株式会社イーグラント・コーポレーションが現役美容師に聞いたアンケート調査では、「業務委託」で働く美容師が約4分の1を占めるという結果が出ています。
さらに、株式会社GO TODAY SHAiRE SALONがコロナ禍に行ったアンケート調査では、57%の美容師が、フリーランスなどの新しい働き方を積極的に検討しているというデータもあります。
しかし、その運用を誤ると「偽装請負」と判断されるかもしれません。そして、過去数年分の社会保険料など、数百万円単位の支払いが命じられる重大なリスクがあります。
この判断は、契約書上の名称だけでなく「働き方の実態」で決まるため、「知らなかった」では済まされません。
そこで本記事では、そのリスクを確実に回避し、業務委託のメリットを安全に活用するための「正しい進め方」を、具体的な手順に沿って解説します。
サロン経営における美容師の業務委託とは? 正社員雇用との違い
美容室経営における「業務委託」は、サロンと美容師が対等な事業者として業務の契約を結ぶことだと考えましょう。
正社員と最も大きく異なるのは、サロン側に「指揮命令権」がない点です。勤務時間を指定するだけでなく、業務の進め方を細かく指示するのも原則としてできません。
それでは、この違いが経営にどのような影響を与えるのでしょうか?
以下では正社員雇用との違いを、経営者として知っておくべき4つの視点から、詳しく解説します。
報酬体系と経費負担の違い
正社員雇用と業務委託の最も大きな違いの1つが、「お金」に関する考え方です。
正社員の場合、サロンは美容師に「固定給」を支払います。
厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査では、美容師の平均的な月給が約31万円とされています。
しかし、経営者の負担はそれだけではありません。サロン側は給与に加え、社会保険料の半分を負担する義務があり、実際の総人件費は額面以上にかかります。これらは、売上げが少ない日でも発生し続ける「固定費」です。
サロン経営の利益を左右する、この「人件費」の考え方は非常に重要です。
人件費の具体的な内訳や、利益を確保するためのコスト削減の考え方について詳しく知りたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
一方、業務委託契約では、報酬は売上げに応じた「完全歩合制」が基本で、人件費が売上げに連動する「変動費」になることを意味します。
売上げが少ない時期でも人件費が経営を圧迫するリスクを抑えられ、サロン側は社会保険料を負担する必要もありません。
それでは、なぜ美容師は固定給のないこの働き方を選ぶのでしょうか?
ホットペッパービューティーアカデミーが美容師に対して調査したアンケートでは、美容師が最初の職場を辞める最大の理由として「給与への不満」が挙げられています。
▼【美容師】初職を辞めた/転職した理由
業務委託の歩合制は、自身の頑張りが直接収入に反映されます。そのため、高い技術を持つ美容師にとっては、正社員時代よりも大きく収入を伸ばせる魅力的な制度といえるのです。
このように、報酬体系の違いはサロンの経費構造を大きく変えるだけでなく、美容師の働く意欲にも直結します。
固定費のリスクを抑えたい経営者と、成果に見合った報酬を求める美容師、双方の利点が一致したとき、「業務委託」は強力な経営戦略となり得ます。
働き方と指揮命令権の違い
正社員の場合、勤務時間や休日はサロンの就業規則に従うのが基本です。経営者はスタッフのシフトを管理し、業務上の指示を出す「指揮命令権」を持ちます。
一方、業務委託の美容師は個人事業主であり、サロンと対等なパートナーです。そのため、サロン側が勤務時間を指定するなどして、出勤を強制できません。
「指揮命令」とみなされ、偽装請負と判断される最も大きな要因となるためです。
この「働き方の自由度」こそ、多くの美容師が業務委託を選ぶ大きな理由です。
ホットペッパービューティーアカデミーによる美容師を辞めた理由についての調査では、美容師が離職する理由の上位に「労働時間の長さ」や「体力的な負担」が挙げられています。
▼美容師を辞めた理由は? (トップ5)
自分のペースで休日を決めて働く時間を調整できる業務委託は、こうした悩みを解決する魅力的な選択肢です。
ただしこの自由度の高さは、予約管理を複雑化したり、チームの一体感を損なったりする可能性もあります。
経営者に求められるのは「指示」ではなく、明確な予約に関するルール設定や情報共有の仕組みといった「環境」を整え、対等なパートナーとして信頼関係を築くことです。
集客の責任はサロンか、個人か
集客はサロン経営の生命線です。正社員と業務委託では、この集客の責任の所在が大きく異なります。
自店のブランド戦略や成長計画にあうのは、どちらでしょうか?
まず正社員雇用の場合、集客の責任は全面的にサロン側にあります。経営者は広告宣伝費を投じ、サロン全体のブランド力で新規顧客やフリー客を集めるのが一般的です。
一方業務委託では、集客の形がより多様になり、契約内容によって責任の範囲が変わります。
- サロン集客型:サロンが集客したフリー客を、業務委託スタッフに割り振るパターン。サロンの集客力を活用したい美容師にとって魅力的なモデル
- 個人集客併用型:サロンからの集客に加え、美容師個人のSNS発信などによる自力での集客も期待されるパターン
どちらがよいかは、サロンの経営方針によって決まります。
集客の責任分担は、報酬体系や後述する教育方針とも密接に関わります。自店の理念と成長戦略に沿って最適な形態を選びましょう。
技術指導や教育環境の違い
スタッフの技術力は、サロンの評判やお客様の満足度に直結する重要な要素です。正社員と業務委託では、この技術指導や教育に対する考え方が根本的に異なります。
- 正社員雇用:サロンがスタッフを「育てる」責任と権利を持ち、練習や研修を業務として指示できる
- 業務委託:対等なパートナーのため、研修への参加を強制できない。強制すると「指揮命令」とみなされ、偽装請負とみなされる可能性がある
それでは、業務委託のスタッフとお店はどのように関わるべきでしょうか? 以下の美容師は、業務委託における教育のあり方について、次のように語っています。
とくに決まった研修や教育制度はなく、研修についてはスタッフの要望に合わせて都度取り入れるようにしています。もちろん参加は自由。強制して学ばされたところで身につかないと思うんですよね。
引用:モアリジョブ|美容師 和田光弘さん
この言葉が示すように、業務委託における教育とは「強制」ではなく、あくまで「任意参加の機会を提供するだけ」という形式です。
どちらの形態がよいかは、サロンの経営方針によって決まります。
- 正社員雇用が向いているサロン:未経験者や若手を採用し、一からお店の文化に合わせて育てていきたい場合
- 業務委託が向いているサロン:すでに高い技術を持つ即戦力と、対等なパートナーとして提携したい場合
教育や技術指導に対する考え方は、サロンの文化そのものを形作ります。その理念に基づいて契約形態を選びましょう。
美容師の業務委託を導入するメリット
多くのサロン経営者が抱える経営課題には、どのようなものがあるのでしょうか?
株式会社CHIMJUNが行ったアンケート調査では、「現在の経営課題」について質問したところ、最も多かった回答は「集客数」、次いで「顧客単価」「コスト削減」「リピート施策」でした。
自店が同じような課題を抱えている場合、正社員雇用とは異なる「業務委託」という選択肢が、解決の糸口になるかもしれません。
そこで業務委託の導入がサロン経営にもたらすメリットを3つの視点で詳しく解説します。
美容師の意欲を高める報酬制度を築ける
美容室経営において、優秀な人材の確保と定着は永遠の課題です。
上記で紹介した調査でもあったように、美容師が最初の職場を辞める最大の理由として「給与への不満」が挙げられています。
また、ホットペッパービューティーアカデミーの調査でも、美容師が働く場所を選ぶ際に「給与」を重要視する割合は半数以上です。
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働くにあたって重要なこと |
割合 |
|---|---|
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通勤がしやすい |
64.3% |
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働いているスタッフの人柄 |
53.3% |
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サロンの雰囲気やテイストが合う |
52.7% |
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給与 |
50.8% |
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勤務時間 |
48.6% |
これらの「給与」という課題に対し、業務委託は有効な解決策の1つになり得ます。
そもそも、固定給が基本の正社員とは異なり、業務委託では売上げに応じた成果報酬型が一般的です。自身の頑張りが直接収入に反映されるため、仕事へのモチベーションも高められるでしょう。
そのため、高い技術や多くの顧客を持つ美容師にとって、正社員時代よりも大きく収入を伸ばせる可能性がある業務委託は、非常に魅力的な制度です。サロン側にとっても、これは大きなメリットといえます。
即戦力となる美容師を確保しやすくなる
前述のとおり、高い技術を持ち、経験豊富な美容師にとって、自分の裁量で働き方を決められる業務委託は非常に魅力的です。その結果、サロンは高い技術を持った人材と出会いやすくなるでしょう。
サロン側にとっても、これは大きなメリットです。労働基準法が適用されないため、勤務時間の管理といった労務負担が少なく、優秀な人材に柔軟に対応できます。
このように、業務委託は「即戦力となる人材を確保したい」と考えるサロンにとって魅力的な方法です。
もちろん、アシスタントや中途採用など、求める人材によって最適なアプローチは異なります。以下の記事は、各ターゲットに合わせた採用戦略の立て方についてまとめているので、ぜひ参考にしてください。
多様な働き方で生産性が高まる
業務委託は、サロンに多様な働き方をもたらし、結果として全体の生産性を高める選択肢になり得ます。
日本政策金融公庫が公表している調査によると、従業員に労働時間の裁量をゆだねる「裁量労働制」を導入している企業はそうでない企業に比べ、「業界平均を上回る労働生産性を達成している割合が高い」という結果が示されました。
このデータは、働き方に「裁量」を与えれば、高い成果につながることを示唆しています。
美容師が自身の裁量で働く業務委託は、まさにこの考え方を体現した働き方といえるでしょう。
業務委託の導入は、こうした「働き方改革」の一環として、経営者が取り組むべき重要な戦略です。
フリーランスを含めた多様な働き方を導入し、サロンの働き方改革を進めるための具体的なポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。
美容師の業務委託で理解すべき法務・労務リスク
これまで業務委託がもたらすメリットについて解説しましたが、その裏には、経営者が必ず理解しておくべきリスクも存在します。
リスクは大きく分けて2種類あります。どちらも、軽視すればサロン経営に深刻な影響を与えかねません。
以下では、まず最も注意すべき「偽装請負」などの法務リスクについて解説し、次に見落としがちな労務リスクを掘り下げます。そして最後に、これらのリスク管理をより広い「働き方改革」の視点から考えていきましょう。
偽装請負に注意したい法務リスク
業務委託を導入する上で、経営者が最も警戒すべき法的リスクが「偽装請負」です。
これは、契約書の上では「業務委託」でも、働き方の実態が「雇用」と変わらない場合に、違法と判断されるものを指します。
それでは、どのような場合に「偽装請負」と判断されるのでしょうか?
判断のポイントは、サロン側が美容師に対して「指揮命令」をしているかどうかです。具体的には、以下のような行為が問題となります。
- 施術の進め方や手順について、細かく指示を出す
- 出勤日や勤務時間、休憩時間をサロン側が管理・指定する
- 掃除、ミーティングへの参加などの契約外の業務を強制する
これは単なる理論上の問題ではなく、実際に訴訟に発展し、賠償命令が下された事例も報告されています。
大津市の50代の女性職員が、市が外部委託した業務の実態が違法な「偽装請負」であると上司らに指摘したことで、低評価を付けられた上に異動させられたなどとして、市に110万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、大津地裁であり、池田聡介裁判長は偽装請負を認め、22万円の支払いを命じた。
引用:産経新聞|偽装請負認定で賠償命令 外部委託巡り職員が上司に指摘
また、「偽装請負」以外にも、契約にまつわる法務リスクは存在します。
- 契約内容の不備によるトラブル:報酬の計算方法や支払い条件などが曖昧だと、後々「言った・言わない」のトラブルにつながる
- 顧客情報の流出リスク:契約終了後に美容師が顧客情報を持ち出してしまうケース。契約書に秘密保持に関する項目を盛り込むなどの対策が必要
これらの法務リスクを回避するためには、業務委託という働き方の正しい理解と、弁護士などの専門家の助言も得ながら作成した、契約書が欠かせません。
見落としがちな労務リスク
「偽装請負」などの法務リスクの回避は大前提ですが、それと同じくらいに重要なのが、スタッフとの関係性における「労務リスク」です。
法律は守っていても、現場の不満がサービスの質の低下やチームワークの乱れにつながり、経営を不安定にさせてしまうかもしれません。
厚生労働省がフリーランス全般を対象に行った調査ではありますが、業務委託美容師にも通じる点が多くあります。この調査によると、フリーランスの約4割が仕事に強い不安やストレスを抱えており、その原因のトップは「収入の不安定さ」でした。
この「収入」への関心の高さは、美容師に関しても同様といえるでしょう。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、美容師が働く上で重視することとして「給与」に次いで「福利厚生」や「評価・昇給制度」が挙げられます。
ここに、労務リスクの火種が潜んでいると思ってもよいでしょう。もともと、業務委託の美容師は収入が不安定で、福利厚生などの保障もありません。
店内に正社員と業務委託のスタッフが混在している場合、この待遇差が「不公平感」を生み、職場の人間関係やチームワークに悪影響を与える可能性もあります。
たとえ法律上は問題のない契約であっても、経営者は業務委託美容師のこうした心理的な負担や立場に配慮し、良好な関係を築く努力が必須です。
業務委託の美容師における報酬や歩合率の決め方
業務委託制度を導入する上で経営者が最も頭を悩ませるのが、報酬と歩合率の設定ではないでしょうか?
歩合率を低く設定すればサロンの利益は増えますが、優秀な美容師は集まりません。逆に、高く設定しすぎると、今度はサロンの経営を圧迫します。
そこでここでは、サロンの利益と美容師のやる気を両立させるための公正で戦略的な報酬設定の方法を解説します。
まずは業界の相場を理解しましょう。次に自店にあった設定基準を考えながら検証し、最後に契約に落とし込む手順を見ていきます。
業務委託の基本的な報酬構造を把握して相場を把握する
業務委託の報酬を決める上での大前提は、それが従業員に支払う「給与」ではなく、対等なパートナーに支払う「成果報酬」であるという点です。その計算は、一般的に以下の式で行われます。
▼一般的な成果報酬の計算方法
報酬額 = 技術売上げ × 歩合率
サロン側は、この計算方法や支払い条件などを契約書に明記し、源泉徴収といわれる報酬から源泉所得税を天引きするのが通例です。
では、この「歩合率」の相場はどのくらいなのでしょうか?
サロンの考え方や地域によって様々ですが、売上げの40%〜60%が一般的な目安です。そして、多くのサロンでは、お客様が「誰を指名したか」によって歩合率を変えています。
- 指名客の場合(歩合率:50%〜75%):美容師個人の技術力や信頼によって来店されたお客様のため、歩合率は高めに設定されている
- フリー客の場合(歩合率:40%〜50%):サロンの集客力によって来店された新規や指名なしのお客様のため、歩合率は一般的に少し低めに設定される
このように、基本的な報酬の仕組みと業界の相場を理解できていると、自店にあった歩合率を設定できるでしょう。
自店の利益と美容師のやる気を両立可能な歩合率を設定する
上記で解説した相場をふまえ、ここでは自店の利益と美容師の意欲を両立させるための歩合率の設定基準について考えていきます。
一般的な業務委託サロンでは主に以下の4つの要素を考慮して、個々の歩合率を決定します。
- 美容師の技術力や経験:高い技術や豊富な経験を持つ美容師には、一般的により高い歩合率を提示する
- 指名・フリーの比率:美容師個人の力で獲得した「指名客」への歩合率を高く設定することで、お客様との信頼関係を築く努力を正当に評価できる
- 材料費などの経費負担:材料費などをサロン側が多く負担する場合は歩合率を抑え、美容師側の負担が大きければ歩合率を高く設定するなど、公平性を保つための調整が必要になる
- 地域の市場状況:近隣の競合サロンの条件も参考に、優秀な人材にとって魅力的な歩合率を設定する
特に、技術力の評価は意欲向上につながるでしょう。モアリジョブによるアンケートを見ると、美容師がやりがいを感じる点として「技術の成長」が上位にあります。
▼「この業界で働くことの面白み・やりがい」 ~美容師編~
しかし、個人の売上げだけを基準にした歩合制では、評価しきれない「サロンへの貢献」もあります。以下のサロンの代表は、この課題を解決するため、「評価給」という独自の制度を導入しています。
歩合制ではなく評価給を採用しています。評価給を導入した理由は、それぞれの強みを、きちんと給料に反映させるためです。たとえば営業はいまひとつでも教育がとても上手なスタッフがいたとします。そのスタッフは、歩合制ではそれほど評価をしてもらえないので『自分は会社に貢献できていない』と思ってしまうかもしれません。しかし、絶対にそんなことはありません。
美容師がひとりで売上げることができるのはだいたい100万円前後で、それ以上を狙うためにはアシスタントの存在が必要になります。それでは、そのアシスタントは誰が育てたのか? 多くの場合は、先ほど例に上げたスタッフが丁寧に教えてくれているので、会社にとって必要な人財としてしっかり評価しなければなりません。
引用:モアリジョブ|Nalu pu loa 代表 西山裕さん
このようにアシスタントの教育など、個人の売上げに直結しないものの、サロンの成長に欠かせない業務を正しく評価する仕組みを作っておきましょう。
単純な歩合率の設定だけでなく、自店がスタッフの「何」を評価し、どう報いるかという「評価の哲学」を持つことが大切です。美容師の意欲を最大限に引き出し、強い組織を作る上では欠かせない要素であることを覚えておきましょう。
サロンと美容師、双方の手残りをシミュレーションする
歩合率を決める際には、その設定がサロンの利益と美容師の収入にどう影響するのか、具体的な数字の検証は欠かせません。机上の空論で終わらせないために、一度シミュレーションをしてみましょう。
以下では、ある美容師の月間売上げが100万円だった場合を例に、双方の手残りを計算します。
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シミュレーションの一例 |
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|---|---|
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前提条件 |
・月間売上げ:100万円 ・歩合率:50%(サロンとの契約による) ・経費割合:売上げの20%(材料費、交通費、保険料などを含む) |
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報酬の計算 |
報酬 = 売上げ× 歩合率 ・売上げ:100万円 ・歩合率:50% 報酬 = 100万円 × 50% = 50万円 |
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経費の計算 |
経費 = 売上げ × 経費割合 ・売上げ:100万円 ・経費割合:20% 経費 = 100万円 × 20% = 20万円 |
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手取り収入の計算 |
手取り収入 = 報酬 ー 経費 ・報酬:50万円 ・経費:20万円 手取り収入 = 50万円 ー 20万円 = 30万円 |
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シミュレーション結果 |
・売上げ:100万円 ・歩合率:50% ・報酬:50万円 ・経費(20%):20万円 ・手取り収入:30万円 |
この計算から、まずサロン側には50万円の粗利益が残ります。ここから、お店の家賃、水道光熱費、広告宣伝費、共有で使う材料費などを支払い、残ったものが収入として手元に残るでしょう。
一方、美容師の手取り収入はどうなるでしょうか? 業務委託の場合、美容師は個人事業主として、自身でさまざまな経費を負担しなければいけません。
仮に、その経費が報酬の40%(20万円)かかると仮定すると、美容師の手取り収入は以下のようになります。
美容師の手取り収入 = 報酬 50万円 ー 経費 20万円 = 30万円
このように具体的な数字でシミュレーションを行うことで、設定した歩合率がサロンだけでなく、美容師の利益にもなることを客観的に判断できます。
歩合率を決める際は、必ずこの検証のステップを踏むようにしましょう。
最低保証や契約書の明記も忘れずに行う
歩合率のシミュレーションを終えたら、最後に、美容師との信頼関係を築き、将来のトラブルを防ぐための重要なポイントを2つ確認しましょう。
- 「最低保証制度」を検討する:完全歩合制の収入不安を和らげ、美容師に安心感を提供できる。優秀な人材の確保や定着にもつながる
- 決めた条件を全て「契約書」に明記する:口約束ではなく必ず書面に残し、将来の「言った・言わない」というトラブルを防ぐ
口約束はトラブルの元です。特に以下の点は、曖昧な表現を避け、双方が納得できる形で記載しましょう。
- 報酬の計算方法、最低保証の有無、支払い条件
- 美容師が担当する具体的な業務範囲
- 契約期間、更新や解約に関する条件
- 材料費などの経費の負担者
これらの点は業務委託特有の注意点ですが、美容室の給与制度全般について、より体系的に知りたい場合もあるでしょう。
美容師の給与制度の仕組みや、給与・歩合率の相場について、さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事が参考になります。
美容師の偽装請負を回避する「業務委託契約書」の作り方と必須項目
業務委託制度を導入する上で、その成否を分ける最も重要な書類が「業務委託契約書」です。この契約書の内容に不備があると、これまで見てきたメリットが失われるどころか、深刻な法的トラブルに発展する可能性もあります。
雇用関係であるにもかかわらず業務委託契約を結ぶ「偽装請負」と判断されてしまうことが、最大のリスクです。
以下では、その「偽装請負」を確実に回避するための安全な業務委託契約書の作り方を解説します。
大原則は指揮命令なし! 偽装請負とみなされる判断基準
業務委託契約が法的に問題のない「正当な契約」か、それとも違法な「偽装請負」と判断されるかの基準はサロン側が美容師に対して「指揮命令」を行っているかどうかです。
業務委託はあくまで対等な事業者間のパートナーシップであり、従業員を雇う「雇用」とは根本的に異なります。
契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態として以下のような行為があれば、「指揮命令」があったとみなされ、偽装請負を疑われてしまうかもしれません。
- 出勤日や勤務時間、休憩時間を指定・管理する
- 技術や接客の方法について、具体的なやり方を細かく指示する
- ノルマを課し、達成できない場合にペナルティを与える
- 遅刻や欠勤に対して、罰金などの罰則を設ける
- 掃除、ミーティングへの参加などの契約外の業務を強制する
このとき契約書の名称ではなく、あくまで日々の「働き方の実態」で判断されるという点が重要です。たとえ美容師本人が納得していたとしても、客観的な事実としてサロン側が上司のようにふるまっていれば、偽装請負と判断されるでしょう。
業務委託の美容師はサロンの従業員ではなく、1人の「個人事業主」です。この大原則を常に念頭に置き、対等なパートナーとして尊重する姿勢が欠かせません。
これが、偽装請負のリスクを回避するための第一歩となります。
契約書に必ず盛り込むべき必須項目
「指揮命令をしない」という大原則を理解したら、次はその原則を具体的な「業務委託契約書」に落とし込んでいきます。
口約束はトラブルの元です。お互いが対等なパートナーとして、気持ちよく仕事をするために、以下の必須項目を盛り込んだ「契約書」を必ず作成しましょう。
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記載内容 |
例文 |
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|---|---|---|
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業務内容 |
・委託する具体的な業務内容を明確に記載する。 ・美容師の場合、「カット、カラー、パーマなどの施術業務」や「店販商品の販売」など、具体的な業務内容をまとめておく。 |
第○条(業務内容) 甲(委託者)は乙(受託者)に対し、以下の業務を委託する。 1. 美容施術業務(カット、カラー、パーマ等) 2. 店販商品の販売 3. その他甲が別途指示する業務 |
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報酬と支払い条件 |
・報酬額、計算方法(固定報酬、歩合制など)、支払日、支払方法を明確に記載する。 ・振込手数料の負担者も明記しておくとトラブル予防に最適。 |
第○条(報酬および支払い条件) 1. 甲は乙に対し、以下の基準に基づき報酬を支払う。 (1) 売上げの○%を歩合報酬として支払う。 (2) 固定報酬として月額○○円を支払う。 2. 報酬の支払日は毎月末日とし、翌月○日までに乙の指定する銀行口座に振り込むものとする。 3. 振込手数料は甲の負担とする。 |
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契約期間 |
・契約の開始日と終了日を明記しておく。 ・自動更新の有無や更新手続きについても記載しておくのも忘れない。 |
第○条(契約期間) 1. 本契約の期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。 2. 契約期間満了の○日前までに甲または乙から書面による解約の通知がない場合、本契約は同一条件で自動更新されるものとする。 |
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再委託の可否 |
・再委託を許可するかどうかを明確に示しておく。 ・再委託を許可する場合、その条件や範囲も記載する。 |
第○条(再委託の禁止) 乙は、甲の事前の書面による承諾なく、本契約に基づく業務を第三者に再委託してはならない。 |
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秘密保持 |
・契約期間中および契約終了後の秘密保持義務を明記する。 ・顧客情報や業務上の機密情報を対象とする。 |
第○条(秘密保持) 1. 乙は、本契約に関連して知り得た甲の業務上の機密情報を第三者に漏洩してはならない。 2. 本条の義務は、契約終了後も有効とする。 |
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損害賠償 |
・契約違反や損害発生時の賠償責任について記載する。 ・賠償額の上限を設定する場合はその旨も明記する。 |
第○条(損害賠償) 1. 乙が本契約に違反し、甲に損害を与えた場合、乙はその損害を賠償する責任を負う。 2. 損害賠償額の上限は、乙が本契約に基づき受領した報酬総額とする。 |
これらの項目は、サロンと美容師双方を守るための、いわば「お守り」です。以下では、これらの項目をどのような言葉で記載すればよいか、具体的な文例を見ていきましょう。
契約書作成で失敗しないための最終チェック
最後に、将来のトラブルを確実に防ぐための、最終チェックポイントを確認しましょう。
特に「偽装請負」と判断されないためには、働き方の実態だけでなく、契約書の言葉選びも重要です。以下の文例を参考に、誤解の余地のない、明確な契約書を目指してください。
【文例】指揮命令関係の排除
「受託者は、業務の遂行方法および勤務時間を自己の裁量で決定するものとする。」
「委託者は、受託者に対して業務遂行に関する具体的な指示を行わない。」
【文例】成果物基準の報酬
「報酬は、業務の完了または成果物の納品を条件として支払うものとする。」
そして、契約書を完成させる前に、必ず以下の2点を心掛けてください。
- 曖昧な表現を徹底的に排除する:少しでも解釈が分かれるような曖昧な言葉は、トラブルの火種になるため、誰が読んでも同じ意味に捉えられる具体的でわかりやすい言葉で記載する
- 専門家に相談する:業務委託契約は、法的な専門知識が求められる領域。完成した契約書は、一度、弁護士や社会保険労務士などの専門家に見てもらう
曖昧さをなくし、専門家の目を通した明確な契約書こそが、美容師と対等なパートナーとして、良好な関係を維持する土台となります。
業務委託の美容師との良好な関係構築とマネジメント術
業務委託契約書を正しく交わしたとしても、その後の関係性がうまくいかなければ、サービスの質の低下や早期離職につながってしまいます。
業務委託の美容師のマネジメントは、正社員とはまったく異なる視点を持ちましょう。
そもそも、業務委託の美容師は対等な「ビジネスパートナー」であり、一般的な従業員ではありません。そのため、一方的な「管理」ではなく、お互いが成長できる良好な「関係構築」こそが、成功の鍵となります。
そこで以下では、多くの成功事例を参考に、共に成長できる協力関係を築くための具体的なマネジメント術を解説します。
経営の理念や哲学を明確に共有して価値観で惹きつける
業務委託の美容師と良好な関係を築くために、報酬や条件といった「契約」の話の前に、サロンとしての「あり方」を共有しましょう。
なぜ、自店は業務委託という働き方を採用しているのでしょうか? その根底にある経営の理念や哲学を明確に打ち出すことが、同じ価値観を持つ優秀な人材を惹きつける鍵となります。
たとえば、以下のシェアサロンの運営者は、その目的を利益追求ではなく、「美容業界全体の労働環境を改善することにある」と語っています。
僕たちが会社を起こした理由は大きく3つあります。
1つ目が美容師の取得向上のため。2つ目が美容業界の労働環境を改善するため。そして3つ目が、美容師が一生涯働くことのできる場所を提供するためです。そして、この3つのミッションを達成する方法を考えた時に思いついたのが、シェアサロンでした。
要するに、私たちは利益のために『SALOWIN』を運営しておらず、正直にいうとそもそもシェアサロンの経営で稼げるとも思っていません。売上歩合の80%を還元しているのもそのためですね。『どうせ儲からないだろうからギリギリ一杯で運営してみよう』という感じで(笑)。
引用:モアリジョブ|SALOWIN 運営スタッフ 中山祐人さん
これはサロンの明確な理念が、条件以上に美容師の共感を呼び、人を惹きつける良例です。
また別のサロンでは、「美容師が生涯現役を貫けるようにサポートしたい」という哲学から、独自のポジションを築いています。
今のサロンは客単価が12000円なのですが、業務委託サロンでここまで高価格のところはほかにないと思います。僕と同じように高価格帯の業務委託サロンで働きたいと思っている美容師が多かったようで、オープンと同時に多くのスタッフが集まってくれました。
僕は美容師が生涯現役を貫けるようにサポートしたい思いがあり、その実現のためには単価の高いサロン作りは外せないポイントのひとつでした。引用:モアリジョブ|株式会社ECLART 代表取締役 南裕大さん
ここでも「単価の高いサロン作り」という具体的な戦略が、「美容師をサポートしたい」という明確な理念から生まれています。その結果、同じ志を持つ美容師が集まってきているようです。
これら2つの事例に共通するのは、好条件の背景にある経営者自身の「哲学」が、美容師の心をつかんでいる点です。
自店は、業務委託の美容師にどのような価値を提供したいのでしょうか? その問いの答えを明確にすることが、理想のパートナーと出会うための最も確実な道筋となるはずです。
美容師の悩みを解決する仕組みを提供する
サロンの理念や哲学に共感してもらった上で、業務委託で働く美容師が抱える具体的な「悩み」を解決する「仕組み」をサロン側が提供しましょう。
特に多くの美容師が不安に感じるのが、「集客」と「収入の不安定さ」ではないでしょうか?
単に場所を貸すだけの「面貸し」とは一線を画し、これらの悩みを解決する付加価値の提供が、優秀な人材に選ばれるサロンになるための分かれ道となります。
この「悩みを解決する仕組み」を巧みに構築し、成功を収めているのが以下のサロンです。
ALBUMはほとんどが業務委託の形をとっており、個人の売り上げに対し、40%〜50%の歩合を渡しています。結局、有名店からこのALBUMに移ってくる美容師は、給料が少ない、新規に入れない、そのくせチャンスがないなど僕と同じことを思っている。だから、先ずそこは全部クリアにしますね。
では面貸しとなにが違うのかというと、面貸しの場合は、個人が顧客を持っていないと収入がないですよね。でもALBUMの場合はフリーのお客さまを会社が集客します。価格設定は低いものの、そもそも美容室に対して低価格を求める時代ですから、お客様はたくさんいらっしゃる。だいたい、委託でも40万〜50万は毎月の収入がありますから。もちろん、それ以上稼ぐ子だってたくさんいます
引用:モアリジョブ|ALBUM プロデューサー NOBUさん
この事例から学べる点はとても明確です。同サロンは、美容師が抱える「給料が少ない」「新規客に入れない」といった共通の悩みを特定し、それを正面から解決する「仕組み会社による集客」を構築しました。
その結果、美容師は収入の不安を大きく減らしながら、自身の技術向上に集中できます。これが単なる「面貸し」にはない、サロンが提供できる大きな付加価値です。
自店では、業務委託の美容師にどのような「付加価値」を提供できるでしょうか?
多様な働き方を尊重して個々の目標を応援する
業務委託の美容師は、それぞれが独立した個人事業主です。そのため、正社員と同じように画一的なルールで「管理」しようとすると、関係はうまくいかないでしょう。
うまく関係性を構築するためには、彼らの多様な働き方や、一人ひとりが持つ目標を尊重し、「応援する」という姿勢が欠かせません。
成功しているサロンは、美容師を縛り付けるのではなく、彼らが輝ける「プラットフォーム」としての役割を果たしています。以下のサロンでは、非常に個性的な働き方をする美容師が集まっているそうです。
なかでも美容師の使い方は個性的です。独立準備のため、勤めているサロンが休みの日に利用しお客さまの獲得を目指している方や、地方から月3回だけ足を運んで『Qnoir』で施術をしている美容師もいます。その方は流行の中心地を定期的に訪れて、刺激を受けるために利用しているようです。
引用:モアリジョブ|Qnoir 美容師兼サロンマネージャー 村藤利菜さん
これは、柔軟な環境が整ったサロンを作っており、独立準備やスキルアップといった、さまざまな目的を持つ意欲の高い人材の受け皿になれていることを示しています。
そうした美容師は、何を求めているのでしょうか? 以下のサロンのディレクターは、彼らに共通する考え方について、次のように分析しています。
収入と時間に余裕があるフリーランス美容師が働いています。僕はこれまでに、行動を起こし続けている美容師に度々出会ってきました。彼らの共通点は、『短時間である程度の収入を上げて、空いた時間に次の動きを考えている』ことでした。
引用:モアリジョブ|synergy salon NEHAN ディレクター 森越道大さん
この言葉からわかるように、彼らは安定した雇用よりも、自身の成長や次のステップのための「時間」と「自由」を重視しています。経営者は、この価値観を理解し、彼らの目標達成を後押しするパートナーとしての役割を担うようにしましょう。
対等なビジネスパートナーとして共に成長する関係を目指す
業務委託制度を成功させるための大事なポイントは、業務委託の美容師を、単なる「安価な労働力」としてではなく、サロンの価値を共に高めていく対等な「ビジネスパートナー」として捉えることです。
- 経営者が理念を示すこと
- 美容師が活躍できる環境を整えておく
- 美容師の成長を支援する
- 美容師は自身の技術と顧客でサロンの売上げと評判に貢献する
このようなお互いを尊重し、共に成長を目指す姿勢をみせることこそ、優秀な人材が「このサロンで働き続けたい」と感じてもらうきっかけとなります。
その結果がサービス品質と顧客満足度の向上、そしてサロンの長期的な安定経営につながっていくと考えましょう。
美容師の業務委託導入が有効な美容室と正社員雇用が適した美容室の違い
業務委託と正社員雇用のどちらが自店にとって最適な選択なのでしょうか? 絶対的な正解はなく、サロンの規模や経営方針によって、その答えは異なります。
以下では、それぞれのメリット・デメリットを深く掘り下げる前に、まずは両者の主な違いを以下の表で確認してみましょう。
|
業務委託美容室 |
正社員雇用美容室 |
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|---|---|---|
|
収益構造 |
売上げに応じた変動型 |
固定給+歩合制 |
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人件費 |
変動費化(社会保険料なし) |
固定費(社会保険料あり) |
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働き方の自由度 |
高い(勤務日数・時間を自己調整) |
低い(シフト制、固定勤務時間) |
|
教育環境 |
自己責任(スキルアップは自己努力) |
充実(研修や指導あり) |
この表が示すように、両者は経営の根幹に関わる部分で大きく異なります。
以下からは、これらの違いをふまえ、「どのようなサロンが業務委託に向いているのか」、そして「どのようなサロンが正社員雇用に適しているのか」を、それぞれ具体的に解説していきます。
業務委託が有効なサロン:固定費を抑えて柔軟な人材活用で経営したい場合
業務委託が有効なのは、状況によって人件費を柔軟にコントロールし、多様な人材の力を活かしたいと考えるサロンです。
- 固定費を抑え、経営リスクを下げたいサロン:業務委託であれば、人件費を売上げに連動する「変動費」にできる。特に新規開業時や小規模サロンの経営を安定させやすい
- 状況に応じて柔軟に人材を確保したいサロン:「週末だけ人手が欲しい」といったニーズにも、対応可能。必要な時に、必要なだけの戦力を確保できる
- 即戦力となる経験豊富な美容師と提携したいサロン:独立志向の強い、経験豊富な美容師は、正社員よりも自由な働き方を求める傾向。業務委託は、高い技術を持つ人材を惹きつけ、パートナーとして迎えるための有効な受け皿となる
このように経営の「身軽さ」や「柔軟性」を重視し、個々の専門家の力を活かしたいと考えるサロンにとって、業務委託は非常に相性のよい制度といえるでしょう。
正社員雇用が適したサロン:教育とチームワークを重視して安定した組織を作りたい場合
一方で、業務委託の柔軟性とは異なる「安定性」を重視する場合、正社員雇用が適しています。
特に、お店独自の文化を創り上げ、長期的な視点で組織を育てていきたいと考える経営者にとって、正社員雇用は多くのメリットを感じられるでしょう。
- 教育に力を入れ、人材を一から育てたいサロン:新人やアシスタントを採用し、お店独自の技術や接客スタイルを時間をかけて教え込みたい場合、業務として研修を指示できる正社員雇用が適している
- チームワークを重視し、統一したサービスを提供したいサロン:スタッフ全員が同じ目標に向かって協力し、誰が担当しても安定した品質を提供する。一体感のあるチームを作る場合、正社員は帰属意識が生まれやすい。
- 長期的な視点で、安定した経営基盤を築きたいサロン:スタッフの定着率が高い正社員雇用は、安定したサービス提供、ひいては顧客の定着につながる
このように、人材への「投資」と組織としての「一体感」を経営の軸に据えるサロンにとって、正社員雇用は、業務委託にはない大きな価値を持ちます。
自店の成長戦略に合った雇用形態を選択することが成功の鍵
ここまで見てきたように、業務委託と正社員雇用、それぞれに異なる魅力と利点があります。
大切なのは、どちらが絶対的に「よい」「悪い」ということではありません。自店のサロンが目指す方向性に合っているかどうかです。
雇用形態の選択は、サロンの未来を左右する重要な「成長戦略」の一部です。ぜひ、ご自身の理想とするサロンの姿を思い描きながら、以下の問いを自問自答してみてください。
- 経営の身軽さや柔軟性を重視し、個々の美容師の力を最大限に活かす組織を作りたい場合:業務委託が有効な選択肢
- 時間をかけて人材を育成し、チームとして統一された文化とサービスを築きたい場合:正社員雇用が有効な選択肢
どのようなお店にしていきたいか。その将来像から逆算して考えましょう。それこそが、自店にとって最適な雇用形態を選択し、経営を成功に導くための最も確実な鍵となります。
まとめ
今回はサロン経営における「業務委託」のメリットからリスク、具体的な導入方法までを広く解説してきました。
業務委託は、人材不足や固定費の課題を解決し得る、強力な選択肢です。しかし、その導入を成功させるには、いくつかの重要な心構えが欠かせません。
業務委託を有効な経営戦略として活用するためには、以下のポイントを意識しましょう。
- 美容師を「従業員」ではなく「対等なビジネスパートナー」として捉える
- 人件費削減などのメリットと、「偽装請負」などの法的リスクを正しく天秤にかける
- 報酬設定や契約書の内容を曖曖昧にせず、双方の合意を明確な形で残す
- 自店の理念や将来像に、この働き方が本当に合っているかを冷静に判断する
業務委託という選択は、サロンオーナー自身の経営哲学を映し出す鏡のようなものかもしれません。この記事で得た知識が、あなたのサロンにとって最善の道を選択するための参考になれば幸いです。
- 執筆者情報
- 関 慎一郎(Seki Shinichiro)