個人でパーソナルジムの開業を考えているものの、どのような手順で準備を進めていけばよいのかわからない人もいるのではないでしょうか。パーソナルジムの開業は、正しい手順を踏まえ、ポイントを押さえて準備を進めれば決して難しいものではありません。
本記事では、パーソナルジムの需要や開業までの具体的な流れとともに、成功するためのポイントやパーソナルジム開業に活用できる補助金について解説します。
パーソナルジムの需要
パーソナルジムの需要は近年高まりを見せています。経済産業省の調査によると、フィットネスクラブの2022年11月の売上高は232億1,200万円で、前年の同じ月と比較して7.1%増加し、12か月連続で増えています。
利用者数合計も1,789万690人で、前年の同じ月と比較して2.5%増加し、21か月連続で増加しました。スポーツ庁の調査では、運動不足を「感じる」と回答した人の割合は、約77.9%にのぼります。特に30代から50代においては、運動不足を感じる人の割合が約80%を超えています。
アンケートサイト「ボイスノート」の調査によると、10人に1人がパーソナルジムに通った経験があり、その目的は以下のとおりです。
- 筋力向上:35.7%
- ダイエット:33.8%
- 運動不足解消:26.1%
かつてジムの利用者といえば、体を鍛えることを目的とした20~40代の男性のイメージがありました。しかし、近年ではジムの種類や業態が多様化し、利用者の目的も筋力向上に限りません。
ダイエットや健康維持など、利用者の層は拡大しています。ここでは、近年増えつつあるパーソナルジムの利用目的について解説します。
ダイエット
短期間でのダイエットを自分の意思だけで成功させるのは、簡単ではありません。近年、テレビCMで芸能人が大幅な減量に成功する様子が放映されたことなどをきっかけに、パーソナルトレーナーの認知度が高まりました。
それにより、パーソナルジムの数も増加傾向にあります。ダイエットの目的にもさまざまなものがあり、具体的には以下のケースが挙げられます。
- 結婚式を控えた女性が確実にダイエットを成功させるため
- 肌の露出が増える時期に向けて体を絞るため
- 年齢を重ねるにつれ増加した体重を減らすため
労働者の健康維持
20~50代の働く世代の中には、肩こりや腰痛に悩む人が少なくありません。特にデスクワークが中心の人は、これらの悩みを抱えやすい傾向があり、パーソナルジムでのトレーニングにより、健康維持を図っています。
トレーニングやケアだけでなく、猫背やO脚などの姿勢改善や栄養学に基づいた食事コントロール、解剖学に基づいた運動指導などの需要もあるようです。
高齢者の健康維持
少子高齢化が進む日本において、高齢者の健康維持への需要も高まっています。働く世代と同様に、高齢者の中にも肩こりや腰痛、膝の痛みといった問題を抱える人がおり、定期的な運動習慣により、健康維持を図ろうとする人が増えています。
今後、高齢者の増加は確実視されているため、それに伴いパーソナルジムの需要も増える見込みです。ダイエット目的の人や労働者よりも、需要が増える可能性も考えられます。
パーソナルジム経営が魅力的な理由
パーソナルジム経営が魅力的な理由として、需要増加以外に以下の2つが挙げられます。
- 特別な資格が必要ない
- 低予算でも開業できる
ここでは、それぞれの理由について解説します。
特別な資格が必要ない
パーソナルジムの開業や経営をするうえで、特別な資格は必要ありません。飲食店を開業する場合には食品衛生責任者の資格が、鍼灸院を開業する場合には鍼灸師の資格が必要です。パーソナルジムにはこのような必須資格がないため、開業へのハードルが下がります。
ただし、パーソナルトレーナーとしての知識や経験、実績があるほうが望ましいことは、いうまでもありません。例えば「NSCAジャパン」「NESTA」「JATI」といった資格は業界での知名度が高く、多くのトレーナーが取得している資格です。
また、以下の資格があれば、提供できるサービスの幅も広がるでしょう。
- 栄養士・管理栄養士
- 公認スポーツ栄養士
- 理学療法士
- 柔道整復師
それでも必須資格がない点は、事業を始めるうえではメリットといえるでしょう。
低予算でも開業できる
パーソナルジムの開業に必要な初期費用は、ジムの規模によって異なります。しかし、パーソナルジムは「小規模開業」に適した業種です。トレーニング機材の購入や店舗の改装などを考慮しても、小規模なジムであれば300万円程度から開業できます。
日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、不動産賃貸業を除く開業後1年以内の7,032社を対象とした調査で、開業費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円でした。
開業費用の分布で最も多い割合は、500万~1,000万円未満です。これらのデータと比較すると、パーソナルジムは比較的低予算で開業できるといえるでしょう。
パーソナルジムを開業する流れ
パーソナルジムを開業する際は、以下の準備を段階的に進めていく必要があります。
- 開業形態を決める
- 事業計画を立てる
- 開業資金を調達する
- 物件を見つける
- 店舗を準備する
- 開業届を提出する
- 宣伝する
- スタッフを採用する
ここでは、パーソナルジムを開業するまでの一般的な手順を解説します。
1.開業形態を決める
初めに、どのような形態でパーソナルジムを開業するかを決定します。物件の種類としては、主に以下の3つが考えられます。
- 貸店舗
- 賃貸マンションの一室
- レンタルジム・シェアリングジム
特にトレーニングのための機材・機器は重量があり、トレーニングの種類によっては騒音や振動が発生する可能性があります。そのため、ジムとしての営業が許可されている物件かどうかを確認しましょう。
トレーニング機器は初期費用が高額なため、自身で準備するのは負担となる人もいるでしょう。機器とスペースを借りられるレンタルジムや、シェアリングジムのサービスを利用して開業するのもひとつの方法です。
2.事業計画を立てる
開業形態を決めたら、具体的な事業計画を策定します。パーソナルジムを開業したい動機を深く掘り下げ、コンセプトや主なターゲット層を明確にしましょう。コンセプトに基づいて、運営方法や経営戦略、収支計画などを検討し、具体的な事業計画書に落とし込みます。
事業計画書は、これから始める事業をどのように進め、どのようにして収益を上げていくのかを具体的にまとめたものです。開業に必要な資金の調達方法や返済方法などの資金繰りの計画も、合わせて考えましょう。
新規開業の場合、経営の実績がまだないため、金融機関からの信用がありません。そのため、事業計画書を丁寧に作成し、事業が成功する見込みがあることを示す必要があります。
マツエクサロン「salon de beaute Jolie」のMihoさんは、過去の採択データや見本を読み込みながら、書き方のコツをつかんだようです。
お金がかかることも多いですが、今は自治体ごとに小規模事業者向けの補助金制度もあるので、そういった情報をしっかりキャッチして積極的に活用しています。
申し込むには事業計画書を書いたり登録手続きをしたり、慣れないうちは大変ですが、過去の採択データや見本を隅から隅まで読むと書き方のコツがつかめてきました。苦手だったことまた1つ克服できたので、いい経験になりました!
引用:モアリジョブ|salon de beaute Jolie オーナー Mihoさん
事業計画書に書くべき内容は以下のとおりです。
- 事業を始める動機
- 経営者の略歴(経験やスキルなど)
- 具体的なサービス内容
- 従業員数(予定を含む)
- 現在の借り入れ状況
- 開業に必要な資金額とその調達方法
- 事業の将来的な見通し(目標とする売上高や予想される経費など)
商工会や商工会議所に相談して事業計画書を作成するのもひとつの方法です。日本政策金融公庫では、次の書式が見本として紹介されています。
書式についても、以下のサイトからダウンロードできます。
融資を受ける際にも事業計画書の提出が求められるため、商工会や商工会議所に相談しながら作成するのもおすすめです。
3.開業資金を調達する
開業形態や自己資金にもよるものの、パーソナルジムの開業には少なからず費用が必要です。
先述の通り、日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費の平均値は1,027万円、中央値は550万円でした。
開業費用の分布は500万~1,000万円未満の割合が最も多く、日本政策金融公庫が公開している「2023年度新規開業実態調査」によると、開業資金の調達先として「金融機関等からの借入」の平均額が768万円でした。
運転資金の目安としては、月間の売上目標額の3〜6か月分程度を準備しておくとよいでしょう。開業してから数か月は、集客が安定せず赤字経営になる可能性も考慮し、家賃や人件費などの固定費の支払いが滞らないよう、余裕を持った資金計画を立てることが大切です。
自己資金だけでは開業費用が不足する場合は、外部から開業資金を調達する方法を検討します。主な調達方法は以下のとおりです。
- 親族や知人からの借入
- 民間金融機関や日本政策金融公庫、地方自治体からの融資
- クラウドファンディングによる資金集め
- 国や地方自治体が提供している助成金や補助金の活用
内装が何もないスケルトン物件の場合、工事費用が高額になる傾向があります。そのため、前のテナントの内装や設備を利用できる居抜き物件を選んだり、中古やリースの設備や機材を利用したりして、初期費用を抑える工夫をしましょう。
4.物件を見つける
パーソナルジムを開業する場合は、店舗となる物件を選定する必要があります。賃貸物件を探す際のポイントは、以下のとおりです。
- ターゲット層が集まりやすい立地か
- ランニングコストを抑えられるか
都市部であれば駅からのアクセスが良い場所、郊外であれば利用者が車で来店しやすいよう、ある程度の広さがある駐車場を備えた場所を選ぶとよいでしょう。開業を予定しているエリアにフランチャイズ店のような競合が近隣にないかどうかも確認が必要です。
ジムではトレーニングマシンのような重い器具を使用したり、トレーニングによる衝撃音が発生したりすることが問題となる場合があります。器具の種類やトレーニング内容によっては、周囲のテナントや住民からクレームが発生する可能性があるため、物件の耐荷重や防音性は必ず確認しましょう。
また、シャワー設備のないパーソナルジムを開業する場合、導線や人通りによっては、他店舗の利用者から汗やニオイなどのクレームが発生するケースも考えられます。開業予定のテナント前を通る人の属性や人通りの多さ、駅やバス停からの導線なども事前に確認しておきましょう。
女性専門のパーソナルジム「Personal Bodymake Hagiwara」の萩原さんは、女性専門ジムとして利用者の距離感が保てるようなスペースがある物件を意識して探したため、物件探しに苦労したようです。
トレーニング器具が置けること、不特定多数の人が出入りができることが懸念点となり、物件探しもかなり難航。期間が短く、十分に準備ができていない状況でしたが、ようやく今の西新宿の場所を見つけてスタートさせることができました。
独立当初から女性専門ジムとして打ち出していたので、なるべくお互いの距離感が保てるように広いスペースの空間を意識して探しました。
引用:モアリジョブ|「Personal Bodymake Hagiwara」パーソナルトレーナー 萩原智之さん
物件を決めたら賃貸借契約を締結します。物件契約にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 敷金・礼金・保証金
- 仲介手数料
- 保険料
- 前払いで支払う分の家賃
契約時には登記簿謄本(法人の場合)や印鑑証明書、代表者の連帯保証などが必要です。必要書類は事前に確認しておきましょう。
5.店舗を準備する
賃貸借契約を締結したら、店舗の内装工事や外装工事を進めます。利用者がリラックスしてトレーニングに取り組めるようなレイアウトを意識しましょう。ターゲット層に合わせて店舗のレイアウトを考えると、集客力向上や顧客満足度向上につながります。
パーソナルジムの場合、本格的なトレーニングマシンを何台も設置する必要はありません。15万~50万円程度の家庭用トレーニングマシンを数台設置する程度でも十分な場合があります。リースやレンタルを利用すれば、さらに初期費用を抑えられるでしょう。
中古品の購入でも費用を抑えられるものの、あまりにも古いものは安全性が低かったり、故障してセッションが提供できなくなったりするリスクがあります。また、不衛生な印象を与えてしまう可能性もあるため、可能な限り新品のものを選ぶほうがよいでしょう。
パーソナルジムによくある設備には、以下のものが挙げられます。
- パワーラック
- スミスマシン
- アジャスタブルベンチ
- ダンベル(バーベル)
- ストレッチグッズ
- ミラー
- 靴箱
- シャワールーム
- 更衣室など
6.開業届を提出する
パーソナルジムを開業するにあたって、特別な資格や免許は必要ありません。管轄の税務署に開業届を提出すれば開業できます。個人事業主として美容室を開業する場合は、開業届と併せて税務署へ「青色申告承認申請書」も提出しましょう。条件を満たせば、年間の所得金額から一定額(最高で65万円)を控除できるため、節税効果が期待できます。
開業届を税務署に提出する際に必要な主なものは、以下のとおりです。
- 開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書。原則として開業日から1か月以内に提出)
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
- マイナンバーがわかるもの(マイナンバーカード、個人番号通知書のコピー、個人番号が記載された住民票の写しなど)
- 所得税の青色申告承認申請書(青色申告を希望する場合のみ。原則として開業日から2か月以内に提出)
7.宣伝する
開業後、スムーズに集客につなげるためには、開業準備の段階から宣伝活動を始めましょう。パーソナルジムは、一般的なフィットネスジムと比較して客単価が高くなる傾向があります。集客の難易度も上がる可能性があり、マーケティングを意識した集客活動が必要です。
主な宣伝方法として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 自店のホームページやブログを立ち上げ、情報発信する
- Googleビジネスプロフィールに登録する
- インターネット広告(リスティング広告やディスプレイ広告など)に出稿する
- SNSを活用して情報発信する
モアリジョブが行ったアンケート調査によると、ホームページの作成やSNSの活用といったオンライン集客に力を入れる美容室が比較的多く見られました。パーソナルジムにおいても、オンラインでの情報発信は有効な手段のひとつといえるでしょう。
パーソナルトレーニングジム「メルメイク」は、開店前の4か月間を宣伝に充て、集客につなげています。
動き出したのは2018年の12月頭くらいからです。4月のオープンまでの期間は、ほとんどインターネットでのマーケティングや広告ページの準備に使いました。
独立してすぐに営業する方もいらっしゃいますが、やはり広報面の準備をしっかり固めてからスタートする必要はあると思います。集客ができなければ、何もできませんから。
しかし、ただ広告に力を入れるといっても、広告費ばかり嵩んで集客につながらなければ意味がありません。広告を適当にすると、広告費の無駄打ちになってしまいます。
引用:モアリジョブ|メルメイク代表 栗坂泰輝さん
「Limeパーソナルジム」を運営する斉藤さんは、大手パーソナルジムのような大規模な宣伝ではなく、ターゲット層に刺さる広告により、集客につなげています。
広告費をかけていないことが大きな要因ですね。大手パーソナルジムは、CMや電車で大規模な広告などを打っていますが、そういう大規模なことは行わず、ターゲットをしぼったインターネットの広告や、地域に密着したポスティング広告などを活用しています。
引用:モアリジョブ|「株式会社Lime」代表取締役 斉藤隼生さん
ターゲットによって効果的な宣伝方法は異なります。コンセプトを踏まえたうえで、ターゲットに刺さる集客方法を選択するとよいでしょう。
8.スタッフを採用する
開業後に店舗の売上を伸ばしていきたいと考えている場合、スタッフの採用も視野に入れましょう。複数名のスタッフがいると、繁忙期に発生しがちな予約の取りこぼしを防いだり、院長がマーケティング活動に注力する時間を確保できたりといったメリットがあります。
スタッフを採用する際は、開業したパーソナルジムのコンセプトや雰囲気に合った人材を選ぶことが大切です。自店の社風や求めるスキルと合わない人材を採用した場合、早期離職につながり、再度採用活動を行うためのコストが発生します。
店舗の運営状況や予算に合わせて、雇用形態(正社員やパート、業務委託など)を検討することも大切です。採用コストを抑える工夫も必要です。人材紹介サービスや総合型の求人サイトを利用する方法は、採用単価が高くなる傾向があります。
自社の採用ページを充実させたり、SNSを活用して情報発信をしたりすれば、採用ブランディングにつながるため、長期的にみればコストを抑えた採用につながります。
「Shebelle代官山」の杉本さんは、より多くのお客さまをケアするため「Shebelle代官山で働きたい」という人材を採用する方向で動き始めました。
「『より多くのお客さまをケアするためにスタッフを増やしたい』と思っています。最近はスタッフを1名採用し、施術スペースも2部屋増やしました。現在は『Shebelle代官山で働きたい』と言ってくださっている方が2名ほどいるので、これからはさらに仲間を増やして、『質の高い施術で、お客さまを笑顔に導きたい』と思っています」
引用:モアリジョブ|Shebelle代官山 杉本さん
自社で能力を発揮し、活躍できる人材を採用するためには、事前準備が重要です。リジョブでは、これから独立・開業をして将来的にスタッフの採用を検討している方に向けたノウハウを提供しています。手順を詳しく知りたい場合は、無料でダウンロードできる下記の資料をご覧ください。
パーソナルジムの開業を成功させるためのポイント
パーソナルジム業界は人気が高まっているとはいえ、すべてのジムが経営に成功するわけではありません。競争が厳しい業界で成功するためには、コミュニケーション力や施術スキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。また、チーム構築や競合との差別化、価格設定なども押さえておきたいポイントです。
ここでは、パーソナルジムの開業を成功させるポイントについて解説します。
コミュニケーション力を磨く
トレーニング指導の前には、利用者の悩みや目標を把握するためのカウンセリングを行います。円滑なコミュニケーションが取れなければ、利用者の本当の悩みやニーズを引き出すことはできません。
トレーニング中の声かけや、雑談、打ち解けた会話ができれば、利用者との信頼関係も深まります。良好な関係性を築くことは、口コミや紹介による新規顧客の獲得も期待できるでしょう。
「LiMEパーソナルジム」を運営する斉藤さんも、人間性を重要視しています。
マンツーマンで行うサービスなので、コミュニケーション力や思いやりがあるかどうか、つまり人間性が大きく影響する仕事だと思っています。「LiMEパーソナルジム」でもトレーナーに求めている一番大きなものは人間性です。それが大前提の根幹の部分なのかなと思っています。そのうえでお客さまに知識や技術をいかに提供できるかですね。
引用:モアリジョブ|「株式会社Lime」代表取締役 斉藤隼生さん
フィットネストレーナーの安藤さんは、体のこと以外の悩みも相談できるような関係性の構築に成功し、集客につなげています。
もう1つはコミュニケーションを大切にすることです。せっかく来てくださるのなら楽しい時間を提供したいし、体のことはもちろんそれ以外の悩みなども気軽に相談できる相手でいたいと思っています。初回のお客さまは落ち着いている方なのかたくさんお話ししたい方なのか、雰囲気を見て相手に合わせてコミュニケーションをとるようにしていますが、慣れてきたらプライベートの話しなども徐々に増やしていきます。僕はテンションが高いタイプなので距離を縮めやすいのか、リピーターのお客さまとはすごく仲がよく、人生相談や恋愛相談にのることも。ちなみに僕は大分出身なので方言で話すのが珍しいらしく、個性の1つになっています(笑)。
引用:モアリジョブ|フィットネストレーナー 安藤洋樹さん
スキルを高める
集客がうまくいったとしても、提供するサービスのスキルが低ければ、利用者は満足せず、リピーターにはなってもらえません。スキル不足に関する良くない評判が口コミで広がってしまうと、その後の集客はさらに困難になる可能性があります。常に新しい知識や技術を学び続け、トレーニングスキルを高めることが大切です。
「LiMEパーソナルジム」を運営する斉藤さんは、利用者の心理状態を考えた対応ができるような研修を実施しています。
お客さまの目線に立った指導ができるように、研修を行っています。パーソナルトレーナーとして働く人の多くは運動が好きだったり、トレーニングが生きがいという人が多く、「LiMEパーソナルジム」に通ってくるような運動が苦手な人の気持ちがわからないトレーナーも最初は多いんです。そこで研修を行い、ここに通うお客さまがどんな心理状態なのかということをきちんと伝えるようにしています。
引用:モアリジョブ|「株式会社Lime」代表取締役 斉藤隼生さん
マーケティングを学ぶ
新規集客とリピーター獲得のためには、マーケティングの知識が欠かせません。独立してすぐに集客につなげるためにも、開業前からマーケティングについて学んでおくことが大切です。
「Shebelle代官山」の杉本さんは、マーケティングの勉強により、インフルエンサーを活用して集客につなげています。
インスタグラムに力を入れており、フォロワー数9万人や16万人など、インフルエンサーの方がご来店して体験談を発信してくださっています。これまでを振り返ると女性誌のモデルさんや読モの方の投稿に対する反響が、とくに大きいですね。
ちなみに、サロンでは発信してくださったらインフルエンサーさんに1ポイント、その方経由でお客さまがいらっしゃっても1ポイントを差し上げるポイント制を取り入れており、ポイントが貯まったら施術をサービスしているのでインフルエンサーの方にも考慮した体制が整っています
引用:モアリジョブ|「Shebelle代官山」杉本さん
マーケティング活動に取り組む際には、景品表示法や医師法・医療法といった関連する法律を遵守した広告表現を心がける必要がある点も、押さえておきましょう。
チームを作る
将来的に売上を伸ばしていきたいのであれば、スタッフを採用し、チームで運営していくことも必要です。売上が拡大するにつれて、やるべき業務が増え、ひとりでは手が回らなくなるケースは珍しくありません。
そのような場合には、トレーニング指導を担当するスタッフを採用してオーナー自身がマーケティング活動に注力したり、ブログやSNSの運用経験があるスタッフを雇用してマーケティング業務を任せたりといった体制づくりが必要です。
「ReViA」の廣瀬さんは、スタッフの増加により利用者の枠数を増やしただけでなく、セミパーソナルでのサービスの提供といった、サービスの幅を広げることにもつなげています。
「小さいジムのときはお客様が入れても1時間ひとりだったので、1日最大13枠しかできませんでした。でも今は広さもあるしスタッフも増やせたので、倍の枠が取れるようになりました。またマンツーマンだけでなく、一対複数のセミパーソナルができるようになったのも大きいですね。」
引用:モアリジョブ|ReViA 代表 廣瀬拓海さん
競合と差別化する
競合のパーソナルジムにはない独自のサービスを提供できれば、利用者にとって魅力的な選択肢となり、差別化につながります。業界では当たり前とされていることに着目し、異なるアプローチを考えてみることも、他店との差別化を図るうえで有効な手段となる場合があります。
「LiMEパーソナルジム」を運営する斉藤さんは、「ゆるダイエット」というコンセプトを掲げ、差別化に成功しています。
広告には「ゆるダイエット」というわかりやすいコンセプトを掲げているので、その打ち出しがささり、広告の効果は十分に実感できています。「ゆるダイエット」を掲げることでコンセプトの差別化もはかれているので、他社さんと被ることがなく、広告を打たなくても集客に困ることはありません。
ほかにはGoogleマップで検索が上位にくるように対策をしたり、「ヤセラボ」という他社さんも集めたパーソナルジムの検索サイトを運営したりしていますので、そこからの集客も多くなっています。
引用:モアリジョブ|株式会社Lime 代表取締役 斉藤隼生さん
パーソナルトレーナーの萩原さんは、以前働いていたジムの客層をもとに、客層を特化したパーソナルジムを運営し、差別化しています。
以前働いていたジムでご指名をいただくお客様の9割が女性だったため、女性専門のパーソナルジムと打ち出すことにしたんです。
何かに特化すると、ジムの特徴が出せるかなと思ったのも理由としてありますね。
引用:モアリジョブ|パーソナルトレーナー 萩原智之さん
理想の価格と最低限維持すべき価格を決める
施術料金を決める際に重要なのは、料金を安く設定し過ぎないことです。料金を安く設定した結果、忙しいにもかかわらず利益が上がらないという状況に陥るケースが珍しくありません。
まずは、目指したい理想の目標売上と、経営を維持するために最低限確保しなければならない売上額を具体的に決めます。そこから、1日に対応可能な人数を考慮して逆算し、理想とする価格と、最低限維持すべき価格を割り出します。決定した価格を地域の競合ジムの価格と比較しつつ、最低限維持すべき価格を下回らないように、提供するトレーニングサービスの価格を決定しましょう。
大手パーソナルジムは入会金が設定されており、その金額も比較的高めです。入会金を無料にしたり、大手よりも安価な価格設定にしたりすることもひとつの戦略ですが、一度低価格でサービスを提供し始めると、その後値上げするのは大変な労力を伴います。料金の安さで競争するのではなく、サービス面で付加価値を高めることを意識しましょう。
J-Net21の調査によると、パーソナル・トレーニングの1回あたりの利用金額は年齢によってばらつきがあります。
「利用したことがない」と回答した人が利用したいと考える金額は「3000円未満」が最も多い結果でした。店舗経営を維持するために必要な売上とニーズとのバランスを考慮しながら施術の価格を設定すれば、経営的に無理なく顧客満足度を高めることにつながります。
例えば、1回のトレーニング時間を15分・30分・60分など複数設定し、それぞれの時間に合わせて単価を設定すると、売上を大きく落とすことなく利用者の多様なニーズに応えやすくなります。
運用コストを把握しておく
パーソナルジムを運営するには、必要となるコストにどのような項目があるのかを把握しておくことが大切です。パーソナルジムを開業する場合に必要なコストの項目は以下のとおりです。
- 固定費:売上の増減にかかわらず、毎月発生する費用(家賃・人件費・通信費・広告費・水道光熱費など)
- 変動費:売上の増減に伴って変動する経費(トレーニングに使用する消耗品費、備品・雑貨費、清掃用品費、修繕費用、交通費など)
健全な経営を続けるためには、これらの経費の種類や、それぞれの費用が全体の支出に占める割合などを把握し、管理することが重要です。
オンラインを活用する
新型コロナウイルスの影響による外出自粛期間をきっかけに、オンライントレーニングを積極的に取り入れる企業やトレーナーが増えました。オンライントレーニングであれば、時間やトレーニング場所の制約を受けずにトレーニング指導ができるため、より多くの利用者を担当でき、収入アップも期待できます。
特にフリーランスで活動するトレーナーは、身軽さを活かし、時代の変化に柔軟に対応した働き方が可能です。オンラインでのカウンセリングもおすすめです。
「Shebelle代官山」の杉本さんは、24時間体制でのオンラインカウンセリングサービスを提供し、集客につなげています。
オンラインカウンセリングのご連絡は24時間いつでも私のもとに届き、なるべく早くにご返信をしているので、『本当にパーソナルに寄り添ったサポートができている』と思っています
引用:モアリジョブ|「Shebelle代官山」杉本さん
キャッシュレス決済を導入する
近年では、クレジットカードや電子マネー、QRコード(バーコード)決済といったキャッシュレス決済が社会に広く浸透しており、支払い方法としてキャッシュレス決済に対応している店舗を選ぶ利用者が増えています。
日常的に現金を持ち歩かない人も増えており、キャッシュレス決済に対応していないという理由だけで、利用されないケースも珍しくありません。顧客満足度の向上や、会計業務の効率化のためにも、ターゲット層のニーズに合わせて、キャッシュレス決済システムの導入を検討しましょう。
予約システムを導入する
パーソナルジムに限らず、オンラインで手軽に予約ができるサービスが増えています。例えば、深夜やジムの休業日など、利用者がトレーニングをしたいと思い立ったときに予約ができなければ、他の予約可能なジムにお客様が流れてしまう可能性もあるでしょう。
ネット予約システムを導入すれば、24時間365日の予約受付ができるため、機会損失を防げます。また、トレーニング指導中に電話対応で手を止める必要もなくなるとともに、顧客管理も自動化できるため、業務効率の向上にもつながります。
パーソナルジム開業に活用できる補助金
パーソナルジムを開業する際には、国や地方自治体が設けている補助金制度を活用できる場合があります。これらの制度を活用すれば、開業時の資金負担の軽減が可能です。ここでは、パーソナルジムの開業時に活用を検討できる代表的な3つの補助金を紹介します。
また、これら以外にも、地域によっては以下のような独自の補助金や助成金制度が設けられている場合があります。
- 東京都:「創業助成事業」「商店街起業・承継支援事業」「創業支援事務所等賃料補助金」
- 大阪府:「大阪起業家グローイングアップ補助金」
- 愛知県:「あいちスタートアップ創業支援事業費補助金(起業支援金)」「令和5年度名古屋市スタートアップ企業支援補助金」
- 北海道:「さっぽろ新規創業促進補助金(札幌市経済観光局経営支援・雇用労働担当部商業・経営支援課)」
ご自身の開業予定地域で利用できる制度がないか、確認してみましょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販路開拓や業務効率化への取り組みに対して、その経費の一部を補助する制度です。対象となるのは、常時雇用の従業員の数が20人以下である事業者です。ただし、商業・サービス業のうち宿泊業と娯楽業を除いた業種では、従業員数が5人以下の事業者が対象となります。
この補助金を利用するためには、地域の商工会議所や商工会から支援を受け、申請手続きを進める必要があります。開業時にこの補助金を活用する場合は、創業支援に特化した「創業枠」に申し込むとよいでしょう。
条件を満たせば、インボイス発行事業者としての特例と合わせて、最大で250万円までの補助を受けられる可能性があります。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、新しいサービスの開発や試作品の製作、生産プロセス改善に向けた設備投資などに対して、その費用の一部を補助する制度です。すでに創業している中小企業または個人事業主として開業している事業者が対象です。
この補助金を活用するには、従来のパーソナルジムでは見られないような新しいサービスや仕組みを展開していくことが求められます。例えば、セミパーソナルでのサービスや新しい設備を活用したサービスを提供するために必要な設備投資などが補助の対象となり得ます。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者などが、生産性向上を目的としてITツールを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。パーソナルジムの開業時であれば、IT導入補助金の申請要件を満たせるため、申請できます。
対象となるのは、業種ごとに定められている資本金や従業員数の上限が、国が定める基準以下である法人または個人事業者です。IT導入補助金を申請するためには、国から認定されたIT導入支援事業者と連携して手続きを進める必要があります。
▼IT導入補助金に申請する事業者と支援事業者の関係
IT導入補助金を活用するためには、IT導入支援事業者により当該のITツールが、あらかじめ補助金対象として登録されている必要があります。パーソナルジムに関連するツールとしては、以下のものが挙げられます。
- オンライン予約システム
- キャッシュレス決済サービス
- モバイルオーダーシステム(健康グッズなどの販売をする場合)
- ECサイト構築システム(健康グッズなどの販売をする場合)
- 勤怠管理システム
- 会計システム など
これらのITツールの導入により、業務の効率化や顧客満足度の向上を図る際の費用負担を軽減できます。
まとめ
健康志向の高まりやダイエット、運動不足解消などの影響により、パーソナルジムの需要が高まってきました。パーソナルジムの開業は、特別な資格が必須ではなく、低予算からスタートできる可能性があるため、開業へのハードルは高くありません。
パーソナルジムを開業する際は、以下の手順で段階的に準備を進めていく必要があります。
- 開業形態を決める
- 事業計画を立てる
- 開業資金を調達する
- 物件を見つける
- 店舗を準備する
- 開業届を提出する
- 宣伝する
- スタッフを採用する
パーソナルジムで成功するためには、コミュニケーション力やスキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。また、チーム構築や競合との差別化、価格設定、コスト管理なども押さえておきたいポイントです。
本記事で解説した内容を参考に、自身のパーソナルジム開業に向けて動きましょう。

- 執筆者情報
- 田仲ダイ(Tanaka Dai)