2024年現在、人手不足が深刻な業界がある一方で、人手が余っている業界もあります。例えば人手不足が深刻な業界として、運送業や建設業、サービス業などが挙げられます。これらの業界には、有効求人倍率が3.0倍を超える職種が多く、人材獲得競争が激しい業界です。
例えばサービス業に含まれる美容業界では、アシスタントとして就業する古い慣習が未だに残されていることもあり、なり手が少なく人手不足が深刻です。
美容師の世界は、アシスタントとして平均3年は修業するのが決まりで、長い間、古い感覚が変わらない厳しい労働環境のままでした。最近でこそ、政府によって働き方改革が推奨され、美容師の仕事でも長時間労働は禁止されるようになりましたが、昔からの業界のやり方がすぐに変わるわけではありません。
実際に理容師美容師試験研修センターが発表したデータによると、平成17年は新規美容師免許の登録件数が2万9,452件だったのに対し、令和4年は1万7,876人にまで減少しています。
一方で事務職などを中心に有効求人倍率が1.0倍を下回るケースもあり、人手が余っている業種も存在します。
このように、人手不足の深刻度は業界によって大きく異なります。また人手不足になる要因も業界ごとに特徴があるため、各業界の状況を分析した上で対策を講じることが大切です。
本記事では、人手不足が特に深刻な業界について現状と要因を解説します。さらに代表的な要因を5つ挙げ、それらへの対策法についても触れますので、ぜひ最後までご覧ください。
人手不足の現状と要因
人口減少や少子高齢化で人手不足が加速する現代。日本では2025年問題が労働市場に対してさらに大きなインパクトを与えるといわれています。2025年問題とは、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になることで起こる諸々の問題をさします。
日本で人手不足が進むなかで、業界によって進行の速度や深刻さの程度が異なります。その理由の1つとしとして、各業界間の志望者数のギャップが挙げられます。
たとえば株式会社インタツアーの調査によると、「IT・ソフトウェア・情報処理」分野の業界を志望する学生は30.3%でした。それに対し、建設や建築は3.3%程度で業界によって大きな開きがあります。
「IT・ソフトウェア・情報処理」分野に人気があるのは、コロナ禍を経て企業選びの基準が変化したことも要因のひとつと考えられます。エン転職の調査によると、テレワークや副業などの希望の働き方ができる企業を中心に職場選びをする人材が最も多いことがわかりました。
▼重視する企業選びの軸
以上からテレワークが難しい建設や建築の場合、選択で働き方が狭いことが、人手不足に陥る要因として考えられます。
人手不足の要因として、他にもスタッフ採用の難しさや離職率の高さ、業務効率の悪さなど企業が個別に抱える課題の影響も考えられます。次の記事では、人手不足の原因と対策について詳しく解説しているので、参考にしてください。
人手不足が深刻な業界
ここでは、欠員率をもとに人手不足が深刻な業界を解説します。欠員率は次の計算式で求められ、数値が高くなるに従い人手不足感が強いことになります。
欠員率=(未充足求人数÷常用労働者数)×100
厚生労働省が調査した令和4年上半期のデータをもとに、人手不足が深刻な業界を順に8つ並べると次のとおりです。
業界 |
欠員率 |
---|---|
運輸業・郵便業 |
3.8% |
宿泊業・飲食サービス業 |
3.8% |
建設業 |
3.6% |
サービス業(他に分類されないもの) |
3.5% |
医療・福祉 |
2.9% |
鉱業・ 採石業・砂利採取業 |
2.6% |
不動産業・物品・賃貸業 |
2.6% |
生活関連サービス業・娯楽業 |
2.5% |
以上の順に各業界の人手不足の状況や特徴について解説します。
運輸業・郵便業
運輸業や郵便業は今後、2024年問題に突入して人手不足がさらに進行するといわれる業界です。2024年4月以降に業界の残業規制が強化されることで、人手不足が一気に加速する可能性があります。運転手の確保が進まないため、人手不足による倒産が増加するともいわれています。
残業規制が強化され、運転手不足に拍車がかかる「2024年問題」が4月に迫る。だが、運転手の確保は進まない。ハローワークに求人を出しても、連絡があるのは求人情報サイトの営業担当者ぐらいだ。
引用:Yahoo!ニュース
残業が規制されると、運転できる時間が限られるため長距離便を運用できなくなります。これまで長距離便の運転手のなかには、収入減少をきっかけに、退職するケースも出始めているようです。
「長距離便ができなくなる」と従業員に伝えると、残業代が減るため5、6人が会社を去った。
引用:Yahoo!ニュース
宿泊業・飲食サービス業
宿泊業・飲食サービス業ではコロナ禍以降に観光客の動きが活発になる一方で、人材獲得が進まないため人手不足が深刻化しています。
宿泊業・飲食サービス業の問題として、人手不足のなかで現在業界で働く従業員への負担が増えていることが挙げられます。
人手が足りない。普段は接客にあたらないスタッフがフロントで荷物の受け渡しを手伝うなど、1人2役でやっている
引用:東京新聞
さらに原材料費が高騰するなか、人件費を上げられずに従業員の離職が進むことで、ビジネス自体が成り立たなくなることが不安視されています。
家賃は固定費なので、コストの削減は簡単にできない。そこで人件費と原材料費をコントロールする必要があるが、昨今、どちらも高騰しており、従来のビジネスモデルが通用しない状況に追い込まれている。
引用:東洋経済
建設業
建設業が人手不足の状況にある背景として、職人の高齢化や若手の採用が難航していることなどが挙げられます。
近時は職人の高齢化に加え、若手や新卒人材の応募が少ないなど、人材不足が目立つ
引用:Yahoo!ニュース
人手不足が原因で工事の進捗に遅れが生じ、工期が延長されていることも業界全体の問題です。工期が延長されると元請け業者からの下請け業者への支払が遅れ、業界全体の資金繰りに悪影響を及ぼします。
人手不足の問題は、工期の延長も引き起こしている。完工時期が後ズレすることで、元請業者による下請業者への支払延期要請も多く、孫請け以下の工事に関係する業者全体の資金繰りにも影響している。つなぎ融資を調達しようにも、コロナ禍でのゼロゼロ融資の導入などによって借入余力が小さい業者も多く、受注は確保できているにも関わらず、支払い先行で手元現金がショートする「黒字倒産」も見られた。
引用:帝国データバンク
サービス業(他に分類されないもの)
サービス業(他に分類されないもの)には、廃棄物処理業や自動車整備業などが含まれます。環境省の調査によると半数以上の廃棄物処理業者が人手不足の状態にあると回答しました。
また日本自動車整備振興会連合会の調査によると、平成22年の整備士数は342,897人でした。それが平成29年には336,360人となり、令和4年にはさらに減少して331,681人です。
年度 |
整備士の数 |
---|---|
平成22年度 |
342,897人 |
平成29年度 |
336,360人 |
令和4年度 |
331,681人 |
以上のように、廃棄物処理業や自動車整備業を中心にサービス業(他に分類されないもの)の人手不足が深刻化しています。
医療・福祉
医療・福祉業界も人手不足の悩みを抱える企業が多い業界です。とくに介護・福祉分野は新卒者に不人気な業界で、インタツアーの調査によると志望しない学生が最も多い業界です。
また離職率が高いことも特徴で、一部の地域では人員を補填するための求人が常態化しており、人手不足が進んでいるようです。
福祉・介護サービス分野においては、高い離職率と相まって常態的に求人募集が行われ、一部の地域や事業所では人手不足が生じているとの指摘もあります。
引用:厚生労働省
鉱業・ 採石業・砂利採取業
鉱業・ 採石業・砂利採取業は衛生環境に対する不安や肉体労働のイメージによって、若年層の就業が減少しています。定着率も低く人手不足が続いている業界です。
また鉱業・ 採石業・砂利採取業の一種である石工を例に説明すると、機械化が可能な作業がある一方で、細部の加工については職人の技術も必要です。つまり石工は、機械化による業務効率化に限界のある職業です。
近年では石の加工工程にコンピューターが導入されるなど、機械化される部分もあるが、細部の加工は手作業に頼ることが多く、伝統的に受け継がれてきた職人技も引き続き重要視されている。
引用:jobtag|厚生労働省
今後は、技術の伝承や後継者の育成が課題になると考えられ、採用だけではなく教育にも力を入れる必要があります。
石工職人の高齢化や人手不足をどのように解消していくか、これが課題でここ数年社内で議論をしてきました。
最初は、外国の職人を活用する案も検討しました。しかし長い目で見ると今の石工職人の技を引き継いでいく後継者が必要であるし、やはりそれには日本の若い世代から1人でも多くその後継者を生み出していくことが、建築石材業界を守り、発展させていくことにつながると考えてその様に動き出すことにしました。
引用:関ヶ原石材株式会社
不動産業・物品・賃貸業
厚生労働省の調査によると、令和5年上半期における不動産業・物品・賃貸業は入職者数が81.9万人で離職者数が83.9万人です。入職者数を離職者数が上回っていることもあり、業界全体で人手不足が課題になっています。
離職者数が多い理由として、1~3月に発生する繁忙期の忙しさや商談難易度の高さが要因として考えられるようです。
不動産、なかでも賃貸業界は1~3月が繁忙期なのですが、その時期の忙しさに驚き、辞めてしまう人が多かったと伺っています。ですが、これは業界全体に言えること。業界全体の離職率が高いと、就職希望者が減ってしまい、さらに人材不足に拍車がかかるという悪循環が発生してしまいます。
引用:株式会社リクルート
不動産仲介業は商談難易度が高く、一人前になるまでに時間がかかるのです。属人的な業務のため、歩合率が高い会社に人が流れやすいことが不動産業界の特性として挙げられます。
引用:Yahoo!ニュース
また公益財団法人不動産流通推進センターの調査によると、不動産業の法人数は上昇傾向にあります。
▼不動産業における法人数の推移
入職者数を離職者数が上回る中、法人数の増加により人材の獲得競争が今後も激しくなることが予想されます。
生活関連サービス業・娯楽業
生活関連サービス業には、美容業や理容業、エステティック業、映画館、スポーツ施設などの業種が該当します。
たとえば厚生労働局の発表(令和5年6月発表)によると、美容業や理容業、エステティック業が含まれる「生活衛生サービス職業従事者 」の有効求人倍率は4.29倍と高い数値にあります。これは、4社に1人の求職者を取り合う状況であるため、人手不足の深刻さが伺えます。
美容業界の人手不足については専門家からも指摘されており、例えば次のようなコメントがみられます。
美容室の倒産は、資金繰りが回らないことよりも人手不足による「労務倒産」の方が圧倒的に多くなっています。つまり人材確保は経営の根幹に関わる課題になってきており、そういう意味では集客よりも優先性が高いと言えます。
引用:モアリジョブ/船井総研 富成将矢さん
日本の美容業界が外国人の労働を認めていないため、就労を認めるよう働きかけています。なぜなら、大都市にある美容室の多くは人手不足が深刻だからです。
引用:モアリジョブ/東京美容生活衛生同業組合 金内光信さん
業界が人手不足に陥る要因
労働政策研究・研修機構の調査によると、企業が人手不足に陥る要因は次のとおりでした。
▼雇用人員(人手)が不足している理由
ここでは、以上のデータをもとに業界が人手不足になる要因を5つの項目に分けて解説します。
専門スキルをもった人材の採用難易度が高いから
専門サービスを提供する業界のなかには、専門スキルを持った人材の採用難易度が高くて人手不足になるケースがみられます。例えば専門スキルを証明するステータスのひとつとして、国家資格が挙げられます。
美容師や柔道整復師などの国家資格が必要な専門職では、有効求人倍率が高い傾向にあり採用が難しい状態です。厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「jobtag」によると、令和4年度における美容師の有効求人倍率は5.66倍で、柔道整復師は3.60倍です。
また厚生労働省の調査によると、令和4年度の全業種における平均の有効求人倍率は1.31倍でした。美容師や柔道整復師などの有効求人倍率は平均よりも大幅に高いことを考えると、専門スキルを要する職業では比較的採用が難しいことがわかります。
集客の伸びに比例して従業員が必要になるから
事業拡大や顧客の増加に伴い必要な従業員を確保できずに、人手不足に陥ることもあります。特にマネージメントや店舗運営を任せられる中心的な人物が不足すると、新規事業の停滞や需要拡大への対応に遅れが生じやすくなります。
中小企業白書によると、中核人材の不足によって、新事業・新分野の展開が停滞したり、需要増加に対応できずに機会損失が発生したりする企業が多いことがわかりました。
離職する従業員が多いから
離職する従業員が多いと、新しく人材を採用しても従業員が増えないため、慢性的な人手不足に悩まされる可能性があります。厚生労働省の調査によると、特に離職率の高い業種として、「宿泊業、飲食サービス業」や「生活関連サービス業、娯楽業」を始めとしたサービス業が挙げられます。
以上から、サービス業では特に、離職者の増加による人手不足に警戒が必要と考えられます。そこで、従業員の離職理由について、令和4年の雇用動向調査の前職をやめた個人的理由をもとに分析してみましょう。
同調査によると、前職をやめた主な個人的理由は次のとおりでした。
▼前職を辞めた個人的理由
以上によると、「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」ことが離職理由として大きな割合を示しています。
サービス業で離職数を抑えるためには、労働条件を整えることが大切だと考えられます。例えば労働条件が過酷といわれる美容業界では、オーナー美容師が労働条件の改革に乗り出す事例もみられます。
「Null」を立ち上げるずっと前から美容師の離職率が高いことに疑問を抱いていました。僕は新卒からずっと自分が美容師を1番楽しんでいると言い切れるくらい充実して仕事ができていたのですが、いろんな人の話を聞いていると、技術があって僕と同じように働けるはずなのに、環境が原因で挫折してしまった人がたくさんいることに気づいたんです。
そんな人が当たり前に輝ける場所を作ること。「Null」と関われば自分は輝けると確信できる存在に自分たちがなるべきだと思っています。
引用:モアリジョブ/美容サロン「Null」 代表 内海風我
美容業界は(休憩を)1時間もきっちり取れないし、お客様がいらっしゃったら休憩中であろうと対応しなければいけない。おにぎり一個だけ流し込んで終わり、ということもザラ。一般企業では当たり前のことが、美容業界では許されないことがたくさんあります。そこに風穴を開けたいと思ったんです。
引用:モアリジョブ/美容サロン「Bee dandy」 オーナー 松井祐太さん
業界が不人気だから
業界が不人気だと、求人票への応募数が減って人手不足のリスクが高くなります。どのような業界が不人気になるでしょうか。
株式会社ワンキャリアが学生に行った調査によると、学生が企業選びで最も重視する条件は給与でした。これは裏を返すと、業界の給与が低水準である場合、それが不人気になる要因の1つになると考えられます。
人材育成が難しいから
人材育成に課題を抱えることで、必要な仕事を任せられずに人手不足に陥るケースが考えられます。
株式会社エフェクトの調査によると、人材教育や研修の効果について課題を抱えている企業が、8割以上に上ることがわかりました。(※「その場では効果があるが持続しない」と「自分の仕事に応用させることが難しい」、「全く出ていないと思う」の回答を合計すると82.8%)
さらに、成果が出ていない理由を把握している企業は15%に留まります。人材教育がうまくいかない理由を把握できないと、人材教育の改善策も生み出せなくなるでしょう。人材が育たないため、人手不足問題を解消しづらくなります。
人手不足の業界が人材を確保するためのポイント
労働政策研究・研修機構の調査によると、人手不足を緩和するための対策として求人募集時の賃金引き上げを行う企業が最も多いことがわかりました。次いで、「中途採用の強化」に努める企業が多いです。
▼人手不足を緩和するための対策
特に賃金の引き上げは人手不足を解消するための手段として有効です。帝国データバンクの調査でも、人手が不足していない最も大きな要因は賃金や賞与の引き上げでした。さらに2番目の要因として、「働きやすい職場環境づくり」が挙げられます。
以上から賃上げは、人手不足を解消するための有効手段の1つとして検討すべき施策の1つと考えられます。しかし、経営状態によってはなかなか賃上げが難しい企業も多いのではないでしょうか。
そのような場合は、賃上げの次に重要な「中途採用の強化」や「働きやすい環境づくり」に目を向けることも大切です。以降では、人材を確保するためのポイント として賃上げ以外の施策を紹介します。
採用方法を見直す
採用方法を見直す際には、はじめに自社の価値観や思考を言語化し、採用したいターゲットを決めることが大切です。その後、ターゲットに伝えたいメッセージを考え、休職者の希望を把握したうえで自社にあった採用方法を選ぶ必要があります。
また、新卒と中途、アルバイトのそれぞれによって人材採用のコツが異なります。タイプ別に採用のコツを理解して、人手不足の解消に取り組むとよいでしょう。採用方法を見直す際には、次の記事を参考にしてください。
働き方を見直す
働き方を見直す場合、まずは以下の法律を遵守しているかどうかを確認しましょう。
- 年次有給休暇
- 時間外労働の上限
- 同一労働同一賃金
働き方に関連する法律は、頻繁に改正されますので、毎年確認することが大切です。ここでは、2024年2月現在の法律をもとに解説します。
年次有給休暇
法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の従業員に対し、毎年5日、年次有給休暇を取得させる必要があります。労働基準法に記載されている該当箇所は、次のとおりです。
有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
引用:労働基準法|第三十九条
なお、年次有給休暇を取得できる労働者の条件は、次のとおりです。
- 半年間継続して雇われている
- 全労働日の8割以上を出勤している
以上を満たしている従業員には、必ず有給休暇を与えましょう。
時間外労働の上限
残業の上限は、原則として月45時間・年360時間を超えないようにする必要があります。労働基準法の原文には、次のように記載されています。
③ 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
引用:労働基準法|第三十六条
労使間で36協定を結んだ場合は、原則として定められた残業時間の上限を超えても問題ありません。ただし、その場合も次の上限を超えられないため注意しましょう。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内
- 月100時間未満
なお36(サブロク)協定とは、労働基準法に基づいて労使間で締結される取り決めです。残業時間が労働基準法で定められた原則を超える場合、あらかじめ36協定を締結して労働基準監督署に届け出る必要があります。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、正社員とアルバイト・パートなどの非正規社員との間で、基本給や賞与に関する不合理な待遇差を禁止することです。
不合理にあたる待遇差に関する具体例や原則となる考え方については、待遇の内容ごとに「同一労働同一賃金ガイドライン」で定められています。
例えば基本給については、次のような原則が示されています。
基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
以上によると、正社員と同等の能力や経験のある非正規社員が、正社員と同じ業務を遂行する場合、正社員と同じ基本給を設定する必要があります。
以上は原則の一部であり、他にもさまざまな待遇について原則が決められています。詳細については、「同一労働同一賃金ガイドライン」を確認してみましょう。
教育環境を整える
教育を整える場合、指導する人材が不足していることが課題となる企業が多いようです。「令和2年度 能力開発基本調査」によると、人材育成について「指導する人材が不足している」ことを問題点として挙げる企業が半数以上に上りました。
指導人材が不足している場合は、人材育成を外部委託する方法があります。現在は中小規模の企業も人材育成を外部委託するケースがみられます。労働政策研究・研修機構の調査によると、外部委託を中心に人材育成を実施する企業の割合は次のとおりです。
▼人材育成を外部委託する企業の割合
企業規模(従業員数) |
割合 |
---|---|
9人以下 |
25.3% |
10~29人 |
33.0% |
30~99人 |
35.4% |
100~299人 |
42.0% |
300人以上 |
32.6% |
人材育成を外部委託するメリットは、専門的な研修を実施する際に事前準備や人材の確保が不要なことです。
その一方で、教育コストの負担が課題です。株式会社ジェイックが行った調査によると、従業員数300名以下の中小企業の場合、約30%が社員研修の課題として予算不足を挙げています。
予算不足を解消する方法として、人材開発支援助成金の活用が考えられます。人材開発支援助成金とは、従業員に職業訓練を実施する事業主を支援するための制度です。
人材開発支援助成金にはさまざまな種類があり、助成内容によって適用条件や助成費用が異なります。適用条件や助成費用については、次の記事をご覧ください。
DX化を進める
DX化を進めると業務を効率化できるため、人材不足対策につながります。人手不足の進む小売業やサービス業にとって、DX化の推進は重要な取り組みの1つといえるでしょう。
DX化の進む業界の一例として、飲食業界が挙げられます。グルナビの調査によると、ネット予約を導入している飲食店が7割以上に上りました。
以上のようにDXを進める飲食店が多いため、飲食業界はDX化が進んでいるイメージを持たれています。その一方で、美容室のDX化は飲食店ほど進んでいるイメージを持たれていません。
「(株)リクルート ホットペッパービューティーアカデミー 美容サロンのDXに関する利用意識・実態調査」によると、DX化が進んでいると思う業種について飲食店が50%前後だったのに対して、美容師サロンは30%未満に留まりました。
さらに同調査では、美容サロンがDX化を勧めた場合、利用したい気持ちが強くなると回答した顧客が50%前後に上ることも分かっています。
以上から分かることは、美容業界はDX化を進める余地が残されているうえに、顧客からのニーズも高いことです。人手不足の解消と顧客ニーズへの対応を進めるために、DX化の推進をおすすめします。
また美容サロンも飲食店と同様に、ネット予約に対するニーズが高いようです。同調査でも、美容サロンで利用してみたいサービスとしてネット予約を挙げた顧客が女性で71.3%、男性で58.0%の結果でした。
DX化の進め方が分からない場合、まずはニーズの高いネット予約の導入を検討するのも1つの手段です。
スタッフ間のコミュニケーションを促す
「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、人間関係が悪かったことを理由に離職する人の割合は男性で8.3%、女性で10.4%でした。これは、その他の個人的理由を省いた場合、個人的な離職理由として労働条件に次いで2番目に多い結果です。
人間関係が悪いと離職者が増えて、人手不足になる可能性があることから、スタッフ間のコミュニケーションを促して離職を抑えることは重要な施策の1つと考えられます。
社内コミュニケーションを促す方法として、社内イベントの開催や1on1ミーティングの実施が考えられます。美容業界では、次の事例が見られました。
数ヶ月かに一回はみんなで飲みにいったり……。立ち上げの頃は那須のコテージで2日間合宿し、朝から晩まで泊まり込みでマッサージの理論や技術を勉強・練習しました。あと、戸隠にスノーボードや“蕎麦打ち”に行ったこともありますね。どちらもマッサージに必要なことなので。
引用:モアリジョブ/美容サロン「ルミエール・プラチナ」 オーナー 志村さん
1年に2回くらい、総会があります。それに合わせて、例えば夏ならば社員みんなで花火大会に出かけるといったことをしています。社員旅行もありますよ。前回はグアムで、その前は台湾に3泊ほど出かけてきました。そうしたイベントを行うことでスタッフのモチベーションも上がりますし、チームワークも良くなりますね。
引用:モアリジョブ/美容サロン「ALICe by afloat」 店長 中島直樹さん
働きやすさとしては、やっぱり人間関係がすごく大切なので、コミュニケーションを重視して施策をうっています。例えば自分の技術の進捗や抱えている悩みなどを出せる場として、役職のあるメンバーとの1on1ミーティングを全スタッフが毎月行います。その精度を上げるために、役職メンバーには講師を入れたコーチングの勉強会もしているんです。
引用:モアリジョブ/ヘアサロン「FILMS」 代表 若林紀元さん
まとめ
業界が人手不足に陥る代表的な要因を、本記事の総括としてまとめると次のとおりです。
- 専門スキルをもった人材の採用難易度が高いから
- 集客の伸びに比例して従業員が必要になるから
- 離職する従業員が多いから
- 業界が不人気だから
- 人材育成が難しいから
人手不足になる要因は各業界によって異なります。各業界が人手不足に陥る要因を分析した上で、採用数を増やしたり、労働環境を整えたりして人材の確保に努めることが大切です。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部