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訪問マッサージを開業する流れとは? 必要な手続きや集客のポイントを解説

訪問マッサージを開業する流れとは? 必要な手続きや集客のポイントを解説

個人で訪問マッサージを開業したいけれど、何から手をつければよいかわからない人もいるのではないでしょうか。訪問マッサージの開業には資格の確認や事業計画の策定、各種届出など、やるべきことが多くあります。しかし、正しい手順をひとつずつ着実に進めていけば問題なく開業の準備が可能です。

本記事では、訪問マッサージの需要や必要な資格、開業の具体的な流れとともに、成功するためのポイントや整体院開業に活用できる補助金について解説します。

訪問マッサージの需要

総務省統計局の調査によると、2025年2月1日の時点で、75歳以上の人口は約2096万人に上りました。日本の総人口は1億2344万1000人であり、75歳以上の人口は全人口の約17%を占めています。この結果から、日本社会の高齢化が着実に進んでいることがわかります。高齢化により、在宅で高齢の家族を介護するケースも増えました。

高齢になると、筋肉や関節の痛みをはじめ、慢性的な不調をかかえやすくなります。移動が難しい高齢者にとって、自宅で体の不調に対処できる訪問マッサージは、とても心強いサービスです。

こうした背景から、自宅にいながら専門的なケアを受けられる訪問マッサージの需要は、着実に高まっていくでしょう。

訪問マッサージの開業に必要な資格

訪問マッサージとは、利用者の自宅や施設などに出向いてマッサージを施すサービスです。高齢者や障がいがある人、産後の女性など、外出が難しい人々を対象としています。オーナー自身が施術をしない場合は、資格がなくても開業可能です。オーナー自身が施術者として訪問マッサージする場合は、「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格が必要です。

法律により「マッサージ師」と名乗ったり、サービス名に「マッサージ」と表記したりできるのは、「あん摩マッサージ指圧師」の資格をもつ人に限られます。この資格は、専門学校で3年以上学び、国家試験に合格すると取得できます。加えて施術に針やお灸を用いる場合は「鍼灸師」の資格が必要です。鍼灸師も、専門学校の通学と国家試験の合格が取得条件です。

保険を用いた施術を行うには、さらに「施術管理者」になる必要があります。施術管理者になるには、資格取得後に1年以上の実務経験を積み、16時間(2日間)以上の研修を受けなければなりません。

実務期間は資格取得後から計算され、資格取得前の経験は含まれないため注意が必要です。実務経験として認められる要件は、以下のとおりです。

  • 実務経験を積んだ鍼灸院が受領委任の取扱いを行っている
  • 勤務形態にかかわらず、施術者として保健所に届出がされている
  • 転職により複数の施術所で実務経験がある場合、期間を合算できる(重複期間は除く)

なお、出張専門の施術者として施術管理者に帯同した場合は、実務経験の対象になりません。ただし過去に施術管理者として実務経験がある場合は、期間にかかわらず要件を満たしていると認められます。

施術管理者研修修了書は、東洋療法研修試験財団で研修を受けたのち、およそ2週間で発行されます。「さする・なでる・もむ」などの、手で行う施術であれば「あん摩マッサージ指圧師」が、施術に針やお灸を用いる場合は「鍼灸師」の資格が必要です。

訪問マッサージを開業する流れ

訪問マッサージを開業する際は、以下の準備を段階的に進める必要があります。

  1. 施術管理者研修を受ける
  2. 開業形式を決める
  3. 事業計画を立てる
  4. 開業資金を調達する
  5. 必要な備品を準備する
  6. 物件を見つける
  7. 必要な手続きを行う
  8. 宣伝する
  9. スタッフを採用する
  10. 損害賠償保険に加入する

ここでは、訪問マッサージを開業するまでの一般的な手順を解説します。

1.施術管理者研修を受ける

鍼灸院として保険施術を行う場合、施術管理者研修を受ける必要があります。研修は合計16時間で、2日間にわたって実施されます。施術管理者研修の内容は以下のとおりです。

  • 職業倫理について
  • 適切な保険請求
  • 適切な施術所管理
  • 安全な臨床

2.開業形態を決める

開業の形態には、個人事業主と法人の2種類があります。自身の事業を「どのように運営していきたいのか」「どのような働き方や生活を望んでいるのか」を具体的に整理すると、適した開業形式がみえてきます。

たとえば、自身の生活リズムに合わせて柔軟に働きたい場合は、個人事業主として活動するほうがよいでしょう。事業を幅広く展開していきたい場合は、法人として開業するのがおすすめです。ただし、はじめから法人になる必要はありません。まずは個人で事業を始め、売上げの増加に合わせて法人化を検討するのもひとつの方法です。

3.事業計画を立てる

開業形態を決めたら、具体的な事業計画を策定します。訪問マッサージを開業したい動機を深く掘り下げ、コンセプトや主なターゲット層を明確にしましょう。コンセプトやターゲット層を決めたら、それをもとに運営方法や経営戦略、収支計画を検討し、事業計画に落とし込みます。

事業計画書は、これから始める事業をどのように進め、どのようにして収益を上げていくのかを具体的にまとめたものです。開業に必要な資金の調達方法や返済方法などの資金繰りの計画も、考えておく必要があります。

新たに事業を始める場合、経営の実績がないため、金融機関からの信用がありません。そのため、事業計画書を丁寧に作成し、事業が成功する見込みがあることを示す必要があります。「フレアス」の貝沼さんは理念を整理した上で、事業計画を立案しました。

「人と人とのふれあいを大切にし社会貢献すると共に、社員の物心の幸せを追求する」が理念です。「フレアス」では「利他の心」を大切にしています。自分の利益だけを求めない行動は、他者だけでなく自分たちも幸せにすることができると考えているからです。

引用:モアリジョブ|フレアス 人材開発部 部長 貝沼洋之さん

マツエクサロン「salon de beaute Jolie」のMihoさんは、過去の採択データや見本を読み込みながら、書き方のコツをつかんだようです。

お金がかかることも多いですが、今は自治体ごとに小規模事業者向けの補助金制度もあるので、そういった情報をしっかりキャッチして積極的に活用しています。

申し込むには事業計画書を書いたり登録手続きをしたり、慣れないうちは大変ですが、過去の採択データや見本を隅から隅まで読むと書き方のコツがつかめてきました。苦手だったことをまた1つ克服できたので、いい経験になりました!

引用:モアリジョブ|salon de beaute Jolie オーナー Mihoさん

事業計画書に書くべき内容は以下のとおりです。

  • 事業を始める動機
  • 経営者の略歴(経験やスキルなど)
  • 具体的なサービス内容
  • 従業員数(予定を含む)
  • 現在の借り入れ状況
  • 開業に必要な資金額とその調達方法
  • 事業の将来的な見通し(目標とする売上げ高や予想される経費など)

商工会や商工会議所に相談して事業計画書を作成するのもひとつの方法です。日本政策金融公庫では、次の書式が見本として紹介されています。

1.事業計画書

書式についても、以下のサイトからダウンロードできます。

各種書式ダウンロード 国民生活事業|日本政策金融公庫

融資を受ける際にも事業計画書の提出が求められるため、商工会や商工会議所に相談しながら作成するのもおすすめです。

4.開業資金を調達する

開業形態や自己資金にもよるものの、訪問マッサージの開業には少なからず費用が必要です。日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費の平均値は1027万円、中央値は550万円でした。

開業費用の分布は500万~1000万円未満の割合が最も多く、日本政策金融公庫が公開している「2023年度新規開業実態調査」によると、開業資金の調達先として「金融機関等からの借入」の平均額が768万円でした。

運転資金の目安としては、月間の売上げ目標額の3~6カ月分程度を準備しておくとよいでしょう。開業してから数カ月は、集客が安定せず赤字経営になる可能性も考慮し、家賃や人件費などの固定費の支払いが滞らないよう、余裕をもった資金計画を立てることが大切です。

自己資金だけでは開業費用が不足する場合は、外部から資金を調達する方法を検討します。主な調達方法は以下のとおりです。

  • 親族や知人からの借入
  • 民間金融機関や日本政策金融公庫、地方自治体からの融資
  • クラウドファンディングによる資金集め
  • 国や地方自治体が提供している助成金や補助金の活用

ただし、訪問マッサージは店舗が不要なため、開業資金が10万円程度で抑えられるケースもあります。そのため、開業資金と、開業後に必要な経費を含めた資金を準備しておけば問題ありません。

開業後にかかる経費は以下のとおりです。

  • 交通費(自動車のガソリン代、車両維持費など)
  • 広告宣伝費
  • 経理にかかる費用(会計ソフト、税理士への依頼など)
  • 業務効率化ツールの利用料(予約システム、電子カルテなど)
  • 消耗品費

5.必要な備品を準備する

利用者のもとへ出向く訪問マッサージには、店舗や大規模な設備は必要ありません。開業にあたって準備しておきたい備品は以下のとおりです。

  • パソコン
  • プリンター
  • スマートフォン
  • 事務用品
  • 名刺
  • 施術着
  • 移動用の車両や自転車
  • ホームページ
  • タオル
  • 手ぬぐい
  • 消毒液
  • 体温計
  • 血圧計
  • 鍼灸施術道具
  • 折りたたみベッド など

タオルやテーピングなどの消耗品は、ECサイトを利用するとまとめ買いで安価に購入できます。「トワテック」「アトラスストア」「からだはうす」など、複数のサイトを比較して検討するとよいでしょう。

6.物件を見つける

個人事業として行う訪問マッサージは自宅を拠点に開業できるため、事務所となる物件を構える必要はありません。しかし、スタッフを雇う場合は、拠点となる事務所を用意する必要があります。

ただし、来客型のビジネスではないため、広いスペースは要りません。店舗型以外にも、マンションの一室を借りるのもひとつの方法です。はじめは小さな物件からスタートし、事業の規模が大きくなった際に、移転を考えるのもよいでしょう。

7.必要な手続きを行う

訪問マッサージを開業するには、税務署や保健所への届出のほか、保険を取り扱うための手続きが必要です。ここでは、保険を使える訪問マッサージを開業する場合の手続きについて解説します。

税務署への届出

訪問マッサージを開業する場合、税務署に開業届を提出します。個人事業主として訪問マッサージを開業する場合は、開業届と併せて税務署へ「青色申告承認申請書」も提出しましょう。条件を満たせば、年間の所得金額から一定額(最高で65万円)を控除できるため、節税効果が期待できます。

開業届を税務署に提出する際に必要な主なものは、以下のとおりです。

  • 開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書。原則として開業日から1カ月以内に提出)
  • 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
  • マイナンバーがわかるもの(マイナンバーカード、個人番号通知書のコピー、個人番号が記載された住民票の写しなど)
  • 所得税の青色申告承認申請書(青色申告を希望する場合のみ。原則として開業日から2カ月以内に提出)

保健所への届出

個人事業主として開業する場合は、「出張業務開始届」を提出するだけで開業できます。業務を開始してから10日以内に、業務開始届と出張免許証、本人確認書類などを提出しましょう。ただし、保健所による現地調査が不要な反面、以下の制約があるため注意が必要です。

  • 人を雇用できない
  • 施術所を構えられない
  • 看板を出せない
  • 住民票に記載される住所以外での営業活動はできない

従業員を雇用してマッサージ施術をする場合は、新たに開設届の提出が必要です。詳しい提出書類や手続きは各自治体によって異なるため、事前に開業するエリアの保健所に問い合わせましょう。

地方厚生局への届出

受領委任払いを利用して施術を提供する場合は、地方厚生局との契約が必要です。対象となる保険は社会保険(協会けんぽ・健保組合など)や国保、後期高齢者医療保険、船員保険、退職者国保です。届出の際は、下記の書類を提出する必要があります。

  • 確約書
  • 療養費の受領委任の取扱いにかかる申出(施術所の申出)
  • 療養費の受領委任の取扱いにかかる申出(同意書)
  • 施術所開設届又は施術所変更届の副本の写し(保健所に提出したもの)
  • 出張施術業務開始届の写し(施術管理者が出張専門施術者の場合)
  • 免許証の写し(勤務する施術者を含む)
  • 施術管理者選任等証明(施術管理者と開設者が異なる場合のみ)【開設者が個人の場合:様式第1号の2、開設者が法人の場合:様式第1号の3】
  • 勤務形態確認票【様式第2号の3】(複数の施術所で施術管理者として申出する場合又は出張専門施術者が施術所で勤務する場合のみ)
  • 住民票(施術管理者が出張専門施術者の場合のみ)
  • 施術管理者研修修了証の写し
  • 実務経験期間証明書の写し

なお、生活保護を受けている方に施術をする場合、「指定施術機関登録」が必要です。必要な書類は以下のとおりです。

  • 申請書
  • 誓約書
  • 免許証の写し

必要な書類は地域ごとに異なります。正確な提出書類を知りたい場合は、管轄の厚生局に問い合わせましょう。

共済組合・防衛省への届出

地方厚生局と結ぶ受領委任契約には、公務員の関係者が加盟する共済組合連盟や地方公務員共済組合協議会、防衛省は含まれていないため、共済組合や防衛省への届出は別途行う必要があります。共済組合に届出を行うためには、共済組合連盟から発行を受けた所定の書式に記入し、鍼灸師の資格免許証のコピーとともに提出します。

共済組合の連絡先は次のとおりです。

一般社団法人 共済組合連盟

〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル

TEL 03-3261-0073

また、地方公務員の保険を扱う場合は、地方公務員共済組合協議会に、防衛省職員や自衛官の保険を扱う場合は防衛省に届け出なければなりません。

労働基準監督署の届出

労災保険を扱うためには所轄の労働基準監督署に申請して、労災の指定機関として指定を受けなければなりません。個人経営でも常時10人以上の従業員(パートタイマーやアルバイトも含む)がいる場合は、労働基準法により就業規則の作成と届出が義務付けられています。申請に必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 労災保険指名施術所指名申請書(診鍼様式第7号)
  • 推せん書
  • 指定・指名機関登録(変更)報告書(1/2)(診機様式第22号)
  • 指定・指名機関登録(変更)報告書(2/2)(診機様式第23号)
  • 施術所開設届(写)
  • 施術所付近の見取図
  • はり師免許証(写)・きゅう師免許証(写)・あん摩マッサージ指圧師免許証(写)

各種書式は管轄の労働局のホームページからダウンロードできます。

8.宣伝する

開業後、スムーズに集客につなげるためには、開業前から宣伝活動を始めることが大切です。客単価が上がれば、集客難易度も上がるため、マーケティングを意識した集客戦略を練る必要があります。主な宣伝方法としてあげられるのは、以下のとおりです。

  • 自店のホームページやブログを立ち上げ、情報発信する
  • Googleビジネスプロフィールに登録する
  • インターネット広告(リスティング広告やディスプレイ広告など)に出稿する
  • SNSを活用して情報発信する

モアリジョブが行ったアンケート調査によると、美容室ではホームページの作成やSNSの活用といった、オンラインでの集客活動に力を入れている店舗が比較的多いという結果がでています。鍼灸院においても、オンラインでの情報発信は有効な手段のひとつといえるでしょう。

▼現在、集客のために導入している方法はありますか? (複数回答)

2.集客のために導入している方法

整体師の椎名さんは、手書きのチラシをポスティングする方法で、集客につなげています。

自分でチラシをポスティングしました。

こだわりといえば、手書きにしたところ。機械で入力したチラシより手書きの方が気持ちも伝わると思ったんです。

引用:モアリジョブ|整体師 椎名宣行さん

お灸堂の鋤柄(すきから)さんは、情報発信やキャッチコピーの変更により、お灸に興味のない人にもリーチしました。

お灸専門院としてある程度はポジションが取れ、出張のときよりは各段にいい状況にはなったのですが、お灸という分野に狭めすぎてしまったために、お灸に興味のない人にはリーチしにくいというジレンマがありました。

普段患者さんにお伝えしている養生やセルフケアなどの話をTwitterで発信し始めたんです。

ホームページをリニューアルする際に、「お灸と養生」という打ち出しに変え、今にいたります。フォロワーさんが増えたことでお灸に興味のなかった方々にもリーチできましたし、ありがたいことに出版の話がきたりもしました。

引用:モアリジョブ|お灸堂 院長 鋤柄誉啓(すきからたかあき)さん

ターゲットによって効果的な宣伝方法は異なります。訪問マッサージをする場合、利用者は高齢者が想定されるでしょう。ケアマネジャーは、通院ができない方を多く担当しています。ケアマネジャーと信頼関係を築ければ、見込み患者さんを紹介してもらえる可能性が上がります。

ケアマネジャーがいる主な施設は、以下のとおりです。

  • 居宅介護支援事業所
  • 特別養護老人ホーム
  • 有料老人ホーム

また、地域の高齢者向けコミュニティへの営業は、費用をかけずに高い営業効果が期待できます。高齢者向けコミュニティとしてあげられるのは、以下の場所です。

【市民交流系のコミュニティ】

  • 趣味の教室
  • 交流カフェ
  • 地域のお祭り
  • 地域の行事や催し

【健康・福祉・介護系のコミュニティ】

  • 運動講座
  • 肩こり腰痛予防セミナー
  • 食育講座
  • 認知症予防教室
  • 親の介護講座

これらのコミュニティには、介護が必要な親をもつ家族や医師、ヘルパー、ケアマネジャーなども参加するため、関係を構築するチャンスとなります。高齢者の方はインターネットをあまり利用しないため、施設にポスターやチラシを置いてもらうと目を向けてもらいやすいかもしれません。

コンセプトを踏まえた上で、ターゲットに刺さる集客方法を選択しましょう。

9.スタッフを採用する

開業後に売上げを伸ばしていきたいと考えている場合、スタッフの採用も視野に入れましょう。複数名のスタッフがいる体制を整えることで、繁忙期での予約の取りこぼしを防ぎやすくなります。宣伝活動をはじめとした施術以外の業務に取り組む時間的な余裕も生まれます。

スタッフを採用する際は、開業した訪問マッサージのコンセプトや雰囲気に合った人材を選ぶことが大切です。自社の社風や求めるスキルと合わない人材を採用した場合、早期離職につながり、再度採用活動をするためのコストが発生します。

経験者を採用する場合には、訪問マッサージで提供する施術メニューに対応できるスキルを保有しているかどうかも確認する必要があります。運営状況や予算に合わせて、雇用形態を検討することも大切です。

採用コストを抑える工夫も必要です。人材紹介サービスや総合型の求人サイトを利用する方法は、採用単価が高くなる傾向があります。自社の採用ページを充実させたり、SNSを活用して情報発信をしたりすれば、採用ブランディングにつながるため、長期的にみればコストを抑えた採用につながります。

「新橋整体院グッドラック」の篠原さんは、猫背矯正を広めるという目標達成に向け、施術者から経営に回ってスタッフの採用に動き始めました。

経営に回って、猫背矯正を広めていきたいと思っています。まずは、スタッフを雇うことからですね。それから、手技の指導に移っていく。今すぐには実行できないですが、徐々に動き出そうと考えているところです。

引用:モアリジョブ|「新橋整体院グッドラック」 整体師・カイロプラクター 篠原靖治さん

自社で能力を発揮し、活躍できる人材を採用するためには、事前準備が重要です。リジョブでは、これから独立・開業をして将来的にスタッフの採用を検討している方に向けたノウハウを提供しています。手順を詳しく知りたい場合は、無料でダウンロードできる下記の資料をご覧ください。

鍼灸師を採用するためのポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

10.損害賠償保険に加入する

訪問マッサージでは、施術中に誤って利用者にケガをさせてしまったり、訪問先で家財を壊してしまったりと、不慮のトラブルが起きる可能性があるかもしれません。トラブルの結果、思わぬ金額を請求されるケースもあります。

損害賠償保険に加入していなければ、請求された金額を自分で支払わなければなりません。万が一のリスクに備えるためにも、損害賠償保険への加入は忘れないようにしましょう。

訪問マッサージの開業を成功させるためのポイント

東京商工リサーチの調査によると、訪問マッサージを含む整骨院・療術・マッサージ業者の倒産は増加傾向にあります。

3.マッサージ業の倒産上半期推移

厳しい業界で成功するためには、コミュニケーション力や業務スキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。また、チーム構築や競合との差別化、価格設定なども押さえておきたいポイントです。ここでは、訪問マッサージの開業を成功させるポイントについて解説します。

1.コミュニケーション力を磨く

訪問マッサージでは、施術前に利用者の状態や悩み、要望などを詳しく伺うカウンセリングを行います。その際、利用者と円滑にコミュニケーションが取れなければ、悩みや体の状態を正確に引き出せません。

施術に関する会話だけでなく、何気ない雑談や打ち解けた会話が自然にできるようになれば、利用者との信頼関係も深まります。良好な関係性を築ければ、口コミや紹介による新規顧客の獲得も期待できるでしょう。

「フレアス」の貝沼さんによると、雑談からの提案により利用者がポジティブになり、体にも変化が起こった経験があるようです。

壁に飾ってあったお孫さんの写真を一緒に見ていて「孫が今度、結婚するから結婚式に行きたい」と言われたときに、「じゃあそのためには筋力をつけることが必要ですね、一緒にがんばりましょう」と提案したことがあります。こういった提案でご利用者様が前向きになり、体に変化が起きることも珍しくありません。

引用:モアリジョブ|フレアス 人材開発部 部長 貝沼洋之さん

2.施術スキルを高める

集客がうまくいったとしても、施術スキルが低ければ、利用者は満足せず、リピーターにはつながりません。スキル不足に関するよくない評判が口コミで広がってしまうと、その後の集客はさらに困難になる可能性があります。

鍼灸院を長く続けていくためには、常に新しい知識や技術を学び続け、自身の施術スキルを高めていくことが大切です。

整体師の椎名さんは、利用者のニーズに応えるため、必要な講義だけを受講するために学校に通っています。

お客様のニーズに応えるために、カイロプラクティックの学校へ通うことに。ただ、「揉みほぐし」は以前の学校で習っていましたし、経験者なので学校には無理を言って「カイロプラクティック」の授業だけ受講させてもらいました。

引用:モアリジョブ|整体師 椎名宣行さん

3.マーケティングを学ぶ

新規集客とリピーター獲得のためには、マーケティングの知識が欠かせません。開業後、すぐに集客につなげるためにも、開業前からマーケティングについて学んでおく必要があります。

「鎌倉Retreat Spa SUI」の田邊さんは、ビジネススクールでマーケティングを学び、育成講座事業の提供につなげました。

セラピスト育成講座を作るために、コンサル型ビジネスの支援に特化した「con-labo」で学んでいます。「con-labo」は、最新のマーケティングを学び、その学びをワークショップで実践するスタイル。わたしはどうも自分の頭の中にあることを形や言葉にするのが苦手で、そのへんを丸ごとフォローしてくれるプロ集団だと思っています。ここでの学びを活かして完成したのが「五つ星セラピストアカデミー」です。

引用:モアリジョブ|鎌倉Retreat Spa SUI オーナーセラピスト 田邊恭子さん

マーケティング活動に取り組む際には、柔道整復師法や景品表示法、医師法・医療法といった関連する法律を遵守した広告表現を心がける必要がある点も、押さえておきましょう。

たとえば以下の内容は広告に記載できないため、書き方に注意する必要があります。

  • 更年期障害や腰痛など、症状の具体的な記載
  • 「治療」や「治る」などの表現(「治療」は「施術」に変更する)
  • 施術方法・技術の詳細や、関連する画像・写真
  • 「施術実績〇〇人」のような経歴や実績
  • 法律以外の疑似医療行為
  • クリニックや治療院などの医療機関と混同される表現
  • 「最先端」「満足度No.1」などの誇大広告や比較広告

4.チームを作る

将来的に売上げを伸ばしていきたいのであれば、スタッフを採用し、チームで運営していくことも必要です。売上げが拡大するにつれて、施術以外にもやるべき業務が増え、ひとりでは手が回らなくなるケースは珍しくありません。

そのような場合には、スタッフに施術を任せて自身はマーケティング活動に専念したり、ブログやSNSの運用経験があるスタッフを雇用して情報発信業務を任せたりするなど、役割分担が必要です。信頼できる仲間と協力し、それぞれの強みを活かせば、ひとりでは成し遂げられない成果を生み出せる可能性が高まります。

「trip salon un.」の湯浅さんは、対面で会う機会が少ない中、オンライン会議やテレビ電話を活用することにより情報共有を行い、チームとして動く取り組みを実施しています。

私たちが提供しているサービスは訪問美容であり、スタッフそれぞれが自宅から施設に直接向かうためサロンを持っていません。そのため、顔を合わせる機会が限られてしまい、密なやり取りを行わなければ現場での出来事を共有することが難しい。

そこで報連相を徹底しており、最近はZOOMを使ってオンライン会議を開いたり、LINEのテレビ電話を活用して話したりと小まめに顔を見て連絡を取っています。

引用:モアリジョブ|trip salon un. 代表取締役社長 湯浅一也さん

5.競合と差別化する

競合となる他の訪問マッサージや、店舗型のマッサージ店との差別化を意識することが重要です。競合にはない独自の施術サービスや強みを打ち出せれば、利用者に選ばれる理由となり、差別化につながります。

差別化するためには、開業を予定している地域にある競合が、どのような施術メニューを提供しているのかを調べてみるとよいでしょう。マッサージ業者だけでなく、整体院や鍼灸院のメニューも調査対象です。

業界では当たり前とされていることや、既存の施術方法にあえて異なる視点を取り入れ、新しいアプローチで施術メニューを考案するのも、有効な差別化戦略になります。

「鎌倉Retreat Spa SUI」の田邊さんは、サイキックマッサージを学ぶことによりオリジナルメニューの開発につなげています。

サロンを開いたときは、ボディートリートメントとフェイシャルのみでしたが、もう少し心に寄り添えるメニューを取り入れたいなと思い、以前から気になっていたサイキックマッサージを学ぶことにしました。

引用:モアリジョブ|鎌倉Retreat Spa SUI オーナーセラピスト 田邊恭子さん

「お灸堂」の鋤柄(すきから)さんは、あえてお灸のみのメニューに限定し、差別化を図っています。

ポジションがあいていたお灸の専門院にすることにしました。メニューを増やすと複雑化するし、そもそもできないことも多いので、お灸のみにしぼったんです。その後はSNSなども活用しながら徐々に集客できるようになっていったんです。

引用:モアリジョブ|お灸堂 院長 鋤柄誉啓(すきからたかあき)さん

6.保険システムを理解する

保険を扱う場合、受領委任払いのシステムを正しく理解しておく必要があります。受領委任払いとは、利用者に代わって施術者が保険者に療養費を申請する仕組みで医療機関とは異なる保険のシステムです。

本来であれば、施術を受けた利用者は、施術料の全額を鍼灸院に支払い、その後保険組合に申請して支払った施術料の払い戻しを受けます。しかし、利用者に負担がかかったり手続きに時間がかかったりするため、デメリットが問題になっていたことを受け、受領委任払いが導入されました。

▼償還払い

4.償還払い

▼受領委任払い

5.受領委任払い

この制度により、患者は窓口での支払いが一部負担で済むため、利用しやすくなります。医療機関の保険システムとは異なり点数制ではなく、施術箇所の数によって請求額が変わります。ただし、保険適用の対象となる症状が限定されているため、ルールを正確に理解し、適切に請求することが大切です。

7.理想の価格と最低限維持すべき価格を決める

施術料金を決める際に重要なのは、料金を安く設定し過ぎないことです。料金を安く設定した結果、一時的に集客しやすくなるものの、「忙しいのに儲からない」という状況に陥ってしまうケースが珍しくありません。

まずは、目指したい理想の目標売上げと、経営を維持するために最低限確保しなければならない売上げ額を具体的に決めます。そこから、1日に対応可能な施術人数を考慮して逆算し、理想とする価格と、最低限維持すべき価格を割り出します。

算出した価格帯をもとに、地域の競合店の料金設定なども参考にしつつ、最低限維持すべき価格を下回らない範囲で、提供する施術サービスの価格を決定しましょう。

J-Net21の調査によると、訪問マッサージと客層が近い鍼灸院の1回当たりの利用金額は「3000円未満」での利用が50%と最も多く、次いで「3000円~4999円未満」「5000円~9999円未満」でした。全体で、3000円が1回あたり利用金額の相場と推定されます。

6.鍼灸院の1回当たりの利用金額

店舗経営を維持するために必要な売上げとニーズとのバランスを考慮しながら施術の価格を設定すれば、経営的に無理なく顧客満足度を高めることにつながります。たとえば、1回の施術時間を15分・30分・60分のように複数設定し、それぞれの時間に合わせて料金単価を設定すれば、売上げを確保しつつ利用者からの多様なニーズにも応えられます。

カイロプラクティックサロン「warp」の本間さんは、はじめは集客のために低めの金額設定にして施術人数を増やし、集客が安定してから段階的に料金を上げています。

最初の1年間は場所を構えず、呼んでもらえれば全国どこでも行くという出張スタイルでスタートしました。基本的には都内で施術をし、長期休みや、連休の時に地方に行っていました。当時は1人2000円で施術させてもらっていたこともあり、1泊2日で20人くらい施術をしたこともありました。

いろんな方に紹介をしていただいたり、定期的に通ってくださる方もいて、集客のために何かをしなくても、患者さんが来てくださるようになっていました。料金も段階的にあげていきました。

引用:モアリジョブ|カイロプラクティックサロン「warp」オーナー 本間友子さん

8.運用コストを把握しておく

訪問マッサージを運営するには、必要となるコストにどのような項目があるのかを把握しておく必要があります。訪問マッサージを開業する場合に必要なコストの項目は以下のとおりです。

  • 固定費:売上げの増減にかかわらず、毎月発生する費用(人件費・通信費・広告費・水道光熱費、ガソリン代など)
  • 変動費:売上げの増減に伴って変動する経費(材料費・消耗品・雑貨・清掃用品・修繕費用・交通費など)

拠点となる事務所を構える場合は、事務所の家賃や光熱費も必要です。健全な経営を続けるためには、これらの経費の種類や、それぞれの費用が全体の支出に占める割合などを把握し、管理することが重要です。

9.外部の力を借りる

経営に不安がある場合は、開業コンサルティングサービスを利用するのもひとつの方法です。訪問マッサージは保険適用の治療を取り扱うのが一般的のため、出張業務開始届や受領委任の届出など、開業前〜開業後の手続きが多く発生します。

開業コンサルティングサービスを活用すると、専門家から実践的なアドバイスを受けられ、自力で進めるよりもスムーズに開業できます。フランチャイズにあるような、ロイヤリティや各種手数料等のランニングコストがかからないのもメリットです。

ただし、開設手続きのみの場合やアドバイスのみの場合など、単発コンサルになるケースもあります。コンサル契約期間が終了後のフォローについても確認しておきましょう。

また、近年では訪問マッサージ業のフランチャイズも存在しています。フランチャイズに加盟すれば、ブランド力を活かした集客や、スタッフの採用活動をサポートしてもらえることがメリットです。

ただし、初期費用や定期的なロイヤリティなど、コスト面での負担があるほか、エリア制限や競合避止などで自分の思いどおりに事業を進められない場合もあります。

外部の力を借りる場合は、それぞれのメリット・デメリットや費用を考慮した上で選択しましょう。

10.団体に加入する

マッサージ師や鍼灸師が加入できる協会や団体が存在します。「マッサージ師協会」に加入すると、医療費の申請代行サービスやセミナー参加など、運営面での悩みを解決できるサービスを受けられます。

また、所得補償保険への加入も可能です。特に個人事業主の場合、病気やケガで事業を休むことは、収入の停止を意味します。病気やケガのリスクに備えるためにも、マッサージ師や鍼灸師が加入できる協会や団体への加入を検討しましょう。

11.キャッシュレス決済を導入する

近年では、クレジットカードや電子マネー、QRコード(バーコード)決済といったキャッシュレス決済が社会に広く浸透してきました。移動が多い訪問マッサージでは、利用者との会計業務の短縮が業務効率化につながります。そのためには、キャッシュレス決済の導入がおすすめです。

また、キャッシュレス決済に対応している店舗を選ぶ利用者も存在します。顧客満足度の向上のためにも、ターゲット層のニーズに合わせて、キャッシュレス決済システムの導入を検討しましょう。

12.請求代行サービスを利用する

保険請求業務の負担を軽減したい場合は、請求代行サービスの利用も有効です。専門の代行業者が申請書のチェックや整理を行うため、不備による返戻を減らせます。請求業務にかかる時間や手間を削減できれば、施術やマーケティングなど他の業務に集中できる時間を捻出できます。

ただし、初期費用や月額会費、代行手数料など請求代行サービスによって費用が異なるため、予算を考慮した上で利用を検討しましょう。

訪問マッサージの開業に活用できる補助金

訪問マッサージを開業する際には、国や地方自治体が設けている補助金制度を活用できる場合があります。これらの制度を活用すれば、開業時の資金負担の軽減が可能です。ここでは、訪問マッサージの開業時に活用を検討できる主な補助金について解説します。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販路開拓や業務効率化への取り組みに対して、その経費の一部を補助する制度です。対象となるのは、常時雇用している従業員の数が20人以下である事業者です。ただし、商業・サービス業のうち宿泊業と娯楽業を除いた業種では、従業員数が5人以下の事業者が対象となります。

この補助金を利用するためには、地域の商工会議所や商工会から支援を受け、申請手続きを進める必要があります。訪問マッサージの開業時にこの補助金を活用する場合は、創業支援に特化した「創業枠」に申し込むとよいでしょう。

条件を満たせば、インボイス発行事業者としての特例と合わせて、最大で250万円までの補助を受けられる可能性があります。

IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者などが、生産性向上を目的としてITツールを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。訪問マッサージの開業時であれば、IT導入補助金の申請要件を満たせるため、申請できます。

対象となるのは、業種ごとに定められている資本金や従業員数の上限が、国が定める基準以下である法人または個人事業者です。IT導入補助金を申請するためには、国から認定されたIT導入支援事業者と連携して手続きを進める必要があります。

▼IT導入補助金に申請する事業者と支援事業者の関係

7.IT導入補助金に申請する事業者と支援事業者の関係

引用:IT導入支援事業者とは|IT導入補助金2025

IT導入補助金を活用するためには、IT導入支援事業者により当該ITツールが、あらかじめ補助金対象として登録されている必要があります。訪問マッサージに関連するツールとしては、以下のものがあげられます。

  • オンライン予約システム
  • キャッシュレス決済サービス
  • モバイルオーダーシステム(健康グッズなどの販売をする場合)
  • ECサイト構築システム(健康グッズなどの販売をする場合)
  • 勤怠管理システム
  • 会計システム など

これらのITツールの導入により、業務の効率化や顧客満足度の向上を図る際の費用負担を軽減できます。

まとめ

少子高齢化により、高齢者の割合が増加してきました。自宅にいながら専門的なケアを受けられる訪問マッサージへの需要は高まっていくことが予想できます。

訪問マッサージは、店舗型と比べると開業資金を抑えられるため、開業へのハードルは決して高くありません。訪問マッサージを開業する際は、以下の手順で段階的に準備を進めていく必要があります。

  1. 施術管理者研修を受ける
  2. 開業形式を決める
  3. 事業計画を立てる
  4. 開業資金を調達する
  5. 必要な備品を準備する
  6. 物件を見つける
  7. 必要な手続きを行う
  8. 宣伝する
  9. スタッフを採用する
  10. 損害賠償保険に加入する

訪問マッサージの開業を成功させるためには、コミュニケーション力やスキル、マーケティングの知識を向上させる必要があります。また、チーム構築や競合との差別化、価格設定、コスト管理なども押さえておきたいポイントです。

本記事で解説した内容を参考に、訪問マッサージ開業に向けて動きましょう。

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執筆者情報
田仲ダイ(Tanaka Dai)
エンジニアリング会社にて、人事・採用・従業員評価・業務管理・部門管理・社内監査など、さまざまな業務に計14年従事。これまでの経験を活かし、bizリジョブ編集部では、採用や店舗経営に役立つリアルな情報を記事として発信する。