美容室の店舗展開とは、1店舗にとどまらず複数の店舗を運営する経営戦略です。新規出店によってブランドの認知度を向上させ、売上を拡大できる一方で、人材確保や運営管理の負担が増すリスクもあります。
このように美容室の店舗展開は、経営の成長を加速させる手段の1つですが、リスクも伴います。成功に向けて、慎重な戦略と確実な運営体制が不可欠といえるでしょう。
そこで本記事では、美容室の店舗展開について、現状などの基本情報、具体的な方法、メリット・デメリットについて解説します。その上で、店舗展開に向いている美容室の特徴や、成功させるための重要ポイント、事例を紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
美容室の店舗展開とは
美容室の店舗展開とは、1店舗のみの営業にとどまらず、複数の店舗を運営する経営戦略です。業績が安定した美容室がさらなる売上アップやブランド拡大を目的として、新たな店舗を出店するケースが一般的です。
店舗展開には、「直営店舗方式・フランチャイズ方式・のれん分け方式」などの手法があります。
また、店舗展開を成功させるには、「出店エリアの選定・資金計画・スタッフ採用・教育体制の構築」など、さまざまな要素を考慮する必要があります。特に、美容業界は人材不足が深刻化しており、店舗数を増やすほど優秀なスタイリストやアシスタントの確保が重要な課題となります。
美容室の店舗展開における現状
美容室の店舗展開における現状について解説します。
美容室の数は増加している
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、下記の通り美容室は右肩上がりの増加傾向にあります。
▼美容室・理容室の店舗数の推移
こうした背景には、業界外の企業による新規参入およびフリーランスの増加のほか、特に昨今は美しい髪を求める男性が増えたという指摘もあります。
美容室の倒産件数も増加傾向にある
一方で帝国データバンクの調査(2024年度)によると、美容室の倒産件数は2023年度の同期間(156件)に比べて2割超の増加ペースで推移し、2024年2月度時点で2023年度累計(182件)を上回り、過去最多を更新しました。
こうした現状の背景には、各スタッフの「人手不足」、シャンプーをはじめとした美容資材の値上げや水道光熱費、テナント料などの「コスト高」、そして新規開店が続いたことによる「同業者の競争激化」があります。
そのため、美容室の店舗展開を成功させるには、人材や資材の安定的な確保、市場性を理解した効果的な集客などが求められるのです。
美容室が店舗展開を行う方法3パターン
美容室が店舗展開を行う方法は、次の3パターンです。
- 直営店舗方式
- フランチャイズ方式
- のれん分け
以下では、それぞれについて解説した上で、比較表にまとめます。
直営店舗方式
直営店舗方式とは、新しく出店するすべての店舗をオーナー自身が経営・管理する方法です。本店と同様に、スタッフの採用や教育、メニューの開発、マーケティング施策などを統一的に行うことができ、ブランドの統一性を保ちやすいのが特徴です。
直営方式では、オーナーが全店舗の経営を直接管理するため、利益をすべて自社で確保できます。ただし、開業資金や運営資金が多く必要となり、人材の確保や店舗ごとの経営管理の負担が大きくなる点は注意が必要です。
特に、複数店舗を展開する場合、店長やエリアマネージャーといった管理職の育成が欠かせません。
また、施術や接客のクオリティを全店舗で統一しやすく、ブランド価値を高めることができる点も直営方式の魅力です。ただし、すべての経営リスクをオーナー自身が負うことになるため、綿密な資金計画や事業戦略が求められます。
▼この方式が向いているオーナー
- すべての店舗の経営を自分の裁量で管理したい人
- ブランドイメージを統一し、独自のサービスを展開したい人
- ある程度の資金力があり、長期的に安定した経営ができる人
フランチャイズ方式
フランチャイズ方式とは、美容室のブランドや経営ノウハウを本部(フランチャイザー)が提供し、加盟店(フランチャイジー)がそのブランド名を使用して店舗を運営する方式です。
加盟店は本部と契約を結び、開業に必要な支援を受ける代わりに、売上の一部をロイヤリティとして本部に支払います。
この方式の特徴は、オーナー自身がすべての店舗を管理する必要がなく、比較的少ない資金負担で短期間に多店舗展開を実現できる点です。フランチャイズ本部は、加盟店の売上が増えるほど収益が上がるため、積極的なマーケティングや店舗支援を行います。
一方で加盟店ごとに経営能力が異なるため、サービス品質のばらつきが発生しやすい点には注意が必要です。
また、加盟店が経営不振に陥った場合、本部のブランドイメージにも影響を与える可能性があります。フランチャイズ展開を考える場合は、厳格な加盟審査や継続的な研修を行い、一定の品質を維持できる仕組みを作ることが成功の鍵となります。
▼この方式が向いているオーナー
- 自社ブランドの知名度を活かし、短期間で全国展開を目指したい人
- 開業資金の負担を抑えつつ、安定した収益を得たい人
- 経営ノウハウを提供しながら、パートナーと共に成長したい人
のれん分け方式
のれん分けとは、既存店舗で働いていたスタッフや店長が独立し、本店のブランドやノウハウを受け継いで新しい店舗を開業する方法です。フランチャイズと異なり、ロイヤリティを支払うケースは少なく、独立後も本店と友好な関係を保ちやすい特徴があります。
のれん分けは、優秀なスタッフの独立を支援できる点も特徴です。長年働いたスタッフが独立することで、店舗運営に対するモチベーションが高まり、オーナーとスタッフの信頼関係が維持されやすくなります。
また、新しい店舗の経営リスクは独立したオーナーが負うため、本店側の負担が少なく、多店舗展開を進めやすいという利点もあります。
ただし、のれん分け後の店舗が本店の競合になってしまうリスクもあります。特に、近隣エリアに新店舗を出す場合、顧客が分散し、売上に影響を与える可能性があります。
そのため、のれん分けを行う際には、エリア戦略やブランド維持のルールを明確にすることが欠かせません。なお経営方針の違いが生じると、本店との関係が悪化するケースもあるため、独立前の話し合いや契約の整備をしっかりと行いましょう。
▼この方式が向いているオーナー
- 長年働いたスタッフの独立を支援し、ブランドを広げたい人
- フランチャイズよりも柔軟な形で店舗展開を進めたい人
- 低リスクで店舗数を増やしたい人
店舗展開3パターンの比較表
「直営店舗・フランチャイズ方式 ・のれん分け」の各特徴を比較表で示します。
項目 |
直営店舗 |
フランチャイズ |
のれん分け |
経営主体 |
本部が直接経営 |
加盟店オーナーが経営 |
独立した元従業員が経営 |
意思決定 |
企業が決定 |
基本方針は本部、 日常運営は加盟店 |
独立オーナーが決定 (本部が支援する場合もある) |
収益帰属 |
すべて企業に帰属 |
加盟店の収益 +本部へのロイヤリティ |
独立オーナーに帰属 (本部にロイヤリティが発生する場合もある) |
初期投資 |
企業が全額負担 |
加盟店が負担 |
独立オーナーが負担 (本部が支援する場合もある) |
店舗展開速度 |
比較的遅い |
比較的速い |
比較的速いが、 適切な人材確保が必要 |
ブランド管理 |
比較的容易 |
比較的困難 |
ブランド統一は可能 (ただし、独立後の経営方針に左右される) |
品質管理 |
厳格に行いやすい |
全店舗での統一が困難 |
本部の管理がなくなるため、店舗ごとにバラつきが出る可能性あり |
地域適応 |
一般的に難しい |
地域の事情に対応しやすい |
独立オーナー次第だが、 地域の事情に対応しやすい |
リスク負担 |
企業が全面的に負う |
加盟店と分散される |
独立オーナーが負う (本部が支援する場合もある |
美容室が店舗展開を行うメリット
美容室が店舗展開を行う主なメリットは、以下の5つです。
売上アップにつながる
店舗展開により、単店舗での営業に比べて売上の増加を見込めます。新たなエリアに出店すれば、これまで獲得できなかった顧客層にアプローチできるため、顧客数が増加し、売上ベースが拡大します。
また、複数店舗での施策(指名制度の活用、店舗間の紹介割引など)を行うことで、リピート率の向上や客単価のアップも期待できるでしょう。
ブランド力と認知度が高まる
複数店舗を展開すると美容室の名前やロゴが多くの人の目に触れる機会が増え、ブランドの認知度が向上します。
また店舗数が多いと、「この美容室は信頼できる」「実績のある美容室」といった安心感を持たれやすくなる点も強みです。
さらに、SNSや口コミなどを活用すれば、各店舗の情報を拡散しやすくなり、集客力の強化にもつながります。
経営リスクを分散できる
1店舗だけでは売上の波に影響されやすい一方、複数店舗を持つとリスクを分散できます。
たとえば、特定の店舗が不調でも、他店舗の売上で補えるため、経営全体の安定性が向上するのです。
また、災害やトラブルなどで一時的に営業が難しくなった際も、他の店舗での対応が可能になるため、リスクマネジメントの観点でも有効といえます。
仕入や広告のコスト効率
店舗が増えると、仕入れをまとめて行えるようになり、1店舗あたりの仕入れコストを低減可能です。
たとえば、シャンプーやカラー剤などの材料費を一括で発注することで、スケールメリットを活かしたコストダウンを実現できます。
また、広告費に関しても、1つの店舗のみを宣伝するのではなく、複数店舗をまとめてPRすれば、より効率的に集客を行えるでしょう。
顧客ニーズに応えやすくなる
複数店舗を展開すると、地域ごとの異なるニーズに対応しやすくなる点もメリットです。
たとえば、オフィス街の店舗ではビジネスパーソン向けの時短メニューを充実させたり、住宅街の店舗ではファミリー向けの施策を行うなど、ターゲットに合わせた戦略を立てやすくなります。
また、ホットペッパービューティーによる「美容センサス2024年上期」では、シンプルに「自宅から近いと利用してもらいやすい」というデータも示されており、店舗を増やせばその分「近くの美容室に通いたい」という顧客ニーズに対応できます。
▼初回来店時にサロン選びで重要視したポイント(複数回答)
順位 |
初回来店時に重要視したポイント |
割合 |
1 |
自宅から近い |
34.6% |
2 |
料金がリーズナブル |
31.1% |
3 |
料金が明確 |
26.7% |
4 |
ネットの口コミが良い |
21.0% |
5 |
ネット予約できる |
18.0% |
さらに各店舗のデータを収集・分析すれば、より高い顧客満足度につながるサービスの提供が可能となるでしょう。
美容室の顧客満足度については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
美容室が店舗展開を行うデメリッ
美容室が店舗展開を行う際の主なデメリットは、以下の4つです。
初期投資と運営コスト増加が発生する
新しい店舗を展開するには、物件取得費や内装工事費、設備投資、広告宣伝費など初期投資が必要です。
特に、美容室はシャンプー台やカットチェア、ミラーなどの設備が必須であり、相応の資金を準備しなければなりません。
さらに、開業後も家賃や光熱費、材料費、人件費などの運営コストが発生するため、資金計画を立てなければ経営を圧迫するリスクがあります。
管理面の手間が増加する
1店舗だけであれば、オーナーや店長がすべての運営を把握しやすいものの、店舗が増えるほど管理は複雑化します。
売上管理、スタッフ管理、顧客対応の統一、在庫管理など、店舗ごとに異なる課題が発生し、それらを本部やオーナーがコントロールする必要があります。一定の経営権を委託するフランチャイズやのれん分けであっても、相談を受ければ対応しなけれななりません。
また、管理が行き届かないと、スタッフの不満や顧客クレームが増える可能性もあるため、適切なマネジメント体制の構築が不可欠です。
必要人員の確保を要する
美容室の運営には、スタイリストやアシスタントなどのスタッフが不可欠ですが、店舗が増えるほど人材確保の難易度が上がります。
特に、優秀なスタイリストを各店舗にバランスよく配置するのは容易ではなく、採用活動を強化する必要があります。また、新しいスタッフの教育や育成も必要となるため、接客研修や技術指導など教育制度の構築が必要です。
サービス品質の維持を要する
店舗数が増えると、各店舗で施術や接客のサービス品質を統一することが課題となります。
たとえば、ある店舗ではカット技術が高く評価されているのに、別の店舗では仕上がりにばらつきがある場合、顧客の満足度が低下し、ブランドイメージ低下につながるリスクがあります。
特にスタッフごとの技術力や接客スキルに差があると、リピート率やブランド全体の評判に影響するため、定期的な研修や評価制度を導入し、どの店舗でも同じレベルのサービスを提供できるようにしましょう。
美容室が店舗展開を成功させるための重要ポイント
美容室が店舗展開を成功させるための重要ポイントを、6つ紹介します。
事前の市場調査
新しく店舗を展開する際には、出店エリアの市場調査が成功の鍵を握ります。人口の特性、競合店舗の数やサービス内容、地域住民の美容に関するニーズを分析し、どのようなターゲット層に向けた店舗にするかを明確にする必要があります。
以下は、市場調査の主要な項目です。
▼商圏調査
- 人口統計(年齢層や世帯構成、所得水準など)
- 通行量(時間帯別、曜日別など)
- 周辺施設(オフィス、学校、公共機関など)
▼競合店調査
- 店舗規模とセット面数
- スタッフ人数と構成(男女比、年齢層など)
- メニューと料金
- 営業時間と定休日
▼顧客動向分析
- 顧客の志向・需要傾向(高級志向、低価格志向など)
たとえば、高級志向の美容室が多いエリアで価格重視の店舗を出しても競争に負ける可能性があるため、地域の特性を踏まえたコンセプト設計が重要です。
また、交通の利便性や駐車場の有無、商業施設の集客力なども考慮し、集客しやすい立地を選ぶことで成功につながります。
店舗ごとのターゲット設定
店舗を増やす際に重要なのは、全店舗を同じターゲット層にするのではなく、市場調査の結果を踏まえて、エリア特性に応じたターゲット設定を行うことです。
たとえば、都市部の店舗では若年層向けにトレンドを重視した施術メニューを用意し、郊外の店舗ではファミリー層向けにキッズカットや親子割引を取り入れるなど、各店舗ごとに最適なサービスを提供するとよいでしょう。
このようにサービスの品質は各店舗で統一しつつ、エリアごとに適切なターゲット設定を行うことで、競争力を高めつつ安定した集客が可能になります。
自社にマッチした人材の確保
店舗展開を成功させるためには、スタイリストやアシスタントなど信頼できるスタッフの確保が欠かせません。
以下の通り「美容センサス2024年上期」においても、現在利用している美容室の継続理由として、一定以上の割合が「スタッフのスキルに関する項目」を挙げています。
▼現在利用している美容室の継続理由のうち「スタッフのスキルに関する項目」を抜粋(女性/複数回答)
現在利用しているサロンの継続理由 |
割合 |
スタッフの技術が高い |
18.4% |
スタッフの気遣いや対応が良い |
15.6% |
スタッフと話しやすく会話が楽しい |
15.4% |
自分でイメージした通りの仕上がりにしてくれる |
14.3% |
また、特にスタッフを安定的に確保するには、働きやすい職場環境やキャリアアップ制度の充実、報酬体系の見直しなどを行い、応募が集まりやすく、定着もしやすい環境をつくる必要があります。その上で、技術研修や接客トレーニングにより、サービスの均一化を図るのが大切です。
ただし、先述した美容室の倒産数が過去最多となった主要因としても「人材難・人手不足」が挙げられており、昨今の美容業界は思うようにスタッフを確保できません。
特に「とにかく優秀な人材」を採用したいという考え方では難度がさらに高まるため、「自社にマッチする人材」を採用する観点が大切です。そのためには、採用要件を絞ったり、働き方の改善に投資したり、給与を見直したりといった工夫が求められます。
以下は、厳しい採用市場において求める人材を確保するために有効な資料ですので、ぜひ無料ダウンロードの上、ご活用ください。
SNSや広告を用いた効果的な集客
店舗展開を成功させるためには、新規顧客を効率よく集客できる仕組みが不可欠です。特にSNS(Instagram、TikTok、LINE公式アカウントなど)を活用したマーケティングが効果的です。
たとえば、Instagramで施術例を投稿し、フォロワーを増やして集客につなげる、LINE公式アカウントでクーポンを配布してリピート率を高めるなど、デジタルマーケティングを積極的に活用することで、比較的低コストで高い集客効果を得ることができます。
SNSの個人広告は地域や届ける層も選べます。少ないお金で、いろいろなパターンで広告を出して比較して。会社から広告費を出すことで、スタッフ間でも数字が伸びる投稿についての情報共有がされるようになり、実際にフォロワー数や売り上げの数字も上がってきているので、個人的にはすごくよかったなと思います。
引用:モアリジョブ|Gigiグループ CEO 間島勇大さん
また、Googleマップやホットペッパービューティーなどのレビュー管理を徹底し、口コミを活かした集客戦略を展開することも有効です。
美容室の集客については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
マニュアルや育成によるサービス品質の維持
店舗が増えると、スタッフの技術レベルや接客対応に差が出やすくなるため、一定の品質を保つ仕組みが必要です。そのためには、マニュアルを整備し、全店舗で統一したサービスを提供できる体制を確立しましょう。
たとえば、カット技術、カラー施術の手順、接客の流れ、クレーム対応などをマニュアル化し、新人研修や定期的な勉強会を実施すれば、各店舗の品質を維持できます。本部が定期的に巡回して品質チェックを行うのも大切です。
ただマニュアルを作成したことがない方も多いのではないでしょうか。こちらの記事では店舗マニュアルの作成手順やテンプレートを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
資金繰り計画の設定
店舗展開には初期投資や運営コストがかかるため、綿密な資金計画を立てる必要があります。
たとえば、新店舗オープンにどれくらいの投資が必要か、黒字化するまでの期間を想定し、必要な運転資金の確保が欠かせません。さらに店舗ごとの売上目標を明確に設定し、月次での収支管理を徹底すれば、資金繰りのトラブルを未然に防げます。
また自己資金だけでなく、銀行融資や補助金の活用など、資金調達の選択肢を広げておくことも大切です。
店舗展開が向いている美容室の特徴
店舗展開が向いている美容室の特徴を、5つ紹介します。当てはまる場合は、新たな店舗の展開を検討してはいかがでしょうか。
利益が安定しており、無理なく資金調達を行える
店舗展開を成功させるには、既存店舗の経営が安定し、継続的に利益を出せていることが前提です。新規出店には店舗の設備費、人件費、広告宣伝費などの初期投資が必要になるため、無理なく資金を調達できる体制が求められます。
また、金融機関から融資を得られるかは、事業における安定性や成長性の指標となります。もちろん自己資金に余裕があるのが理想ですが、外部からの資金調達を検討する場合は、銀行融資を得られるかを判断材料の1つにできるでしょう。
リピート率が高く、安定した集客がある
リピート率の高い美容室は、固定客による安定した売上が見込めるため、店舗展開に向いているといえます。特に、顧客がリピーターになりやすい仕組みが整っている店舗は、新店舗でも成功しやすい傾向にあります。
たとえば、技術力の高さ、丁寧なカウンセリング、独自のメニューやサービスなど、他店との差別化できている美容室は、自然とリピート率が向上します。
また、ポイントカードや会員制度、LINE公式アカウントを活用したクーポン配布など、顧客との継続的な関係を築く施策が機能しているのも重要です。
店舗コンセプトが確立している
成功する店舗展開には、美容室が明確なコンセプトを持っているかが大切です。コンセプトが曖昧なまま店舗数を増やしてしまうと、各店舗ごとの方向性がバラバラになり、ブランド力が低下する可能性があります。
たとえば、「オーガニック志向のナチュラルサロン」「高級志向のプライベートサロン」「スピーディーな施術を重視した時短サロン」など、ターゲット層や提供する価値が明確な美容室は、どのエリアでもブレることなく展開できるため、ブランドとしての信頼を築きやすくなるのです。
新店舗を任せられる人材を確保できる
店舗展開を進める上で、店長やマネージャーとして新店舗を運営できる人材の確保は欠かせません。
新たな店舗を立ち上げても、信頼して任せられるスタッフがいなければ、オーナーがすべての店舗を管理しきれず、サービスの質が低下するリスクが高まります。
そのため、マネジメントを行える店長候補や高い技術力をもったスタッフを確保し、安定して運営できる体制を整える必要があるのです。既存店舗にこうした人材が揃っている、もしくは採用で賄える場合には、店舗展開を行える状況といえるでしょう。
スタッフの定着率が高く、育成環境が整っている
美容室の店舗展開において、スタッフの定着率の高さは重要な指標です。スタッフの離職率が高い状態で新店舗をオープンすると、新規採用や教育コストがかさみ、人手不足によるサービスの低下を招く可能性があります。
さらに、教育体制がしっかりしている美容室は、新人スタッフのスキルアップが早く、各店舗で均一なサービスを提供しやすくなるため、成功する店舗展開の土台を作ることができます。
以上より、定着率の高さと育成環境の充実度も店舗展開を行うかを判断する指標のひとつです。
美容室の店舗展開におけるスタッフ採用の解決策
美容室の店舗展開を進める際、特に課題となりがちな「スタッフの採用」について、有効な解決策を2つ紹介します。
求職者に響く求人広告の作成
昨今における美容師の採用市場は競争が激しく、単に募集をかけるだけでは求職者の目に留まらず、応募に至らないケースが少なくありません。そこで重要になるのが、求職者のニーズを的確に捉えた求人広告の作成です。
特に美容師が重視するポイントとして、「給与・待遇、働きやすさ、スキルアップの機会、店舗の雰囲気」などが挙げられます。これらの要素をしっかりと伝え、「ここで働きたい」と思わせる求人原稿を作成するのが成功の鍵となります。
最新の求人データ35,000件を分析し、応募を逃さない求人広告の書き方をまとめたホワイトペーパーを無料で公開中です。採用活動を強化したい方は、ぜひ以下からダウンロードしてご活用ください。
美容業界特化の採用サイトの活用
美容室のスタッフ採用を効率的に進めるには、美容業界に特化した求人サイトの活用が有効です。求職者のニーズと企業側の要望を的確にマッチングできます。
「リジョブ」は美容・ヘルスケア業界に特化した採用プラットフォームとして、多くの美容室が活用しています。登録者数70万人以上(2025年2月時点)の豊富な求職者データを活用しながら、効率的に採用活動を進めることが可能です。
店舗展開に向けて採用を強化したい方は、「リジョブ」の活用を検討してはいかがでしょうか。
関連リンク
美容室の店舗展開における好事例
美容室の店舗展開における好事例を、3つ紹介します。
倒産寸前の状況から、3年で3店舗の展開を実現
ショート・ボブ専門美容室「CHOUCHOU」「CHOUCHOU-LEA」を運営する武藤鎌矢さん。今でこそ複数店舗を運営していますが、当初は売上が伸びず一時期は店舗をたたむことさえ考えました。
では、こうした状況からいかにして3年で3店舗の開業を実現できたのでしょうか。ターニングポイントを以下のように語ります。
「スタッフさんにお客さんを付け、お給料を払わなくてはいけない」という思いが強くなり、さらに力が入るようになりました。
また、集客を学ぶために初めて広告費を使い、お店のホームページを作成しました。ほとんどお金はありませんでしたが、「これでダメだったら、アルバイトをしてでも返そう」と腹をくくって投資をしたのです。このタイミングで「ショート・ボブ専門美容室」を前面に打ち出し、客単価の見直しを行いました。
引用:モアリジョブ|株式会社CHOUCHOU 代表 武藤鎌矢さん
わずか12年で35店舗を展開、その秘訣は定着率96.7%
関東エリアを中心にヘアサロンを展開する企業「Oasis Garden」は、設立からわずか12年で全国35店舗の出店を実現しています。その背景について、同社の人事責任者である齋藤逸生さんは次のように語ります。
スタッフの定着率は大きく影響していると思います。店舗展開を行うにあたって人材は必要不可欠です。求人サイトなどを利用して確保できたとしても、すぐに辞めてしまっては持続的に展開できません。
そのため、弊社ではスタッフが「長く働き続けたい」と思えるような環境作りに取り組んでいます。直近のリサーチではスタッフ定着率96.7%でした。
引用:モアリジョブ|株式会社Oasis Garden 人事責任者 齋藤逸生さん
さらに、こうした高い定着率を実現できている理由については、次のように述べています。
いくつかありますが、ひとつ挙げるとするとキャリアアップ制度を採用しています。弊社には幹部、副店長、店長、マネージャーなどと役職があって。スタイリストとして技術やスキルを磨くだけではなく、キャリアアップを目指すことができるんです。組織の一員として長く働くモチベーションにつながっていると思います。
引用:モアリジョブ|株式会社Oasis Garden 人事責任者 齋藤逸生さん
店舗ありきでなく、スタッフ主体の店舗展開を
全国に複数店舗を構えるサロン「Sui」の代表である冬木慎一さんは、店舗展開において大切にしている考え方を次のように語ります。
最初に「店舗」ありきで支店を増やすことはしたくありません。21年にオープンした東京店は同じビルの1F部分なのですが、オープンから一緒に立ち上げに参加してくれた若手メンバーに任せることにしました。
若手から意見が出ると、会社の活性化になっていい刺激になっています。まだまだ結果は出ていませんが、「成果が出るまでの努力が面白いんだよ」って言いながら励ましています。
引用:モアリジョブ|ヘアサロン「Sui」 代表 冬木慎一さん
「美容室を増やすこと」だけが目的になってしまうと、スタッフの負担が大きくなり、長続きしない店舗展開になりがちです。オーナー主導ではなく、スタッフ主導で進めることで、同社のような安定した店舗展開を実現できるでしょう。
まとめ
美容室の店舗展開を成功させるには、経営手法の選択と戦略的な計画が不可欠です。本記事で紹介したポイントを以下にまとめます。
- 直営・フランチャイズ・のれん分けについて、資金負担や経営の自由度、収益性、リスク分担などを比較し、自社に最適な形態を選ぶ
- 出店エリアや市場環境の調査・分析により、競合状況やターゲット層のニーズ、人口動態などを把握し、最適な立地戦略を立てる
- 人材の採用手段と教育体制を整える
- ブランドの統一性やサービスの品質を維持するため、マニュアルの整備や定期的な研修を行う
店舗展開は大きなチャンスである一方、慎重な準備が必要です。自社の経営方針に合った方法を選び、持続的な成長を目指しましょう。

- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部