開業や店舗経営を考えているものの、そのためには資格が必要と思っている人もいるのではないでしょうか。実は、店舗経営をするために必要な資格はありません。
ただし、業種によっては資格が必要なケースがあります。また、店舗を開業する際は、さまざまな届出を出さなければなりません。加えて開業や店舗経営をするためには、開業手続きについても学ぶことが大切です。
そこで本記事では、業種ごとの店舗経営に必要な資格や店舗経営に資格が必要な理由、資格を選ぶポイントとともに、店舗を開業する流れについて解説します。
店舗経営とは
店舗経営とは、消費者に商品やサービスを提供し、安定した収益の確保を目指す活動です。店舗経営は、利益を上げなければ商品や労働力を調達できません。そのため、店舗経営者は効率的に利益を出す方法や利益を生みやすい商品・サービスを意識する必要があります。
店舗経営者には、安定して利益を生み続ける店舗営業の仕組みづくりと、店舗を営業するための資金繰りが求められます。
関連リンク
店舗経営に必要な資格
店舗経営には、特に必要な資格はありません。一方で、資格取得により得られる知識やスキル、信頼性が経営に有利に働くことがあります。
もちろん求められる資格は、業界や業種によって異なります。資格取得にはある程度の時間と費用がかかる場合もあるため、開業前に自分の業種や業態ではどのような資格が役立つのかを十分に調べておくことが大切です。
美容系サロンの経営に役立つ資格
美容関連のサロンを経営する際には、提供する施術内容に応じた専門資格が役立ちます。例えば、ヘアサロンを運営する場合、国家資格である美容師免許や理容師免許の保有が必要です。これらの国家資格を得るためには、国が指定する専門学校などの養成施設で学び、卒業する必要があります。
美容師や理容師をスタッフとして雇用して店舗を運営する際には、管理美容師免許や管理理容師免許も必要です。この管理系の資格は、3年以上の実務経験を積んだ後、所定の講習を受けることで取得できます。
ネイルサービスを提供するネイルサロンの開業自体には、法律で定められた必須資格はありません。ただし、利用者に質の高い施術を提供し満足してもらうためには、ネイルケアやアートに関するスキルを磨く必要があります。「JNECネイリスト技能検定試験」のような資格は、スキルをスキル向上とともにスキルを客観的に示す材料になるでしょう。
エステティックサービスを提供するサロンでは、AJESTHE認定エステティシャンの資格があると、専門的なスキルをアピールするのに有効です。
飲食店の経営に役立つ資格
飲食店の経営においては、食品の安全確保と衛生的な管理に関する資格が重要です。食品衛生法第51条に定められた「公衆衛生上必要な措置の基準」に基づき、営業者は食品衛生責任者を選任する義務があります。食品を取り扱う飲食店を開業する際には、各店舗に食品衛生責任者を1人置かなければなりません。
食品衛生責任者の資格は、各都道府県が開催する講習会を受講し、試験に合格すれば取得できます。受講にかかる費用は、1万円程度です。申し込み方法や受講の条件は都道府県によって異なるため、開業を予定している地域の制度を事前に確認しましょう。
調理師や栄養士などの免許を保有している場合、食品衛生責任者の資格取得講習が免除されますが、その場合でも営業中は資格保有者が店舗内にいなければなりません。
また、店舗の客席と従業員スペースを合わせた収容人数が30人以上になる規模の飲食店を開業する場合、防火管理者の選任も義務付けられています。
飲食店を経営するうえでは、調理師免許の保有は義務付けられていません。ただし、調理師免許を保有していれば、食の安全性をより確実に守る体制づくりや、店舗の専門性のアピールにつながります。フードコーディネーターや管理栄養士などの資格も、飲食店の経営に役立つでしょう。
接骨院や整骨院の経営に役立つ資格
接骨院や整骨院を経営するためには、柔道整復師の資格取得が必要です。柔道整復師の資格を得るためには、文部科学大臣または都道府県知事が指定した学校で所定の教育課程を修了し、その後に行われる国家試験に合格しなければなりません。
また、はりやお灸といった器具を用いた施術をする場合、はり師やきゅう師の国家資格も必要です。はり師やきゅう師の資格を取得するためには、文部科学大臣や厚生労働大臣、都道府県知事が認定した専門学校や養成施設で学び、国家試験に合格しなければなりません。
クリニックの経営に役立つ資格
クリニックの経営では、医療機関の運営ノウハウに関する資格が力になります。例として挙げられるのは、医業経営コンサルタントや病院経営管理士、医療経営士です。これらはいずれも民間団体が認定する資格で、クリニックを運営するうえでの資金計画や財務管理など、経営面の専門知識を習得するのに役立ちます。
また、クリニックに来院する患者さんと勤務するスタッフを合わせた全体の収容人員が30名を超える場合には、防火管理者を定めておく必要があります。
店舗経営全般に役立つ資格
どのような業種の店舗を経営する場合でも、共通して運営に役立つ資格がいくつかあります。代表例として挙げられるのは、防火管理者や簿記、ビジネス実務法務検定試験などです。
消防法第8条により、不特定多数の人が出入りする建物や施設(防火対象物)の管理権原者、つまり所有者や管理者などは防火管理者を指名し、火災予防や万一の際の対応といった防火管理業務を計画的に実行させることが義務付けられています。
店舗のスタッフと利用者を合わせた収容人数が30名以上になる場合には、防火管理者の選任が必要です。この資格を取得する主な目的は、建物で火災が発生することを防ぐとともに、火災発生時には適切な対応をとれるようにするためです。
防火管理者になるためには、所定の防火管理者講習を受講し、修了試験に合格する必要があります。ただし「市町村の消防機関で管理的または監督的な立場にある職務に1年以上就いていた」ような特定の経歴を持つ人は、講習の受講が免除されることもあります。
講習会は日本防火・防災協会や各都道府県、地域の消防本部などが実施しており、一度取得した資格は日本全国で有効で、修了証に有効期限はありません。防火管理者には「甲種」と「乙種」の2つの区分があり、店舗の延床面積に応じて、どちらかの講習を受けます。
- 延床面積300平米以上の店舗の場合:甲種防火管理講習
- 延床面積300平米未満の店舗の場合:乙種防火管理講習
講習は、会場で実施される対面型のものと、インターネットを利用したオンライン型のものがあります。防火管理講習の受講費用は、おおよそ5,000円から7,000円程度が一般的です。講習の種類や開催される地域、主催する団体によって変わるため、確認しましょう。
店舗の日々の現金の流れ(キャッシュフロー)を管理したり、将来の資金計画を立てたりするうえで、有効な資格は「簿記」です。店舗の財政状態を正確に理解し、経営の成果を把握するためには、間違いのない経理業務が欠かせません。市販の会計ソフトを利用する際にも、簿記の基礎知識があるとスムーズに使いこなせます。
事業運営に必要な法律関連の知識を体系的に学ぶのであれば、「ビジネス実務法務検定試験」や「ビジネス・キャリア検定」もおすすめです。節税対策や従業員との間の労務問題を適切に処理するためには、「税理士」や「社会保険労務士」の資格も役立ちます。
しかし、これらの国家資格は取得の難易度が高く、店舗経営のために取得するのは現実的ではありません。必要に応じてそれぞれの専門家に業務を依頼したほうがよいでしょう。
店舗経営に資格が必要な理由
店舗を経営するうえで、資格の保有が法律で義務付けられているわけではありません。ただ一方で、店舗運営を円滑に進め、事業を成長させるうえで、資格は有効な手段となります。ここでは、店舗経営に資格が必要な理由について解説します。
専門知識の証明になる
資格は、専門的な知識やスキルの保有を客観的に示すものです。そのため、資格があれば、利用者や取引先、融資を検討する金融機関などからの信頼を得やすくなります。例えば飲食店や美容室であれば、以下の資格を保有していれば、利用者は「専門的な知識に基づいたサービスを受けられる」と感じ、安心して店舗を利用しやすくなります。
- 飲食店:調理師免許やソムリエ資格など
- 美容室:美容師免許やカラーコーディネーター、特定の施術技術に関する認定資格など
特に専門性が重視される業種では、資格の有無が利用者の店舗選びに影響を与えることも少なくありません。資格証を店内に提示したり、お店のウェブサイトやSNSで紹介したりすれば、初めて来店する利用者にも安心感を与え、継続的な利用にもつながるでしょう。
法令遵守とリスク管理につながる
店舗経営には、業種や規模によって遵守すべき法律や規制が存在します。法令を遵守し、リスクを適切に管理することは、安定した店舗運営の基本です。資格を取得する過程でこれらの知識を学ぶことは、安定した店舗運営につながります。
例えば、飲食店を開業するためには「食品衛生責任者」の資格が必須です。店舗の収容人数によっては「防火管理者」の資格も求められます。これらの資格を取得する過程で、食品衛生法や消防法などの法律を理解する必要があるため、利用者や従業員の安全を確保するための知識が身につきます。
法的な知識を理解することにより、トラブルが発生した際にも、初期対応を誤ることなく、被害を抑えることにつながるでしょう。
競合との差別化ができる
資格をアピールして店舗が持つ専門性や信頼性を具体的に示せば、他の店舗との差別化につながり、競争力を高める手段となります。例えば、パーソナルトレーニングジムのトレーナーが、栄養学や運動生理学に関する高度な資格を取得していれば、より科学的な根拠に基づいた質の高いトレーニング指導を提供できるでしょう。
他の店舗では受けられない独自のサービスや特別な体験を提供できるようになり、リピーターを獲得できたり、口コミによる新規顧客獲得が期待できたりします。自店の強みをアピールできれば、優秀な人材の確保に有利に働く可能性も高まるでしょう。
取得する資格を選ぶポイント
自店舗の業種や事業規模との関連性が低い資格取得を目指した場合、時間や費用が無駄になってしまうかもしれません。取得する資格は戦略的に資格を選び、事業の成長につなげることが大切です。ここでは、取得する資格を選ぶポイントについて解説します。
資格を取得する目的を整理する
取得する資格を選ぶ際は、何のために資格を取得したいのかを明確にすることが重要です。目的が曖昧な状態の場合、世間で注目されている資格や、なんとなく良さそうに見える資格に手を出してしまい、結果として時間と費用を浪費する可能性があります。自分の目的を整理したうえで、必要な資格を見極めることが大切です。
主な目的として挙げられるのは以下のとおりです。
目的 |
行動 |
開業や店舗立ち上げのため |
・法律で定められた必須資格を取得したい(例:食品衛生責任者や美容師免許) ・事業計画の立案や資金調達に必要な知識を体系的に学びたい(例:中小企業診断士や日商簿記) |
売上や集客力向上のため |
・専門性を高めて利用者からの信頼を得たい(例:ソムリエ資格) ・他店との差別化を図りたい(例:専門技術の認定資格) ・効果的な集客戦略を考えたい(例:販売士やウェブ解析士) |
顧客満足度向上のため |
・質の高いサービスを提供するため、専門知識やスキルを習得したい(例:各種セラピスト資格やインストラクター資格) ・コミュニケーション能力を高めたい(例:接客サービスマナー検定) |
業務効率化やリスク管理のため |
・経理や労務管理の知識を身につけたい(例:日商簿記や社会保険労務士) ・法令遵守意識を高めたい(例:防火管理者、個人情報保護士) |
このように、目的を整理し、行動を明確化すれば、取得すべき資格が見えてきます。
業種・事業規模との関連性を踏まえる
店舗の業種や事業の規模によって、必要となる資格やメリットを享受できる資格は異なります。自分の店舗の業種や事業の規模と、取得を考えている資格がどの程度関連しているかを検討したうえで、資格を選択する必要があります。
例えば、個人経営のような小規模な店舗であれば、オーナー自身が接客から調理、経理まで幅広い業務をこなすことも珍しくありません。そのような場合には、日々の実務にすぐに活かせるスキル系の資格や、基本的な経営管理に関する資格が役立つでしょう。
一方、複数の店舗を展開していたり中規模以上の店舗を経営していたりするオーナーであれば、経営全体の管理や人材育成、組織運営に関する資格が有効です。
利用者のターゲット層によっても、有効な資格は変わってきます。健康に関心が高い層をターゲットにしているのであれば、栄養士や野菜ソムリエといった食に関する資格が、アピールになるでしょう。
業界団体や専門の雑誌などで推奨されている資格や、現在注目を集めている資格を調べてみるのもひとつの方法です。自分の店舗が持つ強みや方向性を整理し、それを補強できる資格は何かという視点で検討することが大切です。
資格だけでは店舗経営は成功しない
資格は専門知識や技術を証明する有効な手段となりますが、店舗経営の成功を約束するものではありません。実際の店舗経営では、資格以外に以下のようなノウハウが必要です。
- 日々の安定した資金繰り
- 市場の動向を踏まえ、競合との差別化を図った経営戦略
- スタッフの育成と労働環境の整備
- サービスの品質向上
- リピーター獲得のための施策
- 経費管理とコスト削減
- 業務効率化
資格はこれらを実行するためのツールです。店舗経営に関わる幅広い知識やスキルをバランスよく習得し、実践することが、事業を成功へと導く鍵となります。
店舗を開業する際は届出も必要
店舗を開業する際は、事業の種類や営業する場所に応じて、さまざまな公的な届出を行う必要があります。これらの手続きを事前に把握し、計画的に進めることが円滑な開業につながります。具体的に挙げられる主な届出は以下のとおりです。
届出 |
詳細 |
開業届 |
・個人事業の開業を税務署に申告する |
営業許可申請 |
・食品を扱う事業を始める際に、管轄の保健所に提出する ・保健所の検査後、許可が下りれば営業できる |
防火対象物使用届 |
・消防用設備の設置状況を証明する ・営業開始7日前までに消防署に提出する |
防火管理責任者選任届 |
・防災管理講習修了証(手帳)を添え、選任届を2通を管轄消防署または消防出張所に提出する |
火を使用する設備等の設置届 |
・厨房などで火を使用する設備を設置する場合、消防署に提出する |
深夜酒類提供飲食店営業開始届出書 |
・深夜12時以降に酒類を提供することを申請する ・営業開始10日前までに警察に届け出る |
労災保険の加入手続き |
・スタッフを雇用する場合、雇用日の翌日から10日以内に労働基準監督署に届け出る |
雇用保険の加入手続き |
・スタッフを雇用する場合、雇用日の翌日から10日以内に公共職業安定所(ハローワーク)に届け出る |
社会保険の加入手続き |
・できるだけ速やかに社会保険事務所に届け出る ・法人の場合は加入が義務付けられている ・個人の場合は任意で加入する |
営業許可申請書を保健所に提出する際には、申請書本体に加えて以下の書類が必要です。
- 店舗の設備概要や配置を示した図面
- 登記事項証明書(法人の場合のみ)
- 水質検査成績書(貯水槽や井戸水を使用の場合のみ)
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの(例:食品衛生責任者手帳)
許可申請手数料として18,000円程度が必要です。保健所の検査は、時期によって混雑で予約がとれないケースがあります。確実に営業許可を得るため、工事が完了するおよそ2週間前を目安に、営業許可申請書を提出するとよいでしょう。
これらの届出は、業種や営業形態によって必要なものが異なります。事前に確認したうえで、漏れなく手続きを進めましょう。
店舗を開業する流れ
業種ごとに開業する際の流れは異なるものの、基本的な流れは共通しています。ここでは、美容室を例として開業の流れを解説します。
事業計画を立てる
開業を決めたら、事業計画を立てます。事業計画では、はじめに「主婦のための店舗を経営したい」「質の良い薬剤を使った美容サービスを提供したい」などの、開業の動機を掘り下げたうえでコンセプトやターゲットを決めます。
コンセプトやターゲットを決めたら、それを基に、事業をどのように行い、どのように収益を上げていくかを具体的にまとめましょう。運営方法や経営戦略、収支計画を検討し、具体的な事業計画に落とし込みます。資金繰りについても考える必要があります。
フリーランスサロン「KOKUA」は、事業計画を何度も練り直した結果、銀行からの融資を得ることに成功しました。
こっちで開業するとなると当然地方銀行でお金を借りなければいけませんが、僕はずっと東京で活動していたので、こっちでの実績はゼロ。集客をはじめ、全てのことがゼロスタートなわけなので、「お店を出します」と言ったところで銀行の信用を得ることは難しくて…。「根拠あるの?」と結構突っ込まれました(笑)。結局、事業計画の練り直し、練り直しで、予定より2ヶ月遅れでのオープンになりました。
引用:モアリジョブ|フリーランスサロン「KOKUA」代表 梅澤勇人さん
事業計画書に書くべき内容は以下のとおりです。
- 事業をはじめる動機
- 経営者の略歴(経験やスキルなど)
- 具体的なサービス内容
- 従業員数(予定を含む)
- 現在の借り入れ状況
- 開業に必要な資金額とその調達方法
- 事業の将来的な見通し(目標とする売上高や予想される経費など)
商工会や商工会議所に相談して事業計画書を作成するのもひとつの方法です。日本政策金融公庫では、次の書式が見本として紹介されています。
書式についても、以下のサイトからダウンロードできます。
事業計画の立案とともに、コンセプトに合うような店舗デザインを考えます。デザインを考えるのが得意ではない場合は、内装デザインの専門家に相談することよいでしょう。工事や手続きには時間がかかるため、1年ほど前から計画的に開業準備を進める必要があります。
開業資金を調達する
美容室の開業資金は出店エリアや規模に応じて異なるものの、店舗費や内装費、設備費、運転資金などを合わせて1,000万円~2,000万円が必要といわれています。日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費の平均値は1,027万円、中央値は550万円でした。
開業費用の分布は500万~1,000万円未満の割合が最も多く、日本政策金融公庫が公開している「2021年度新規開業実態調査」によると、開業資金の調達先として「金融機関等からの借入」の平均額が803万円でした。
運転資金は、月間売上の3~6か月分程度が目安です。開業から数か月は赤字になる可能性があるため、支払い計画を立てることが大切です。自己資金だけで費用が足りない場合、開業資金を調達する方法を検討しましょう。主な調達方法は以下のとおりです。
- 親族や知人からの借入
- 民間金融機関や日本政策金融公庫、地方自治体からの融資
- クラウドファンディングによる資金集め
- 国や地方自治体が提供している助成金や補助金の活用
居抜き物件を選んだり、中古やリースの設備や機材を利用すれば費用を抑えられます。
運転資金を確保する
美容室の経営には、以下のような経費がかかります。
- 固定費:売上にかかわらず、固定的にかかる費用(家賃・人件費・通信費・広告費・水道光熱費など)
- 変動費:売上の増減によって金額が変わる経費(材料費・消耗品・雑貨・清掃用品・修繕費用・交通費など)
健全な経営をするためには、経費の種類やその割合を把握することが大切です。厚生労働省が実施した「中小企業実態基本調査(3.売上高及び営業費用 (1)産業別・従業者規模別表)」では、美容室が含まれる「生活関連サービス業」の経費全体のうち、人件費が占める割合は34.5%でした。
一般的には、美容室における人件費の割合は経費全体の40~50%程度といわれており、その割合を目安に売り上げ目標を設定するとよいでしょう。美容室「hair dress V.I.E.W」では、人件費の削減により、運転資金の削減に成功しています。
他のサロンよりも低価格の施術が維持できるのはアシスタントを一切雇わないでマンツーマンにしたからです。人件費をかけないことがコスト削減に繋がりましたね。
引用:モアリジョブ|hair dress V.I.E.W オーナー 鎌田竜也さん
物件を見つける
開業後の改装や移転には費用がかかるため、妥協せずコンセプトに合う物件を選ぶことが大切です。賃料の高い物件を選んだ場合、経営を圧迫する恐れがあります。美容室を運営するうえでの家賃比率は、一般的に売上に対して10%未満がひとつの目安です。
例えば、店舗の売上が月150万円であれば、家賃は15万円以下に抑えたほうがよいでしょう。厚生労働省の「中小企業実態基本調査(3.売上高及び営業費用 (1)産業別・従業者規模別表)」によると、美容室が含まれる「生活関連サービス業」の経費のうち、家賃が占める割合は8.8%でした。
ただし、家賃だけを重視し、コンセプトに合わない立地や物件に開業してしまうと、人通りが多くてもターゲットを効率的に集客できません。内見して物件を吟味したり、周辺エリアを散策して集客度を確認したりするなど、市場を入念に調査することがポイントです。
メンズ専門サロン「W hair salon」は、周辺エリアの調査によりターゲットの需要を確信したうえで強みをアピールした美容室を開業しています。
メンズを得意として売り出しているサロンがあまりない割には、需要が高いことがわかったので、「W hair salon」はメンズ専門のサロンを大きく打ち出し、東京の有名サロンで磨いた技術力の高さを売りにしました。
引用:モアリジョブ|メンズ専門サロン「W hair salon」 美容師 森川 貴文さん
物件を決めたら賃貸借契約を締結します。物件契約にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 敷金・礼金・保証金
- 仲介手数料
- 保険料
- 前払いで支払う分の家賃
契約時には登記簿謄本(法人の場合)や印鑑証明書、代表者の連帯保証などが必要です。必要書類は事前に確認しておきましょう。
店舗を準備する
賃貸借契約を締結したら、店舗の内装工事や外装工事を進めます。契約後に業者を探した場合、開店日に工事が間に合わない恐れがあるため、物件探しと並行して業者探しも進めておくことがポイントです。
工事の業者を探す際は、実績やスキル、請負業者賠償責任保険の加入などを確認します。依頼時に希望の条件をスムーズに伝えられるよう、あらかじめ店内のイメージやレイアウトを整理しておくとよいでしょう。
美容室を開業する際に必要な設備や備品は以下のとおりです。
施術の設備 |
・シャンプー台 ・スタイリングチェア(カット椅子) ・鏡(スタイリングウォールミラーなど) ・パーマ用機器 ・パーマロッド ・カラーのための加湿器 など |
インテリア |
・時計 ・照明 ・待合室のソファ ・観葉植物 ・ゴミ箱 など |
施術に必要な道具 |
・シザー ・シザーケース ・コーム ・パーマ用品(パーマロッドなど) ・ドライヤー ・ヘアーアイロン など |
施術で使う消耗品 |
・シャンプー ・トリートメント ・カラー剤 ・パーマ液 ・スタイリング剤 ・施術用手袋 ・ケープ など |
その他の消耗品や備品、設備 |
・トイレットペーパー ・ハンドソープ ・雑誌 ・洗剤 ・事務用品 ・清掃用具 ・ショップカード ・予約管理システム など |
事前にリストを作っておくと、必要な設備や備品を漏れなく揃えられます。必要な備品を近隣の店舗で購入して関係を築いておくのもおすすめです。
届出や許可を申請する
店舗の内外装工事や備品設置時は、営業許可の設備基準をクリアしなければなりません。美容室の内装工事終了後、保健所による構造や設備の検査を受けましょう。認可されない場合には、改装工事が必要です。
美容室開業に必要となる届出や許可の申請は以下のとおりです。
- 税務署へ開業届を申請
- 保健所へ美容所の開設届を申請
- 労働基準監督署へ労働保険の加入手続き
- 年金事務所へ社会保険の加入手続き
- 消防署による消防用設備の検査
美容室を開業する前に、保健所に提出する書類は以下のとおりです。
- 美容所開設届
- 従業者名簿(有資格者の免許証、健康診断書、管理美容師の講習終了証)
- 構造設備の概要(美容所の平面図)
- 住民票の写し(開設者が外国人の場合)
- 法人の登記事項証明書
テナントを借りて開業する場合は、防火対象物使用開始届出書や防火対象物工事等計画届出書の提出も必要です。個人事業主として美容室を開業する場合は、開業届と併せて税務署へ「青色申告承認申請書」も提出しましょう。条件を満たせば、年間の所得金額から一定額(最高で65万円)を控除できるため、節税効果が期待できます。
従業員を雇う場合、労災保険である雇用保険と労災保険に加入して、経営者が保険料を負担する必要があります。雇用保険は従業員の勤務時間に応じて強制加入義務が生じるため、注意が必要です。
スタッフを採用する
必要に応じてスタッフを募集し、施術や接客などの研修を実施しましょう。採用段階でのミスマッチを防げば、長期的な視点での生産性向上とコスト削減につながります。自社の社風や求めるスキルと合わない人材を採用した場合、早期離職につながり、再度採用活動を行うためのコストが発生します。
「どのような人材を採用すれば利益向上につながるのか」「どのような人材が自社の社風に合っているのか」を明確にしたうえで、事業計画に合わせて採用計画を立てることが大切です。
採用手法は、人材紹介や総合型の求人サイトなどの採用単価が高い手法ではなく、長期的にみて採用単価が下がる取り組みを選択するとよいでしょう。採用ページの運用やSNSでの情報発信などは、採用ブランディングにつながるため、長期的に見ればコストを抑えた採用につながります。
リタ株式会社は、自社の理念に共感した人材を採用し、企業の成長につなげています。
いい人材が集まってくれたことが、とても大きいと思っています。弊社の理念に共感し、お店を展開していくことを一緒に楽しみながら成長してくれるスタッフが揃ったときに、急激に成長をしたと感じます。
引用:モアリジョブ|リタ株式会社 営業最高執行責任者 小森谷亮太さん
自社で能力を発揮し、活躍できる人材を採用するためには、事前準備が重要です。リジョブでは、これから独立・開業をして将来的にスタッフの採用を検討している方に向けたノウハウを提供しています。手順を詳しく知りたい場合は、無料でダウンロードできる下記の資料をご覧ください。
宣伝する
開業後に集客につなげるためには、開店前から宣伝しておくことが重要です。主な宣伝方法として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 自店のホームページやブログを立ち上げ、情報発信する
- Googleビジネスプロフィールに登録する
- インターネット広告(リスティング広告やディスプレイ広告など)に出稿する
- SNSを活用して情報発信する
モアリジョブが行ったアンケート調査によると、ホームページの作成やSNSの活用などのオンライン集客に力を入れる美容室が比較的多い傾向でした。
集客方法のひとつに、予約サイトを活用するケースも目立ちます。予約サイトは経費がかかるため、費用対効果を考えつつ集客に活用することが大切です。ヘアサロン「ILUM hairsalon」は、予約サイトの運用を定期的に見直し、改善することにより集客につなげています。
オープン当初から現在まで美容の予約サイトに登録しています。広告は経費がとてもかかるので費用対効果を考え、しっかりと使いこなす工夫をすることが大切。たとえば最初に画面に出てくるヘッダーやスタイルの写真をつねに更新したり、クーポンを定期的に見直したり、とにかく頻繁に見直して改良して、たくさんの方に目に留まってもらえることを考えています。おかげさまで予約サイトからの予約も多いですね。
引用:モアリジョブ|ヘアサロン「ILUM hairsalon」代表 枝常太郎さん
ターゲットによって効果的な宣伝方法は異なります。コンセプトを踏まえたうえで、ターゲットの利用率が高い方法を選択するとよいでしょう。
まとめ
店舗経営をするうえで必要な資格はありません。しかし、業種や建物の条件によっては、資格が必要なケースがあります。店舗運営を円滑に進め、事業を成長させるうえでも、資格は有効な手段です。資格を保有していることにより、スキルの証明や法令遵守、競合との差別化につながります。
取得する資格を選ぶポイントは以下のとおりです。
- 資格を取得する目的を整理する
- 業種・事業規模との関連性を踏まえる
ただし、資格があれば店舗経営に成功するわけではありません。実際の店舗経営では、資格以外に資金繰りや経営戦略、人材育成などのノウハウが必要です。
店舗経営に関わる幅広い知識やスキルをバランスよく習得し、実践することが、事業を成功へと導く鍵となります。本記事を参考に、自社の事業を整理し、開業に向けて動きましょう。

- 執筆者情報
- 田仲ダイ(Tanaka Dai)