採用ブランディングとは?事例や小規模企業における戦略を解説
採用戦略として、採用ブランディングに取り組む企業が増えてきました。採用ブランディングは大企業が取り組むものであり、小規模企業には適さない戦略と思っている人もいるかもしれません。しかし、小規模企業ならではの採用ブランディングの取り組み方も存在します。
次のようにお考えであれば、ぜひこの記事をご覧ください。
「効率的に人材採用を行いたい」
「採用ブランディングのメリットや進め方を知りたい」
「小規模企業でもできる採用ブランディングのポイントを知りたい」
この記事では、採用ブランディングの概要やメリット・デメリットとともに、進め方や成功事例を紹介します。小規模企業における採用ブランディング戦略の練り方がわかるので、ぜひ最後までご覧ください。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、企業理念やビジョン、従業員が働く姿を発信し、自社をブランド化してファンを増やすことにより、理念に共感した人材の採用につなげることです。ブランディングとは、商品や会社の希少性や信頼性を認知してもらうための考えや施策を指します。採用ブランディングでは、このブランディングの考えや施策を採用活動に応用したものです。
小規模企業の中には「自社でのブランディングは難しい」と考えている人もいるかもしれません。しかし、採用ブランディングの考え方は、小規模な企業にも活かせます。ここでは、採用ブランディングが注目されている背景や目的、採用広報との違いについて解説します。
採用ブランディングが注目されている背景
採用ブランディングが注目されている背景として、近年の採用市場が売り手市場になっていることが挙げられます。厚生労働省の調査によると、月間有効求職者と月間有効求人数は以下のとおりでした。2015年度を境に、求職者数に対し求人数が上回っていることがわかります。
▼月間有効求職者と月間有効求人数の年度別比較
※厚生労働省の調査よりグラフ化して掲載
求職者に対し求人数が多い場合、求職者は就職先を選ぶ立場となります。企業側は選ばれる立場となるため、求職者に対するアピールが必要となりました。
Wantedlyの調査によると、求職者が転職先に求める条件として給与水準(65%)に次いで多かったのは「共感できるパーパス(社会的な存在価値や社会的意義を意味する)を持っていること(62%)」でした。そのため、企業には自社の存在価値や社会的意義を発信し、求職者に認めてもらう必要があります。
また、近年ではSNSや動画プラットフォームの普及により、情報発信が容易になってきました。株式会社i-plugの調査によると、2025年卒業予定の学生のうち59.6%が就活にSNSを活用しています。企業の規模に関係なく利用できるため、SNSや動画プラットフォームを積極的に活用する中小企業も存在します。なかでもヘアサロン業界は、SNSを採用活動に活用する企業が多く存在する業界です。
採用市場が売り手市場になり企業側が選ばれる立場になったことや、情報発信が容易になったことにより、採用ブランディングに注目が集まってきました。
銀座の美容室Londでは、Instagramを活用した情報発信により採用ブランディングに取り組んでいます。スタッフの個人アカウントでどのような投稿にアクションがあるかを検証しながらブラッシュアップしていき、ある程度の成果がでてきたタイミングで本格的に活用しはじめました。その結果、新卒採用に関しては、Instagramと美容学校からの紹介のみで獲得しています。
参考:SNS採用を強化!入社前後のギャップを減らす採用活動とは/株式会社Lond|モアリジョブ
採用ブランディングの目的
採用ブランディングの目的は、事業戦略と連動した人材となる「同志」の採用です。自社をブランディングし、ファンを増やすこと自体が目的ではありません。
しかし、知名度のない企業が同志を見つけることは簡単ではないでしょう。まずは自社のファンを増やし、その中から同志を見つけなければなりません。
そのために必要なのは「理念」です。自社の理念を発信し、その理念に共感したファンが増えれば、同志が見つかる可能性が増えます。同志を見つけると、採用本来の目的を達成しやすくなります。
採用広報との違い
採用ブランディングと似た言葉として、採用広報があります。採用広報とは、自社が求める人材による応募を促すために、企業が採用時に行う広報活動です。情報発信が主な活動であり、ブランド化までは意識していません。
ただし、採用ブランディングの活動も、ブランド化を意識しているものの、主な活動は情報発信です。採用広報の目的も、事業戦略と連動した人材となる同志の採用です。そのため、活動の実態としては大きな差はありません。
採用ブランディングのメリット
むすび株式会社の調査をもとに、採用ブランディングの実践で実感できた効果を、回答割合の高いものから順に並べると以下のとおりでした。
- ターゲティングの明確化:53.5%
- 認知度向上:39.9%
- 競合との差別化:36.5%
- 採用フローの明確化:36.1%
- エントリー数の増加:31.9%
- 説明会や面接参加者数の増加:22.6%
- 応募者の質(自社へのマッチ度合い )が向上:21.9%
- 内定承諾率が向上:19.4%
- 採用予算の抑制:14.6%
- 離職率低下:17.0%
- 競合他社ではなく自社への入社が増えた:9.0%
- 特にない:1.0%
- わからない:0.7%
以上の回答結果を整理すると、採用ブランディングによるメリットは以下のとおりです。
- 応募者数の増加
- 採用ミスマッチの防止
- 従業員エンゲージメントの向上
- 採用活動コストの削減
- 業績の向上
ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
応募者数の増加
前述のむすび株式会社の調査でも明らかになったように、採用ブランディングにより認知度が向上します。認知度が上がれば、興味を持つ人材や話を聞いてみたいと思う人材からの求人への応募が増えます。
現に、むすび株式会社の調査でもエントリー数や説明会や面接の参加者数の増加だけでなく、「応募者の質が向上した」との回答もありました。SNSや動画プラットフォームを活用して情報発信すれば、転職潜在層にもリーチできるでしょう。
採用ミスマッチの防止
前述したように、採用ブランディングにより自社の理念や働く様子に共感した人材が集まれば、ターゲットに近い人材の応募者数が増加します。ターゲットに近い人材を採用できれば、採用によるミスマッチで発生する離職も防止できるでしょう。
むすび株式会社の調査でも、採用ブランディングの効果として「離職率低下」を挙げる回答が17.0%ありました。
従業員エンゲージメントの向上
採用ブランディングは、既存の従業員に対しても効果があります。採用ブランディングに取り組む過程では、採用担当者は自社の理念や強みを確認することになります。むすび株式会社の調査の回答で「競合との差別化」があったように、「自社の魅力に改めて気づく」こともあるでしょう。
自社の魅力を再認識した従業員は、社外だけでなく社内にもその魅力を発信するはずです。社内にも自社の魅力が発信され、自社の魅力を再認識した従業員が増えれば、従業員エンゲージメントの向上につながるでしょう。
採用活動コストの削減
ターゲットに近い人材の採用が増え、離職率が低下すれば、採用活動自体の工数が削減されます。また、自社の認知度が高まれば、自然に応募数が増えるため、求人広告や人材紹介サービスの利用も少なくなります。
採用担当だけでなく、全従業員が自社の求めるターゲットを理解し、魅力を発信すれば、友人・知人を紹介する「リファラル採用」も増えるでしょう。むすび株式会社の調査でも「採用予算の抑制」との回答がありました。
ただし、採用ブランディングに取り組むためには、情報発信やコンテンツ作成などの工数や費用がかかります。短期的にはコストが増えることを理解しておきましょう。
業績の向上
ターゲットに近い人材の採用が増え、離職率が低下すれば、優秀な人材が自社に残ることになります。むすび株式会社の調査でも「離職率低下」の回答とともに、「競合他社ではなく自社への入社が増えた」との回答がありました。
インナーブランディングに取り組み、自社の理念に共感した優秀な人材を確保できると、以下のような効果を期待できます。
※深澤 了「採用ブランディング完全版」の「インナーブランディングが業績を上げる7ステップ」を参考に作成
インナーブランディングとは、企業が自社の理念や価値を従業員に伝え、共感を得る活動です。インナーブランディングにより自社に共感した優秀な人材が増え、実行力や変革力、知の創出力(コミュニケーションによるアイデア創出)が上がれば、職場の一体感や業務の質も高まり、業績が向上します。
採用ブランディングのデメリット
採用ブランディングは短期的な取り組みでは結果が出ないため、時間と手間がかかるというデメリットが存在します。また、採用ブランディングの取り組みが逆効果になるケースもあるため、注意が必要です。ここでは、それぞれのデメリットについて解説します。
時間と手間がかかる
採用ブランディングには、継続的な発信が必要です。毎日SNSに投稿したり定期的に動画プラットフォームに更新したりと、地道な作業を継続することにより認知度が上がります。
具体的な期間は企業の元々の認知度によって異なるものの、認知をしてもらい、ファンを増やすには時間が必要です。例えば、パナソニック株式会社では、採用マーケティング・ブランディングの部署を立ち上げ、認知・関心から選択検討へのブランドリフト率が2倍になるのに2年かかっています。
採用ブランディングに取り組む際は、中長期的な視点で取り組むことが大切です。
参考:パナソニック、LINE、ニトリによる採用×広報(PR)とは【セミナーレポート】|d’s JOURNAL
方法を間違えると逆効果になる
事実と異なる労働条件や普段と異なる働きぶりを撮影して発信した場合、入社後にギャップを感じ、離職につながる恐れがあります。自社の理念を伝えず、インパクトのある言葉や動画でプロモーションした場合も同様です。
このようなブランディングは、うわべだけのものになるため、競合と差別化したように見えても、それは一時的なものにすぎません。うわべだけのプロモーションであると見抜かれれば、企業に対してネガティブなイメージを持たれてしまう可能性もあるでしょう。
インパクトの大きさに頼るのではなく、正直に自社の理念や魅力を伝えることが大切です。
採用ブランディングの進め方
採用ブランディングの進め方は以下のとおりです。
- 採用ターゲットを明確にする
- 自社の魅力を言語化する
- 発信する情報の内容と手段を決める
- 効果測定しながら情報発信を継続する
ここでは、各工程のポイントについて解説します。
採用ターゲットを明確にする
まずは、自社がどのような人材を求めているのかを明確にします。スキルや経験だけでなく、価値観や考え方などの特性も明確にして人物像を作り上げましょう。ただし、採用ターゲットの条件は増やそうと思えば際限なく増やせます。
条件を増やしすぎた結果、世の中に存在しないような高レベルの人物像を作り上げ、「ターゲットに近い人材が見つからない」というケースは珍しくありません。そのため、設定した条件に優先順位をつけることがポイントです。
例えば、株式会社オニカムが運営する美容室「ALBUM」では、「モチベーションが高く、他人にも尽くせる人」を採用ターゲットにしています。
参考:独自のマーケティング力を駆使して、優秀な人材を確保!【ALBUM 経営管理部広報部門長 山本剛瑠さん】|モアリジョブ
自社の魅力を言語化する
採用ターゲットを明確にしたら、自社の魅力を整理し、業界における自社の立ち位置や競合と差別化できるポイントを言語化します。SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)や3C分析(顧客・自社・競合他社)などのフレームワークを使用したり、「企業軸・仕事軸・人や環境軸」の3つの軸で整理したりすれば、自社の立ち位置や魅力を見つけられます。
競合と差別化できるポイントを言語化できたら、採用コンセプトを決めましょう。採用コンセプトとは、採用活動における基本方針やメッセージのことです。採用コンセプトを決めることにより、自社の方針から外れることなく採用ブランディングを進められます。
株式会社ディスコによる採用ホームページに関する調査の採用ホームページ好感度ランキングで上位となった企業の採用コンセプトは以下のとおりでした。
- ソニーグループ:次の感動を、共につくろう。
- ニトリ:君の夢は、君を創る。
- NTTデータ:世界を変える、変わらぬ信念。
- 野村総合研究所:「未来創発」激しく変化する時代。社会を見据え、確かな未来を切り拓く。
- 三井住友銀行:挑戦者よ、世界を揺らせ
- アクセンチュア:変化の中心で働く Work at the heart of change
- NTTドコモ:ドコモで踏み切れ。ここは、革新の出発点。
- 本田技研工業:どうなるかじゃない、どうするかだ。
- みずほフィナンシャルグループ:変化の穂先であれ。
- 東海旅客鉄道:「Dear Japan」次なる日本の創造
- ⽇⽴製作所:ゆずれないものがある。
採用コンセプトは、かっこいいキャッチコピーであれば良いわけではありません。「自社の強みを話すとしたらどのように伝えるか」を考えることが大切です。1人が考えるのではなく、複数人で知恵を絞ってアイデアを出しながら決めると良いでしょう。
リジョブでは、価値観を言語化し、ターゲットに伝えるメッセージを作成するためのノウハウを持っています。手順を詳しく知りたい場合は無料でダウンロードできる下記の資料をご覧ください。
発信する情報の内容と手段を決める
自社の魅力を言語化できたら、発信する情報の内容と手段を決めます。どのようなチャネルでどのようなコンテンツを作るのか、いつ発信するのかを決めます。活用できるチャネルは複数あり、それぞれにメリット・デメリットが存在するため、採用ターゲットと採用コンセプトに沿って適したチャネルを選択することがポイントです。
例えば、SNSでもX(旧:Twitter)とInstagramでは利用する層が異なります。自社の採用ホームページで情報を発信する場合は、そのページを見てもらわなければ、どんなに良いコンテンツを作ってもターゲットには届きません。
自社の認知度やターゲットから目に留まりやすいチャネルを選択し、発信する情報への導線を作ることがポイントです。具体的なチャネルとして挙げられるのは以下のとおりです。
チャネルの種類 |
具体的なチャネル例 |
特徴 |
SNS |
・X(旧:Twitter) |
・画像や動画を活用しながら気軽に情報発信できる ・画像や動画を通して、テキストだけでは伝わりにくい雰囲気を伝えられる ・多くの人が日常的に使っている ・拡散性が高い ・リーチできる人材の幅広さと人数の多さがメリット ・無料で利用できる ・ユーザーとのコミュニケーションを気軽にとれる ・アカウントのファンを作れる ・頻繁に更新しなければ埋もれてしまう ・担当者個人の価値観を発信しすぎると、炎上するリスクがある |
動画プラットフォーム |
・YouTube ・TikTok |
・動画を使って情報を発信する ・視覚に訴え、強いインパクトを残せる ・短い時間で多くの情報を伝えられる ・ユーザー側は時間や場所を自分の都合に合わせて、時間や場所を問わず情報を得られる ・多くの企業が活用しているため、独自性が大切 ・制作コストが高い |
オウンドメディア・採用ブログ |
・自社の採用ホームページ ・note ・Wantedly |
・自社サイトで採用情報や社内情報を発信する ・自由なレイアウトができる ・情報をカテゴリー分けできる ・SNSや動画プラットフォームと比べると閲覧機会が少ない |
イベント |
・企業説明会 ・ミートアップ ・交流会 ・セミナー ・勉強会 |
・リアルで話ができるため、強い印象や体験を与えられる ・ほかのチャネルよりも情報発信できる回数は少ない ・カジュアルなイベントと選考前提のイベントを使い分けることがポイント |
1つのチャネルだけを活用するのではなく、複数のチャネルを活用することにより、各チャネルのデメリットを補完できます。また、情報を発信する時期も考慮しましょう。株式会社ディスコによる採用ホームページに関する調査によると、採用ホームページが最も閲覧されるのは3月でした。
3月に向けて閲覧数は増えていくものの、4月以降は急激に閲覧数が減っています。そのため、閲覧数の増加時期を考慮したうえで、情報を発信する時期を決めることもポイントです。
効果測定しながら情報発信を継続する
採用ブランディングは、中長期的に取り組むものです。そのため、KPIを設定し、定期的に効果測定しながら継続的に取り組む必要があります。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で目標に対する達成度を評価する指標をさします。
具体的なKPIとして挙げられるのは、SNSのフォロワー数や採用ホームページのアクセス数、応募者数などです。アンケートや従業員へのヒアリングでも効果を測定できます。測定結果から取り組みの実効性を評価し、発信方法を変えていきましょう。
成功事例から学ぶ採用ブランディング
採用ブランディングは、事業内容や企業規模によってチャネルや方針が異なります。しかし、他の企業の方法がまったく参考にならないわけではありません。これまでに成功した事例を参考に、自社の取り組みに活かすことも大切です。ここでは、3種類の採用ブランディング事例を紹介します。
大手企業の採用ブランディング
フリマアプリ事業を営み、創業5年で社員数1000名超までに成長した「メルカリ」は、採用をHR部門だけに任せず、現場の従業員も参加できる仕組みを構築しました。
「メルカリグループではたらく人」を発信し、社内外に「メルカリらしさ」を認知してもらうことをミッションとして「People Branding」チームを結成しました。
「People Branding」チームでは、コンテンツプラットフォーム「mercan」の運営とともにイベントの企画やミートアップ、従業員向けの勉強会や研修の企画・運営を担っています。企画を考える際は以下の方針をもとにしています。
- ユニークネス(競合他社と差別化できるポイントは?)
- 不完全性(組織のポテンシャルを描けているか?)
- 自分事化(採用候補者にできそうな仕事か?)
- 想い(プロダクトやサービスの作り手に愛はあるか?)
特に、不完全化と自分事化を意識することにより、共感者が増えるようにしています。それにより、候補者が「メルカリを知らない」状態から「メルカリにマッチ度を測りたい」状態までブランディングを進めています。
メルカリの採用ブランディングは、大手企業ならではの取り組み方です。しかし、例えば美容室であれば、自社サイトでシャンプーやスタイリングについての情報を発信することはできるでしょう。すべてを取り入れようとするのではなく、自社ができそうな取り組みを真似してみることも重要です。
参考:メルカリの「人への投資=People Branding」が生み出した想定外な反響|メルカリ
注目された採用ブランディング事例
福井県を中心にコンセプト型の温浴施設を展開している「越しのゆグループ」では、「地方のお風呂屋さんに大卒の就活生を呼ぶ」をテーマに採用コンサルティングとともに採用ブランディングを進めました。「お風呂屋で働く仕事」ではなく、「新しいお風呂を作る仕事」「新しいお風呂を企画する仕事」であるというメッセージをWebサイトや動画で発信しました。
コンセプトを「新浴構想(ニューヨークコウソウ)」とし、業界を変えていく想いで採用ブランディングに取り組んだのです。その取り組みのひとつに、X(旧:Twitter)で「社長がお風呂にスーツのまま入浴している写真」を投稿したことが挙げられます。
社長自ら大胆な企画に参加することにより、企業として挑戦する姿勢を発信し、反響を呼びました。それにより、X(旧:Twitter)のフォロワー数も増加し、ブランディングに成功しています。
越のゆグループは、企画内容もさることながら、社長が参加したユニークな企画もブランディングに影響を与えています。特に美容室のような小規模の企業の場合、社長や従業員のユニークさを発信することも、差別化になるでしょう。
採用ブランディングで成功した美容室
札幌市の美容室「antico」は、顧客と一生おつきあいができるサロンを目指し、「技術のその先へ」というメッセージを掲げて採用ブランディングを進めました。
ブランディングの代行会社を活用して自社採用サイトを作成し「笑顔・感動・感謝」がビジョンであることや、教育方法、従業員のインタビューとともに社内イベントの様子も発信しています。
また、Instagramで社内の様子や労働条件を発信したり、新人スタイリストの1日に密着した採用動画をYouTubeに公開したりするなど、利用者が多いプラットフォームも併用しています。anticoは、理念や働き方や働く様子を発信することにより、候補者が入社後の姿をイメージしやすいような採用ブランディングに取り組みました。
美容室のような小規模の企業にとっては、参考にしやすい方法といえるでしょう。
参考:採用サイト|antico
小規模企業における採用ブランディング戦略
前述したように採用ブランディングは、事業内容や企業規模によってチャネルや方針が異なります。大企業のほうが知名度のある分、採用ブランディングを進めやすいのは事実です。
しかし、小規模企業ならではの採用ブランディングの方法も存在します。ここでは、小規模企業における採用ブランディング戦略について解説します。
採用ブランディングの公式
ブランディング・ディレクターである深沢氏の書籍「知名度が低くても〝光る人材〟が集まる 採用ブランディング 完全版」によると、結果が出る採用ブランディングは、以下のような公式に則っています。
B=(b×c)v
B:BLANDING BUILDING(ブランド構築)
b=behavior(従業員の行動)
c=communication(パンフレットやウェブサイト、プロモーションなどの非人的部分)
v=vision(理念・価値観)
引用:知名度が低くても〝光る人材〟が集まる 採用ブランディング 完全版|深澤 了
つまり「従業員の行動だけ」「動画のクオリティを上げただけ」では、採用ブランディングは成功しません。また、理念がなければ自社を差別化するポイントがなくなるため、ブランディングになりません。この公式を理解したうえで、以降に説明するポイントを押さえることが大切です。
企業は従業員の行動がポイント
採用ブランディングの公式にある「communication」にはパンフレットやウェブサイト、プロモーションなどのさまざまな方法があります。
コストをかけられるのであれば、プロモーションの一環としてテレビCMを放映すると採用ブランディングを優位に進められます。しかし小規模企業の場合、テレビCMに投入するほどの予算を確保するのは難しいでしょう。
ここで重要なことは、採用ブランディングの公式は掛け算であり、必ずしも「communication」に予算をかければ成功するわけではない点です。つまりcommunicationに予算を投じてテレビCMを放映せずとも、他のbehaviorやvisionを充実させて全体のバランスを取ると、ブランド構築を優位に進められるケースがあります。
例えば、いくらインパクトのある採用動画を作ったとしても、対応する従業員の行動が採用動画の内容とかけ離れていてはブランド化には至らないでしょう。採用活動における従業員の行動とコミュニケーション方法、理念を伴った採用コンセプトのどれも欠けることなく取り組むことにより、採用ブランディングの成功に近づけます。
そのため、「communication」に取り組む予算が限られている小規模企業でも、従業員の行動を強化すれば効果が高まります。ブランド構築は掛け算であり、従業員の行動次第で小規模企業でも十分に戦えることを理解しましょう。
母集団主義を捨てる
採用活動において「母集団を大きくすることが重要である」という考え方があります。たしかに母集団が大きければターゲットに近い人材が見つかる可能性は高まるでしょう。
しかし、母集団形成を軸に採用活動を進める場合、大手採用サイトの利用は避けられません。大手採用サイトで掲載ページや情報量を増やす場合、予算が必要になるため、予算の少ない小規模企業が大手企業よりも採用活動を優位に進めるのは難しいでしょう。
小規模企業が予算を最小限に抑えて採用活動を優位に進める場合、求職者に対して理念や価値観への共感を促すことが大切です。
たとえ人数が少なくても、自社に共感した人材を集められれば、長く活躍する人材を採用できます。そのため、小規模企業は「母集団主義」の考え方を脱却し、例え応募数が少なくても自社の理念に共感した人材を集める方針へと切り替える必要があります。
弱みは隠さず工夫する
情報発信において、自社の強みやポジティブな情報は発信しやすいものの、弱みやネガティブな情報は発信をためらってしまう傾向があります。しかし、候補者からすると弱みやネガティブな情報も知っておきたいものです。
そのため、弱みやネガティブな情報を隠さず、工夫して伝えることが大切です。以下のポイントを押さえるとよいでしょう。
- 自社の弱みを正直に伝える
- ポジティブに言い換える
- 嘘をつかない
ネガティブな情報で隠しがちなものとして 、残業時間が挙げられます。確かにただ「月平均の残業時間が40時間です」と伝えた場合、候補者はネガティブな印象を持ってしまうでしょう。
しかし「みんな、定時後も品質への追及がとまらず、月平均の残業時間が上限ギリギリの40時間になってしまいます」と仕事熱心な様子とともに伝えれば、ポジティブな印象になります。
採用フローを理念教育の場にする
採用ブランディングでは「採用フローの中で理念教育を実施する」という考え方をします。理念や価値観を発信し、共感した人材を採用すれば、入社後にゼロから理念教育をする必要はありません。理念に共感したうえで入社しているため、ミスマッチが発生する可能性も低いでしょう。
また、候補者が入社を決めた理由として「採用担当者の印象が良かった」ことが挙げられるケースがあります。この理由は、採用担当者に対する共感であり、自社の理念に共感したわけではないため、入社後にミスマッチが発生する恐れがあります。採用担当者ではなく、企業への共感を得るためにも、採用フローを理念教育の場にすることが大切です。
社長で差別化する
自社の理念を伝える際、理念に対する想いを強く持っている人材が発信することが有効です。自社の理念を最も熱く伝えられるのは社長です。特に創業者でもある場合、「会社を作った理由や想い」「会社の成り立ち」「これまでの苦労」などの話を誰よりも強く発信できるでしょう。
しかし、社長が採用活動に関与していないケースは珍しくありません。それは自社に共感してもらう機会を自ら逃しているようなものです。成功事例で紹介した「越のゆグループ」のように、企業の顔となる社長が率先して発信に関与すれば、独自性も生まれ、競合との差別化にもなります。
社長が採用活動に関与することにより、同志を見つける確率を上げられるのです。
数字や場所を具体的に書く
情報発信では、メッセージの内容を具体的にイメージできるよう、数字や場所を書くことがポイントです。例えば企業風土や活動を紹介する際、以下の表現ではどちらが具体的にイメージできるでしょうか。
一般的な書き方 |
具体性を意識した書き方 |
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同じ20代でも29歳と25歳では印象が異なります。「どこで何をしたのか」を伝えれば、イメージの解像度も上がるはずです。エピソードを交えれば、解像度はさらに上がります。
また、「魅力的なサービス」「他にはない制度」などの表現も注意が必要です。「すごい」ことはわかるものの、曖昧な言葉であるためサービスや制度をイメージできません。「オーガニック製品を導入したカラーリング技術」「マンツーマンで教えるシスター制度」のように、具体的なサービスや制度を書くことにより解像度が上がります。メッセージの一つひとつに「具体性があるか」を問いかけましょう。
コミュニケーションの順番に注意する
人がものごとを理解するためには、順序立てて説明する必要があります。例えば初めて話す相手であれば、最初に名前を名乗り、お礼と本日の目的やテーマを伝えたうえで本題に入るでしょう。いきなり本題から話し始めた場合、「自分の言いたいことだけ押し付けてくる」とネガティブな印象を与えかねません。
この心理は採用サイトでも同様です。採用サイトであれば以下の順番で記載するとよいでしょう。
- スローガンとイメージ写真
- 企業理念と戦略
- 業務内容
- 強みや独自性(サービスや制度など)
- 従業員の声(従業員インタビューやアンケート結果)
- 社内の雰囲気(業務やイベントの写真や動画)
- 採用情報(採用方針や募集要綱、労働条件、福利厚生など)
冒頭にスローガンとイメージ写真を設置することにより、自社のコンセプトを最初に伝えられます。企業理念と戦略のあとに採用方針を伝えたくなるかもしれませんが、自社の具体的な情報がないまま採用方針を伝えても、共感は得られません。
企業側が「選ぶ」印象を強く与えてしまう可能性もあるでしょう。「同志」を集めるためには、業務内容や強み、従業員の声などの情報を先に伝え、共感してもらうことが大切です。
デザインに妥協しない
採用ブランディングには、コンテンツの内容だけでなくデザインも重要な要素です。無印良品やスターバックスなどの企業名を聞いた際、ロゴや商品、雰囲気などのイメージが浮かんだはずです。これは、店内や商品、広告がコンセプトに基づいたデザイン設計をされているためです。
採用サイトであれば、レイアウトや色、フォントなどをコンセプトに基づいたデザインにすることにより、自社の雰囲気がより伝わるようになります。注意が必要なのは写真です。社員の顔や働く様子を設置する企業は少なくありません。しかし、表情が揃っていなかったり1人だけぼけていたりした写真を使用しているケースがあります。
その場合、統一感のなさからネガティブな印象を与えてしまう恐れがあります。社員を見せれば自社の雰囲気が伝わるとは限りません。コンセプトに沿った表情やクオリティの写真を撮影することが重要です。
近年では、知識がなくても採用サイトが作れるサービスが存在します。しかし、費用を抑えるために自社で採用サイトを作成した結果、コンセプトにそぐわないデザインのものを作ってしまっては、採用ブランディングの成功は遠のきます。自社が写真やデザインの知識が不足しているのであれば、専門家の力を借りることも大切です。
まとめ
採用ブランディングとは、自社をブランド化してファンを増やし、理念に共感した人材の採用につなげる採用戦略のことです。採用活動は、自社の発展をともに実現するための「同志」を見つける活動です。採用ブランディングは、自社の理念に共感する同志を見つけるための戦略といえるでしょう。
採用ブランディングによるメリットは以下のとおりです。
- 応募者数の増加
- 採用ミスマッチの防止
- 従業員エンゲージメントの向上
- 採用活動コストの削減
- 業績の向上
採用ブランディングの考え方は、小規模企業の採用活動にも活かせます。本記事で紹介した小規模企業における採用ブランディング戦略を参考に、自社に適した方法で採用活動に取り組みましょう。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部