柔道整復師は医療系の国家資格ということもあり、採用条件が絞られるため、採用コストがかかりやすい業種です。実際にリジョブの調べでも医療系国家資格の場合、求人広告の費用だけで一人当たり20万円以上かかるというデータもあります(※1)。
離職した柔道整復師の担当業務をカバーできる人材を確保するためには、多くの採用コストがかかるため、経営の安定化を図るためには離職率を抑えることが重要です。
本記事では、柔道整復師の離職率について解説します。離職率を押さえるべき理由やポイント、離職率を抑えた事例も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
※1 参考元:〜最低限の採用ではなく、売上が最大限になる採用を〜費用を抑え成果を高めるノウハウ・成功事例集
柔道整復師の離職率
雇用動向調査によると、柔道整復師が含まれる産業区分「医療、福祉」における離職率は13.3%です(※1)。
上記のグラフを見ると、柔道整復師は他の産業と比べ平均的な離職率といえるでしょう。
「医療、福祉」にはさまざまな職種が含まれるため、厳密には柔道整復師に限定した離職率とはいえません。そのため上記で紹介した離職率は、ひとつの目安として参考にしてください。
柔道整復師の離職率を抑えるべき理由
柔道整復師の離職率を抑えることは、整骨院や接骨院の経営を安定させるためには欠かせません。その理由として、採用にコストがかかる点や職場崩壊のリスク、売上の減少などが挙げられます。ここでは、柔道整復師の離職率を抑えるべき主な理由を解説します。
コストがかかるから
柔道整復師が離職するたびに、採用から教育までのプロセスに多大なコストがかかります。
リジョブの調査によると、ある治療院が1人の人材を採用するために使った求人広告費は、約22万円でした。このとき採用したのは鍼灸師でしたが、柔道整復師も鍼灸師と同じく医療系の国家資格を持った人材であることを考えると、同じくらいの採用コストが想定されます。
その他の美容・ヘルスケア関連職の事例も紹介すると次のとおりです。
以上は求人広告にかかる費用なので、実際に採用コストを導き出す場合は、他にも面接や就職説明会、採用後の教育にかかる費用も加味する必要があります。人材一人を採用するには多大なコストが予想されるため、経営安定化のためには離職率を抑えてなるべく採用者数を増やさないようにすることも大切です。
人手不足で職場崩壊を起こすリスクがあるから
人手不足が続くと、職場崩壊を引き起こすリスクが高まります。さらに職場崩壊を放置すると、既存スタッフの業務負担が増加し、残業や外注費が膨らみ、結果として経営不振に陥る可能性があります。
とくに整骨院のような少人数スタッフで構成される事業所が多い業界では、一人の離職が経営に大きな影響を与え、売上機会の損失やコストの増加につながる恐れがあります。このような状況が続けば、最終的には倒産の危険があるため注意が必要です。
人手不足による職場崩壊を防ぐ方法については、次の記事をご覧ください。
売上が減少するから
柔道整復師が離職すると、保険施術を担当できる人材が不足し、療養費報酬による売上が低下します。とくに保険施術に依存している整骨院では、施術者が減るに従い売上も減少し、経営に深刻な影響を与えることがあります。
保険施術への依存割合の高い整骨院や接骨院の場合、柔道整復師の離職は即座に売上の減少に直結するため、早期の対策が不可欠です。
柔道整復師の離職率が高い整骨院・接骨院の特徴
柔道整復師の離職率が高い整骨院や接骨院には、次のような特徴があります。
- 拘束時間が長い
- スタッフに無理をさせている
- 給料が相場よりも低い
- 職場の人間関係が険悪
- 自院にマッチしていない人材を採用している
- 経営が安定していない
これらの問題を解決しない限り、従業員が定着せず、長期的な経営の安定を図るのは難しいでしょう。ここでは、離職率が高い整骨院・接骨院の特徴を具体例を交えて解説します。
拘束時間が長い
拘束時間の長さは、柔道整復師が離職を考える大きな要因のひとつです。通常の施術業務に加えて、カルテの整理や掃除、会議などが営業時間外に行われる場合、1日の労働時間が長くなりがちです。
とくにシフト制で働く場合、土曜日も出勤が必要なケースが多く、プライベートの時間が取れないことが従業員のストレスとなります。また日曜日も、スポーツチームに帯同したり、地域のスポーツイベントに参加したりするケースもあります。
このように残業時間が多く、休日が少ない労働条件のもとでは、新しく入社した柔道整復師もすぐに離職するリスクが高くなります。
Job総研(パーソルキャリア株式会社)の調べによると、理想的なワークライフバランスとしてプライベートを重視する人の割合が7割以上に上りました。
▼仕事とプライベートを重視する人の割合
現在は従業員がプライベートを重視する傾向が強いことからも、仕事の拘束時間は離職率に大きく影響すると考えられます。
スタッフに無理をさせている
過剰な業務や無理な目標をスタッフに押し付ける環境では、従業員が心身ともに疲弊してしまいます。
スタッフが休む暇もなく働かされると、モチベーションが低下し、最終的に離職を選択せざるを得ない状況に追い込まれることもあるでしょう。とくに柔道整復師の場合、忙しいとフィジカル面の負担が大きく、腰痛や手首の痛みなどに悩まされることもあります。
従業員に適切な業務量と休息を提供することは、離職を防ぐために不可欠です。
給料が相場よりも低い
給料が業界の相場よりも低い場合、柔道整復師は他院への転職を考える可能性が高まります。特に、労働時間や業務内容に対して報酬が見合っていないと従業員が感じた場合、より良い条件を求めて転職することは自然な流れです。
リジョブでは治療スタッフの時給および月給を地域別に調査しました。調査結果は次のとおりです。
▼治療スタッフの時給と月給
柔道整復師を採用する場合は、以上の平均を下回らないように給与を設定するとよいでしょう。リジョブではリラクゼーションやエステなどの他の業種の給与についても調査しました。以下より無料でダウンロードできるので、ぜひご覧ください。
職場の人間関係が険悪
職場の人間関係が悪いと、スタッフ間の協力が不十分になり、業務効率が低下します。整骨院や接骨院の場合、小規模な店舗内で少人数のスタッフ同士で密に連携を取り合うことが多いです。
そのため院内で少しでも人間関係が悪化すると、それがストレスとなり離職につながる可能性があるため注意が必要です。
今の接骨院で働いて12年になります。年数が長い事もあり副院長という立場です。
職場を盛り上げようと患者さんを増やそうと自分なりに考えて行動してきました。 (院長は基本的に働きません、やる気が感じられません)
その行動言動がきつく感じられたらしく一年前に受付の女の子が辞めました(勤務5年)
深く反省して気持ちを入れ替えてこの一年行動してきたつもりでした…。
昨日、一緒に働く先生(勤務6年)からきついってことを言われました。
これからどうしていけばいいかわからなくなりました…。
引用:Yahoo!知恵袋
また人間関係を理由に離職した場合、仕事を辞める際に本音を語らないケースも多いため、なかなか実態を把握しづらいのが実情です。エン・ジャパン株式会社の調査によると、退職者が伝えなかった本当の退職理由として「人間関係」を挙げる人が最も多い割合を占めました。
▼退職の際に語られなかった本当の退職理由
以上の結果から、人間関係で従業員が辞めるリスクを常に考慮しながら、対策を講じることが大切です。
自院にマッチしていない人材を採用している
院の方針や文化に合わない人材を採用すると、早期の離職が起こりやすくなります。「こんなはずではなかった」と期待と実情にギャップを感じる人材が多くなり、短期間で離職するケースが増えるでしょう。採用時には、自院の価値観や方針に共感できる人材を見極めることが大切です。
美容室やリラクゼーションサロンなどさまざまな事業を展開する「HeadSpa&Private mirai」の場合、店舗見学会を開いたり、社長が事業計画や現状、方針などを説明したりして、採用した人材と会社側にミスマッチが起こらないように工夫しているようです。
求人サイトから応募していただくか、直接お電話してもらった後に、まずはお店を見学していただきます。そして、店内を一通り見てもらった後、社長の山田から会社の事業計画や現状などの説明があります。ミスマッチがないように、ここで山田が『HeadSpa&Private mirai』のビジョンや方針などをしっかりと説明し、その後、面接希望のご連絡をいただいて面接を行う流れです。
引用:モアリジョブ|『HeadSpa&Private mirai』人事・教育担当 HIROKO(ひろこ)さん
スタッフ間で親交を深めるためのイベントも企画されており、人間関係も良好に保たれています。柔道整復師とは別の業種の事例ですが、ヘルスケアサービスを提供する人材の採用という意味合いでは、参考になる要素もあるでしょう。
経営が安定していない
経営が安定していない整骨院や接骨院では、従業員も将来に不安を感じやすくなります。給与の遅れや昇給が見込めない場合、他院への転職を検討する柔道整復師が多くなるでしょう。
経営の安定性は、従業員の安心感とモチベーションに直結しており、長期的な人材の定着に不可欠です。とくに昨今の整骨院業界は、国から支給される療養費の減少や競合の増加などにより、経営の安定性に敏感になっている従業員も少なくありません。
矢野経済研究所は業界の景況感について、次のように分析しています。
国内の柔道整復・鍼灸・マッサージ市場は、治療院数の増加による競合増に加え、民間資格サロンや整形外科など周辺業種との患者獲得を巡る競争が激しくなっている。いずれの治療院もこれまでと同じやり方、同じサービスの継続では立ち行かなくなる可能性が高いと考える。
引用:矢野経済研究所、柔道整復・鍼灸・マッサージ市場に関する調査結果を発表|日本経済新聞
他店との差別化や顧客満足度の向上などにつながる施策で、売上げの増加を図ることも、従業員の離職を考えるうえで重要です。
柔道整復師の離職率を抑えるためのポイント
柔道整復師の離職率を抑えるためには、次のポイントを意識しましょう。
- 自院にマッチした人材を採用する
- 人手を確保する
- 自費メニューを導入する
- 給与を上げる
- 1on1面談を実施する
それぞれについて詳しく解説します。
自院にマッチした人材を採用する
人材採用において、ただ単にスキルや経験を重視するだけでなく、自院の理念や方針にマッチした人材を採用することが重要です。整骨院の雰囲気や治療方針に共感できる人材を採用すると、採用した人材が実際に働く際に満足度が高まり、離職率が低下します。
そのためにも、採用段階で求職者とのコミュニケーションを密に取り、求職者が抱く職場に対するイメージと実際の業務が一致しているかどうか判断できるように、働き方に関して詳細な情報提供を行いましょう。
また、入社後の研修やフォローアップ体制を整え、新人スタッフが自分の役割を理解しやすい環境を作ることも、早期退職を防ぐために有効です。
たとえばネイルサロンのなかにはサロン見学会が実施されるケースもあるようです。このサロンでは、見学会の際に設備や道具、雇用形態、お店のスタイルなどのさまざまな労働条件について詳しく説明して、採用した人材のミスマッチを防いでいます。業界は異なりますが、柔道整復師の離職を防ぐ取り組みとして参考になる事例です。
選考に進む前に条件やサロンについての説明を丁寧に行う、サロン見学の機会を必ず設けることです。このステップによって採用後のアンマッチを防ぎ、気持ちよく働けるように心掛けています。
サロン見学では30~60分ほどをかけて、設備や道具、雇用形態、給与体制、お店のスタイルなどについて説明します。サロン見学の終わりに「もし興味があったら名刺のアドレス宛に連絡をください」とお伝えをして、選考に進むかどうかを本人に委ねるようにしています。
引用:モアリジョブ|『「la vela tokyo」 オーナー 田崎明日香さん
人手を確保する
整骨院が人手不足になると、1人の柔道整復師にかかる負担が大きくなるため、離職につながるケースも少なくありません。過度な業務負担を軽減するためには、効率的なシフト管理やスタッフ間の協力体制を築くとともに、人手を確保することも大切です。
治療院業界の場合、教育システムを整えて未経験者を雇える体制を整え、応募数を増やすことが人手確保に有効です。リジョブの調査によると、治療院業界における求職者の約8割が未経験者であることがわかりました。
さらにアルバイトやパートで働くことを希望する求職者も40%存在するため、非正規雇用でスタッフを確保することも検討するとよいでしょう。
柔道整復師の採用方法については、次の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
自費メニューを導入する
多角的な施術メニューを展開して幅広い人材が活躍できるようにすると、スタッフ全員が無理なく働ける体制を作れるため、離職を防止できます。
自費メニューを導入して、柔道整復師に限らず、他の資格を持つ施術者や整体師、リラクゼーションセラピストなど、多様な人材を活用できる体制を整えるとよいでしょう。
昨今は美容のニーズに対応するために、美容メニューを導入する整骨院もみられます。美容メニューを導入すると、女性施術者からの求人への応募増加が期待できます。
また柔道整復師に支給される療養費が減少する昨今、自費メニューを導入して新しい収益の柱を確保できれば経営の安定化が可能です。経営が安定すると、整骨院で働く柔道整復師が将来性に不安を抱かなくなるため、離職防止になります。
給与を上げる
早期離職を防ぐためには、入社後早めに給与を上げるのも1つの手段です。リジョブが美容ヘルスケア関連企業の担当者に行った調査によると、侵入者の給与を上げるタイミングで最も多かった回答が「半年~1年以内」でした。
▼新入社員の給与を上げるタイミング
給与に対する不満は、離職につながる大きな要因の一つです。そのため早めに新入社員の給与を上げて、不満の要因を取り除けば、離職率を抑える効果が期待できます。
給与比率をアップさせる他にも、成果に基づくインセンティブ制度や自費メニューに連動した報酬アップの仕組みを導入するのも有効です。
人材の確保や離職率の抑制につながるような給与設定については、次の資料も参考にしてください。
1on1面談を実施する
スタッフ一人ひとりの悩みや要望を適切に把握するために、1on1の定期的な面談を実施することが重要です。この面談では、スタッフのモチベーションを高めるために、業務の進捗や課題を共有するだけでなく、将来的なキャリアプランについても話し合う機会を提供することが望ましいです。
面談を通じて、スタッフが抱える不安や不満を早期に解消すると、離職のリスクを未然に防げます。また個別のフォローアップを丁寧に行うと、スタッフ全体の結束力を高め、院内のコミュニケーションが円滑になるでしょう。
医療・福祉業界の離職率を抑えた好事例
柔道整復師の離職率を抑えるためには、医療・福祉業界の事例を参考にするのもおすすめです。ここでは、整骨院と介護施設、鍼灸院の3つについてそれぞれの好事例を紹介します。
【整骨院】スタッフの希望に沿った働き方の推進
大阪、京都、兵庫で27店舗を展開する「あい・グループ」では、「人」を優先した事業展開により離職率の低下を実現しました。
店舗展開を進めて人材を確保するのではなく、人材が育った後に店舗展開を検討することが、あい・グループの方針です。
社長がよく言うのは、店舗展開が先ではなく、人が育ったから新しく店舗を出すんだよということです。例えば何店舗まで増やしたいからといって、まだ育っていない人を院長に当て込んでも、結果として対応の質が悪くなってしまったりする。それでは、その地域の人にいいことではないので、ちゃんと院長を任せて大丈夫と思える人が育ったからこそ新しい店舗を出すという「人」ありきの店舗展開をしています。
引用:モアリジョブ|あい鍼灸院・接骨院 阪急高槻市駅院 マネージャー兼院長 中井良祐さん
以上の方針で分院を展開するようになって離職率にも好影響があったようです。さらに、従業員の実績を認め、しっかりコミュニケーションをとる姿勢も離職防止につながっています。
【介護施設】メンタルケアとコミュニケーションの推進
ジョイステージ八王子は、介護付き有料老人ホームと短期入所生活介護、訪問介護の3つの事業を展開する介護福祉施設です。
当施設では、スタッフのメンタルケアに配慮しながら施設運営を行っています。とくに責任感の強いスタッフについては負担を軽減するために、しっかり休みをとるように促しているのです。
スタッフ一人一人の責任感が強い分、メンタルケアにも心を配っています。実際に、コロナに関する感染規定でお休みしたことを申し訳ないと感じていたスタッフがいたので、我々部長のほうから施設長にお願いして、施設長からその方へ「大丈夫なので、安心して休んでください」とメッセージを送りました。
引用:モアリジョブ|「ジョイステージ八王子」ケアサービス部・部長 清水理恵さん・施設管理部部長 髙橋章裕さん
また黙食や最低限の接触が推奨されていたコロナ禍の際には、スタッフ同士のコミュニケーションを促すために、メールのやりとりやSNSを介したミーティングを定期的に行っています。スタッフ間の人間関係を円滑にする取り組みを推進しました。
【鍼灸院】労働環境の整備と好待遇の実現
美容鍼サロン「HariFa」では、労働環境の整備と好待遇の実現により、6年連続で離職率ゼロを達成しました。休日の充実やライフワークバランスへの配慮、業界内では高水準な給与額の設定が離職率の低下につながっています。
労働環境の整備や、高待遇を実現したからだと思っています。うちのサロンでは月に9日の休日、勤務時間内の研修、有給消化率100%推奨など、プライベートと仕事をきっちり分けた働き方ができます。給与面では30万円以上を目指すことも可能です。
引用:モアリジョブ|美容鍼サロン「HariFa」 代表 御領原圭佑さん
離職率が低くなると、求人費や教育コストがかからないため、その分をスタッフの給与や福利厚生に反映でき、好循環を生んでいるようです。
鍼灸師の離職率を抑える取り組みについては、次の記事も参考にしてください。
まとめ
本記事を総括すると次のとおりです。
- 柔道整復師の離職率は、13.3%と平均的(令和5年度雇用動向調査の「医療・福祉」分野より)
- 離職率が高い理由として、採用・教育コストの増加や人手不足による職場崩壊のリスク、売上の減少が挙げられる
- 柔道整復師は他業種に比べると採用1人あたりの求人広告費が高く、離職した人材をカバーするための採用コストの負担が大きい
- 自院にマッチした人材を採用したり、1on1面談を実施したりして離職率を抑えることが大切
とくに自院にマッチした人材を採用することは、柔道整復師の早期離職を防ぐためにも重要です。美容ヘルスケア業界に特化した求人サイト「リジョブ」を活用すると、多くの柔道整復師のなかから自社にマッチした人材にアプローチできます。
柔道整復師以外のヘルスケア職の人材をお探しの場合にもおすすめですので、自院のマッチした人材をお求めの場合はどうぞご相談ください。
- 執筆者情報
- Bizリジョブ編集部