客費と重い固定費が利益を圧迫
ネイルサロンの利益を圧迫する要因に「戦略のない集客活動」と、それによって重くなる「固定費」があります。
どんなに良いサービスも、顧客に届かなければ売上に繋がりません。以下のネイリストも独立当初、集客に苦労したとのことです。
サロン経験ゼロ、お客様ゼロからはじめたので、投稿するデザインやネタのストックがなく、とにかく作品を一日に3つくらい載せていましたね。自分のネイルは他にないデザインだとちょっぴり自信を持っていたので、作品を知ってさえもらえれば好きになってくれるはずだと思っていたんです。けれど、そんなに甘くはなかったですね…。Instagramを見て来てくれた方はほとんどいなかったです。
引用:モアリジョブ|ネイルの小部屋カタンコトン オーナー カオリさん
このように、熱意や自信があっても、具体的な集客戦略やターゲットに響くアプローチがなければ、SNS投稿だけでは成果が出にくいのが現実です。こうした状態が続くと、売上が見込めない中で家賃などの「固定費」が経営を圧迫します。
利益を生むサロン経営には、集客は情熱だけでなく、冷静な戦略と分析に基づいた計画性も不可欠です。
低いリピート率と非効率な作業が招く利益減
ネイルサロン経営で利益を圧迫する要因に「低いリピート率」と「非効率な作業」があります。特に施術の「もちの悪さ」は顧客満足度を下げ、リピートを妨げてしまうでしょう。
以下のネイルサロンも、過去にこの技術的な壁に直面しました。
ネイリストがよくぶつかる「すぐに浮いてしまう」「もちが悪い」といった壁に突き当たって…でも、相談できる相手もいなくて。どうすれば解消できるだろう?とネイル関連のInstagramを見ていたときに美爪クリエイターの創設者であるジョリさんのアカウントを見つけたんです。
独自の美爪メソッドやネイリストとしての在り方、「7週間もつネイル」という言葉など、とにかくインパクトが強くて。
引用:モアリジョブ|Nail room Regalo 代表 KIYOさん
このように、ネイルの「もち」が悪いと顧客は満足せず、再来店に繋がりにくくなります。これはリピート率低下に直結し、売上不安定と新規集客獲得のためのコストが増加し、利益を圧迫しかねません。
顧客に長くネイルを楽しんでもらい、安定したリピートと利益を確保するには、「もちの良さ」を追求する技術力向上や、効率的な施術プロセス確立が極めて重要です。
売上増で利益率を高めるネイルサロンの収益向上テクニック
利益率改善にはコスト管理と共に「売上増」も不可欠です。売上が伸びれば固定費負担は軽くなり、利益率は向上できるでしょう。
以下のような、売上を増やし利益率も高められる「収益向上テクニック」を、多岐にわたる実践策も含めて解説します。
- 客単価アップ
- 新規集客
- リピート率向上
- 稼働率UP など
ここでは事例に頼らず、可能な限りデータや論理的解説で各テクニックの有効性に迫ります。自サロンの収益改善のヒントを掴んでください。
「サービスメニュー」と「価格設定」の見直しで利益率を高める
ネイルサロンの利益率向上には、サービスメニューとその価格設定の戦略的な見直しが不可欠です。
安易な価格競争に陥るのではなく、顧客が真に求める「価値」を提供し、それに見合った適正な価格で満足してもらうことが、持続的な収益向上への王道といえるでしょう。
最近の顧客ニーズのトレンドを見てみると、興味深いデータがあります。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、人気メニューの第1位が華やかなデザインではなく「ケア」を重視している点がわかりました。
また別の調査では「フィルイン」というキーワードが検索上位に入っています。
▼フリーワード検索ランキング「フィルイン」の順位
これらは、顧客が爪の健康や施術の質といった本質的な価値を重視している表れでもあるでしょう。
これらのデータから読み取れる顧客ニーズに応えるためには、専門的なケアコースやフィルイン技術の導入、高品質な材料の選定など、高付加価値なサービスメニューの開発が重要になります。
これらが、他店との差別化と顧客満足度向上に繋がるはずです。
ただし、ホットペッパービューティーアカデミーの別の調査でも明らかになっているように、依然として約6割の顧客に支持される「ベーシックなデザイン」の質を高めるのも忘れてはいけません。
利用されているネイルメニュー |
全体の割合(%) |
---|---|
フレンチ、ワンカラー、グラデーションなど、ベーシックなデザイン |
61.0 |
サロンの定額メニュー(シンプルなデザイン) |
38.0 |
サロンの定額メニュー(少しデザインの入った華やかなもの) |
33.1 |
やり放題、のせ放題(主にアートや柄デザイン) |
11.1 |
その他 |
8.0 |
サロンのコンセプトに合わせたバランスの良いメニュー構成を、常に心がけておきましょう。そして、新たに質の高いメニューを開発し、その価値に見合った適切な価格を設定してください。
このように、顧客が真に求める価値を的確に捉えたサービスメニューを開発し、その価値を正しく価格に反映させられれば、結果として客単価アップ、リピート率向上に繋がり、ネイルサロンの利益率を効果的に高められるでしょう。
「物販」戦略で売上の底上げを試みる
ネイルサロンの売上を引き上げるには、施術に加え「物販」も重要な戦略です。客単価を直接上げるだけでなく、サロン経営全体に好影響を与える可能性があります。
興味深いことに、物販が顧客との長期的な関係構築に寄与するデータがありました。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、店販商品を購入する顧客の方が、サロンを継続利用する割合が高いという結果が出ています。
▼【女性】サロンの年間利用回数
これは、店販購入がサロンへの信頼の現れか、適切な商品提案が顧客ロイヤルティを高めている可能性を示唆しています。
したがって、物販戦略は単なる商品販売に留まらず、顧客満足度を高め、信頼関係を深め、優良顧客を育成する重要な手段といえるでしょう。
施術と連動した丁寧な提案や、顧客の悩みに寄り添った商品選定が、サロン全体の「売上の底上げ」と安定経営に貢献するはずです。
SNS・顧客管理を活用したマーケティングでファン化を加速させる
SNSや顧客管理は、新規獲得と既存顧客の「ファン化」を加速する現代サロン経営の必須ツールです。
しかし、サロンの価値が潜在顧客に届いていないとしたらどうでしょうか?
ホットペッパービューティーアカデミーの調査で衝撃的な事実が明らかになりました。ネイル未利用者の7割以上が、爪の悩みをサロンでケアできることを「知らない」と答えたのです。
▼爪の悩みに対して、ネイルサロンやケア専門サロンでケア(施術)ができることを知っていますか?
これは情報発信不足を示すと同時に、大きなマーケティングの「チャンス」です。爪に悩む未利用者に「サロンで解決できる」とSNSなどで情報を届ければ、新規開拓とファン化の可能性があります。
では具体的にどうするべきでしょうか。SNSでは、単にデザインを投稿するだけでなく、悩み解決型コンテンツ、ビフォーアフター、専門知識の発信などが有効です。ハッシュタグもうまく活用してみましょう。
また、顧客管理システムなどを活用し、既存顧客のデータに基づき、一人ひとりに合わせたパーソナルな情報提供やキャンペーン案内で、より深い関係を築きファン化を促します。
戦略的なSNS活用と顧客データの活用は、潜在顧客へのアプローチと既存顧客のファン化を両輪で進め、サロン成長と利益率向上に貢献するでしょう。
「顧客体験」向上でリピート率を高める
リピート率向上には、施術だけでなく良質な「顧客体験」の提供が必要です。「また来たい!」と思ってもらうことが鍵となります。
では、顧客は何を重視するのでしょうか?
ネイルブックの調査では「次も通いたい理由」の上位に「仕上がり・技術」、「ネイリストの人柄」、「カウンセリング」が挙がりました。
この結果は、技術力に加え、コミュニケーションの質やネイリストの魅力がいかにリピートの決め手かを示しています。これら全てが「顧客体験」です。
具体的に顧客体験を高め、リピートに繋げるポイントを以下のようにまとめてみました。
- 丁寧なカウンセリング:ニーズを正確に把握し、期待を超える提案で信頼を深める。
- ネイリストの人柄・接客力:安心感と心地よい時間を提供できるコミュニケーションと寄り添う姿勢が必要となる。
- 期待を超える技術・仕上がり:常に技術を磨き、満足いく仕上がりを提供し続けることで信頼の基盤となる。
- 心地よい空間づくり:リラックスできる空間、清潔感、プライバシーへの配慮も顧客体験の質を高められる。
これらの「顧客体験」を高める要素を総合的に向上させれば、高いリピート率、ひいてはサロンの安定経営と利益率向上に大きく貢献します。
ネイルサロンの利益率を高めるコスト管理術
ネイルサロンの利益率を改善し、確実な利益を確保するためには、売上を増やす努力と同時に、日々の「コスト管理」を徹底する視点が不可欠です。
見過ごされがちな小さな無駄も、積み重なれば経営を圧迫する大きな要因となり得ます。
以下では、その「コスト管理術」に焦点を当て、ネイルサロン経営で特に大きな割合を占める「材料費」と「人件費」の最適化はもちろん、意外と見落としがちな家賃などの「固定費」や日々の「その他経費」に至るまで、具体的な削減法を徹底解説します。
自サロンのコスト構造を見直し、無駄をなくし、利益を確実に確保するための実践的な具体策を学びましょう。
材料費率の適正化と在庫管理の徹底
ネイルサロン経営で利益率を左右する「材料費」の適正化と在庫管理は、「儲かるサロン」を実現するための必須課題です。
まず、自店の材料費率を正確に把握しましょう。以下はその計算方法です。
「材料費率=総材料費÷総売上高×100」
業界目安は「施術価格の3〜10%」といわれますが、これはあくまで参考値です。自店の目標設定の参考に活用しましょう。
次に見過ごせないのが材料ロスの影響です。これが利益を大きく圧迫する可能性があります。
たとえば、月売上100万で、目標材料費率20%(20万)のサロンで10%のロス(2万)なら、年間24万円もの利益減です。
効果的な材料費管理の基礎は、適切な「在庫管理」と理解しておきましょう。「適正在庫」の維持、「品質管理」、そして売上実績等の「データに基づく発注」が基本です。
これらの実践テクニックとして、以下の内容が有効です。
- スプレッドシートやアプリ、POSシステムなどによって記録し、データを可視化する
- 定期的な棚卸し、先入れ先出し、需要予測に基づく計画的発注
- 仕入れ先の見直しや、メリット・デメリットを考慮したまとめ買いも検討する
材料費・在庫管理は日々の意識と継続的な改善が欠かせません。これこそが「儲かる」材料費率と強い経営体質を築きます。
生産性向上によって人件費を抑制させる
人件費は大きなコストですが、単純な削減は禁物です。「生産性向上」による人件費抑制が鍵となります。
まず、サロン業務フローの見直しとIT化を推進しましょう。
予約システムや電子カルテなどを活用し、電話対応や手作業を削減してください。ヒューマンエラーも減らせられて一石二鳥です。
その結果、スタッフは施術などコア業務に集中でき、以下のような効果が期待できるでしょう。
- 残業代を削減できる
- 少人数運営による総人件費の抑制
- 一人あたり売上増による人件費率改善に繋がる
さらにスタッフ負担減は離職率低下も期待できます。生産性向上は、人件費を適正化し利益体質を強化する有効な戦略です。
負担が大きい「固定費」見直しも重要
売上に関わらず発生する「固定費」は利益を大きく左右するため、定期的な見直しが重要です。
まず、固定費の大きな割合を占める家賃は、契約更新時などに賃料交渉を検討しましょう。周辺相場や長期契約実績を材料に、契約内容自体の見直しもおすすめです。
日々の積み重ねが影響する光熱費も、欠かせないポイントのひとつです。たとえば、LED照明や高効率エアコンなどの、省エネ設備への投資は長期的に効果が期待できます。温度設定や清掃、節水といった日々の効率的な運用も徹底してみてください。
また、事業継続に不可欠な各種保険料も固定費です。補償の重複・過不足を定期的に確認し、割引制度活用や複数社の見積もりの比較、年払いも検討の価値があります。
ただし、固定費削減による効果は大きい一方で、必要な投資まで削らないバランス感覚が求められるため、必要に応じて専門家への相談も検討しましょう。
広告費や消耗品等の無駄をなくす
利益率改善には材料費等だけでなく「その他経費」、特に広告宣伝費や消耗品費の管理も見直しましょう。
- 仕入れ先の見直し:複数の業者から相見積もりを取り、価格・品質・納期を比較検討するのが基本。
- 業者との良好な関係構築:価格交渉や情報収集、リスク分散に繋がる。
- 購入方法の工夫:まとめ買いは単価を下げる効果が期待できるが、在庫リスクや資金繰りも考慮し慎重に判断する。
次に、広告宣伝費についても、その効果を慎重に見極める必要があります。
- 費用対効果の徹底分析:実施している有料広告は、定期的に投資対効果を測定・分析し、効果の薄いものは見直す判断も必要。
- 無料・低コスト集客の強化:InstagramなどのSNSの活用、MEO対策など、有料広告への過度な依存度を下げること。
これらの「その他経費」の地道な管理と最適化が、ネイルサロンの利益率を確実に改善させます。
人材の定着化やミスマッチ防止で無駄な採用費を抑える
採用コストは大きな経費ですが、「人材定着」と「採用ミスマッチ防止」で無駄を抑制すれば、利益率改善に繋がります。
まず、スタッフの「定着化」を実現するためのポイントは以下の3点です。
- 明確な採用基準で入社後のギャップを減らす
- 新人が早期に活躍できる教育・サポート体制を整える
- 活発な社内コミュニケーションで信頼とエンゲージメントを高める
次に、採用時の「ミスマッチ防止」のために、カジュアル面談で相互理解を深め価値観の適合性を見極めてください。
必要に応じて候補者の以前の職場での働きぶりや人柄などを確認し、さらに定期的な採用プロセス自体も見直しましょう。
こうした取り組みが、無駄な採用・教育コストを減らし、優秀な人材が活躍する強い組織と安定収益、そして利益率向上を実現します。
人材の定着に対する不安やミスマッチ防止など、人材採用に対しての悩みを抱えている方は、以下の記事も参考にしてみてください。
個人経営・自宅サロン・地方での利益率と経営戦略の違い
サロンの経営形態や立地によって利益構造や戦略は変わります。
以下では個人経営、自宅、地方サロンそれぞれの特徴、メリットやデメリット、成功への特有戦略を解説しています。これらを参考に、自サロンに最適な道筋を見つけてみましょう。
自宅ネイルサロン
自宅ネイルサロンは、初期投資や運営コストを抑えやすく、比較的高い利益率を目指せる経営形態です。
固定費削減が大きなメリットですが、成功には戦略を練っておく必要があります。
- 「アットホームさ」と「個別対応」の強みを活かす:心地よい空間と完全予約制の丁寧な個別対応で、顧客ロイヤルティを高める。
- プロとしての信頼性確保のポイント:徹底した衛生管理と生活空間を分けておき、プロ意識で顧客に安心感を提供する。
- 自宅サロン特有の課題と具体的な対策:プライバシー課題は家族との協力や防音で対策。集客は口コミ・地域SNSがポイントとなる。
これらの特性と課題を理解し、強みを活かして課題に対処すれば、自宅ネイルサロンは地域に愛され、安定した高い利益を生み出せるでしょう。
店舗型ネイルサロン(小規模)
小規模な店舗型ネイルサロンは、ネイリストの個性を活かし、顧客と密接な関係を築きやすい魅力があります。一方で、大手にはない課題もあり、独自の戦略が不可欠です。
成功のためには、まず一人ひとりの顧客との深い信頼関係の構築が重要となるでしょう。パーソナルな接客や施術後の丁寧なフォローで顧客の心を掴んでください。
常に技術を磨き、清潔で心地よい空間の維持も顧客満足の基本です。リピーター育成にはポイント制度や特別メニューが有効で、顧客からのフィードバックはサービス改善に繋げましょう。
また、SNSでの魅力発信やオンライン予約システムの導入も、集客と利便性向上に役立ちます。
ただし、以下の通り小規模店舗特有の課題があるのも事実です。
- 固定費の負担:家賃などの固定費は常に意識し、無駄を徹底的に省く努力が必要。
- 対応客数の限界:一度に対応できる客数には限りがあるため、客単価アップ施策や高稼働率で売上をカバーすること。
- 集客の工夫:大手のような広告費はかけられないため、地域密着型の口コミ・紹介戦略や、ターゲットを絞ったSNS活用も必須。
- 認知度・信頼構築:開業初期は、サロンの認知度向上と顧客からの信頼を得るまでに時間がかかることを念頭に置くこと。
これらの課題を理解し、顧客との関係性を大切に、質の高いサービスと効果的なマーケティングを組み合わせれば、小規模店舗でも地域に愛され安定した利益を生み出せます。
具体的に店舗経営に関する情報を知りたい方は、以下の記事を参考にしましょう。
関連リンク
地方のネイルサロン
地方でのネイルサロン経営は、都市部とは異なる魅力と課題があります。一般的に競合は少ないものの顧客数も限られるため、地域特性を活かした戦略と効果的なオンライン活用が成功の鍵となります。
- 地域コミュニティとの連携を深める:地元の祭りやイベントへ参加・出店し、他業種との提携によって相互送客を図る。
- オンラインを戦略的に活用する:地域特化でのSNSの発信や、オンライン予約で利便性向上に力を入れる。
- 徹底した顧客満足度でリピーターを育む:パーソナルな接客と高品質な施術で信頼を獲得し、フィードバックも積極的に活用する。
- 地域に合わせた価格設定とプロモーション:地域の経済状況に合わせた価格と、魅力的なキャンペーンによって集客や再来店を促進させる。
「集客の難しさ」「顧客の購買力」「サービスの多様性不足」「交通の不便さ」などが地方サロンの主な課題です。これらに対し、上記の戦略を粘り強く組み合わせて対応しましょう。
地方の特性を理解し、地域との繋がりを大切に、オンラインも活用しながら顧客満足を追求すれば、安定した利益を生み出すことは十分に可能です。
利益率を高めて「儲かる」ネイルサロンに成長させる秘訣
高い技術力はネイルサロンの基本ですが、それだけで「儲かる」とは限りません。持続的成長と高利益率には、技術+αの「秘訣」が必要です。以下では、その秘訣を成功オーナーの事例を参考に様々な視点から解説します。
「らしさ」と「継続」が生むSNS発信術
SNS時代、他店に埋もれず選ばれるには、自サロンの「らしさ」を確立し、それを魅力的に「継続して」発信しすることが集客・ブランディング、ひいては利益率向上に繋がる秘訣です。
まず、自サロン独自のスタイルや世界観、得意な技術といった「自分らしさ」を明確にしましょう。これが差別化の源泉となります。
次に、その「らしさ」を魅力的に伝える「見せ方」にこだわってください。
特にSNSでは写真一枚の印象が重要です。以下の事例では、自然光や色再現にこだわり、アカウントの統一感で独自の世界観を表現しファンを魅了しています。
――お写真を投稿する際のこだわりを教えてください。
写真はできる限り自然光でデザインの美しさがわかるようにしています。お客さまにはベランダに出ていただいて、色がしっかり伝わる写真を撮るように。すべての写真がニュアンスネイルなのでアカウントの統一感は自然と生まれていると思います。
引用:モアリジョブ|Suu- ネイリスト Tsumikiさん
そして最も重要なのが「継続」という地道な努力です。
上記のネイリストが3万人超のフォロワーを獲得した背景には、「毎日投稿を続けた」という継続力がありました。新色紹介や独自ワードの発信など、複数のヒットもこの継続あってこそです。
経営者は、まず自サロンの「らしさ」を定義し、質の高いコンテンツで、一貫性を持ってSNSで発信し続けましょう。これが認知度向上、新規顧客の獲得、ファン化を促し、高単価メニューへの関心も高め、結果として利益率向上に貢献します。
「らしさ」と「継続」、これが低コストで大きな成果を生むSNS発信術の鍵です。
顧客の「なんとなく」をなくすカウンセリング術
高い技術力も、顧客の真の要望に応えられなければ「何か違う」という不満足に繋がります。
そこで重要になるのが、顧客の「なんとなく」をなくすカウンセリング術です。顧客自身も気づかない真の要望を引き出し、ズレを予防させることが利益を生む秘訣のひとつといえるでしょう。
以下のネイルサロンは、顧客の理想像を正確に把握するために「お客さまに質問をしまくっています」と語っています。
参考写真に対しても、単にデザインを模倣するのではなく、顧客がその写真の「どこに、なぜ魅力を感じているのか?」を深掘りし、本当に求めているイメージの核心に迫っているからこそ、顧客満足度を高める秘訣です。
「お客さまに質問をしまくっています(笑)。当たり前ではありますが、じっくり話を聞かなければ理想像は分かりませんからね。たとえば、お客さまから『この写真の雰囲気でお願いします』とオーダーをいただいたとします。この時、ネイリストは『このデザインのどこに魅力を感じているのか?』をつかむことが、とても大切です。なぜならお客さまは、こちらが考えていなかった小さなポイントを気に入っていることもあるからです。
引用:モアリジョブ|Delimai Nail オーナー Maiさん
この実践が示すように、成功するカウンセリングのポイントは、顧客の潜在ニーズを「深掘り」して引き出し、仕上がりイメージを明確に「共有」し、期待値をすり合わせるところにあります。これが「なんとなく」を防ぎ、心からの満足を生み出すのです。
質の高いカウンセリングは、高付加価値メニューへの自然な誘導で客単価を上げ、深い信頼感からリピート率を向上させ、良い口コミで新規顧客獲得にも貢献します。
顧客視点を貫いたデザインとお直し無料の考え方
顧客に「私のためにここまで考えてくれる」と感じてもらう「顧客視点」の徹底が、熱心なファンを育て、サロンを「儲かる」体質へと導いてくれるでしょう。
その「顧客視点」を象徴する素晴らしい取り組みのひとつが、あるネイルサロンが実践する「お直し無料」の考え方です。下記の通り、ネイルのパーツが取れてしまうのは「ネイリストの責任」であると考え、お直し代はいただかないと語っています。
「『ankh aile』では、ネイルのお直し代を無料にしています。私は、これまでにネットなどで『お直し○○円』と表示しているサロンを見かけたことがありました。しかし、パーツが取れるのは本来であれば、『ネイリストの責任だ』と思います。そのため私は、お金をいただくとはしていません。
引用:モアリジョブ|ankh aile オーナー kahoさん
このような誠実さはデザイン提案にも通じます。顧客の好みだけでなく、ライフスタイルや近々のイベントといった個人的な「物語」に寄り添い、共感し、それをテーマとしてデザインに反映させてください。これが、唯一無二の価値体験を生み出します。
サロン全体でこの顧客視点を徹底し、パーソナルな価値提供と誠実な対応を追求しましょう。顧客視点は、長期的に見て最も確実な「儲かるサロン」への道です。
選考時のサロン体験を通じて自社により適した人材を採用
採用のミスマッチは、コスト増や士気低下など経営に大きな損失を与えます。このようなミスマッチを防ぐには、選考プロセスの工夫が不可欠です。
そこで、選考段階で「サロン体験」を活用してみてはいかがでしょうか?
以下のサロンでは、会社説明と共に1日のサロンワーク体験を実施し、入社後のギャップ解消を目指しています。
採用試験の一環として、会社説明とサロン体験を実施しています。サロンの雰囲気が合わないなど、入社後のギャップも離職の原因のひとつです。弊社では、応募後にコンセプトや給与体系といった会社説明の場と、サロンワークを1日体験する場を設けています。求職者にリアルを知ってもらうことで、ギャップをなくすことを目指しているんです。
引用:モアリジョブ|株式会社CS オフィスマネージャー 逸見海斗さん
サロン体験の効果をさらに高めるために、以下の注意点も押さえておきましょう。
- 技術力の確認:実技試験などを通じて、客観的に評価する。
- 人間性とコミュニケーション能力の重視:接客業として不可欠な要素のひとつ。
- サロン文化との適合性確認:サロンの理念や価値観に共感し、フィットするかを見極める。
さらに採用の質を高めるための工夫としては、次のようなものが有効です。
- 行動面接の実施:過去の具体的な行動事例から、候補者の適性や能力を評価する。
- チーム面談の導入:既存スタッフとの相性や協調性を確認するのも大事。
こうした多角的な選考プロセスがミスマッチを減らし早期離職を防ぎます。
その結果として定着率の高い職場環境が実現し、無駄な採用・教育コストを削減できれば、利益率改善ひいては「儲かるサロン」に大きく近づけるでしょう。
まとめ
本記事ではネイルサロンの利益率について、計算方法から要因分析、売上アップ施策コスト適正化、経営形態別戦略、儲かる秘訣まで解説しました。
「儲かるサロン」実現のため、以下のポイントを改めて意識しましょう。
- 利益率の現状把握:自店の数値を計算して客観視する。
- 利益圧迫要因の特定:売上やコスト、運営の課題を冷静に分析して見極める。
- 戦略的な売上向上:顧客ニーズを捉えたメニューや価格、物販などで売上を増やす。
- 徹底したコスト管理:材料費や人件費、固定費などの無駄をなくして利益を確保。
- 自店に合った戦略:経営形態や立地特性を活かし、独自の強みで顧客から選ばれる。
- 技術+αの「秘訣」:SNSやカウンセリング、顧客視点、採用も利益に繋がる。
- 継続的な改善と学び:常に変化に対応し、学び続ける意識が持続的成長の鍵となる。
「儲かるサロン」は日々の努力と戦略の賜物です。これまで紹介した内容をヒントに自店の課題と向き合い、ぜひ具体的な一歩を踏み出してください。

- 執筆者情報
- 関 慎一郎(Seki Shinichiro)